砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 各国の糖業事情報告 > 新型コロナウイルス感染症関連の情報

新型コロナウイルス感染症関連の情報

印刷ページ

最終更新日:2020年6月10日

新型コロナウイルス感染症関連の情報

2020年6月

調査情報部 

 調査情報部では世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、各国政府の対応など需給に影響を与えるタイムリーな情報を、海外情報としてホームページの以下のURLに随時掲載しております。
 (掲載URL:https://www.alic.go.jp/topics/index_abr_2020.html
 ここでは、5月27日までにご紹介したものをまとめて紹介いたします。

目次

・【共通】
 砂糖の国際価格が急落、砂糖需給の緩みへの懸念が要因(令和2年4月7日付)

・【米国】
 米国農務省、新型コロナウイルス感染症に対する農業支援策を発表(令和2年4月28日付)

・【ブラジル】
 1.ブラジルの製糖業者が政府に支援を求める、現状では操業停止の恐れも(令和2年5月1日付)
 2.2020/21年度の砂糖・バイオエタノールの生産見通し(ブラジル)〜新型コロナウイルス感染症の拡大により砂糖の増産に傾く(令和2年5月14日付)

・【インド】
 最大生産地ウッタル・プラデーシュ州の砂糖生産量、史上最高に(令和2年5月27日付)

・【中国】
 1.中国雲南省、新型コロナウイルスが砂糖生産にも影響を与え始める(令和2年2月21日付)
 2.新型コロナウイルス感染症の発生が、コーンスターチ生産に一時的な影響を与える(令和2年4月16日付)

・【EU】
 1.ドイツ政府機関、食品を介した新型コロナウイルス感染の証拠はないと報告(令和2年3月10日付)
 2.欧州委員会、新型コロナウイルスの感染拡大に対し、食品流通を含む国境管理措置に関するガイドラインを公表。欧州食品安全機関、食品を介した感染の証拠はないと報告(令和2年3月19日付)
 3.製糖関係団体、新型コロナウイルスの大流行を受けて欧州委員会に特別な措置を要請(令和2年3月30日付)
 4.欧州委員会、新型コロナウイルス感染拡大に対応する農業・食品部門を引き続き支援(令和2年4月8日付)
 5.欧州委員会、追加支援措置を採択。新型コロナウイルスの影響下にある生産者のキャッシュフローの改善など(令和2年4月21日付)

・【豪州】
 クイーンズランド州のサトウキビ生産者団体、大型トラックの運転免許試験を再開するよう州政府に要請(令和2年5月12日付)

・【タイ】
 タイ政府、キャッサバ農家への所得補償として追加予算を承認〜新型コロナウイルス感染症拡大による輸出減退などを受け市場価格が低迷〜(令和2年5月21日付)

【共通】

砂糖の国際価格が急落、砂糖需給の緩みへの懸念が要因(令和2年4月7日付)

 砂糖の国際価格は、2020年に入り、1年以上に及ぶ低迷期をようやく抜け出し、回復の兆しを見せていた。しかし、この1カ月あまりで約5セント値下がりし、下落率は30%を超えている(図1)。4月1日のニューヨーク粗糖先物相場(5月限(がつぎり))は、1ポンド当たり10.04セントと2018年9月以来の安値水準まで急落した。
 
 
() 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、世界的に景気や個人消費が冷え込み、砂糖需要が後退するとの懸念が広がったことが要因の一つであるが、それ以上に大きな要因として、原油価格の急落とレアル安の進行が挙げられる。

 サウジアラビアなどで構成される石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの産油国との協調減産の交渉が決裂したことで、3月9日以降、原油価格の代表的な指標の一つ、ニューヨーク・マーカンタイル取引所で取引されているウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油の先物価格が大幅に下落した(図2)。また、COVID-19の世界的な拡大による為替市場の混乱を受け、ブラジルの通貨レアルは大きく売られ、ドルに対して過去最安値を更新するまで落ち込んだ(図3)。

