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糖の摂取と作業能力

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最終更新日:2018年3月9日

糖の摂取と作業能力

2018年3月

昭和女子大学生活科学部 小川 睦美、迎 ももか、内山 智子
清水 史子、石井 幸江、高尾 哲也
NPO法人「食と健康プロジェクト」理事長 高田 明和

【要約】

 女子大生35人を被験者として、ブドウ糖、果糖、ショ糖摂取による血糖値の変化と、単調作業による作業能力の評価を行った。その結果、血糖値の変化では、ブドウ糖の血糖曲線下面積を100としたときのショ糖のGIは88で、既報よりも高い値を示し、作業能力もショ糖で最も高く、対照群に対し有意差(p<0.05)を得た。被験者は平均的なBMIを示す集団であり、食物摂取頻度調査の結果からもごく一般的な食習慣の若年女性集団であることから、今後はショ糖のGI値が高値を示した原因の精査を行い、血糖値と作業能力の関連について検証したい。

はじめに

 平成20年の文部科学白書1)に、毎日朝食を摂取する子どもにおいて全国学力・学習状況調査の平均正答率や全国体力・運動能力、運動習慣等調査の体力合計点が高いことが示されて以降、子どもたちの成長にとって朝食が重要であると唱えられている。平成27年度全国学力・学習状況調査の追加分析報告(平成27年12月1日文部科学省学力調査室)2)でも、小学校と中学校の生徒においては、生活・学習習慣に関する項目のうち「朝食を毎日食べているか」、「平日以外に勉強をする時間」、「学校の宿題をしているか」といった項目で、全教科の学力と高い相関が見られたことが報告され、食育の推進(農林水産省)3)や「早寝早起き朝ごはん」国民運動(文部科学省)4)を通して朝食の重要性が啓発されている。

 朝食は、エネルギー供給が途絶えている夜間に脳や肺、心臓をはじめとする各種臓器の活動、体温の維持などに消費されたエネルギーを補給し、生活活動のエネルギーを供給するために重要である。主要なエネルギー源となる食品成分としては、糖質(でん粉や砂糖)や脂肪(動物脂や植物油)が挙げられる。朝食で口にするご飯やパンにはでん粉が、焼き魚やベーコンエッグには脂肪が含まれ、これらがエネルギー源として利用されるのである。

 このうち、脂肪は標準体型の人で体重の20〜30%程度蓄えられているため、一夜の絶食で不足する心配はほぼないが、糖質は血液中のブドウ糖(血糖)と肝臓中のグリコーゲンとしてわずかに蓄えられているだけ(教科書的には一日の絶食に耐え得る程度)であることから、夜間の絶食期間中の消費量を朝食で補う必要がある。

 全国学力・学習状況調査などで示されている朝食の効果は、栄養素そのものの効果ではなく、朝食の摂取を含む生活環境、生活習慣にあることは言うまでもない。朝食摂取によるエネルギーの供給や、生活リズムの調整が重要であることに異論はないが、食事そのものの効果を検証する必要はないだろうか。

そこで、脳のエネルギー源として重要な糖質の摂取と集中力の関係を明らかにすることを目的に実験を行ったので、報告する。
 なお、本研究は昭和女子大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した。

1.方法

(1)被験者

 被験者は、都内のS女子大に在籍する女子大生35人とした。健康で身体的な異常が認められず、BMI(Body Mass Index。kg/m2)が18.0以上25未満の者のうち、事前の測定により習慣的な朝の空腹時血糖値が1デシリットル当たり70〜110ミリグラムかつ当日の空腹時血糖値が同70〜110ミリグラムである者とした。被験者の属性は表1に示す通りであった。

表1 被験者の属性

(2)被験飲料

 実験群はブドウ糖(G;glucose)、果糖(F;fructose)、ショ糖(S;sucrose)の水溶液摂取とした。各糖ともそれぞれ50グラム計りとり、約450ミリリットルの水に溶かしたものを被験飲料とした。対照群(C;control)には水500ミリリットルを用いた。実験群、対照群ともに、水はサントリーフーズ「南アルプスの天然水」を用いた。

