植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の実施状況
最終更新日:2019年5月14日
植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の実施状況
2019年5月
農林水産省 消費・安全局 植物防疫課国内防除第1班 課長補佐 中西 靖裕
【要約】
平成27年8月に北海道網走市において、国内で初めてジャガイモシロシストセンチュウ(Globodera pallida〈Gp〉)が確認された。ジャガイモシロシストセンチュウは、生活史の中にシストという段階を持つ植物寄生性線虫であり、ばれいしょなどのナス科植物の根から養分を吸収し、寄主した植物の生育を阻害することで、植物を枯らすこともあるため、ばれいしょなどの生産に大きな被害を与える。このため、農林水産省では28年10月から植物防疫法に基づく防除対策(緊急防除)を開始し、ジャガイモシロシストセンチュウのまん延防止や土壌消毒などの防除対策を講じている。
1.これまでの経緯など
平成27年8月に北海道網走市において、国内で初めてジャガイモシロシストセンチュウの発生が確認された。これを受けて、農林水産省は北海道や地元関係者の協力の下、ジャガイモシロシストセンチュウ(図1)の発生している範囲を特定するための調査を29年度まで実施し、網走市の11大字および大空町の1大字、計12大字に位置する163圃場682ヘクタールでジャガイモシロシストセンチュウの発生を確認した。現在、これら12大字を防除区域に指定して植物防疫法に基づく防除対策(緊急防除)を実施し、ジャガイモシロシストセンチュウのまん延防止を図っているところである。なお、本線虫が付着したばれいしょを食べても、人体への影響はない。
2.植物防疫法に基づく防除対策について
ジャガイモシロシストセンチュウは、寄主となるばれいしょなどのナス科植物の栽培により、増殖し、農業機械や収穫物の出荷に伴う土壌の移動により発生範囲が拡大するとされている。このため、ジャガイモシロシストセンチュウのまん延を防止するため、平成28年10月から本線虫の発生が確認された12大字を防除区域として植物防疫法に基づく防除対策(緊急防除)を開始した。
本防除対策では、▽発生圃場におけるばれいしょなどのナス科植物の作付けの禁止▽発生圃場における対抗植物および土壌くん蒸剤などを用いた防除(図2)▽防除区域内で生産されたナス科植物の地下部(ばれいしょ)や、その他植物の地下部であって土の付着したもの(てん菜など)の移動の制限(移動させる場合は、植物防疫官が土壌のまん延防止措置が講じられていることを確認)−を実施しているところである。
3.対応状況など
(1)防除の状況
発生圃場では、土壌くん蒸剤であるD−D剤および対抗植物の植栽を組み合わせた防除を実施してきたところであり、平成30年度にはD−D剤による土壌くん蒸を68圃場284ヘクタール、対抗植物の栽培を79圃場265ヘクタールで実施した。また、植物防疫所が発生圃場における土壌検診を実施し、ジャガイモシロシストセンチュウの発生が確認された163圃場のうち85圃場(52%)において、ジャガイモシロシストセンチュウの密度が検出限界以下となっていることを確認した。
(2)新たな防除手法の検討
試験研究の結果、対抗植物の植栽に殺線虫粒剤の散布を組み合わせることで、対抗植物の植栽による防除効果が高まるとの知見が得られた。この知見と北海道からの要望などを踏まえ、平成30年12月に開催した第7回ジャガイモシロシストセンチュウ対策検討会議において専門家を含めて検討を行った結果、対抗植物の植栽と殺線虫粒剤の組み合わせによる防除を新たな防除手法として採用することが妥当とされた。
4.今後の予定
平成31年度は、30年度に実施した土壌検診の結果、ジャガイモシロシストセンチュウが検出限界以下となっていない78圃場において、輪作体系を考慮した防除対策を継続する。また、検出限界以下となった圃場においてばれいしょなどの寄主植物の作付けを行う場合は、輪作体系の中で寄主植物の作付けを計3回実施し、ジャガイモシロシストセンチュウが再度検出されないことを確認する予定である。
また、31年度には防除区域内に位置する圃場において土壌検診を実施する予定であり、未発生圃場については検出限界以下が再度確認された場合には、防除区域内の発生圃場の状況も踏まえつつ、移動制限の解除(防除区域からの除外)を検討する予定である。
おわりに
植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の円滑な実施には、関係各位の協力が不可欠である。今後、ジャガイモシロシストセンチュウを適切に防除し、日本のばれいしょの安定生産が図られるよう、植物防疫法に基づく防除対策(緊急防除)の実施にご理解とご協力をいただくようお願いしたい。
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