 原油価格の下落によって、サトウキビなどを原料とするバイオエタノールに対する価格優位性が低下すれば、石油代替燃料としての引き合いが弱まることから、製糖業者はバイオエタノールを減産し、砂糖の生産へ回帰することが想定される。加えて、レアル安の加速により、世界最大の砂糖生産国ブラジルの製糖業者の輸出意欲を刺激し、世界の砂糖需給が緩む方向に作用するという見方が砂糖の国際価格を押し下げているとみられる。




 なお、2019/20年度(10月〜翌9月)の世界の砂糖需給の見通し(注)は、主要砂糖生産国での減産が見込まれる中、消費量が生産量を上回り、需給は引き締まると予想されている。

 他方、COVID-19の拡大を防ぐため、世界各地で外出制限などの措置が取られているものの、収束の見通しが立たず事態が長期化する恐れも強まっている。こうした状況を踏まえ、外食や行楽などの需要減少によって砂糖消費が大きく冷え込むことが現実味を帯び始めており、製糖業者からは世界の砂糖需給は引き締まるどころか緩むのではないかと不安視する声も挙がっている。

(注)2019年12月時点の予測。詳しくは、「1.世界の砂糖需給(2019年12月時点予測)」『砂糖類・でん粉情報』2020年1月号を参照されたい。 https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002110.html  

(国際調査グループ 坂上 大樹)

【米国】

(令和2年4月28日付) 米国農務省、新型コロナウイルス感染症に対する農業支援策を発表

 4月17日、米国農務省(USDA)は、国家的非常事態である新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けている農家や牧場主、消費者を支援するため、190億ドル(2兆710億円:1ドル=109円)のコロナウイルス食料支援プログラム(CFAP)を公表した。

 CFAPは、生産者への直接支払いと政府による食品買上げ配給プログラムが2本の柱となっており、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security〈CARES〉Act)、ファミリー・ファースト・コロナウイルス対処法(Families First Coronavirus Response Act:FFCRA)およびその他のUSDA既存のプログラムの資金や規則に基づいて実施される。

●損失に基づく直接支払い
 USDAによれば、このプログラムは、COVID-19によって価格やサプライチェーンが影響を受けた生産者に対し、実際の損失額に基づく直接支援のために160億米ドル(1兆7440億円)を提供し、2020年度に需要の減退や短期的供給過剰が生じる結果として発生する追加的調整や流通コストを補うものである。

 ジョン・ホーベン上院議員(ノースダコタ州、共和党)によるプレスリリースによれば、その原資は、CARES Act による95億ドル(1兆355億円)、既存の商品信用公社(CCC)基金による65億ドル(7085億円)から拠出される。当支払いは、2020年1月1日から4月15日までに生じた価格低下の85%と、4月15日以降の2四半期に予想される価格低下の30%を生産者に支払うものとなっている。支払限度額は1個人または事業体内で、1品目につき12万5000ドル(1363万円)、全品目合計で25万ドル(2725万円)となっている。支給対象となる品目は、1月から4月の間に5%以上価格が下落したものとされている。

 160億ドル(1兆7440億円)の直接支払いの配分は以下の通り。
 —肉用牛部門に51億ドル(5559億円)
 —酪農部門に29億ドル(3161億円)
 —養豚部門に16億ドル(1744億円)
 —とうもろこしや小麦等の穀物、大豆等の油糧作物部門(加工品を除く)に39億ドル(4251億円)
 —野菜や果物等の園芸作物部門に21億ドル(2289億円)
 —その他の農作物分野に5億ドル(545億円)

 また、同議員のプレスリリースによれば、USDAは、直接支払いが迅速に行われるよう5月上旬からの申請開始、5月下旬または6月上旬までに支払い実施を目指しているとのことである。

●食品買上げ配給プログラム
 当プログラムでは、多くのレストランやホテル、その他のフードサービスなどの閉鎖によって労働力に深刻な影響を受けている地域の流通業者と提携し、30億ドル(3270億円)の生鮮青果物、乳製品、食肉を購入するとしている。

 生鮮青果物、乳製品、肉製品の3つの分野について、各分野で毎月1億ドル(109億円)の調達規模を見積もっており、その商品は流通業者や卸売業者からフードバンク、地域コミュニティ、宗教団体および非営利団体に供給される。

