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4. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2019年9月時点予測)

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最終更新日:2019年10月10日

4. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2019年9月時点予測)

2019年10月

本稿中のレートは2019年8月末日TTS相場の値であり、1インド・ルピー=1.65円である。
 
2019/20年度、輸出量はかなりの程度減少する見込み
 2019/20砂糖年度(4月〜翌3月)のサトウキビ収穫面積は、砂糖の国際価格の低迷により他作物へ転作する動きが見られるため、847万ヘクタール(前年度比2.0%減)とわずかに減少するが、生育状況がおおむね良好であることから、サトウキビ生産量は6億2900万トン(同1.3%増)とわずかに増加すると見込まれている(表2)。砂糖の国際価格の低迷が長期化していることから、サトウキビのエタノール生産への仕向け割合が増加するとの見通しの下、砂糖生産量は3015万トン(同3.7%減)とやや減少し、輸出量は1951万トン(同7.0%減)とかなりの程度減少すると予測されている。

米国産エタノールの輸入について、無税枠を1年間に限り拡大
 ブラジル政府は、米国産エタノールの輸入について、8月31日で期限切れとなる無税の関税割当枠600万リットルを、2019年9月1日から2020年8月31日までの1年間に限り、750万リットルに拡大して運用することを発表した。なお、割当枠外で輸入する場合は南米南部共同市場(メルコスール)域外関税である20%が課せられる。

 中南部地域を統括するブラジルサトウキビ産業協会(UNICA)(注)は「今回ブラジルが譲歩して米国との貿易自由化へ積極的な姿勢を見せたことで、今後米国もブラジル産砂糖の割当枠拡大に動く可能性がある」と政府の発表を高く評価した。一方、北東部の製糖協会は、無税枠で輸入されたエタノールが北東部のみで販売されると地元のバイオエタノール産業が壊滅的な被害を受けるため、米国産エタノールの販売先を分散させるとともに、北東部でバイオエタノールが生産される10月から翌2月には販売させないなどの配慮を政府へ要求するとしている。

(注) ブラジル全体の砂糖生産量の9割を占める中南部地域を管轄区域とする業界団体。
 
 
 
2019/20年度、輸出量は大幅に減少する見込み
 西部地域で発生した洪水や東部地域の干ばつの影響を受けてサトウキビの生育が停滞していることから、2019/20砂糖年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は461万ヘクタール(前年度比8.7%減)、サトウキビ生産量は3億6926万トン(同7.5%減)と、ともにかなりの程度減少すると見込まれている(表3)。

 サトウキビの減産に加えて、9月にサトウキビ由来バイオエタノールの買い取り価格が引き上げられたことでエタノール生産への仕向け割合が増加すると予想されるため、砂糖生産量は3019万トン(同15.2%減)とかなり大きく減少すると予測されている。輸出量は、インド政府が製糖業者に対し輸送費などへの助成措置を行うと発表した(後述)ものの、砂糖の国際価格が低迷していることから、422万トン(同17.9%減)と輸出量が急増した前年度と比較して大幅な減少が見込まれている。

2019/20年度も、砂糖の輸出補助金の支出を決定
  内閣経済対策委員会(CCEA)は8月28日、2019/20年度も引き続き砂糖の輸出を促進するため、製糖業者に対し総額626億8000万ルピー(1034億2200万円)の補助金を支出して600万トンを輸出する計画を承認した。砂糖の製造に要する経費のほか、輸送費や輸出業者へ支払う手数料なども補助の対象とする。

 CCEAによると、2019/20年度の砂糖の期末在庫は国内消費量の半数に相当する1620万トンと見込まれている。政府は過剰供給を解消するため、400万トン規模の砂糖の調整保管やサトウキビ由来のバイオエタノール生産の推進を行っているが、それでも600万トンの余剰が生まれると予測されることから、今回の輸出補助政策に踏み切ったとしている。

 しかし、砂糖業界関係者からは、今回承認された補助金の総額は予想より少なく、輸出を促進するには不十分であるとの意見が出ている。また、砂糖の国際相場が1ポンド当たり12セント以下で推移し続ければ、インドは350〜400万トン程度しか砂糖を輸出できず、600万トンを達成するには相場が同13セント以上に回復する必要があると指摘する声もある。

マハラシュトラ州、サトウキビ不足を受けて圧搾開始日を延期か
 マハラシュトラ州政府によると、6〜7月の少雨や8月に発生した洪水の影響を受けてサトウキビの生育が滞り、製糖工場に搬入されるサトウキビが不足すると見込まれている。同州には約200の製糖業者が存在するが、サトウキビの不足により2019/20年度中の操業を取りやめる製糖業者は最大50者、製糖期間を短縮して操業する業者は100者に上るとみられる。インド製糖協会(ISMA)は、少雨や洪水の被害を受けたサトウキビの回復を待つために、前年度は10月20日に開始された圧搾を11月15日まで遅らせるよう州政府に要求したほか、マハラシュトラ州協同組合製糖工場連盟も、圧搾開始日を12月1日に後ろ倒しするよう主張している(注)

