EUのでん粉生産の状況
最終更新日:2020年1月10日
EUのでん粉生産の状況
〜ばれいしょでん粉を中心に〜
2020年1月
【要約】
EUは世界最大のばれいしょでん粉生産地域であるが、2012年の共通農業政策(CAP)改革による補助金の廃止によってでん粉原料用ばれいしょの作付面積の大幅な縮小が予測されていた。最大の生産国であるドイツでは減少傾向にあったが、現在、持ち直してわずかながら拡大している。また、主産国の一つであるデンマークではCAP改革後から拡大が続いている。2018年は干ばつとなりドイツを中心に大きな被害が出たが、デンマークでは灌漑設備によって大幅な減少にはならなかった。
はじめに
スターチヨーロッパ(Starch Europe〈注〉)によると、EUでは主にトウモロコシ、小麦およびばれいしょを原料とするでん粉が生産されている。EU加盟国28カ国中20カ国(アイルランド、エストニア、リヒテンシュタイン、クロアチア、ギリシャ、キプロス、マルタ、スロベニアを除く20カ国)、74拠点ででん粉生産が行われている(図1)。
今回は、世界最大のばれいしょでん粉生産地域であるEUにおいて、日本が輸入するばれいしょでん粉の多くを占め、EU最大のでん粉原料用ばれいしょ生産国であるドイツと、EUのばれいしょでん粉の主産国であり生産拡大が著しいデンマークについて、2019年に実施した現地調査を元に、両国のばれいしょでん粉生産を中心に述べる(図2)。なお、本稿中の為替レートは11月末日TTS相場の値であり、1ユーロ=122円(122.09円)、1デンマーククローネ=16.44円とした。
(注)EUにおいて、でん粉生産者が加盟する7協会やでん粉を製造する27企業を統括する団体。これらでEUにおけるでん粉の95%を生産する。
1.EUのでん粉原料、でん粉などの需給動向
(1)でん粉原料用作物の生産
EUでは、でん粉原料用作物としてのトウモロコシ、小麦およびばれいしょがそれぞれでん粉原料作物生産量の3割前後を占める(図3)。でん粉原料用作物全体の生産量は、直近6年間は、大きな増減はない。
一方、でん粉原料用作物別に見ると、トウモロコシや小麦が若干減少または横ばいであるのに対し、ばれいしょは増加傾向にある。これは、透明で粘性が高いなどの特徴を持つばれいしょでん粉の需要が、加工食品の利用の増加やグルテンフリー食
(注)を求める人の増加などの動きがある食品分野を中心に高まる傾向にあるためと考えられる(コラム2参照)。
2012年のEU共通農業政策(CAP)の改革により、でん粉原料用ばれいしょとばれいしょでん粉に係る最低生産者価格や補助金などの制度が廃止され、品目横断的な単一支払い制度に切り替わった。このため、でん粉原料用ばれいしょ生産は、EU全体で4割程度落ち込むといった悲観的な予測もあったが、実際には前述のとおり、ばれいしょでん粉需要の増加によって2014年を底に、作付面積は拡大傾向にある(図4)。
でん粉原料用ばれいしょ生産について国別でみると、ドイツは減少傾向にあるものの、依然として最大のでん粉原料用ばれいしょ生産国である。多くの国が減少傾向または安定的に推移している中で、デンマークとポーランドは生産が拡大している。
(注)グルテンとは小麦などに含まれるタンパク質の一種で、自己免疫疾患であるセリアック病発症の引き金となる他、小麦アレルギー患者のアレルゲン(アレルギー誘発物質)の一つでもあることから、グルテンを含まない食品がスーパーマーケットなどで一角を占めている。現在、食の嗜好(しこう)によって、これら疾病の患者ではなくても、グルテンフリー食を選択する消費者もいる。
(参考)『砂糖類・でん粉情報2016年3月号』「CAP改革後のばれいしょでん粉主要生産国の動向〜大きな変革期を迎えたEU〜」https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000591.html
(2)でん粉生産など
前述の通り、トウモロコシ、小麦およびばれいしょはそれぞれでん粉原料用作物生産量の3割前後を占めているが、トウモロコシと小麦はでん粉含有量が6割程度あることに比べ、ばれいしょは2割弱と少ないため、でん粉生産量に占める割合はコーンスターチが5割弱、小麦でん粉4割に対してばれいしょでん粉は1割強となる(図5)。