 また、上記の二つのプログラムに加えて、USDAはフードバンクへの食料の配給のためにさまざまな農産物を調達するため、1935年農業法第32条に規定された恒久的歳出予算のうち、8億7330万ドル(952億円)についても活用可能であるとしている。これらの基金の使用方法は、業界の要請、USDAによる農業市場分析およびフードバンクからのニーズによって決定される。

 さらに、CARES Act とFFCRAに基づき、フードバンクの運営コストとUSDAによる食料買い上げのために少なくとも8億5000万ドル(927億円)が確保されており、そこから最低でも6億ドル(654億円)がUSDAによる食料買い上げに充てられるとしている。これらの基金の使用方法は、フードバンクからのニーズと商品が入手可能かどうかに基づいて決定される。

 今回の発表に合わせて米国農務省のパーデュー長官は、「この国家的危機の状況において、トランプ大統領とUSDAは、米国の農家、牧場主、そしてすべての国民とともにあり、彼らを確実に支える。米国の食料サプライチェーンはこの困難を克服しなければならず、安全、安心、強固な供給網を保ち続ける必要がある。そして、その始まりとなるのは農家や牧場主であることを誰もが知っている。このプログラムは、米国の農家や牧場主のための即時救済を提供するだけでなく、食料を必要としている米国人に豊かな農産物を提供することになる。」と述べている。

(国際調査グループ)

【ブラジル】

1.(令和2年5月1日付) ブラジルの製糖業者が政府に支援を求める、現状では操業停止の恐れも

 ニューヨーク粗糖先物価格(5月限)は、原油価格の代表的な指標の一つとなっているウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油の先物価格の急落に引きずられるように、2月後半から下落の一途をたどっている(図)(注)。原油の先物価格が史上初めてマイナス価格で取引を終えた4月20日以降は一段と値を下げ、4月27日は1ポンド当たり9.21セントと2007年9月以来12年8カ月ぶりの安値を付けた。28日も安値圏で推移し、一時同9.05セントと9セント割れが目前に迫る場面があった。実質的に取引の中心となっている7月限でも、終値は10セントを割り込んでいる。

(注)一般に、原油価格が下落すると、石油の代替燃料であるバイオエタノールの需要は低下する。バイオエタノールの需要が低下すると、その原料作物(サトウキビ、てん菜、トウモロコシ、キャッサバなど)のバイオエタノール生産への仕向けが減るため、それらから生産される食品(サトウキビの場合は砂糖)の生産・供給が増えることが想定される。その度合いが大きければ、需給の緩みにつながることから、価格を押し下げる方向に作用する。 

 

 
 こうした状況に、世界最大の砂糖生産国であり、米国に次いで第2位のバイオエタノール生産国でもあるブラジルは窮地に立たされている。

 一部の国や地域では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止のために行われていた外出制限などの措置を緩和する動きも出ているが、感染リスクは依然残っており、外食や行楽機会の減少に伴い砂糖の消費は世界的に伸び悩むだろうとの見方が強い。また、バイオエタノールは原油の先物価格の急落で軽油やガソリンに対する価格優位性が薄れる中、航空機の大幅な減便、企業活動の停滞などにより燃料需要そのものが減退したことで、販売環境は日に日に厳しさを増している。

 同国の製糖業者はこれまで、砂糖の需要が落ち込めばバイオエタノールの生産を増やし、バイオエタノールの需要が落ち込めば砂糖の生産を増やすといった対応で企業全体の収益を確保してきた。しかし、今回はどちらの生産に舵を切っても、供給過剰を誘発する恐れがあり、製糖業者は難しい判断を迫られている。このため、ブラジルサトウキビ産業協会(UNICA)は4月16日、ブラジルサトウキビ生産者協会(ORPLANA)など関係団体と連名でジャイル・ボルソナーロ・ブラジル大統領あてに書簡を送り、▽バイオエタノールの販売に対して課せられている連邦税の一時的な免除▽製品在庫などの動産を担保とした融資制度の実施▽軽油税、ガソリン税の増税−などを要請したことを明らかにした。UNICAは、「現在の粗糖や原油の価格水準が当面続けば、製糖企業の大半が資金難に陥り、砂糖・バイオエタノール産業に携わる数百万人もの人々の雇用に深刻な影響が及びかねない。一刻も早く措置してもらいたい」と訴えている。

