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鹿児島県におけるかんしょ栽培の機械化の現状と課題について(前編)

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最終更新日:2019年4月10日

鹿児島県におけるかんしょ栽培の機械化の現状と課題について(前編)

2019年4月

元鹿児島大学農学部教授 宮部 芳照

【要約】

 これまで、かんしょ栽培の機械化は、主に収穫作業を中心にほぼ順調に進められてきたが、より効率的な機械化一貫作業体系を確立するためには、各種作業の中でも、特に育苗・採苗作業および植え付け作業の省力化を図ることが急務である。今回、県内の主な生産地の現地調査を行い、栽培現場およびでん粉工場の現状と課題について明らかにした。さらに、かんしょ農業の今後の目指すべき一つの方向として、超省力化と高品質生産の実現に向けたスマート農業化への課題やかんしょでん粉業界の体質強化について考察した。

 本稿では、前編として慣行体系と機械化体系の所要労働時間を比較しながら、かんしょ栽培における各種作業の機械化の現状と課題について報告する。

はじめに

 鹿児島県のかんしょ栽培(でん粉原料用、焼酎原料用、青果・加工用)の生産現場においても生者者の減少や高齢化が進行し、作業の省力化・効率化を目指した機械化一貫体系の確立が急務になっている。

 そこで今回、県内生産地の現地調査を行い、機械化に関する問題点を明らかにして、今後の課題および方向性について考察した。現地調査は、薩摩半島(南薩(なんさつ)管内)と大隅半島(曽於(そお)大隅(おおすみ)管内)の両管内(図1)について、それぞれ鹿児島県南薩地域振興局、大隅地域振興局の農政普及課経営普及係の協力を得て、収穫期後半の11月中旬と12月中旬に実施した。調査先は、それぞれの地域の主な栽培農家、関係組織、でん粉工場を対象とした。調査方法は、調査を行う前に、「かんしょ栽培の機械化に関するアンケート調査票」を各調査対象先に配布し、その結果を基に聞き取り調査を行った。

 

1.鹿児島県におけるかんしょ栽培の概要

 かんしょは、鹿児島県の特徴でもある火山灰性不良土壌(シラスなど)が広く分布する畑作地域において、台風来襲などの多い自然条件下で、夏場の土地利用型作物として、また輪作体系や防災営農上重要な地域の基幹作物として栽培されている。

(1)作付面積と生産量
 本県全体の耕地面積は約11万9000ヘクタール(平成29年、耕地利用率92.3%)であり、そのうち、畑地が約8万1100ヘクタール(畑地率68.2%)を占め、これは全国平均の45.6%と比べても高い水準である。その中で、かんしょの作付面積(29年産)は約1万1900ヘクタール(普通畑の18.5%、前年比1%減)である。その内、でん粉原料用が4260ヘクタール(前年比9%減)で県全体の約35.8%を占め、焼酎用が約42.7%、青果用・加工用が約21.5%をそれぞれ占めている(表1)。かんしょ農家数は1万1580戸(29年度、前年比5%減)、基幹担い手農家数(認定農業者と将来認定が見込まれる農家)は1557戸(かんしょ農家全体の約13%)、一戸当たり作付面積は平均1.03ヘクタールである。また、規模別農家数は0.5ヘクタール以下が最も多く、5047戸(かんしょ農家全体の約44%)で小規模農家が多いことが分かる(表2)。

 次に、生産量は28万2000トン(29年産、前年比13%減。その内、でん粉原料用が10万100トン、前年比22%減)であり、全国生産量(80万7100トン)の34.9%を占め、全国第1位である。また、農業生産額は178億円(28年産)で、本県の耕種部門の中では、米についで第2位を占める作目である。本県のかんしょの作付面積と生産量の推移を図2に示しておく。

 

 

 

(2)10アール当たりの収量

 10アール当たりの収量を見ると、平成29年産は春先の低温、植え付け時期の遅れや乾燥による活着不良、さらに9月中旬以降の日照不足などで、2370キログラム(前年比12%減)であり、その内、でん粉原料用は2350キログラム(前年比14%減)で減収傾向にある。10アール当たり収量の推移を図3に示しておく。
 

(3)品種と作付面積割合
 次に、本県で作付けされている主な原料用かんしょの品種と作付面積割合は、図4に示す通りである。でん粉原料用としては、主にシロユタカ、シロサツマ、コナホマレ、ダイチノユメ、焼酎原料用としては、主にコガネセンガンが栽培されている。でん粉原料用はシロユタカが最も多く、約28%であり、焼酎原料用ではコガネセンガンが最も多く、約45%である。また、主な品種のそれぞれの特徴、特性は、表3、表4に示す通りである。