コーンスターチの生産量が最も多いものの、小麦でん粉の生産へ徐々に移行する傾向が見られる。これは原料の小麦が域内に豊富にあることに加え、小麦でん粉生産時に発生する副産物でグルテンの需要が高いため、小麦でん粉生産全体の収益が好調であるという背景がある。これは、家畜飼料向けのタンパク源としての需要に加え、食用向けの需要が高まっていることも影響しているとみられる(コラム2参照)。なお、米国ではコーンスターチが異性化糖の原料として使用されるが、EUでは調達しやすく量が豊富でかつ安価な小麦でん粉が異性化糖の原料として多く使用されている。
なお、スターチヨーロッパには、新たに2社(Lantmännen Reppe社〈スウェーデン〉、Viresol〈ハンガリー〉)が加盟した。いずれも小麦でん粉生産を行う企業である。Chamtor社(フランス)はADM社(米国に本拠を置く大手食品企業でヨーロッパでもでん粉製造拠点を持つ)に小麦でん粉生産部門を売却したことから、2019年時点で、スターチヨーロッパに加盟するでん粉生産に関する企業は27社となった。
ばれいしょでん粉の生産量は、でん粉生産量全体に占める割合は小さいものの、ばれいしょでん粉の需要の増加に伴って増加傾向にある。2018年は干ばつの影響が懸念されたものの、EUのばれいしょでん粉を含むでん粉生産量は前年と同程度の1070万トン(うちばれいしょでん粉は150万トン)となった。
(参考)『砂糖類・でん粉情報2017年11月号』「世界のでん粉需給動向」コラム1 主要でん粉企業の再編の動き
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001593.html
2.ドイツ
(1)ばれいしょの生産など
日本とほぼ同じ国土面積を有するドイツは、1人当たり年間70キログラムのばれいしょを消費しており、ばれいしょは非常に身近な食材の一つである(写真1、図6)。また、北海道と同様、ばれいしょは輪作体系に組み込まれており畑作地帯でも重要な作物とされる。同国のばれいしょは、生食向けをはじめ、でん粉、フライドポテトやポテトチップス、ピュレなどさまざまな形に加工されている。でん粉原料用として仕向けられるのは全体のばれいしょ生産量の約2割とされ、これは国内外で消費されている。
でん粉原料用ばれいしょの生産者戸数は減少傾向にあり、ここ10年で約3割減少した。ただし、1戸当たりの作付面積は増加傾向にあることから、生産者の減少よりも作付面積の減少が緩やかとなっている(表1)。また、規模拡大による効率化や品種改良、生産技術の向上による単収の増加によって、生産量が維持されているとみられる。近年は、他のでん粉に比べて、価格が高いことやトウモロコシや菜種など他の作物に比べて収益性が良いことなどから、でん粉原料用をはじめとするばれいしょの生産意欲が高まっており、生産者戸数の減少幅が小さくなっているとされる。
ドイツのでん粉原料用ばれいしょの作付面積減少に拍車をかけた一つの要因として、再生可能エネルギー法(Erneuerbare Energien Gesetz:EEG。2000年4月施行)によってバイオ燃料の利用が奨励されたことが挙げられる。このことによって、2010年代前半にかけてトウモロコシや小麦、てん菜などのバイオ燃料の原料となる作物(以下「エネルギー作物」という)の生産が大幅に拡大した。ただし、トウモロコシの急増によって、地域の輪作体系に歪みが発生するとともに、土地使用料の上昇により他作物の収益性が圧迫されるなどの弊害も顕在化した。このため2012年に、エネルギー作物をバイオ燃料向けに使用する場合には、エネルギー作物が原料全体に占める割合が60%未満の場合に限ってプレミアムが支払われるように法を改正し、エネルギー作物の作付けの拡大に歯止めをかけることとした。2014年には過剰になっていた補助やボーナス制度
(注)を廃止し、補助そのものも段階的に削減することとなり、現在では、価格が低迷するトウモロコシやその他作物よりも、でん粉原料向けやフライドポテトなど加工向けの需要が高まるばれいしょに魅力を感じる生産者も増えているという声も聞かれた。
