ホーム > でん粉 > 調査報告 > 鹿児島県におけるかんしょ栽培の機械化の現状と課題について(後編)
最終更新日:2019年5月14日
【要約】
これまで、かんしょ栽培の機械化は、主に収穫作業を中心にほぼ順調に進められてきたが、より効率的な機械化一貫作業体系を確立するためには、各種作業の中でも、特に育苗・採苗作業および植え付け作業の省力化を図ることが急務である。今回、県内の主な生産地の現地調査を行い、栽培現場およびでん粉工場の現状と課題について明らかにした。前月号(2019年4月号)では、かんしょ栽培における各種作業の機械化の現状と課題について報告したが、後編となる本稿では、でん粉工場の現状と課題、スマート農業技術のかんしょ農業への活用などについて整理しながら、今後のかんしょでん粉業界の体質強化に向けた展望について考察を行う。
現在、県内のかんしょでん粉工場は、主に南薩、大隅、種子島地域に計15工場(農協系が3工場、民間系が12工場)が稼働している。操業率、工場数およびでん粉生産量の推移は、図5に示す通りである。過去5年間の操業率は平均55%で推移しており、平成29年産は約48%(前年比13ポイント減)で低下傾向にある。同じく、でん粉生産量も減少傾向にあり、29年産は約2万9400トン(前年比24%減)である。また、過去5年間のでん粉歩留まりは29.5%〜30.7%で推移している。以下に現在のでん粉工場の現状と課題を示す。
(2)原料の搬入体制(各農家への割り当て調整など)については、JAなどを含む各部署が調整しているが、特に雨天が続く時などで予定搬入が確保できない時は、操業スピードの調整あるいは操業休止で対応している。また、雨天明けの搬入については、各部署が再調整して各農家に伝達しているが、原料搬入が過剰な場合は工場内にストックしている。このような対応で、工場側の負担が増えるとしても、特にハーベスタの稼働率の低下や運搬ロスへの影響が出ないように配慮されている(写真18)。原料の掘り置きによる品質劣化は、置き場所や日照条件の違いによって差があるが、3日程度までは多少の水分減少があるものの影響も少ないが、それ以上になるとでん粉の糖化やポリフェノール群などが増えて成分変化が進む。
(3)生産コストの削減については、まず原料集荷量の増大による操業率アップが必要であるが、並行して機械のメンテナンスの徹底や従業員教育を含め、効率性の高い操業によるコスト削減も必要である。
(5)工場廃棄物の処理については、ほとんどのでん粉かすはTMRセンター(注)などを通して、家畜飼料に有効利用している工場が多い。今回調査した中で、JA南薩拠点霜出工場のように、全でん粉かすをクエン酸原料や家畜の飼料に有効利用している工場もある。さらに、廃液処理対策については、嫌気処理後、曝気処理などを行い、排水基準に沿った管理が行われている。また、防臭対策は、地域住民の理解を得ながら、防臭シートの敷設や消臭剤の散布などで対処している。公害防止対策については、今後も引き続き注意を払っていく必要がある。
(6)機械施設の老朽化については、操業休止時に徹底したメンテナンスを行い、機械施設の長寿命化に努めることが大切である。
(7)でん粉の利用拡大策については、民間をはじめ全農、経済連、JAなどが中心に営業活動を進めているが、さらにメーカーや食品会社などへの積極的なPR活動が必要である。
(8)今後、かんしょでん粉産業を維持拡大していくためには、前述したように、まず不足している原料用かんしょの確保が必須である。今回の調査地の中には、操業率70〜80%の工場もあったが、前述の通り県全体で見ると操業率約48%、でん粉生産量約2万9000トン(29年産)と低迷している。少なくとも工場の操業計画に見合った原料確保が必要であり、でん粉原料用かんしょの増産体制を再構築して操業率、でん粉生産量の低下をまず食い止めることが先決である。また、工場の労働力不足も深刻であり、人員確保が年々困難になってきている。これが賃金上昇による生産コストアップにもつながっており、雇用問題の解決は急を要する。