(4)各種作業期間
 かんしょ栽培における作業は、一般に1月に入って、育苗・採苗作業から始まり、耕うん、整地、土壌消毒、施肥、施薬、畦立・マルチ、植え付け、除草、防除、茎葉処理、マルチフィルム除去作業と続き収穫作業で終了する。収穫作業は、降霜が始まる前までに終了することが望ましいが、12月中・下旬ごろまで作業にかかることがある。かんしょ栽培の各種作業期間は表5におおむね示す通りである。
 
 
(5)各種作業の所要労働時間
 近年、かんしょ栽培に必要な労働時間は、機械化によってかなり短縮されてきている。でん粉原料用の機械化体系では、一工程作業機の導入によって10アール当たり約26時間程度まで省力化されている(2008年当時の慣行体系では51.1時間)。しかしながら、その中で育苗・採苗作業や植え付け作業の多くはいまだに人力に頼っているのが現状である。例えば、育苗・採苗作業では、10アール分の植え付けに必要な苗の確保に約16.5時間を要し、かんしょ栽培に必要な全労働時間(26.4時間)の約6割を占めている。さらに、植え付け作業まで含めると約7割を占める。このように、特に育苗・採苗作業と植え付け作業の省力化を図ることは、かんしょ栽培の機械化体系を確立する上で喫緊の課題である。表6にでん粉原料用かんしょ栽培の各種作業に必要な10アール当たり労働時間を示しておく。

 

2.かんしょ栽培に使用される機械類

 植え付け前作業に使用される機械類は、耕うん作業→ロータリ、土壌消毒作業→土壌消毒機、鎮圧作業→鎮圧ローラ、堆肥散布作業→マニュアスプレッダ、肥料散布作業→ブロードキャスタ、病害虫防除作業→動力噴霧機、ガス抜き作業(注)→ロータリ、畦立・マルチ作業→畦立マルチャが主に使われている。なお、肥料や農薬などの資材散布には、圃場全面散布が行われている。また、土壌消毒、施肥、施薬、畦立・マルチは同時工程作業が可能な一工程作業機(写真1)を使用する場合も多いが、でん粉原料用では土壌消毒、施薬作業を省力する場合が多い。次に、中間管理作業の除草剤散布、病害虫防除作業には動力噴霧機が主に使用されている。収穫作業では茎葉処理作業に茎葉処理機、マルチフィルム除去作業にマルチ剥ぎ巻取り機、掘り取り作業には、リフター型、エレベータ型ディガーや小型自走式収穫機(ミニコン式、フレコン式)、大型収穫機(けん引式、自走式)が使用されている。なお、青果用かんしょ収穫の場合は、特にいもの損傷を防止するために小型自走式収穫機(フレコン式)や大型収穫機は使用されないことが多い。表7にかんしょ栽培に使用される主な機械類とその用途別適応性を示しておく。

(注)クロルピクリンやD-D剤などの土壌消毒剤を注入後、作物障害を及ぼす恐れのある余分のガスをロータリなどで撹拌(かくはん))して抜く作業。

 

 

3.各種作業の機械化の現状

 主要作業の機械化について述べる。 

(1)圃場準備作業
 
機械化作業体系の中で、前述の一工程作業機(土壌消毒、施肥、施薬、畦立・マルチ作業を同時工程で行う)を使用した場合、肥料や薬剤の畦内局所散布が可能であり、資材の軽減と省力化が図られる。本工程体系による耕うんから畦立・マルチ作業までの植え付け前圃場準備に要する10アール当たりの作業時間は、慣行体系の5.3時間(延べ7.4時間)に比べて、2.4時間(延べ3.3時間)であり、約4〜5割の短縮が可能になる。また、作業期間を3月1日〜5月20日とした場合の作業工程の作業可能面積は3.7ヘクタールから7.8ヘクタールに増加し、約2倍以上の規模拡大が図られ、圃場準備作業の省力化のためには本作業機の導入拡大が是非必要である(表8)。
 

 
 

(2)育苗・採苗作業
 現在の機械化作業体系において、育苗・採苗作業に要する時間はでん粉原料用かんしょ栽培で全所要労働時間の約63%と最も多い割合を占め、本作業の省力化無くして、かんしょ栽培の機械化作業体系の確立は無いと言っても過言ではない。また、「苗作りが生育の9割を決める」とまで言われる重要な作業でもある。

