かんしょ生産の課題は、労力がかかり生産コストが高い上に、特にでん粉原料用では収益性が低いことである。慣行体系のでん粉原料用かんしょ栽培では、生産費の約6割が労働費で占める(10アール当たり生産費、約13.4万円に対して労働費が約8.1万円、農林水産省統計部、平成28年度)。労働時間は慣行体系の平均で10アール当たり約50時間を要している。さらに0.5ヘクタール以下の小規模農家になると10アール当たり約70時間というデータもある(九州農政局鹿児島地域センター)。また、機械化体系による栽培でも10アール当たり約26時間を要しており、これはてん菜の約14時間の約2倍、麦類の約3時間の約9倍(27年度)であり、かんしょ栽培がいかに多くの労働時間を要しているか分かる。今後の課題として、作業の機械化・効率化による生産コストの低減はもちろん単収向上、資材費の削減、品質向上、販売代金、交付金の増額の問題等々、課題は多い。
(1)育苗・採苗(苗調製)システムの開発
栽培体系の中では、特に育苗・採苗から定植作業までの省力化が不可欠であり、慣行体系の育苗作業から定植作業までに、10アール当たり27時間(全労働時間の約5割)、機械化体系で約20.4時間(全労働時間の約8割)と多くの労働時間を必要としている(表6)。今後、挿苗栽培における機械化一貫体系を確立するためには、まずこれらの作業の省力化が急務である。従来の人力植え付けを前提にした慣行苗は倒伏した曲がり苗が多く、半自動挿苗機による植え付けにあまり適していない。挿苗機の植え付け精度は、苗の性状に大きく影響されるため、挿苗機への適応性の良い苗を得ることが必要条件である。そのために、苗床造成や種いもの伏せ込み法などの改良が行われ、曲り度の小さい、折れにくい、苗揃いの良い苗の生産(写真16)や小苗の育苗法が開発されてきている。今後は、さらに定植作業までを視野に入れた、苗の大量供給可能な育苗・採苗調製システムを早急に確立することが必要であり、これが今後の挿苗機の普及・拡大を大きく左右する。
ここで現在、鹿児島県南薩地域振興局が苗床造成機を利用して行った大量育苗・採苗技術に関する実証試験結果の一部を紹介しておく(表11)。苗床造成から種いも伏せ込み、採苗、植え付け、収穫作業まで行った結果であるが、一斉採苗による上いも収量は慣行対照区に比べて植え痛みの影響が少なく10アール当たり約2.8トン(慣行対照区の約1.4倍)であった。さらに、苗床造成や伏せ込み作業が軽労化され、植え付け可能苗数も多く、苗揃いもやや良好であった。しかし、育苗日数、伏せ込み密度、
罹病防止、苗床面積の確保、苗床造成機の小型化や個人農家が強く望んでいる育苗し易い品種の開発、育苗・採苗機械の自動化等々の多くの課題解決を必要とする。今後の成果を期待したい。
(2)植え付け作業の機械化
植え付け作業は、育苗・採苗作業と同様に一定の省力化が実現しているが、いまだに多くの生産者が人力に頼っている。一部の生産者の中には、人力植え付け作業にエンジン駆動式作業チェア(写真17)を利用して作業の軽労化を図っているところもあるが、半自動挿苗機の改良と直播を含む全自動植え付け機の開発は喫緊の課題である。
ア.挿苗機
植え付けには1人作業が可能であるが、良好な植え付け精度や直進性を得るためには、畦ガイドローラや機体の傾斜調整部を随時慎重に調整しながら走行の安定を図ることが重要である。前述したように、半自動挿苗機は慣行苗を供給する半自動式挿苗機構を装備した機械であり、苗の性状が植え付け精度に大きく影響する。特に、茎基部の曲がり度が約60度以上になると苗ホルダ部への供給が困難になり、苗詰まり発生の大きな原因になる。挿苗機の植え付けに適応した苗の生産は前述の苗床造成や苗調製、種いもの伏せ込み法の改良などによってかなり省力化されてきたが、適正苗の大量生産技術の一層の向上と抜け苗・浮き苗・折れ苗の原因になる機械の苗供給部や植え付け部の改良が必要である。確かに、これまで挿苗栽培に適応した育苗から植え付けまでの多労作業の解消に向けた技術開発と挿苗機の導入によって人力の約4〜5倍の植え付け作業能率の向上と軽労化が図られてきたのも事実であるが、今後はさらに高性能化した挿苗機の開発を強く望みたい。また一方、現在進められている苗移植機の実用化に向けた技術開発と大規模経営体に対応できる全自動大型植え付け機の開発研究も必要である。