今や、かんしょでん粉産業は存亡の危機にあると言っても過言ではない。今後、でん粉原料用かんしょ単価の引き上げ(焼酎原料用に比べてキログラム当たり平均20円安い)については重要な施策の一つになるが、難しい問題とはいえ、是非引き続き単価引き上げに努力する必要がある。でん粉原料用かんしょの収益性の低さが、病気発生後の土づくり資材や土壌消毒資材などを投入できない農家の多さにつながっていることも事実である。今後、でん粉原料用かんしょの多収品種の開発による単収アップ、省力化・機械化による生産コストの低減、病害虫対策、でん粉の高品質化・需要拡大、でん粉向け交付金の引き上げ、でん粉工場の操業率アップやでん粉製造コストの低減等々、解決すべき課題が山積している。
かんしょでん粉の生産は、南九州畑作地帯の防災営農上の観点からも必要不可欠であり、でん粉原料用かんしょの増産とそれに見合った機械の開発を車の両輪として推進することを強く望みたい。
(注)TMR (Total Mixed Ration)とはさまざまな飼料成分をバランス良く配合した飼料であり、TMRセンターではTMRの生産、調製から配送までを行う。
●収穫〔ハーベスタによる収量管理〕
・収量センサによる生産情報の見える化(収量マップ作成)による各圃場に応じた適切な栽培管理が可能。
●経営管理〔生産プロセス・生産コストデータなどの管理システム作成〕
・上記システムの活用により経営管理サポートが可能。
次に、10年先位の将来において、スマート農業技術が活用できるあるいは活用した方が良いと考えられる技術を挙げると、
○耕うん・整地〔ロボットトラクタ(注)による無人作業・夜間作業〕
・自動操舵トラクタとロボットトラクタが同時作業する協調・随伴作業(厳格な安全対策が必要)による超省力化が可能(写真20)。
○植え付け・栽培管理〔ロボット農機:全自動運転苗移植機や全自動運転種いも直播機、全自動管理機(防除機など)〕
・上記ロボット農機の出現による植え付け、栽培管理作業の超省力化が可能。
○水管理〔遠隔操作や自動制御による給排水制御装置〕
・気象情報に合わせ、畑地センサ技術を利用した適切な水管理のシステム化
・かん水作業の超省力化が可能。
○雑草防除〔遠隔操作や自動制御による高性能草刈り機〕
・上記技術を利用した除草作業の超省力化が可能。
○収穫・運搬〔自動運転アシスト機能付きかんしょハーベスタ+自動収穫物運搬システム〕
・上記システムの確立による収穫・運搬作業の超省力化および効率化が可能。
(注)現時点のロボットトラクタは主に水田農業の耕うんや代かき作業を想定して開発されたものであり、年内にも発売予定であるが、かんしょ農業にも近い将来利用可能になる。
以上、かんしょ農業に導入可能と考えられるスマート農業技術を挙げたが、これらの技術を活用可能にするためには、その大前提として基盤整備、特に圃場整備の推進が必要不可欠である。
本県畑地の圃場整備率(30年3月現在)は、南薩管内66.3%、大隅管内64.5%、曽於管内70.5%、県全体で63.0%であり、スマート農業化を進めるためには、さらに整備率を高める必要がある。また、29年のかんしょ農家の1戸当たり平均経営面積は1.03ヘクタール(表1、2)であり、これを現在スマート農業が進行しつつある北海道のばれいしょ、てん菜、小麦作などの畑作農家(十勝地方)の1戸当たり平均経営面積の35〜45ヘクタールに比較すると非常に小さい面積である。本県のかんしょ栽培地域へのスマート農業の導入は、飛躍的な規模拡大が必要であることが分かる。しかしながら、現状を許容してスマート農業化を進めるには、隣接する圃場を一つの大区画圃場とみなして、ICTなどを活用した機械作業を行うことによって農地の効率的利用を目指す、いわゆるトランスボーダーファーミング(境界超え農法)の考え方を導入することや、また同じ目的を持つ農家同士が機械の共同利用を行うことによりスマート農業化への歩みを早めることが必要となってくる。将来、農地集積などによる大規模化や大区画化に向けた圃場整備の進展を図ると共に現状を生かしたスマート農業のあり方を探ることも重要である。