 近年、鹿児島県農業開発総合センター大隅支場では、機械植え付けを前提とした育苗・採苗方法の研究開発が進んでいる。曲がりの少ない、真っ直ぐで均一な苗の大量生産を目指して、種いもの密植可能な縦伏せ込み(頂芽を上にして伏せ込む方法)の開発や苗床造成機、苗刈り取り機および苗調製機(写真2〜4)などの開発が行われ、育苗・採苗作業の省力化に向けた技術研究が鋭意進められている。

 一方で、焼酎原料用、青果用かんしょに加えてでん粉原料用かんしょにおいても、その増産のためにバイオ苗(写真5)の生産、流通に力が注がれている。メリクロン技術(注)を利用して苗の培養・増殖管理を行い、採取したバイオ苗(長さ25〜30センチメートル、重さ20グラム以上)を慣行苗と同じように束にして供給したり、セルトレイやポット移植苗を当年植え付け用あるいは次年産の種いも用として利用したりしている。健苗育成のためにバイオ苗の利用は基本的栽培技術として欠くことができないものであり、これが単収アップに大きくつながる。現在、バイオ苗の普及活動が生産者への栽培技術講習などを通じて官民挙げて行われている。

(注)新しく伸びかけた芽から生長点を取り出し、無菌培養して増やす方法。有望品種を短期間で大量に生産可能であり、植物の持つ本来の健全な資質を引き出すことができる。

 

 

 

 

(3)植え付け作業

 かんしょ栽培に係る全労働時間の中で、植え付け作業に要する時間は、でん粉原料用の慣行体系で約12%、機械化体系で約7%とその割合は少ないが、ほとんどの生産者がいまだに人力に頼った植え付け作業を行っている。しかも本作業は、長時間、腰をかがめた姿勢で行う労働強度の高い作業でもある。

 現在、植え付け作業の省力化のために、慣行苗を供給する半自動かんしょ挿苗機(写真6)が導入されているが、機械適応性のある苗の育苗技術の向上が遅れており、いまだ普及・拡大に至っていないのが現状である。現在、半自動かんしょ挿苗機の普及台数は約250台、機械植え付け面積率も約8%と低く、機械化が強く望まれている作業の一つである。挿苗機に適応した苗の大量供給さえ可能であれば、それなりの性能を発揮する機械であると考えられる。例えば、機械の植え付け精度を見ても、機械適応苗(茎長20〜30センチメートル、全長30〜45センチメートル程度の曲がりの少ない均一に揃った苗)使用の場合は、正常植え付け率95%以上を示しているが、特に茎基部の曲がり度が約60度以上になると急激に低下する傾向にある。作業能率は栽植様式で違いがあるが、青果用で10アール当たり2.2時間、加工用で1.9時間、でん粉用で1.5〜1.7時間であり、人力に比べて4〜5倍の能率である。また、4月上旬から6月中旬までを植え付け期間とした場合、作業可能面積は青果用7.6ヘクタール、加工用8.5ヘクタール、でん粉用10.4ヘクタール程度とされる(鹿児島県農業開発総合センター大隅支場 2009.1)。さらに、かんしょ苗の活着は、植え付け後の降雨の有無に大きく影響を受けるが、挿苗機植え付けと同時に苗の基部周囲にかん水を行う、いわゆる活着安定装置(ピストンポンプ、かん水タンク、植え付け爪兼用の吐出ノズル)を機械に装着することによって、晴天下の慣行かん水無しの活着率90%前後に比べて、約98%台の活着率を示し、初期生育も良い結果が得られている。このように、本機は機械適応苗の大量供給が可能であれば植え付け性能そのものは十分評価できる。また最近では、挿苗機に適応した茎長15センチメートル程度の小苗の育苗方法についても収量低下対策を含めて開発が進められている。 

 今後、本挿苗機の普及・拡大のためには、まず機械適応苗の供給体制作りが必要不可欠であるが、しかしながら、今後さらに大規模経営体に対応可能な植え付け作業の高能率化・全自動化を図るためには、本機がそれなりの性能を発揮したとしても、現在の半自動式の挿苗植え付け方式では、作業能率の面で自ずと限界があると考えられる。将来、かんしょ栽培の一層の規模拡大を進めるためには、挿苗栽培のみならず直播(ちょくはん)栽培方式(種いもを直接植え付ける方式)の導入も検討する必要がある。直播栽培については後述する。