(3)血糖値測定

 実験参加に当たり、被験者には実験前日の午後11時以降の飲食を禁じた。ただし、水の摂取のみ許可した。

 当日は、自己採血により血糖値を測定した。採血用穿(せん)()器具はテルモメディセーフファインタッチ、血糖測定器にはテルモメディセーフミニを用いた。

(4)ペーパーテスト

一定時間にやるべき仕事の作業性を判定する内田クレペリン検査(日本・精神技術研究所)を実施した。1分間の作業を15回繰り返したのち被験飲料または水を摂取し、飲料摂取後15分、30分の血糖値測定を実施した後、再度1分×15回の作業を実施した。作業能力の評価は、試験飲料摂取前と摂取後の作業量の差を用いて行った。
 なお、本試験は日本・精神技術研究所の許可を得て実施した。

(5)食事摂取状況調査

 被験者の食事摂取状況を食物摂取頻度調査により評価した。過去1カ月の食事を思い出しアンケート表に記入することで食事摂取状況を把握するものである。今回はエクセル栄養君/FFQg(Food Frequency Questionnaire Based on Food Groups) Ver.5.0により評価した。

(6)スケジュール

 当日のスケジュールは図1に示した通りである。
 被験飲料の割り当ては単盲検法としたが、被験試料には甘味があるため、被験者は自分が実験群に割り当てられているか、対照群かという程度の予測は可能であった。

図1 スケジュール

2.結果

(1)糖の種類と作業能力

 図2に、被験飲料の摂取前後に実施したペーパーテストの作業量の変化量を示した。
 内田クレペリン検査は、簡単な一桁の足し算を1分ごとに行を変えながら、休憩を挟み、前半と後半で各15分間ずつ合計30分間行う検査である。全体の計算量(作業量)、1分ごとの計算量の変化(作業曲線)と誤答から、受検者の能力面と性格や行動面の特徴を総合的に測定するものであるが、今回は全体の作業量のみに着目した。

 対照群を含むすべての群で、被験飲料摂取前と摂取後では、摂取後に作業量が上昇した。検査方法に対する慣れがその一因と考えた。一方、糖を摂取した実験群では、対照群に対しショ糖群で有意(p<0.05)に作業量が上昇した。また、ブドウ糖群でも上昇傾向が見られた(p=0.06)。

図2 作業量の変化量

(2)血糖値の変化

 実験群(G、F、S)および対照群(C)の血糖値の変化を図3に示した。
 各群の空腹時血糖値は1デシリットル当たり79〜82ミリグラムの範囲で群間に有意差はなかった。摂取後15分の血糖値上昇はショ糖群で大きく、ブドウ糖群はやや遅れて血糖値が上昇した。ショ糖では血糖値の下降も速やかで、ブドウ糖は緩やかに下降した。被験飲料摂取後のペーパーテストは、グラフの30分を過ぎた時点で実施しており、30分の血糖値の高さと作業能力は偶然にせよ、一致していた。

 血糖曲線下面積から、GI(Glycemic Index)を算出した。GIとはカナダの栄養学者Jenkinsら5)が提唱した値であり、50グラムのブドウ糖に相当する量の食品を摂取した際の血糖値の上昇の度合いを、ブドウ糖50グラムの血糖曲線下面積と比較した相対値である。Jenkinsらは、ショ糖のGIは59±10、果糖は20±5と報告しているが、本研究ではショ糖のGIは88とやや高い値を示した。私たちがこれまでに実施してきた同様の血糖値測定では、ショ糖のGIはおおむね70前後であったので、今回ショ糖のGIが高い値を示した原因については精査する必要がある。
 果糖のGIは16であり、既報に準じた値であった。

図3 血糖曲線

(3)被験者とその栄養的背景

 BMIは、身長と体重から算出される体格指数として国際的に利用されている。体脂肪量とよく相関することから世界保健機関(WHO)は1997年にBMIを指標とする肥満の診断基準を策定している。日本では18〜49歳の成人男女が目標とすべきBMIの範囲を18.5〜24.9としている(日本人の食事摂取基準2015年版)。

 今回、被験者のBMIを18.0以上25未満としたが、女子大生ではBMI18.5未満の者が相当数おり、これを除外することは母集団の性質を反映しないと考えたためである。そのため被験者35人のうち5人が18.5未満であった。

