(1)けん引型作業機
沖縄県のサトウキビ栽培では、植え付け準備、植え付け、中耕除草や高培土そして株出し管理で利用される作業機はPTO駆動型作業機が中心であり、けん引型作業機としては圃場準備のためのプラウやプラソイラ程度である。農地一筆が狭く、小規模農家の多い沖縄では、労働集約的な作業が多く、耕運機やトラクタのロータリを多用するというのが従来からのサトウキビ栽培である。県内にはけん引型作業機は少ないが、タイなど海外のサトウキビ生産地には機種やサイズなど豊富にある。農地の集積・集約を進める沖縄県にとって、今後、導入の可能性を検討していくことは重要である。
ア けん引型作業機の利点
室内で58kWの供試トラクタを用いて、エンジン回転数と燃料消費量の関係を定置状態で測定した(図7)。燃料消費量は、回転数の増加に伴って増加する。58kWトラクタを用いる作業機のエンジン回転数の目安は、けん引型で約1500rpm、PTO駆動型で2000rpm程度である。けん引型は作業時のエンジン回転数が低く燃料消費が少なくなるので、時間当たりの燃料消費量はPTO駆動型の約70%である。
例えば、代表的な作業機としてPTO駆動型ではロータベータ(回転耕運機、図8a)、けん引型としてはディスクハロー(図8b)があり、いずれも砕土・整地作業用である。
タイの農機具販売所で取り扱われているけん引型小型ファロー(管理機、図9b)は、沖縄県内で広く普及する軽トラクタ(図9a:17〜20ps)に適応可能なサイズである。また、県内では既に、石垣島の一部や伊平屋島の
石礫が多い圃場向けに、同様の作業機(図9c)が製造販売されている。
PTO駆動型培土機(図9a)とけん引型培土機(図9c)の性能調査における作業速度はPTO駆動型が秒速0.42メートル、けん引型が同0.89メートルで、けん引型はPTO駆動型の約2倍の作業速度であった。畝長50メートル、面積25アールを想定した圃場で、作業時間と燃料消費量を試算したのが図10である。けん引型の作業時間は、PTO駆動型の65%、燃料消費量は49%となり、けん引型は高効率である。
また35kW程度の中型トラクタ用の培土機のPTO駆動型培土機としては図11aの2連ロータリ、けん引型培土機としては図11bのディスクカルチやタイで普及している図11cのツースハローがある。
ツースハローはタイでは除草機として用いられているが、4本のタインとカッタウェイディスクやモールドボードの取り付けが可能である
7)。同様な機種がけん引式で中耕除草や高培土用作業機として県内にも導入されたが、普及に至らなかった。
価格に関しては国内で製造販売されているけん引型はPTO駆動型の半額程度である。タイで普及している培土機は構造的にさらに低価格と思われる。
このように、けん引型はPTO駆動型に比べて、作業速度が速く作業能率が高いことに加え、燃料消費量が少なく、さらに構造の面ではけん引のみの作業機なので安価である点から、生産法人やコントラクタにとって、導入すれば経営上有利である。
イ けん引型作業機を中心としたサトウキビ機械化体系の再構築
日本におけるサトウキビ機械化体系では前述したようにPTO駆動型の作業機を多用する場面が多い。新植ではまず、プラウやパワーショベルでの耕起の後、ロータリ(PTO駆動)による砕土作業がある。人力植え付け作業ではロータリ耕による砕土作業の後リッジャ(培土板)を装着して作溝を兼ねながら2回目のロータリ耕が行われたのち植え付け作業となる。生産法人や規模の大きな農家ではロータリによる砕土作業の後に、ロータリ装着型全茎式植え付け機で植え付け作業が行われる。植え付け後は20ps程度の軽トラクタに装着されたロータリにより平均培土と高培土が行われる。株出し管理では、PTO駆動型の株出し管理機で、株揃え、施肥および除草剤散布が行われる。そして、心土破砕後に、軽トラクタに装着されたロータリにより平均培土と高培土が行われる(図12)。
前述したように、タイではけん引型作業機が主に利用され、沖縄県と類似する土壌もあり、それらの作業機は栽培上、有効に能力を発揮している。すべての作業をけん引型の作業機で代替する必要はないが、まず、耕起ではプラソイラ、耕うん砕土でディスクハロー、植え付けはビレットプランタかロータリ装着型小型植え付け機、中耕培土はウイダレーキ、そして高培土用にファローが利用できる。沖縄県や鹿児島県のメーカーで製作しているものもあるしタイの作業機を導入することも考えられる。また、株出し管理にはけん引型の株出し管理機を国内メーカーが試作している。現在、サトウキビ栽培の現場では、植え付け、肥培管理そして収穫作業などのかなりの部分を生産法人やコントラクタが担っており、高齢化と後継者不足が深刻さを増す中、彼らの役割は年々大きくなっている。規模拡大や受託面積の拡大にはさらなる省力化と経営費の縮減が不可欠である。けん引型作業機を中心とした機械化体系の再構築(図13)はそれらを可能にし、経営体の収益向上とサトウキビ産業の活性化に大いに貢献していくと考えられる。