ここで、現在、各種性能試験が行われているドローンによる農薬散布作業について考えてみる。既に農地集積や受託面積の拡大が進んでいる地域や農家間での機械の共同利用ができる地域ではドローンの導入が可能である。まず、これらの地域の農薬散布を先行して進めながら、将来のスマート農業化へつなげて行くことが必要である。その場合、現在のドローンによる農薬散布作業の利用規模の下限面積は年間延べ約50〜60ヘクタールとされており、山地に近い地域や点在する茶園に隣接する地域では、農地集団化に向けた一層の努力が求められることになる。地域によっては水稲作などとの組み合わせも考える必要がある。さらに、ドローン防除の拡大を図るためには、防除作業の受託組織を作ることも必要であり、農家オペレータの養成、ドローン本体の性能・安全性の向上、労災保険や修理体制の確立、散布農薬の登録問題等々を早急に解決して安全・適切な防除に努めることが必要である。
ここで最後に、将来かんしょ栽培地域の抱える課題解決のためにスマート農業技術をどのような形で導入していくべきか簡単にまとめておく。
まず、ドローンなどの無人航空機(UAV)を利用した薬剤散布作業を先行して進めながら、各種センシング技術を利用した作物生育情報や土壌診断情報をもとに自動で施肥量をコントロールする可変施肥機などの肥培管理機の導入を図る。これによって栽培管理作業の高精度化・超省力化を進めるべきである。また、耕うん、心土破砕、整地、畦立て作業には、自動操舵トラクタやロボットトラクタの導入を図る。直播作業や茎葉処理、掘り取りを含む収穫作業には、ロボット直播農機、ロボット収穫農機の導入を図る。これらはいずれも安全性の確保を大前提に一歩ずつ進めて行く必要がある。また一方、気象情報や土壌データなどを集積したデータベースを作り、これらを活用することによって栽培技術や品質の向上、作業の効率化につなげることが重要である。
また、これらの実現のためには、スマート農業モデル実証圃場などを整備して、各作業工程のデータ収集・分析を行い、耕うんから栽培管理、収穫に至る最適なスマート農業技術体系を確立する検討が必要である。県内外の機械メーカー、研究機関、生産者、農協、行政機関が総結集した、例えばスマート農業コンソーシアムを組織して、技術体系の確立に向けて取り組むことを是非望みたい。スマート農業技術の活用が、将来のかんしょ農業の超省力化を進め、生産量の増大、労働力不足の解消、新規就農者の確保や栽培技術力の継承へとつながることを期待したい。
鹿児島県のかんしょ栽培では、特に育苗・採苗作業と植え付け作業の機械化が遅れている。これらの作業の機械化無くしてかんしょ農業の機械化一貫作業体系の確立はない。
育苗、採苗については、現在、県農業開発総合センターを中心に一斉育苗・採苗システムの開発が進められており、その成果が期待されるところである。
植え付け作業では半自動式挿苗機の改良と小苗移植機の開発が進んでいる。さらに、育苗・採苗や苗植え付け作業の省略可能な種いもの直播栽培法が品種開発を含めて研究が進められている。直播栽培法が確立すれば植え付け機構の開発も容易であり、大幅な省力化につながる。将来の大規模機械化体系を考えた場合、従来の挿苗植え付け方式では植え付け性能に限界があると考えられ、直播栽培技術の確立を強く望むものである。また、品種開発については機械化適応性のある品種の開発が必要であり、特にでん粉原料用ではでん粉含有量と加工適性に優れた多収品種の開発が望まれる。
掘り取り作業ではハーベスタの導入によって一定の省力化が進んでいるが、全生産費の中で機械費の占める割合が高く、労働費に次いで第2位(9.2%)を占めている。また、ハーベスタの部品交換・修理費に平均年間20〜30万円支出している農家も多く、負担軽減への要望が強い。また、小型自走式ハーベスタの利用規模の下限面積を試算すると、年間延べ約20.5ヘクタールの稼働面積が必要であり、農地集積、受託面積拡大、稼働期間を拡幅した機械の共同利用が是非必要である。