 

(4)中間管理作業

ア.雑草防除、中耕・培土
 かんしょは地上部がほふく性で地表面を覆うため、一般的に雑草に強い作物と言われているが、耕うん畦立後、10〜20日間でほとんどの雑草が発生するため、植え付け前の除草剤の散布が望ましい。露地栽培(無マルチ)では、植え付け後、約30日以内に1〜2回程度、除草作業も兼ねて中耕・培土作業(カルチベータや畦間ローダなどで軽く耕うんし、雑草を押さえて培土板で培土する)などの中間管理作業を行っている(写真7)。マルチ栽培においては、中耕・培土作業は必要ないが、茎葉部が繁茂するまでの期間は畦間の除草剤散布(歩行式畦間散布機や背負い式噴霧機利用)を行っている。


イ.追肥
 
露地栽培では、植え付け後、30日前後に中耕・培土を兼ねて、つるぼけ(窒素過多)に注意して追肥を行っている。

ウ.病害虫防除
 かんしょは生育期間中の病害虫の発生は比較的少ない作物であるが、発生予察によって薬剤散布(動力噴霧機やブームスプレーヤ、乗用管理機利用)を行っている(写真8)。


(5)茎葉処理作業
 
収穫期に入ると、まず茎葉処理作業(いも(つる)切り)を行う。処理作業には、歩行用茎葉処理機や乗用トラクタ用茎葉処理機(ほとんどがフレール刃(注)を使用)が利用されており、茎葉を細断処理するものである。また、一部に茎葉を粗飼料として有効利用するために、茎葉回収可能な茎葉処理ハーベスタを利用している地域もある(写真9)。

(注)異物からの衝撃を避けるために自由に揺動する高速回転刃。


(6)マルチフィルム除去作業
 茎葉処理作業を行った後、マルチフィルムの除去(回収)作業を行う。人力でマルチフィルムを剥ぎ取った後に巻き取り回収するマルチフィルム巻き取り機や、剥ぎ取りながら回収するマルチフィルム剥ぎ取り回収機(写真10)などが利用されている。
 

(7)収穫(掘り取り)作業

 使用される掘り取り機械は、かんしょの用途(でん粉原料用、焼酎用、青果用、加工用)などによって若干違いがあり、機械の構造・機能によって、主に、掘り取りの工程を担うディガータイプと掘り取り後、積み込み・排出までの工程を行うハーベスタタイプの二種に大別される(表9)。その中で、青果用は塊根の打撲、皮むけなどの収穫物の損傷を極力少なくする構造を有しており、また個人所有が多いので小型、低価格の機種が多い。これに対して、一般に原料用、加工用は作業能率を優先させ、できるだけ省力化を可能にした機種が多い。


ア.ディガータイプ
 
ディガータイプは、さらにリフター型、振動型、エレベータ型に分類され、いずれも歩行用または乗用トラクタに装着して使用される。

 ・リフター型は、掘り取り刃だけを有した極めて簡単な構造で、塊根を土ごと持ち上げ、人力による掘り取りを容易にしたものである。掘り取り後の拾い集め、収納、排出は手作業で行っている(写真11)。また、枕地植えの掘り取り作業などにも使用されている(写真12)。

 ・振動型は、2枚の掘り取り刃とその後方に付いたリフティングロッドがエンジンの動力で振動され、塊根を浮かせ、けん引抵抗も小さく、土と塊根の分離を良くしている。

 ・エレベータ型は、掘り取り刃とエンジンの動力を利用する動力取り出し装置(PTO)の動力で駆動されるエレベータからなり、土と塊根はエレベータによって送られる間に分離し、塊根を後方畦上に排出するものと側方排出コンベアで畦横に排出するものとがある。エレベータのロッドリンク(注)は、ゴム被覆が施されており、塊根の損傷防止を図っている(写真13)。1畦用ディガータイプで、作業速度が毎時3〜4キロメートルの場合、作業能率は毎時7〜15アール程度のものが多い。

(注)コンベアチェーンを連結する横棒。

 





 
イ.ハーベスタタイプ
 
掘り取り、土砂分離、積み込み、排出の作業を一工程で行うもので、自走式とけん引式があり、それぞれタンカー型、ステージ型、アンローダ型に分類される。なお、自走式タイプは、キャタピラー方式の走行部を持ち、油圧駆動(HST)による無段変速が可能なタイプも多い。
 