2018年はヨーロッパ北部を中心とする広い範囲が干ばつに見舞われ、ドイツのばれいしょ生産も地域によっては2017年比で2〜3割減となるなど、大きな被害を受けた。このため、企業によっては、原料確保のためにでん粉原料用ばれいしょの買取価格を1トン当たり70ユーロ(8540円)から同80ユーロ(9760円)まで引き上げるといった対応を行った。また、生産者からの納入を先延ばしにしたり、でん粉原料用ばれいしょだけでは原料が不足したため、生食・加工用のばれいしょも一部でん粉に仕向けたりしたことなどが、ばれいしょでん粉の製造コストの上昇につながったとされる。
(注)2004年に導入されたトウモロコシなど穀物の再生可能原料を燃料として投入する場合に、電力の買取価格に加算される「再生可能原料ボーナス」のこと。
(参考)『畜産の情報2013年6月号』「先進国におけるバイオガスプラントの利用実態に学ぶ〜北海道における再生可能エネルギーの利用促進に関する共同調査報告書〜」
https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2013/jun/spe-02.htm
『行政対応特別研究[主要国横断]研究資料 第4号』松田裕子「ドイツにおける再生可能エネルギーの発展と課題」
http://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/120331_23cr04_04.pdf
(2)でん粉の生産など
ドイツのでん粉生産について、原料作物の生産量ベースで見ると、ばれいしょが約半分を占める(表2)。でん粉の生産量で見ると小麦でん粉が最も多く、ばれいしょでん粉は3割程度である。ここ10年ででん粉生産量は徐々に増加傾向にあるが、販売額はそれを上回るスピードで増加している。
ドイツでは、Emsland-Stärke(エムスランド)社、AVEBE(アヴェベ)社、Südstärke(ズュートシュテェルケ)社が合計8カ所の製造拠点を持ち、ばれいしょでん粉の製造を行っている。企業によっては、トウモロコシや小麦、豆類を原料とするでん粉の生産にも携わっている(図7)。
エムスランド社は世界有数のばれいしょでん粉製造企業であり、40年以上にわたって日本向けにも製品を輸出している。アヴェベ社はオランダに本拠地を置くばれいしょでん粉製造大手企業である。ズュートシュテェルケ社はドイツ南部でばれいしょでん粉をはじめ、ばれいしょ加工食品を生産する企業であり、今回、ばれいしょでん粉製造中に訪問することができた(写真2、3)。
ドイツのばれいしょでん粉生産量のうち、5割超は国外へ輸出される。最大の輸出先は隣国のオランダで、輸出されたでん粉はさらに食品などに加工されて輸出されているという(図8、写真4)。なお、日本向けにもドイツ産ばれいしょでん粉が輸出されており、数量は増加傾向にある。
3.デンマーク
(1)ばれいしょの生産など
九州とほぼ同じ広さの国土面積を持つデンマークは、ユトランド半島を中心にばれいしょ生産が盛んで、ドイツ同様でん粉などに加工されている。生食・加工用のばれいしょの作付面積が緩やかに減少傾向にあることに対して、でん粉原料用ばれいしょの作付面積は、ここ10年間で2倍に拡大している(図9)。2012年のCAP改革による補助金の撤廃により、作付面積の上限が取り払われた形となり、同国のでん粉原料用ばれいしょ生産の増産は勢いを増している。なお、ドイツと異なって、ばれいしょ以外の原料からでん粉は生産されていない。
現在、でん粉原料用ばれいしょの買取価格が良いことから、小麦や大麦よりもばれいしょの生産意欲が高まっているという。ユトランド半島の冷涼で雨が多い環境では限られた作物しか育たない中、ばれいしょは同地に適した作物で、今後の生産規模拡大にも期待がかかっている。
でん粉原料用ばれいしょの生産者戸数および1戸当たりの作付面積は、増減を繰り返しながらも直近5年は増加傾向で推移している(図10)。灌漑設備を保有する生産者も多く、2018年の干ばつ時にでん粉原料用ばれいしょの生産量が主要生産国で前年よりも2〜3割減となる中、デンマークでは大きな被害は受けなかった(写真5)。2019年のでん粉原料用ばれいしょの生育状況は、8月末時点で順調であり、10月からでん粉生産を開始するとのことであった(写真6、7)。
(2)でん粉の生産など
