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でん粉原料用ばれいしょ生産費からみたコスト低減対策

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最終更新日:2018年5月10日

でん粉原料用ばれいしょ生産費からみたコスト低減対策

2018年5月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部 十勝農業試験場
研究部 生産システムグループ 研究主任 三宅 俊輔

【要約】

 でん粉原料用ばれいしょの生産費調査を行った結果、生産費には地域間や作付け規模間で差が認められた。地域間では種子予措(よそ)の有無や()(しゅ)量の相違が、作付け規模間では農薬の使用状況の相違や作付面積の小さい経営層における農機具費の上昇がコスト上昇を生起させる要因であった。これらの要因を踏まえ、コスト低減対策を整理した。

はじめに

 北海道農業においてばれいしょが重要な畑作物であることは言うまでもない。しかしながら、近年、大規模化した畑作経営において根菜類の作付け比率が低下している。でん粉原料用ばれいしょにおいても、平成14年から24年の10年間で1万7122ヘクタールから1万5685ヘクタールへ作付面積は減少している。このため、安定的な畑作経営の展開や適正な輪作体系の構築が懸念される。

 でん粉原料用ばれいしょの経済性に注目すると、統計値にみる面積当たり生産費は、15年前の水準と比較して20%以上増加していることが問題として挙げられる。ただし、統計値は限定された値のみの公表であり、これだけからコスト改善に向けた対策を検討することは難しい。こうした検討のためには、でん粉原料用ばれいしょの生産費を調査した基でコストの問題点を明らかにし、その改善に必要な取り組みを整理することが有用と考える。

 そこで本稿では、でん粉原料用ばれいしょの生産費調査を通して生産実態を分析するとともに、現状の生産コストに係る問題を特定し、低コスト生産に必要な取り組みを明らかにする。

1.分析

(1)統計値にみる生産コストの特徴

 農林水産省の統計調査からは、でん粉原料用ばれいしょ生産費は費目によって作付面積規模により傾向が異なることが示唆された(図1)。すなわち、労働費においてはスケールメリットが確認される一方、農機具・自動車費は10ヘクタール以上で上昇する傾向が見られること、農業薬剤費は、作付面積3ヘクタール以上で上昇する傾向が見られた。低コスト生産に向けては、規模を踏まえた検討が必要と判断した。
図1  でん粉原料用ばれいしょの作付面積と生産費の関係(3カ年平均値:平成25〜27年)

(2)生産実態と調査地域の選定

 道内におけるでん粉原料用ばれいしょ生産の地域性を整理した(図2)。道内におけるでん粉原料用ばれいしょの作付面積の95.9%(2014年)を十勝とオホーツクで占めていた。一方、2地域の用途別の内訳は異なり、生食・加工用のばれいしょがあり、副次的にでん粉原料用ばれいしょ生産が見られる十勝と、専作的にでん粉原料用ばれいしょを生産するオホーツクという状況が見られた。このため、規模だけでなく、地域間にも注目した検討が必要と判断した。  

 以上の整理から、規模間差と地域間差を把握するために、でん粉原料用ばれいしょと生食・加工用が併存する地域であり、ばれいしょに占めるでん粉原料用ばれいしょ作付け比率(以下「作付け比率」という)と作付面積の経営間差が大きい十勝X町と、作付け比率が高い地域であり、作付面積に経営間差があるオホーツクY町を対象とした。でん粉原料用ばれいしょ生産量の多くを担う経営層として、X町では作付け比率と作付面積の異なる4類型を、Y町では作付面積の異なる2類型を設定した。
図2  道内振興局別の用途別ばれいしょ作付け状況

2.結果

(1)でん粉原料用ばれいしょの生産コストの実態

 農林水産省の全算入生産費(北海道)は10アール当たり8万4253円であるのに対し、調査経営における各類型の全算入生産費は同7万6697〜10万747円と差があった(表1)。ここでは、生産費の中でもシェアが高い、種苗費、農業薬剤費、農機具費および労働費を比較した。

 まず地域ごとに見ると、X町では、作付け比率が低く作付面積が小さい経営層(小規模・非専作X)で農機具費が高かった。作付け比率が高まり作付面積が拡大する(中規模・非専作X、大規模・専作X)と、一定程度まで農機具費は低下するが、農業薬剤費は増加した。Y町でも、農機具費と農業薬剤費にX町と同様の傾向が認められた(中規模および大規模・専作Y)。

 次に、地域間で比較すると、中規模および大規模・専作の経営層において、Y町の方が種苗費や労働費が高いという、公表された統計値では把握できない地域間差が確認できた。
 以上の通り、種苗費と労働費は地域間、農業薬剤費と農機具費は規模間の差が注目される。
表1 類型別にみる調査対象経営のでん粉原料用ばれいしょ生産費

