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かんしょ苗は小型で軽労・省力化を実現

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最終更新日:2018年1月10日

かんしょ苗は小型で軽労・省力化を実現

2018年1月

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター 企画部 産学連携室
農業技術コミュニケーター 杉本 光穗

【要約】

 小苗(茎長15センチメートル)栽培は、慣行栽培の担い手不足解消を図るため苗床造成機、一斉採苗機、穴あけ機、調製機および小苗用移植機を開発することで、これまでなかった苗床造成から植え付け作業までの一貫機械化体系を実現した。また、一斉採苗で発生した短い苗を再育苗することで苗生産性の向上を図った。小苗による節数減少や活着不良などにも、新技術の開発により解決し、慣行栽培並み収量の実現が可能となった。

はじめに

 南九州畑作におけるかんしょは、全国の生産量の約半分を占める基幹作物である。しかし、育苗・植え付け作業は長年人力に頼っているため機械化が進んでおらず、作業時間は全作業時間の約半分を占めている。担い手不足の現在では喫緊の問題になっている。そこで、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)九州沖縄農業研究センターは鹿児島県農業開発総合センターや農業機械メーカーなどと協力し、原料用かんしょを対象としたかんしょ小苗(茎長15センチメートル。以下「小苗」という)による育苗・植え付け作業の軽労・省力化技術の開発を行った。本技術開発は、2011〜2013年度農林水産省「農林水産業・食品産業技術研究推進事業」、2014〜2015年度農研機構生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)「攻めの農林水産業の実現のための革新的技術緊急展開事業(うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)」、2016〜2018年度生研センター「革新的技術・緊急展開事業(うち地域戦略プロ)」により一部実施した。

1.小苗栽培の特徴とは

 慣行栽培では、苗床に1平方メートル当たり20個の種いもを横にして伏せ込み、そこから発芽した茎を切断(採苗)し、(ほん)()に植え付ける(挿苗)。採苗に当たっては、8節以上ある茎を選び、長さなどを微調整する。8節と言っても、育苗時期により全長で30〜40センチメートル以上とばらつきがある。しかも、かんしょは、茎長20センチメートル程度までは真っすぐ上に伸びるが、それ以上になると倒れて地上を這うように生育していく。“採苗するに適した茎だけを選択すること”、“多くの採苗すべき茎は地上を這っていること”は採苗作業、“植え付けに供給される苗の大きさがまちまちである こと”は植え付け作業の機械化の障害になっている。そこで、小苗の大きさは茎長15センチメートルと決めた。これは茎長20センチメートルまではほとんどの茎が真っすぐ立っているため採苗の機械化がしやすい▽半自動野菜移植機をベースにした小苗用移植機では茎長15センチメートル以上になると植え付け直後の苗に対して引き抜きが発生する−ためである。実際、茎長15センチメートルにすることで、一斉採苗機よる採苗と半自動野菜移植機による植え付けが可能となった(図1)。
図1 小苗と慣行苗
 しかし、一斉採苗をすることで15センチメートルに満たない茎が大量に発生し、また、小さい苗のため節数が4〜6節と少なく、乾燥に弱く植え付け後の活着不良が危惧される。実際、15センチメートルに満たない茎は大量に発生し、苗生産性は慣行苗と比べ低下する場合もある。

 そこで、短い茎は、養液育苗(再育苗)により約3週間(苗床育苗と同じ採苗間隔)で小苗になるまで生育させ再利用する。小苗の苗生産性は、採苗間隔が慣行苗(30日間)と比べると約10日短いこと、小苗育苗は密植であること、そして再育苗を行うことにより、慣行苗の1.5倍以上となる。小苗の節数減少により、1株当たりのいも数は慣行苗より少なく、慣行栽培の栽植密度のままでは減収する。ただし、1個当たりのいも重は大きいため、くずいもによるロスが少なくなり、短い栽培日数の場合有利である。このため、株間を慣行栽培の40センチメートルから35センチメートルに変更し、単位面積当たりのいも数を増やすことなどにより、慣行栽培並み収量の実現は十分可能である。また、4月から5月の植え付け期間に慣行苗では3回の植え付けが可能であるが、小苗では4回の植え付けが可能となるため、生産者は、栽培面積に余裕があれば生産量を増やすことや、労働力を他の作業に投入することができる。活着不良については、植え付け前の蒸散抑制剤散布による処理と小苗用移植機によるかん水により慣行苗と同等の残存率を維持できる。