デンマークは人口が600万人に満たず、国内消費量は限られていることから、でん粉についても輸出が中心である。デンマークのばれいしょでん粉製造企業の一つであるKMC社は、年間28万トンのばれいしょでん粉やばれいしょ関連製品を生産しており、その95%は世界中へ輸出されている。ばれいしょでん粉価格が上昇するなど追い風が吹く中、同社は今後の市場の拡大を見越し、生産設備への投資も積極的に行っており、2016年には所有する工場の生産ラインを拡張、2019年9月には生産拠点を新しく建設するなど、2020年までに年間生産量を30万トンまで増加させることを計画している。生産規模はドイツの大手でん粉製造企業に迫る勢いである。
ばれいしょ生産専門の農業協同組合を母体とする同社は、農業技師を雇用しており、ばれいしょ生産者に技術指導なども行っている。
同社は、付加価値のある製品(注)(写真8〜10)の開発などに力を入れており、企業向けに製造レシピとともにばれいしょでん粉の使用方法を提案している。なお、有機ばれいしょでん粉の生産はコストに見合わないため、当面のところ計画にはないとのことであった。
(注)例えば、ばれいしょでん粉をチーズに添加することで食感がなめらかな商品ができ、また乳タンパク質の代替品としてばれいしょでん粉を加え、さらに脱脂し植物性脂肪を加えることで、より安価なチーズ風味の食品が生産できる。特にピザ用などに用いられるシュレッドタイプのものが多い。
コラム1 好調なでん粉製造時の副産物のプロテイン(タンパク質)生産
でん粉を製造する際に副産物として、繊維やタンパク質が発生する。以前は、用途が家畜の飼料に限られ安価に販売されていたが、現在、欧米を中心として、食用向けの需要も高まっている。
小麦でん粉の副産物のグルテンもタンパク質の一種であり、引き合いが強いことから、コーンスターチから小麦でん粉へ切り替えるでん粉製造企業もある。また、ドイツの大手でん粉製造企業では、タンパク質を豊富に含む豆類でん粉の製造拡充によって、閉鎖予定だったでん粉製造工場が持ち直した例もあるという。
ばれいしょはタンパク質含有量がわずか1%であるものの、ポテトプロテインとして食用または家畜飼料用として利用されている。ドイツのあるでん粉製造企業では、食用のプロテインは製造していないものの、ばれいしょでん粉製造時に発生する副産物(タンパク質だけでなく、繊維なども含む)を、酪農や養豚などに用いる飼料向けに販売している。この背景として、EUの消費者が、EU圏内で生産され、かつ遺伝子組換え作物を用いていない飼料によって生産された畜産物を求めているという事情がある(コラム1−写真)。
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4.有機ばれいしょでん粉
ドイツでは、ばれいしょ生産(でん粉原料向け以外の用途も含む)のうち約2%が有機栽培のものである。ばれいしょ生産のうち、でん粉原料用に仕向けられる割合は2割程度であることから、現時点で有機ばれいしょを原料とするばれいしょでん粉の数量は限られたものである。
大手ばれいしょでん粉製造企業は、原料供給量が限られる有機ばれいしょでん粉の生産については現実的ではないとして積極的でない一方、Bio Kartoffel NORD社(ノルド社)は、有機ばれいしょに特化したでん粉やフレーク、ピュレなどの製品の生産を行っている。
ドイツ国内のばれいしょ生産量の5割を占めるニーダーザクセン州で25年前に設立された同社は、当初、食用の有機ばれいしょのみを販売していたものの、有機ばれいしょ生産は慣行栽培と比べ農薬などの使用が厳しく制限されていることから、品質や規格の均質化が難しいなどの問題が多く発生していた。こういった状況に対応するため、でん粉などへの加工を開始した。
若い世代を中心に加工食品を利用することへの抵抗が薄まっていることなどを背景に、有機認証を受けた原材料を使用した加工食品の需要が高まっている。こういったことから有機ばれいしょでん粉の引き合いも強まっているとみられる(写真11)。