 ・タンカー型は、掘り取った塊根をフレコンやタンクに一時貯留し、塊根をクレーンユニックや排出コンベアまたは油圧ダンプなどで排出するタイプである(写真14)。出力12キロワットで、作業速度が毎時0.3〜1.5キロメートルの場合、作業能率は毎時2〜10アール程度のものが多い。

 ・ステージ型は、掘り取った塊根をかご型エレベータで選別台(テーブル)に送り、台上の2〜3人の補助者が選別して、ミニコンテナ詰めや袋詰めにするタイプである(写真15)。出力40キロワットで、作業速度が毎時1.5キロメートルの場合、作業能率は毎時8.5アール程度のものが多い。

 ・アンローダ型は、掘り取りながら塊根をそのまま伴走車に直接積み込んで行くタイプである。

 なお、県内のハーベスタの普及状況は、表10に示す通りであり、導入台数は約1100台、普及率が60%台である。

 

 

 

4.今後の機械化の課題

 かんしょ生産の課題は、労力がかかり生産コストが高い上に、特にでん粉原料用では収益性が低いことである。慣行体系のでん粉原料用かんしょ栽培では、生産費の約6割が労働費で占める(10アール当たり生産費、約13.4万円に対して労働費が約8.1万円、農林水産省統計部、平成28年度)。労働時間は慣行体系の平均で10アール当たり約50時間を要している。さらに0.5ヘクタール以下の小規模農家になると10アール当たり約70時間というデータもある(九州農政局鹿児島地域センター)。また、機械化体系による栽培でも10アール当たり約26時間を要しており、これはてん菜の約14時間の約2倍、麦類の約3時間の約9倍(27年度)であり、かんしょ栽培がいかに多くの労働時間を要しているか分かる。今後の課題として、作業の機械化・効率化による生産コストの低減はもちろん単収向上、資材費の削減、品質向上、販売代金、交付金の増額の問題等々、課題は多い。 

(1)育苗・採苗(苗調製)システムの開発
 栽培体系の中では、特に育苗・採苗から定植作業までの省力化が不可欠であり、慣行体系の育苗作業から定植作業までに、10アール当たり27時間(全労働時間の約5割)、機械化体系で約20.4時間(全労働時間の約8割)と多くの労働時間を必要としている(表6)。今後、挿苗栽培における機械化一貫体系を確立するためには、まずこれらの作業の省力化が急務である。従来の人力植え付けを前提にした慣行苗は倒伏した曲がり苗が多く、半自動挿苗機による植え付けにあまり適していない。挿苗機の植え付け精度は、苗の性状に大きく影響されるため、挿苗機への適応性の良い苗を得ることが必要条件である。そのために、苗床造成や種いもの伏せ込み法などの改良が行われ、曲り度の小さい、折れにくい、苗揃いの良い苗の生産(写真16)や小苗の育苗法が開発されてきている。今後は、さらに定植作業までを視野に入れた、苗の大量供給可能な育苗・採苗調製システムを早急に確立することが必要であり、これが今後の挿苗機の普及・拡大を大きく左右する。

 ここで現在、鹿児島県南薩地域振興局が苗床造成機を利用して行った大量育苗・採苗技術に関する実証試験結果の一部を紹介しておく(表11)。苗床造成から種いも伏せ込み、採苗、植え付け、収穫作業まで行った結果であるが、一斉採苗による上いも収量は慣行対照区に比べて植え痛みの影響が少なく10アール当たり約2.8トン(慣行対照区の約1.4倍)であった。さらに、苗床造成や伏せ込み作業が軽労化され、植え付け可能苗数も多く、苗揃いもやや良好であった。しかし、育苗日数、伏せ込み密度、()病防止、苗床面積の確保、苗床造成機の小型化や個人農家が強く望んでいる育苗し易い品種の開発、育苗・採苗機械の自動化等々の多くの課題解決を必要とする。今後の成果を期待したい。
 



(2)植え付け作業の機械化
 植え付け作業は、育苗・採苗作業と同様に一定の省力化が実現しているが、いまだに多くの生産者が人力に頼っている。一部の生産者の中には、人力植え付け作業にエンジン駆動式作業チェア(写真17)を利用して作業の軽労化を図っているところもあるが、半自動挿苗機の改良と直播を含む全自動植え付け機の開発は喫緊の課題である。