 小苗栽培の作業工程は以下の通り(図2)。苗床作業では、苗床造成機(作業者1人)を用いて、畝幅1メートルの畝を作りながら周囲を波板シートで囲み、作業は3〜4人で行う。波板シートの設置は、苗床の土が崩れず、茎が横に広がることを防止し、真っすぐに伸びるようにする。伏せ込みでは、苗床造成機で膨軟になる苗床(深さ約20センチメートル)に、1平方メートル27個の種いもを縦にして伏せ込む。人力で20センチメートルまで伏せ込むのは難しいので穴あけ機(作業者2人)を使って下穴を開ける。なお、一斉採苗機と穴あけ機の動力はバッテリー式電動ドリルを使用しているため、コードレスで作業ができ、取り扱いが容易である。採苗作業は、一斉採苗機(刈り幅1メートル、作業者2人)を使う。ただし、回収は人力による。調製・選別作業では、調製機(作業者2人)により茎長15センチメートル以上を15センチメートルの小苗に調整し、さらに再育苗を行う茎(7〜15センチメートル)と廃棄する茎(茎長7センチメートル未満)に選別する。7センチメートルより短い苗を茎長15センチメートルまで生育させるには時間がかかるので、高生産性を維持するためには再育苗には適さない。再育苗では、育苗ベッドに敷いたヒーター(3月まで使用)の上に茎を挿した72穴セルトレイを置き、液肥は底面かん水による干満法で給水する。液肥の施用などの管理法は、地域や育苗時期により異なる。

 植え付け作業には、半自動野菜移植機に送風機(ブロワ)とかん水ポンプを取り付けた小苗用移植機を用いる。ブロワは、非常に軽い小苗を強制的に落下させるために必要となる。かん水ポンプは、植え付けと同時にかん水し活着を促進するために使用する。
図2 小苗育苗工程の概要

2.生産者が使用して

 小苗技術を導入した生産者が宮崎県、鹿児島県に複数あり、実証を続けている。小苗作業に慣れたわれわれが作業を行うと小苗の育苗・植え付け作業時間は10アール当たり9時間と、慣行の作業時間の(同20時間)の50%以上の省力効果が発揮される。初心者の生産者では同10数時間となる(図3)。
図3 慣行作業と小苗作業の作業時間の推移
 また、軽労化では、採苗時のハウス内での作業時間が極端に短い(同6分以下)ため、一斉採苗後の作業は、涼しいところで、椅子やコンテナに腰かけた楽な姿勢で行うことができる。また、植え付けでも、屈んだ姿勢での作業は少なくなり、かつ作業時間も短縮され、生産者からは好評である。実証における問題点は、小苗栽培に不慣れであるということである。種いもの伏せ込みから養液育苗の管理までは、慣行栽培とは大きく異なることから、慣れるのには数回(つまり数年)の経験が必要と感じた。ただし、小苗用移植機のベースが半自動野菜移植機であるため植え付けは早く慣れるようで、2回目から単独で作業を行えるようになる。

 縦伏せ込みは、発芽勢が良く、苗床造成の技術だけでもすぐに入れたいと希望される生産者もいる。このような意見をいただくと、すべての技術を一度に入れる必要はないと思われる。

おわりに

 苗床造成機、穴あけ機、一斉採苗機および調製機は市販化されており、小苗用移植機についても技術的にも完成している。今後は、さらに生産者での実証を通して小苗栽培の効果を明らかにし、かんしょ小苗の普及を目指していきたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272