 実験群ごとの被験者数およびBMIを表2に示した。各群の被験者のBMIは多少のばらつきはあったものの、有意差はなく、ごく一般的な体形であった。

表2 群ごとのBMI

 被験者全体の栄養素摂取量と参照値を表3に示した。参照値は、日本人の食事摂取基準(2015年版)に示されている18〜29歳女性の該当値である。

 エネルギー収支の結果は体重の変化として現れるため、BMIが目標範囲にあることをエネルギー摂取量評価の指標の一つと考えてよい。今回の被験者のエネルギー摂取量は1823±358キロカロリーで、これは、日本人の食事摂取基準(2015年版)に示されている推定エネルギー必要量のうち、身体活動が「ふつう」の人より少ない値であるが、BMIが目標範囲内であることと、BMIの低い被験者が混在していることから、妥当な数値と考えられた。

 表中のEAR、RDAはそれぞれ推定平均必要量(当該集団に属する50%の人が必要量を満たすと考えられる摂取量)、推奨量(当該集団に属するほとんどの人〈97〜98%〉が充足する値)であり、栄養素の不足の回避のために設定された指標である。

 タンパク質の摂取量については良好であり、エネルギー産生栄養素バランス(総摂取エネルギー量に対するタンパク質、脂質、炭水化物のエネルギー比率)については、脂質がやや多いものの、重篤な過不足は認められなかった。

 カルシウム、鉄、レチノール活性当量(ビタミンAとしての働き)、ビタミンCでは不足が認められたが、平成28年度国民健康・栄養調査結果6)では、20〜29歳女性の摂取量平均値はカルシウム396ミリグラム、鉄6.5ミリグラム、ビタミンA459マイクログラムRE、ビタミンC65ミリグラムであり、若年世代では恒常的に生じている不足であると推察された。

 また、食塩相当量は目標量(生活習慣病予防のために、当面の目標として摂取すべき値)を超えているが、平成28年度国民健康・栄養調査結果でも8.5グラムであり、同世代に一般的な数値と判断された。

表3 栄養素摂取量

3.考察とまとめ

 私たちはこれまでに、老若男性の血糖値の変化について報告7)してきており、空腹時から糖摂取30分までの血糖値上昇において、中高年男性ではブドウ糖とショ糖に差はないが、若年男性ではショ糖の血糖値上昇がやや早いことが示されている。今回、若年女性でも同様の結果が得られたことは、注目すべき点であり、中高年女性のデータや若年女性での再現性、血中インスリン濃度の測定などを通し検証していきたい。

 また、ペーパーテストを実施した時の血糖値の高さと作業能力の増加程度が一致するという結果が得られたが、ラットを用いた実験8)でもブドウ糖とショ糖で記憶促進の効果が示唆されている。私たちはこれまでに、数検5級、新田中B式知能検査などを用いて、糖の摂取と作業能力の検討を試みてきており、ブドウ糖とショ糖では摂取前後の作業能力が上昇する傾向が認められている(未発表)ことから、ブドウ糖、ショ糖の摂取は作業能力に影響を及ぼすことが考えられる。

 しかし、ここでは、これらの結果をもって「ショ糖やブドウ糖は脳に良い」と判断することよりもむしろ、水を飲んだだけの群は、どの検査においても回答率や正答率の上昇が最も低かった、ということを記しておきたい。
 この興味深いテーマについては、さらに研究を重ねていきたいと考えている。


謝辞  
 研究に協力してくださいました被験者の皆さまに、心から感謝申し上げます。
参考資料
1)文部科学省「平成20年度文部科学白書」
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200901/detail/1283406.htm
2)文部科学省学力調査室「平成27年度全国学力・学習状況調査の追加分析報告」 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/_icsFiles/afieldfile/2016/01/14/1365955_1.pdf
3)文部科学省「「早寝早起き朝ごはん」国民運動」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/asagohan/
4)農林水産省「食育の推進」
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/oneday/morning1.html
5)Jenkins,D.J et al. (1981)「Glycemic index of foods: a physiological basis for carbohydrate exchange.」『The American Journal of Clinical Nutrition』34(3) pp.362-366
6)厚生労働省「H28年度国民健康・栄養調査結果 栄養素等摂取状況」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h28-houkoku-04.pdf
7)小川睦美ら(2014)「健康な中高年男性と若年男性への糖負荷時の血糖値の変化について」『砂糖・でん粉情報』(2014年11月号)独立行政法人農畜産業振興機構
8)篠原恵介ら(2015)「ブドウ糖・蔗糖が記憶機能に与える効果」『砂糖・でん粉情報』(2015年7月号)独立行政法人農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272