ア.挿苗機
 植え付けには1人作業が可能であるが、良好な植え付け精度や直進性を得るためには、畦ガイドローラや機体の傾斜調整部を随時慎重に調整しながら走行の安定を図ることが重要である。前述したように、半自動挿苗機は慣行苗を供給する半自動式挿苗機構を装備した機械であり、苗の性状が植え付け精度に大きく影響する。特に、茎基部の曲がり度が約60度以上になると苗ホルダ部への供給が困難になり、苗詰まり発生の大きな原因になる。挿苗機の植え付けに適応した苗の生産は前述の苗床造成や苗調製、種いもの伏せ込み法の改良などによってかなり省力化されてきたが、適正苗の大量生産技術の一層の向上と抜け苗・浮き苗・折れ苗の原因になる機械の苗供給部や植え付け部の改良が必要である。確かに、これまで挿苗栽培に適応した育苗から植え付けまでの多労作業の解消に向けた技術開発と挿苗機の導入によって人力の約4〜5倍の植え付け作業能率の向上と軽労化が図られてきたのも事実であるが、今後はさらに高性能化した挿苗機の開発を強く望みたい。また一方、現在進められている苗移植機の実用化に向けた技術開発と大規模経営体に対応できる全自動大型植え付け機の開発研究も必要である。

イ.挿苗栽培から直播栽培へ
 急速な就農人口の減少と高齢化が確実に進む中にあって、将来のかんしょ農業の大規模化は避けて通れない。機械化体系の中で最も遅れている育苗・採苗、植え付け作業の超省力化を目指した機械化の一つの方向として、ばれいしょ植え付け作業のように種いもを直接圃場に植え付ける直播栽培の導入を真剣に考える必要がある。特に、でん粉原料用かんしょの直播栽培技術の開発を先行して進めるべきである。現在の挿苗栽培において、小苗植え付けを含む半自動式挿苗機では、苗の挟持機構や植え付け機構の大幅な改良がなされたとしても植え付け能率、植え付け精度の向上に限界があると考えられる。

 直播栽培のメリットは、種いもの確保は必要であるが、苗生産や苗の植え付け作業が不要になり、種いもの()(しゅ)、畦立培土、マルチ作業の機械化一貫体系の確立が図り易いことである。また、播種機構についても、既にばれいしょ植え付け機で実用化されている機構が応用可能であり、挿苗植えに比べて植え付け機構の簡易化と作業能率の大幅アップが可能になる。

 直播栽培の推進のためには、種いもの大量確保と罹病対策が必須条件であり、ウイルスフリー種いもの効率的な増殖とその供給体制作りおよび厳格な種いも管理や農家向け種いもの安定供給システムの確立が極めて重要である。現在、収穫時に発生する小さな規格外いもを種いもとして利用することや晩植栽培による種いもの栽培法などについて開発研究が進められているが、さらに直播品種の開発や健全種いもの保存、採種栽培面積の確保などについての課題解決が必要である。

 現在、北海道のばれいしょ栽培においても、不安定な種いもの供給が安定生産を阻む一つの大きな要因になっていると言われており、種いもの安定的な生産とその省力化、効率化に向けた取り組みがなされている。かんしょ直播栽培において、種いもの安定的な生産体制を確立するためには、例えば、種いも生産法人などを設立して種いもの大量供給可能な生産システム作りを早急に検討すべきである。将来の大規模化に向けた植え付け作業の省力化を図るためには、直播による機械化が是非必要であることを重ねて強調しておきたい。

(3)機械化に適応した品種開発
 かんしょの効率的な生産体制を確立するには、栽培技術の向上と機械化の推進を車の両輪として取り組むべきである。特に、品種開発においても機械化栽培を視野に入れた開発が必要である。近年、機械化を目指した直播用種いもの品種開発も進められているが、その成果が待たれるところである。
 
 一般に、現在のかんしょ品種の直播植え付けでは、主に植え付けた種いものみが肥大し、子いも(蔓根いも)の収量が落ちる傾向にある。そこで、直播栽培でも種いもの肥大が少なく、子いもの着生が多い品種の開発が望まれる。現在、焼酎原料用かんしょでは有色品種の「ムラサキマサリ」や「スズコガネ」などが比較的に直播栽培に適した品種として開発されている。今後、でん粉原料用としても、子いもの収量が慣行栽培並みに得られ、より多くのでん粉含有量と加工適性を持ち、機械化栽培に適した直播多収品種の開発が強く望まれる。これら新しい系統の品種の出現が、新たな加工食品の用途拡大と生産者の栽培意欲を高め、ひいてはかんしょ生産量の増加につながることになる。