 また、UNICAは28日、現地メディアを通じて「政府の支援を早急に受けられなければ、5月中旬ごろには多くの製糖工場が操業停止に追い込まれるだろう」と現状に対し強い危機感を示した。

(国際調査グループ 坂上 大樹)
 

2.(令和2年5月14日付)2020/21年度の砂糖・バイオエタノールの生産見通し(ブラジル)〜新型コロナウイルス感染症の拡大により砂糖の増産に傾く

 2020/21年度、砂糖は増産の一方、バイオエタノールは減産の見込み
 ブラジル国家食糧供給公社(CONAB)は5月5日、2020/21年度(4月〜翌3月)の砂糖とバイオエタノールの生産見通しを公表した(表)。

 サトウキビの生産量は6億3071万トン(前年度比1.9%減)とわずかに減少するものの、製糖業者の多くが砂糖の増産に舵を切り始めていることから、砂糖生産量は前年度と比べ18.5%増の3530万トンと見込まれている。この影響で、バイオエタノール生産量は前年度と比べ10.3%減の320億リットルと見込まれている。CONABはその要因を、「今年度はタイやインドなど主要国の砂糖輸出の落ち込みを補完する役割が期待されている他(注)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による工場の生産停止や航空会社の運休・減便などを背景にバイオエタノール需要が低下している中にあっては、必然的に砂糖の増産に傾く」と分析している。

(注)タイは他作物への転作や干ばつによる影響、インドは主産地の浸水被害などに伴う生育不良などによる影響でそれぞれ減産が見込まれている。なお、主要国の直近の砂糖輸出の見通しは、「砂糖の国際需給」『砂糖類・でん粉情報』2020年5月号を参照されたい。
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002206.html


 

工場の建設ラッシュ続くマットグロッソ州、バイオエタノール増産か
 上記動向には地域差があり、その中でもとりわけ対照的な動きを見せているのが内陸部に位置するマットグロッソ州である(図)。ブラジル最大のトウモロコシの生産地である同州は、同国では珍しくトウモロコシ由来のバイオエタノールの生産が盛んで、今年度のバイオエタノール生産量は前年度と比べ28.0%増加すると見込まれている。これは、余剰トウモロコシの有効活用という観点に加え、バイオエタノールの生産工程で発生する蒸留かす(DDGS)が飼料として大きな収益を生み出すと期待されていることから、同州ではバイオエタノール工場の建設ラッシュが続いており、こうした状況を反映した格好となった。

 その一方、現地報道によると、トウモロコシ由来のバイオエタノールを製造する業者などが加盟するブラジルトウモロコシエタノール協会(UNEM)は、COVID-19の拡大による影響で国内のバイオエタノール需要が急激に減退しているとし、各社はこれまでのトウモロコシの調達計画を見直さざるを得なくなるとの見方を示しており、今後、バイオエタノールの増産見込みに影響が生じることが想定される。なお、こうした状況は今回のCONABの見通しに織り込まれていないものとみられる。

 
(国際調査グループ 坂上 大樹)

【インド】

(令和2年5月27日付)最大生産地ウッタル・プラデーシュ州の砂糖生産量、史上最高に

 インド製糖協会(ISMA)は5月18日、2019/20年度(10月〜翌9月)の製糖工場における砂糖の生産状況(5月15日現在)を公表した。

 サトウキビの生育の遅れによる糖度低下などによって、砂糖の生産量はインド全体で2647万トン(前年同期比18.9%減〈製品ベース。以下同じ〉)と大幅に減少する中、同国最大の砂糖生産地である北部のウッタル・プラデーシュ(UP)州では1223万トン(同4.7%増)と史上最高を記録した(図)。
 

 これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で、サトウキビの流通が変化していることが主な要因である。UP州では、前年度と同程度のサトウキビ生産量が見込まれていたが、3月下旬に実施された都市封鎖(注1)に伴い、同州に多く点在している「グル」や「カンサリ」(注2)を生産する工房が軒並み操業を取りやめた影響で、例年よりかなり多くのサトウキビが製糖工場に集まった結果、同州の砂糖生産量が増加したとみられる。本来ならば、5月は多くの製糖工場が製糖期を終える時期であるが、持ち込まれるサトウキビの処理が追いつかず、現在も半数以上の製糖工場が操業を続けている。一部の製糖工場は、6月まで操業が延びる可能性があり、同州の砂糖生産量はさらに増加すると見込まれる。

 なお、砂糖生産量第2位のマハラシュトラ州の砂糖生産量は、前年の雨季に大規模な洪水被害に見舞われたことで609万トン(同43.2%減)と半減し、現在1工場のみが稼働している。第3位のカルナータカ州では、4月30日時点ですべての工場が操業を終え、338万トン(同21.8%減)と大幅な減産となり、砂糖生産において最大生産地であるUP州の重要性が増す状況となった。

(注1)インドでは3月25日以降、旅客機の運休、教育機関の閉鎖、商業施設などの営業停止、午後7時から午前7時までの不要不急な外出の禁止などの措置が取られており、5月31日まで実施される予定。国内線旅客機については、25日から段階的な再開を予定。
(注2)グルとは、サトウキビの搾り汁を清浄化した後、オープンパン(釜炊き)で煮詰め、冷やし固めた含みつ糖。カンサリとは、搾り汁を清浄化した後、オープンパンで煮詰め、遠心分離機で精製した分みつ糖。いずれも、家内制工業的に生産されているものがほとんどである。詳細は「インドにおける砂糖の生産動向および余剰在庫解消への取り組み」『砂糖類・でん粉情報』2020年5月号を参照されたい。
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002197.html

 

 
 
(国際調査グループ 塩原 百合子)

【中国】

1.(令和2年2月21日付) 中国雲南省、新型コロナウイルスが砂糖生産にも影響を与え始める

 砂糖生産量が中国国内第2位の雲南省(図、表)にある雲南省農業科学院サトウキビ研究所(注)は2月15日、同省の製糖業者などを対象に行った聞き取り調査を基に、湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が雲南省の砂糖生産に及ぼす影響について報告書を発表した。同報告書によると、雲南省でも同ウイルスによる肺炎の感染者が相次ぎ見つかり、感染拡大を防ぐために人や車両の移動などに対して厳しい規制措置が講じられたことから、最盛期を迎えるサトウキビ生産、砂糖生産、製品の輸送の各方面で、すでに影響が出ていることが判明した。
 
 報告書の概要は以下の通り。

(注)雲南省政府に属する農業に関する試験研究機関。

1.原料不足による生産活動の停止
 交通網の遮断や外出制限などの措置が取られている影響で農作業に従事する労働力が極端に不足している地域が多く、サトウキビの収穫作業が大幅に遅れている。このため、雲南省にある製糖工場の約5分の1は原料を十分に確保できず生産停止に追い込まれている。操業を続ける製糖工場であっても、運送業者の多くが衛生当局からの求めで従業員の出勤停止や営業を自粛しているため、製品が出荷できず、倉庫が満杯状態になっている。

2.サトウキビの品質劣化などによる製糖歩留まりの低下
 収穫されたサトウキビは通常48時間以内に圧搾されるが圃場(ほじょう)から工場までサトウキビを運び入れるトラックの手配が困難な今、収穫されたサトウキビが3〜5日圃場に放置される事例が増えている。ハーベスタによって細かく切断されたサトウキビは、切り口が多いため微生物の侵入を受けやすく、品質劣化の進行が早まるとされるため、工場への迅速な搬入ができない現状下では産糖量の低下が危惧される。

 また、生産停止した製糖工場では製造ラインに残った半製品の大量廃棄も発生している。

3.サトウキビの植え付けの遅滞
 雲南省では、苗(茎)を植え付けて栽培する新植が栽培面積全体の約3分の1を占める。このうち2〜3月ごろまでに植え付けが終わる春植えの圃場では、労働力不足と苗の供給が滞っている影響で植え付け作業が大幅に遅れている。事態が長引けば今期の植え付けを断念する生産者も出かねず、結果として栽培面積が縮小し、翌年度(2020/21年度〈10月〜翌3月〉)の砂糖生産への影響が懸念される。