イ.挿苗栽培から直播栽培へ
急速な就農人口の減少と高齢化が確実に進む中にあって、将来のかんしょ農業の大規模化は避けて通れない。機械化体系の中で最も遅れている育苗・採苗、植え付け作業の超省力化を目指した機械化の一つの方向として、ばれいしょ植え付け作業のように種いもを直接圃場に植え付ける直播栽培の導入を真剣に考える必要がある。特に、でん粉原料用かんしょの直播栽培技術の開発を先行して進めるべきである。現在の挿苗栽培において、小苗植え付けを含む半自動式挿苗機では、苗の挟持機構や植え付け機構の大幅な改良がなされたとしても植え付け能率、植え付け精度の向上に限界があると考えられる。
直播栽培のメリットは、種いもの確保は必要であるが、苗生産や苗の植え付け作業が不要になり、種いもの播種、畦立培土、マルチ作業の機械化一貫体系の確立が図り易いことである。また、播種機構についても、既にばれいしょ植え付け機で実用化されている機構が応用可能であり、挿苗植えに比べて植え付け機構の簡易化と作業能率の大幅アップが可能になる。
直播栽培の推進のためには、種いもの大量確保と罹病対策が必須条件であり、ウイルスフリー種いもの効率的な増殖とその供給体制作りおよび厳格な種いも管理や農家向け種いもの安定供給システムの確立が極めて重要である。現在、収穫時に発生する小さな規格外いもを種いもとして利用することや晩植栽培による種いもの栽培法などについて開発研究が進められているが、さらに直播品種の開発や健全種いもの保存、採種栽培面積の確保などについての課題解決が必要である。
現在、北海道のばれいしょ栽培においても、不安定な種いもの供給が安定生産を阻む一つの大きな要因になっていると言われており、種いもの安定的な生産とその省力化、効率化に向けた取り組みがなされている。かんしょ直播栽培において、種いもの安定的な生産体制を確立するためには、例えば、種いも生産法人などを設立して種いもの大量供給可能な生産システム作りを早急に検討すべきである。将来の大規模化に向けた植え付け作業の省力化を図るためには、直播による機械化が是非必要であることを重ねて強調しておきたい。
(3)機械化に適応した品種開発
かんしょの効率的な生産体制を確立するには、栽培技術の向上と機械化の推進を車の両輪として取り組むべきである。特に、品種開発においても機械化栽培を視野に入れた開発が必要である。近年、機械化を目指した直播用種いもの品種開発も進められているが、その成果が待たれるところである。
一般に、現在のかんしょ品種の直播植え付けでは、主に植え付けた種いものみが肥大し、子いも(蔓根いも)の収量が落ちる傾向にある。そこで、直播栽培でも種いもの肥大が少なく、子いもの着生が多い品種の開発が望まれる。現在、焼酎原料用かんしょでは有色品種の「ムラサキマサリ」や「スズコガネ」などが比較的に直播栽培に適した品種として開発されている。今後、でん粉原料用としても、子いもの収量が慣行栽培並みに得られ、より多くのでん粉含有量と加工適性を持ち、機械化栽培に適した直播多収品種の開発が強く望まれる。これら新しい系統の品種の出現が、新たな加工食品の用途拡大と生産者の栽培意欲を高め、ひいてはかんしょ生産量の増加につながることになる。
(4)防除作業
環境保全の観点から畦畔除草作業が可能な期間は、除草剤散布などの化学的除草に頼らず、できるだけ物理的除草(チゼルなどの除草刃を装備した機械式除草機)の使用が望ましい。また、一部の除草剤畦畔散布機の中には、畦畔に沿った走行性能の悪い機種が見られる。畦畔形状への適応性の高い機構への改良が是非必要である。その他、薬剤散布作業には、主に背負い式噴霧器や動力噴霧機、薬剤散布仕様の乗用管理機などが利用されているが、特に作業時の薬剤曝露に注意が必要である。