でん粉工場については原料搬入量の不足が最大の課題である。操業率も過去5年平均55%で低迷している。主な原因はでん粉原料用かんしょの収益性の低さにある。このことが焼酎原料用などのかんしょ生産に移行し、生産量の低下につながっている。さらに、でん粉原料用かんしょ農家の担い手不足や工場の労働力不足も深刻である。
今後、単収向上と作付面積の拡大、多収・耐病性品種の開発、省力化・機械化による生産コストの低減、労働力確保、でん粉の品質向上・利用拡大、でん粉向け交付金の引き上げ等々の山積する課題を複合的に解決し、でん粉原料用かんしょ農家・でん粉工場の収益性を高めることが必要であり、これがでん粉産業の体質強化につながる。
かんしょ農業のスマート化については、圃場整備の推進が大前提であるが、将来の栽培現場の労働力不足、高齢化に対処するためには超省力化、高品質生産が可能になるスマート化は避けて通れないと思う。まず、ドローンなどによる農薬散布作業を農地集積、受託面積拡大が進んでいる地域や農家間の機械の共同利用ができる地域で進める必要がある。しかし、ドローン導入に当たっては、機体の性能・安全性の向上、保険や修理体制の確立、散布農薬の登録問題などを早急に解決すべきである。次に、各種センシング技術を利用した作物、土壌、病害虫モニタリングによる可変施肥、薬剤散布作業の実施、さらには自動操舵トラクタ、ロボットトラクタやロボット直播、収穫農機などの導入による超省力化が考えられる。これらのスマート農業化を進めるためには、モデル実証圃場などを整備して、耕うんから栽培管理、収穫に至るまでの最適なスマート農業技術体系を確立することが必要であり、そのためには官民一体となった取り組みが不可欠である。
以上、これまで主に大規模営農化に向けた作業の省力化や機械化体系について述べてきたが、最後に小規模営農の育成について触れておく。本県のかんしょ農家の7割余りが1ヘクタール未満の農家である。その中で組織化されてない小規模家族経営農家の存在も忘れてはならない。これらの農家の大半が営農意欲を失い、離農を余儀なくされているのも現実にある。もちろん大規模化へ向けた支援策も必要であるが、一方で小規模経営農家への支援にも力を入れるべきである。これらの農家が、かんしょ農業の基盤を支えていると言っても過言ではない。
平成30年10月、一般社団法人日本農学会主催で「100年後の農業・農村を考える」をテーマにしたシンポジウムが開催された。その中で、100年後の農作業分野においても、ICT、GNSS、AI技術を利用したロボット農機やドローンなどによるセンシング技術を利用した農業生産を実現する大規模営農組織と、一方で小規模自給的農業の2農業形態の存在を将来像としており、かんしょ農業においても例外ではないと考える。将来、スマート農業化が進行する中でロボット農機を利用した大規模営農組織と小型高性能農機を利用した小規模家族経営農家の二極化が進み、かんしょ農業の発展があると考えられる。小規模経営農家へのさらなる営農支援を強く望みたい。
かんしょは江戸時代の天保飢饉を救い、戦中・戦後の日本人の食糧難を救ってきた。今後も畑作農業を支えてきたかんしょが、関係者一体となった努力によって増産と需要拡大が図られ、ひいては地域農業を含むかんしょ産業の隆盛につながることを切に願っている。
今回の現地調査にあたり、ご多忙の中、ご協力いただいた鹿児島大学農学部 柏木純孝技術専門員をはじめ、鹿児島県南薩地域振興局 白澤繁清係長、松崎正義技術専門員、橋本萌氏、大隅地域振興局 濱崎翔悟農業技師、南さつま農業協同組合、JA南薩拠点霜出澱粉工場、鹿児島きもつき農業協同組合、新西南澱粉工場および聞き取りにご協力いただいたかんしょ生産農家の皆様にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。