 西インド製糖協会の予測によると、マハラシュトラ州の2019/20年度の砂糖生産量は、過去最高となった前年度の1070万トンから最大で48.6%減少し、550万トンと見込まれている。

(注) マハラシュトラ州では、州政府が砂糖業界関係者と協議の上、サトウキビの圧搾開始日を決定する。それより早く操業を開始した製糖業者には罰金が課せられる。
 
 
 
2019/20年度、輸入量は大幅に増加する見込み
 2019/20砂糖年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は122万ヘクタール(前年度比0.4%増)とほぼ横ばいで推移するものの、雲南省では少雨や害虫被害が続いているほか、広西チワン族自治区でも日照不足が起こり、生産量は7369万トン(同6.2%減)とかなりの程度減少するとみられる(表4)。てん菜については、収穫面積は24万ヘクタール(前年度同)と横ばいで推移するが、内モンゴル自治区で害虫被害が出ていることから、生産量は1137万トン(前年度比2.5%減)とわずかな減少が予測されている。従って、砂糖生産量は1075万トン(同7.6%減)とかなりの程度減少するとみられる。輸入量は、国内消費分を賄うため、595万トン(同31.0%増)と大幅に増加すると見込まれている。

7月の砂糖輸入量、前年同月および前月を大幅に上回る
 中国税関総署が8月23日に公表した2019年7月の貿易統計によると、砂糖の輸入量は、前年同月比77.7%増、前月比3.1倍の44万トンと大幅に増加した。2018年10月からの累計では、235万トン(前年同期比12.2%増)とかなり大きく増加している。ただし、上述した輸入量には、ミャンマーや台湾、韓国などの周辺国を経由した密輸分が含まれていないため、実際の輸入量はさらに多いと考えられる。現地報道によると、中国の東部に位置する江蘇省江陰市こうそしょう こういんしの税関は、2019年1月から8月の8カ月間で、密輸された砂糖を約2700トン押収したと発表した。同税関は、引き続き密輸の取り締まりに尽力するとしている。
 
 


 




 
 
2019/20年度、輸出量はかなりの程度減少する見込み
 2019/20砂糖年度(10月〜翌9月)のてん菜の収穫面積は162万ヘクタール(前年度比5.1%減)とやや減少すると見込まれている(表5)。ドイツやフランスといった主産地ではてん菜の生育が芳しくないものの、降雨量や気温が良好に推移している地域もあることや、収穫までの生育期間がまだ残されていることを考慮し、てん菜生産量は1億2189万トン(同6.6%増)とかなりの程度増加すると予測されている。原料の増産が収穫面積の減少を相殺することで、砂糖生産量は1852万トン(同1.4%増)とわずかに増加するとみられる。輸出量は、砂糖の国際価格の低迷を受けて、186万トン(同7.5%減)とかなりの程度減少すると見込まれている。

フランス、EUとメルコスール間のFTAに反対する声明を発表
 南米南部共同市場(メルコスール)とEUは6月28日、自由貿易協定(FTA)について政治合意した。この協定が発効すれば、EUはブラジル産粗糖に対して現行の関税割当数量の範囲内で無税の割当枠を設けることとなる(注)。しかし、フランス大統領府は8月23日、アマゾン川流域の熱帯雨林で発生している火災に関してブラジルのボルソナロ大統領の対応が不十分だとして、メルコスールとEUの政治合意に反対する旨の声明を発表した。

 ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によると、年初から8月下旬にかけてブラジル国内で発生した森林火災の件数は前年同期比84%増と大幅に増加している。今回の事態を招いた背景には、環境保護より経済成長を優先したブラジル政府の政策が影響したと指摘する声もある。フランスは従来、気候変動対策を取らない国とはFTAを結んでおらず、EU内のFTA批准手続きは難航が予想される。

(注) 協定内容の詳細については、『砂糖類・でん粉情報』2019年8月号「3.世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2019年7月時点予測)」のブラジルの項をご参照ください

気候変動により、ヨーロッパ南部のてん菜などの生産量は2050年までに半減か
 欧州環境機関(EEA)は9月4日、ヨーロッパの農業と気候変動に関するレポートを公表し、温暖化を主とする気候変動によってヨーロッパ大陸南部における小麦、トウモロコシ、てん菜などの作物の生産量が2050年までに半減する可能性を示唆した。大陸の北部では作物の生育期間が延びることで生産量が増加し、南部における減少分の一部は相殺されるものの、世界的な食料需要の高まりによって作物の価格は上昇すると見込んでいる。今後は気候変動に適応できる作物の導入やかんがい技術の向上、ドローンや衛星データを用いた精密農業を圃場ほじょうレベルで進めることが重要であるほか、温室効果ガスや大気汚染物質の排出抑制のために、肥料の使用を削減したり、家畜の飼養方法を改善したり、食品のサプライチェーンを見直したりする必要があるとしている。
 
 


 
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