(4)防除作業
 環境保全の観点から畦畔除草作業が可能な期間は、除草剤散布などの化学的除草に頼らず、できるだけ物理的除草(チゼルなどの除草刃を装備した機械式除草機)の使用が望ましい。また、一部の除草剤畦畔散布機の中には、畦畔に沿った走行性能の悪い機種が見られる。畦畔形状への適応性の高い機構への改良が是非必要である。その他、薬剤散布作業には、主に背負い式噴霧器や動力噴霧機、薬剤散布仕様の乗用管理機などが利用されているが、特に作業時の薬剤曝露に注意が必要である。

 最近、かんしょに、つる枯れやいもが土中で腐敗する被害が発生している。特に、でん粉原料用や焼酎原料用かんしょの被害が大きい。原因菌として以前より発生が認められていたサツマイモつる割病菌に加え、サツマイモ(もと)(ぐされ)病(仮称)とサツマイモ(かん)()病が確認された。基腐病と乾腐病はいずれも土壌伝染性の糸状菌(カビ)の一種で県内初である。病害の原因は高温や台風、長雨、排水不良などで、いもが弱り被害が拡大したとみられる。鹿児島県病害虫防除所は防除対策として、発病した株は抜き取り圃場外で処分する、イネ科牧草などとの輪作を行う、発病した圃場から種いもを取らず健全ないもを使用して苗の消毒を確実に行う、圃場の排水対策、土壌消毒を十分に行うことを勧めている。
 
 また、植え付け期の干ばつと生育後期の大雨によって病害虫の多発や生育障害が発生し大きな減収を招いている。特に、病害虫防除と土壌消毒を徹底する必要がある。

(5)掘り取り作業
 掘り取り作業はハーベスタなどの導入によって一定の省力化が進んでいるが、ハーベスタなどを含む農機具費の問題に触れておく。かんしょ生産費の中でハーベスタなどをはじめとする農機具費を含む資材費の占める割合が高い。農林水産省統計部資料(表12、平成28年度)によると、でん粉原料用かんしょの10アール当たりの全生産費約13.41万円の中で労働費の約8.09万円(60.3%)に続いて、農機具費が約1.23万円(9.2%)で2位を占めている。以下、肥料費約1.18万円(8.8%)、薬剤費約0.68万円(5.1%)と続き、その他、諸材料費4.2%、自動車費3.5%である。このように、農機具費と合わせて肥料費、薬剤費などの資材にかかる費用(23.1%)が農家にとって重い負担になっている。また、特に農機具費の中でハーベスタの修理費が高く、導入後約3〜4年経過してから平均年間約20〜30万円を出費している農家が多い。特に、ゴムクローラやキャタピラーのローラの摩耗、掘り取り爪の摩耗、折損による修理(部品交換を含む)に要する費用が高く、修理費の負担軽減に対する農家の要望が強いが、一方で日常の保守管理の徹底による機械の長寿命化を図ることも重要である。今後は、特に土壌条件の悪い圃場におけるハーベスタ機体の足回りの強化が必要である。

 農機具費削減のためには、保守管理の徹底に加えて、農家間の共同利用によって機械の稼働率を高めること、機械導入の際に経営規模に見合った機種選定を行うこと、機械価格の低減などが必要である。かんしょ用機械に限ったことではないが、一般に機械導入の際に、やや大型化した機種選定の傾向が見られる。各種農機具の導入に当たっては、かつての「機械化貧乏」にならないためにも、後述する利用規模の下限面積を算出した適正な導入計画が重要である。

 また、収穫物の圃場ロスについても注目する必要がある。ハーベスタの掘り上げ部や搬送・選別コンベア部からのいもの落下がコガネセンガンで全収量の約1〜2%ある。この落下いもは拾い集め可能であるが、さらに掘り残しいもが同じく約2%程度存在する。これは決して少ない量ではない。これらの圃場ロスの低減については、今後の重要な改良課題として指摘しておきたい。
 
