最終更新日:2019年11月11日
古文書や古記録類に用いられた紙(料紙)を構成する材料は、コウゾやミツマタ、ガンピなどの繊維の他、製造過程での添加物(填料)のでん粉や鉱物、古文書などの歴史資料の修理時に付加される炭酸カルシウムなどがあります。近年、文化財科学の分野では、考古学におけるでん粉粒の研究が料紙の自然科学分析に応用できる可能性が指摘されており、料紙に加えられたでん粉粒の分析が試みられています。
東京大学史料編纂所(以下「史料編纂所」という)や国立歴史民俗博物館(以下「歴博」という)との共同研究や科学研究費助成事業による研究(課題番号18K18534、19H00549)では、2017年度から繊維やでん粉など古文書料紙の原材料の分析を進め、成果を蓄積しています。例えば、歴博所蔵「織田信長朱印状」や京都市松尾大社が所蔵する古文書類、山形県米沢市上杉博物館所蔵の「豊臣秀吉朱印状」、史料編纂所所蔵の「中院一品記」などの顕微鏡による撮影画像を解析したところ、添加物のでん粉粒にはイネや他の植物があり、糊の痕跡のでん粉粒(熱で壊れて植物の種類は不明)なども確認できました7)8)(図5)。
1)添田雄二、青野友哉、富塚龍、永谷幸人、小林孝二、三谷智広、菅野修広、松田宏介、片山弘喜、杉山真二、渋谷綾子、甲能直樹、宮地鼓、中村賢太郎、渡邊剛(2019)「小氷期最寒冷期と巨大噴火・津波がアイヌ民族に与えた影響W」『北海道博物館研究紀要』4 pp. 57-72.
2)渋谷綾子(2018)「カムイタプコプ下遺跡の残存デンプン粒分析」『斬新考古』Vol. 6 pp. 6-7.
3)添田雄二、青野友哉、永谷幸人、渋谷綾子、中村賢太郎、菅野修広、松田宏介、三谷智広、宮地鼓、渡邊剛、甲能直樹(2017)「小氷期最寒冷期と巨大噴火・津波がアイヌ民族に与えた影響U」『北海道博物館研究紀要』 Vol. 2 pp. 49-60.
4)青野友哉(2018)「作物痕跡の検出方法と実験考古学的研究」『斬新考古』 Vol. 6 p.5.
5)Shibutani, A., Sun, G., Liu, B., Wang, N., Chen, J., Song, J., Okazaki, K., Itahashi, Y. and Nakamura, S. I. (2018) Reconstructing Plant Food from Starch Grains of Human Dental Calculus in the Neolithic Lower Yangtze Area, China. Anthropological Science 126 (3) p. 173.
6)渋谷綾子、岡崎健治、澤田純明、宮田佳樹、覚張隆史、米田穣(2019)「長江下流域の新石器時代における食性と古病理」『一般社団法人日本考古学協会第85回総会研究発表要旨』pp. 130-131.
7)Shibutani, A.(2019) Developing a methodology of mixture analysis to determine the origins of Japanese historical papers. Integrated Studies of Cultural and Research Resources (National Museum of Japanese History ed.). fulcrum, University of Michigan Library. 〈https://hdl.handle.net/2027/fulcrum.zc77sr415〉(2019/10/4アクセス)
8)渋谷綾子、小島道裕(2018)「顕微鏡を用いた古文書料紙の自然科学分析の試みー古文書を多角的に分析する3ー」『歴史研究と〈総合資料学〉』(国立歴史民俗博物館編)pp. 98-120. 吉川弘文館.