同社は、有機栽培認証を受けた国内の約180戸の生産者と契約し、約3万トンのでん粉原料用有機ばれいしょから、でん粉をはじめとする製品の製造を行っている。でん粉原料用の有機ばれいしょの価格は、慣行栽培のばれいしょの2倍以上の1トン当たり520ユーロ(6万3440円)で買い取られている。ドイツで有機認証を取得するためには、3年間以上、認められた農薬以外の薬品などを使わずに生産を行う必要があり、厳しい生産条件だけでなく、認証を受けるまでに時間を要する。さらに、有機ばれいしょは慣行栽培のものと比べて単収が半分程度に落ち込むが、買い取り価格が高いことから、生産を継続していけるという。
同社はでん粉製造設備を持っていないため、ばれいしょでん粉製造大手企業に製造を委託している。委託先の製品と混在しないように、製造設備を2週間かけて清掃した上で、同社の製品を製造し、保管場所も別途設け、販売前に農薬などの残留検査を実施し、認証に適合していることを確認した上で、販売は同社で行っている(写真12)。ドイツ国内で有機ばれいしょでん粉を製造しているのは同社のみのため、有機ばれいしょでん粉市場における競合相手は、デンマークやオーストリアのでん粉製造企業である。
原料用有機ばれいしょ生産量について、3年後の長期的な生産見通しを立てた上で1年後の生産量を予測し、生産契約を行っているが、2017年は多雨によって、また2018年は干ばつによって生産量が落ち込んだ。一方、有機ばれいしょでん粉の需要は高まっており、今後、契約生産者数の増加、耐病性や多収量の品種の開発によって、有機ばれいしょの生産量増加を見込んでいる。
同社は、他国の有機認証やハラル、コーシャ(注)などの認証を取得し、EUの他の国々や北米などを中心に約100カ国へ製品を輸出している。ただし、EUや北米に比べて有機食品市場が小さい日本向けはまだ実績がないという。なお、有機食品市場が大きいとされるドイツだが、積極的に購入しているのは富裕層が中心で人口の1割にも満たないともみられている。
(注)ハラル(ハラール):イスラム教の教えに基づき処理されたことが認証された食品などを指す。
コーシャ:ユダヤ教の教えに基づき処理されたことが認証された食品などを指す。
コラム2 EUにおける食の流行とでん粉
でん粉はグルテンを含まないので、小麦粉の代替原料の一つとして利用される。小麦に含まれるグルテンに耐性がないセリアック病などの患者だけではなく、一種の嗜好として欧米ではグルテンフリーの食品を選択する人々がいるため、EUのスーパーマーケットでは、グルテンフリー商品の棚が一角を占め、市民権を得ている(コラム2−写真1〜3)。
また、グルテンフリーの理由以外ででん粉の需要が高まっている理由の一つに、化学的な変性を加えていないでん粉は、消費者には「天然」「自然に近い」ものと認識され、こういった商品を好む傾向があるためである。同時に、安全性の審査を経て認証されている食品添加物であっても添加されている商品を避ける消費者も多く、化学的変性を加えなくとも機能性があるでん粉はこういった人々に対しても受け入れられる原材料の一つとして、加工食品をはじめとする需要が高まっている。これは「クリーンラベル」(注)を求める消費者の動向にも合致する動きであるとされる。
(注)公的な定義付けはされていないが、食品において人工的・化学的な合成原料、添加物を含まず、消費者にシンプルで分かりやすく食品成分を表示することなどとされる。
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まとめ
2012年のCAP改革時にはでん粉原料用ばれいしょの生産が落ち込むとみられていたものの、世界的にばれいしょでん粉需要が高まっているという背景から、ドイツでは減少幅が予測を大きく下回ったり、デンマークでは作付けが増加したりするなど、ばれいしょでん粉生産に追い風が吹く状況となっている。一方で、気候変動によって、深刻な干ばつが発生するなど生産に悪影響を与える状況も起こっている。2018年にEUを襲った熱波によって、でん粉原料用ばれいしょも被害を受けたが、灌漑設備などの利用の有無によって、各国の被害状況が異なっていた。ばれいしょは冷涼な気候を好むことなどから、世界的にも生産できる地域が限られる一方、世界的な需要の高まりがばれいしょでん粉需給に与える影響について、引き続き注視する必要がある。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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