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かんしょでん粉から製造される機能性水あめ製品の特性と用途について

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最終更新日:2019年5月14日

かんしょでん粉から製造される機能性水あめ製品の特性と用途について

2019年5月

株式会社サナス 開発研究部 新素材開発研究課 宮ア 直人

はじめに

 鹿児島県鹿児島市に本社を置く当社は、昭和11年に日本澱粉工業株式会社として創業し、かんしょを原料としてでん粉の製造・販売を開始した。その後、トウモロコシの利用も始め、日本で唯一かんしょでん粉工場とコーンスターチ工場を持つ糖化メーカーとなり、平成28年には創業80周年を迎え、その翌年に社名を「日本澱粉工業株式会社」から「株式会社サナス」に変更した。現在は、でん粉やぶどう糖、異性化糖などの糖化事業製品を主力に、春雨やくずきり、漬物などの食品事業製品も製造・販売している。

 平成19年には、かんしょでん粉を原料とする1,5-アンヒドロ-D-フルクトース(以下「1,5-AF」という)を含有する水あめ状の製品「アンヒドロース®」(以下「アンヒドロース」という)の販売を開始した。

 1,5-AFは、抗酸化やメイラード反応性、静菌の他、健康維持などの多彩な機能を有している。1,5-AFを含有する「アンヒドロース」は、これまでに抗酸化能や健康維持機能を生かした用途で利用されてきたが、最近では1,5-AFの静菌作用について新たな知見が得られ、徐々にではあるが静菌作用の用途も広がっている。また、醸造酢と併用することで相乗的に微生物の増殖が抑制されることを見いだし、アンヒドロースと醸造酢の混合品を商品化した。

1.1,5-アンヒドロ-D-フルクトースの静菌効果

 当社と鹿児島大学農学部との共同研究により、1,5-AFにBacillus subtilis(注)(バチルス・サブティリス、以下「B. subtilis」という)などの芽胞の発芽やその後の増殖を効果的に抑制する機能を見いだした。芽胞は加熱などの過酷な条件下でも完全には死滅せず、生育に適した条件になると発芽、増殖する。従って、加熱調理する加工食品であったとしても芽胞は食品の保存性を低下させるため、食品メーカーにとって加工食品の品質を保つために芽胞への対策は重要である。この効果の応用展開の結果、あめや蒸しパンでのアンヒドロースの使用実績が生まれた。

(注)細菌の一種で、和名を枯草菌(こそうきん)という。でん粉の分解酵素アミラーゼやタンパク質分解酵素プロテアーゼを多く分泌(ぶんぴつ)するため、納豆や麹など伝統的な発酵食品や、酵素や化合物の製造に利用される。

2.醸造酢との併用効果

 静菌用途で1,5-AFの利用を拡大するために、アンヒドロースに静菌効果を有する食品素材を混合して、静菌効果を高めることを考えた。静菌効果を示す食品素材としては醸造酢、酒精、緑茶、ニンニクなどがあるが、まずは代表的な醸造酢を第一候補とした。

 アンヒドロースと醸造酢を添加した液体培地に、B. subtilisを植菌し、振盪(しんとう)培養した時の濁度の変化を分光光度計で調べた。その結果、アンヒドロースや醸造酢の添加により菌の増殖は抑制され、さらに、アンヒドロースと醸造酢を併用した場合は、単独で使用するよりも強い増殖抑制効果が認められた(図1)。以上の結果から、アンヒドロースと醸造酢を併用することにより芽胞菌による腐敗を強く抑制することが期待できることから、アンヒドロースと醸造酢を混合したものを商品化した。醸造酢は、酢酸含量が高く、酢酸以外の成分が少ない高酸度酢を選定し、商品名は芽胞菌の増殖抑制とビネガー(Vinegar)のVを合わせて「ハツガードV™」(以下「ハツガードV」という)と名付けた(写真1)。

 

 

3.食品への用途例

(1)さつま揚げ

 さつま揚げは、鹿児島県の特産品であり、製品の多くは袋詰めされ冷蔵で流通される。さつま揚げの保存性を高めるにあたっては、ソルビン酸カリウムなどの保存料が使われる場合もある。そこで、さつま揚げにアンヒドロースまたはハツガードVを添加して日持ちが向上するかを調べた。

 調査方法は、さつま揚げの原材料に対して、アンヒドロースまたはハツガードVを1%添加してよく混合し、成型して油で揚げた後、10度で保管した時の生菌数の経時変化を調べた。その結果、無添加群と比較して、アンヒドロース単独とハツガードVの添加群は生菌数が少なく、これらに高い増殖抑制効果が認められた(図2)。また官能検査の結果、無添加群と添加群は同等の風味、食感(弾力)であり、アンヒドロースとハツガードVを1%添加しても香り、味、食感に影響していないことが分かった。

 

(2)炊き込みご飯

 コンビニエンスストアで販売される米飯商品には多くの食品添加物が使用されているが、天然由来の食品を望む消費者も多い。そこで、米飯の商品である炊き込みご飯にハツガードVを添加した時の菌数の変化を調べた。生米に対してアンヒドロース2%またはハツガードVを1%添加し、合わせ調味料を入れて炊飯した後、35度で保管した時の生菌数を測定した。その結果、無添加群と比較して、アンヒドロース2%添加群とハツガードV1%添加群は生菌数が少なく、これらに高い増殖抑制効果が認められた(図3)。 
 

 

4.今後の展望

 アンヒドロースの静菌用途での利用は、最近になって少しずつではあるが採用実績が増えている。食品の製造過程または食品の加工や保存においては、食品添加物の利用が広く普及しているが、一方で、でん粉由来の製品で加工食品の日持ちが向上すれば、より自然な食品を望む消費者に対して安心が提供できると考える。これらの消費者ニーズに応えるため、今後、アンヒドロースやハツガードVの普及に努めていきたい。

おわりに

謝辞
 最後に、本研究は国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構/生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化推進事業」の支援を受けて行った。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272