 次に、機械導入の際に効率的利用を図るための必要な条件として、利用規模の下限面積を算出する方法がある。ここで一例として、かんしょミニハーベスタ(小型自走式、フレコン使用)の下限面積の試算を示しておく(表13)。今回提示した前提数式による算出結果、下限面積として約20.5ヘクタールが求められた。この数値は本ハーベスタを経済的に利用するためには、年間延べ約20.5へクタール以上の面積確保が必要であることを示しており、機械利用規模の経済性を見る上で極めて重要な指標になる。今後、機械化に当たっては、利用規模に見合った適正な機械導入が必要であることを再認識し、同様にトラクタなどを含む特定高性能農業機械の試算を行うことを勧める。

 

 

5.その他

(1)土作りについて

 土作りのために、かんしょの茎葉(つる)が有効利用されている。かんしょ茎葉の圃場還元は、貴重な有機物の供給源として重要であり、腐植物としての効用が大きい。微生物の餌や土壌物理性の改善のみならず作物の養分として、特にカリウム、窒素成分の供給源にもなっている。10アール当たり2.5トンの茎葉を供給することによって、K2O:約10キログラム、N:約6キログラム、P2O5 :約1.52.5キログラム程度の肥料成分が付加されると言われている。鹿児島県内では、茎葉の土壌への細断すき込みを約8割以上の農家が実施しており、その完熟化のために、次期作付けまでの1カ月間程度を休耕することや石灰窒素10アール当たり40キログラムの施用を勧めている。今後は、さらに生産者の土壌診断による適正な施肥や有機肥料の施用拡大による化学肥料の低減を図っていく必要がある。

(2)GAP認証について

 かんしょのGAP認証については、鹿児島県の農林水産物認証制度(K-GAP)がある。表14に示す通り、平成30年10月末のK-GAP取得件数は65件、農家戸数で617戸である。これは、県内の全取得農林産物64品目の中で約2割を占めている。今後は、特に東京オリンピック・パラリンピックの食材調達に向けて、かんしょの生産工程管理の徹底を図り、品質向上とブランド化を目指した動きが加速化してきている。かんしょでん粉においてもK-GAP取得や第三者認証を検討している事業所が見られる。今後は、K-GAPの他にJGAP、 GLOBAL G.A.Pなどの認証取得を目指す動きも見られる。

 

(3)主な聞き取り結果(生産農家の生の声)

ア.かんしょ農業の将来について
 ・高齢化による離農や従業員の確保ができなくなり、苗取り、植え付け作業を現在人力で行っているので、今後植え付け面積を維持していくのも困難である。
 
 ・重労働の割に収益性が低く、栽培面積が減少している。焼酎原料用と同程度の収益が確保できれば伸びると思う。他作物への移行もある。

イ.担い手農家、後継者について
 ・担い手農家が育っていない地域が多く、ほとんど後継者がいない。

ウ.受委託作業について
 ・現在、労働力の面から受託作業をしようとは思っていない。また、委託も考えていない。

エ.コントラクターについて
 ・コントラクター組織は作る必要があると思う。作業が広域化、効率化され、低コスト化につながると思う。

オ.農地集積、規模拡大について
 ・将来、規模拡大は望んでいない。

カ.機械化体系の確立について
 ・ほぼ確立していると思うが、機械化の障害になっていると考えられるものは、圃場の区画整備が遅れていることや苗取り、植え付け機の開発が進んでいないこと、さらに機械の価格が高いことである。

キ.開発して欲しい機械について
 ・苗取り、植え付け、除草機械の開発を是非望む。
 ・マルチ剥ぎからつる切り、掘り取り作業までを一行程で行える機械が欲しい。

ク.土づくりについて
 ・緑肥すき込みは行ってないが、心土破砕、プラウ耕、茎葉すき込みは行っている。
 ・生育状態を見て堆肥を10アール当たり約2トン程度を投入している。

ケ.有機農業について
 
・除草や病害虫防除のコントロールが難しく手間が掛かるため、今のところ考えていない。

コ.獣被害について
 
・イノシシやアナグマの被害が時々ある。

サ.スマート農業について
 
・無人ヘリ防除などの導入を望むが、収益性が伴うかどうか疑わしい。区画が狭い。

シ.その他
 
・収量の多い品種の開発を是非望む。
 ・でん粉向け交付金を上げて欲しい。単価を上げて欲しい。
 ・コガネセンガンを40キログラムで取って欲しい(出荷時、コガネセンガンはシロユタカやダイチノユメに比べて10キログラム多く歩引きされているので、手取りが少なく6〜7割になる)。
 ・生分解性マルチの価格を下げて欲しい。
 ・でん粉工場の労働力確保が年々難しくなってきている。
 ・中核的な家族経営農家への支援を望む。

 

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