(2)高コスト要因

ア.種苗費
 中規模・専作Xと中規模・専作Yの種苗費を比較すると、前者は10アール当たり1万3440円、後者は同1万6479円であり、同3039円の差異があった。種苗費の差の要因は、種いもの単価よりも播種量が異なる影響が大きかったことから、播種の数量差に係る要因を整理した(表2)。数量差に係る要因を比較すると、同じでん粉原料用ばれいしょ品種を用いて畝幅や株間が同程度であっても、Y町の播種量が10アール当たり50キログラム程度多かった。
 
表2 種苗費の差の要因
イ.労働費
  同様の類型間で労働費を比較すると、中規模・専作Xは10アール当たり8789円、中規模・専作Yが同1万3321円であり、同4532円の差異があった。労働費の差の要因は、投下労働時間の中でも、種いもや播種作業に係る作業時間が異なる影響が大きかったことから、播種関係作業の投下労働時間の内訳を整理した(表3)。投下労働時間の差に係る要因を比較すると、種子予措に係る作業時間が異なっており、Y町ではカッティングプランターを用いない経営も見られる中で、種いも選別といも切り作業に労働時間を要していた。
表3 労働費の差の要因
ウ.農業薬剤費
 次に規模間に注目する。大規模・専作Xと中規模・専作Xを比較すると、前者は10アール当たり1万82円、後者は同8004円であり、作付け規模が大きくなると同2078円増加していた。ここでの農業薬剤には、殺菌剤、殺虫剤、除草剤、展着剤などが含まれるが、農業薬剤費の差の要因は、殺菌剤に係るコストの影響が大きかったことから、殺菌剤の利用状況を整理した(表4)。殺菌剤の利用状況の差に係る要因を比較すると、作付面積が大きい経営層ほど、散布間隔を空けずに、単価が高く効果の長い殺菌剤を用いていた。一方、作付け比率の低い経営層では、作業の簡略化を目的として、でん粉原料用ばれいしょに生食・加工用と同じ防除体系を取り農業薬剤費を増加させる例が見られた。
表4 農業薬剤費の差の要因
エ.農機具費
 作付面積に注目して、大規模・専作X、中規模・非専作X、および小規模・非専作Xの農機具費を比較すると、大規模・専作Xが10アール当たり1万2685円であるのに対し、中規模・非専作Xは同1万3717円、小規模・非専作Xは同2万1113円であり、規模が大きくなると農機具費の類型間差が小さくなっていた。農機具の利用状況をみると、生食・加工用を作付ける場合、でん粉原料用ばれいしょにも砕土装置付き培土機が用いられるため、若干増加した。さらに、作付面積が小さいとでん粉原料用ばれいしょ用収穫機の負担面積が小さいため、農機具費は高く、特に5ヘクタール未満で明瞭に高かった。

 一方、専用機の負担面積が拡大するため、作付面積の大きい経営層ほど農機具費は低下するが、10ヘクタール以上では下げ止まることが確認できた(図3)。
図3  でん粉原料用ばれいしょの作付面積と農機具費の関係

3.コスト低減に向けて

 以上から、高コスト要因を整理した下でコスト低減対策を示した(表5)。種苗費については、地域的な対応として、品種ごとに地域のばれいしょ播種量を確認し、地域に適した播種量を検討すること▽一般的な二つ切りでの播種を行いやすくするために、種いもの出荷段階で種いもの大きさをそろえること−が挙げられる。

 農業薬剤費については、個別的な対応では、特に大規模経営において、効果の長い(ダブルインターバル可能な)薬剤を用いた場合には、14日間隔散布の濃度で散布するとともに、散布間隔を空けることが挙げられる。地域的な対応では、「防除ガイド」に則した防除体系を確認した上で、使用する薬剤の回数やコストなどについて検討をすることが挙げられる。

 農機具費については、個別的な対応では、でん粉原料用ばれいしょで一定以上の面積(5ヘクタール以上)を確保することで低減が見込まれる。ただし、作付面積10ヘクタール以上では農機具費は下げ止まることに留意する。

 労働費については、個別的な対応では、選別・いも切り作業の見直しによる作業の簡略化・省力化を行うことや、種子予措に係る時間と労働力、コストを踏まえ、カッティングプランターの導入を検討することが挙げられる。地域的な対応では、種苗費と同様に、種いもの出荷段階で種いもの大きさをそろえること、種子消毒を農家集団などで省力的に行うことが挙げられる。

 本稿の通り、生産費格差は存在する。しかしながら、特に殺菌剤の利用状況におけるコスト差異について、必ずしも把握されていない実態が見られた。本稿が、コストの現状把握を進め、見直しを行う契機となれば幸いである。
表5 でん粉原料用ばれいしょ生産費にみる高コスト要因とコスト低減対策
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ )
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