最近、かんしょに、つる枯れやいもが土中で腐敗する被害が発生している。特に、でん粉原料用や焼酎原料用かんしょの被害が大きい。原因菌として以前より発生が認められていたサツマイモつる割病菌に加え、サツマイモ基腐病(仮称)とサツマイモ乾腐病が確認された。基腐病と乾腐病はいずれも土壌伝染性の糸状菌(カビ)の一種で県内初である。病害の原因は高温や台風、長雨、排水不良などで、いもが弱り被害が拡大したとみられる。鹿児島県病害虫防除所は防除対策として、発病した株は抜き取り圃場外で処分する、イネ科牧草などとの輪作を行う、発病した圃場から種いもを取らず健全ないもを使用して苗の消毒を確実に行う、圃場の排水対策、土壌消毒を十分に行うことを勧めている。
また、植え付け期の干ばつと生育後期の大雨によって病害虫の多発や生育障害が発生し大きな減収を招いている。特に、病害虫防除と土壌消毒を徹底する必要がある。
(5)掘り取り作業
掘り取り作業はハーベスタなどの導入によって一定の省力化が進んでいるが、ハーベスタなどを含む農機具費の問題に触れておく。かんしょ生産費の中でハーベスタなどをはじめとする農機具費を含む資材費の占める割合が高い。農林水産省統計部資料(表12、平成28年度)によると、でん粉原料用かんしょの10アール当たりの全生産費約13.41万円の中で労働費の約8.09万円(60.3%)に続いて、農機具費が約1.23万円(9.2%)で2位を占めている。以下、肥料費約1.18万円(8.8%)、薬剤費約0.68万円(5.1%)と続き、その他、諸材料費4.2%、自動車費3.5%である。このように、農機具費と合わせて肥料費、薬剤費などの資材にかかる費用(23.1%)が農家にとって重い負担になっている。また、特に農機具費の中でハーベスタの修理費が高く、導入後約3〜4年経過してから平均年間約20〜30万円を出費している農家が多い。特に、ゴムクローラやキャタピラーのローラの摩耗、掘り取り爪の摩耗、折損による修理(部品交換を含む)に要する費用が高く、修理費の負担軽減に対する農家の要望が強いが、一方で日常の保守管理の徹底による機械の長寿命化を図ることも重要である。今後は、特に土壌条件の悪い圃場におけるハーベスタ機体の足回りの強化が必要である。
農機具費削減のためには、保守管理の徹底に加えて、農家間の共同利用によって機械の稼働率を高めること、機械導入の際に経営規模に見合った機種選定を行うこと、機械価格の低減などが必要である。かんしょ用機械に限ったことではないが、一般に機械導入の際に、やや大型化した機種選定の傾向が見られる。各種農機具の導入に当たっては、かつての「機械化貧乏」にならないためにも、後述する利用規模の下限面積を算出した適正な導入計画が重要である。
また、収穫物の圃場ロスについても注目する必要がある。ハーベスタの掘り上げ部や搬送・選別コンベア部からのいもの落下がコガネセンガンで全収量の約1〜2%ある。この落下いもは拾い集め可能であるが、さらに掘り残しいもが同じく約2%程度存在する。これは決して少ない量ではない。これらの圃場ロスの低減については、今後の重要な改良課題として指摘しておきたい。
次に、機械導入の際に効率的利用を図るための必要な条件として、利用規模の下限面積を算出する方法がある。ここで一例として、かんしょミニハーベスタ(小型自走式、フレコン使用)の下限面積の試算を示しておく(表13)。今回提示した前提数式による算出結果、下限面積として約20.5ヘクタールが求められた。この数値は本ハーベスタを経済的に利用するためには、年間延べ約20.5へクタール以上の面積確保が必要であることを示しており、機械利用規模の経済性を見る上で極めて重要な指標になる。今後、機械化に当たっては、利用規模に見合った適正な機械導入が必要であることを再認識し、同様にトラクタなどを含む特定高性能農業機械の試算を行うことを勧める。