4.輸送費の上昇
 製糖工場周辺では、住民が感染を恐れて集落の出入り口の道路を勝手に封鎖するなどの混乱も起きているため、製糖業者は輸送ルートを変更するなどして原料や資材を調達するほかなく、輸送距離も、輸送時間も伸びている。これに伴い輸送費の負担が大幅に増加し、製糖業者の製糖コストは前年度と比べ平均1トン当たり10元(約36円〈2020年1月末日現在のTTS相場:1元=3.59円〉)上昇している。
 
(国際調査グループ 坂上 大樹)

2.(令和2年4月16日付) 新型コロナウイルス感染症の発生が、コーンスターチ生産に一時的な影響を与える

 中国はコーンスターチの最大の生産国であり、かつ世界の需要の3分の2を占めている。同国のコーンスターチの生産量は山東省が最も多く、次いで吉林省、河北省と大消費地である首都北京市近郊での生産が過半を占めている(図1)。中国でん粉産業協会(注)などによると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて、同国のコーンスターチの生産は一時的に落ち込んだものの、2月中旬を底に回復傾向にある。

 中国におけるコーンスターチ製造工場の通年の平均稼働率は約60%である。ただし、春節を迎える1月下旬から2月上旬までの間は一時的に操業を停止する工場があるため、同時期の稼働率は50%程度まで低下する。
 
 2020年は、春節休暇が明けても操業を再開できない工場が相次ぎ、2月中旬の稼働率は約30%まで大きく落ち込んだ(図2)。これは、COVID-19の拡大を防止するためにヒト・モノの移動が厳しく制限されたことで、工場従業員の復帰や原料となるトウモロコシの調達が困難となったことが要因である。

 こうした国内産業の影響を踏まえ、各省政府は移動制限の緩和などの策を講じた。その結果、コーンスターチ製造工場においても、職場への復帰やトウモロコシの安定的な調達が可能となり、2月末の稼働率は約50%と、春節期間と同程度まで回復した。その後も多くの工場が操業を再開し、3月末の稼働率は約63%と、前年同期と同程度の稼働率となっている。

(注)中国でん粉産業協会(China Starch Industry Association)は同国ででん粉、化工でん粉、糖化製品を製造している企業で構成された団体。

 




 
(国際調査グループ 荒川 侑子)

【EU】

1.(令和2年3月10日付) ドイツ政府機関、食品を介した新型コロナウイルス感染の証拠はないと報告

 欧州では、イタリアを中心に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が広がっている。欧州連合(EU)の機関である欧州疾病予防管理センター(ECDC)は3月2日、EU市民の新型コロナウイルスのリスクレベルを「普通」から「高い」に引き上げた。同日、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は会見を行い、現状について「ウイルスが広がり続けている」と報告するとともに、27加盟国とEUによる包括的で一致団結した取り組みが求められているとした。その上で、コロナウイルス対策本部を立ち上げ、ECDCなどとの連携を図り、ウイルス撲滅に向けて迅速なアプローチを行っていくとEU市民に説明した。

 そのような中、ドイツ政府機関であるドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は2月24日、食品を介して新型コロナウイルスに感染した証拠は現在のところない、と報告した。

 また、子供の玩具や衣服などの感染地域からの輸入製品も同様で、それらの乾燥した表面を介しての感染はおこり難いとした。この報告は、同機関に対し寄せられた多くのドイツ国民からの照会に対して応じる形で報告されている。

 BfRは、食品や玩具などを介した感染のリスクについて、これまでに感染記録や新型コロナウイルスの環境中での安定性が低いという事実に基づいてこの評価を行ったとしている。

 正確な感染経路の把握は不十分であるとするも、最も主要な感染については飛沫感染であるとし、その他接触感染によるものもあるとした。また、環境中の新型コロナウイルスの安定性の低さから、接触感染は汚染後の短期間にのみ起こる可能性も報告している。

 「感染しないようにするにはどうしたらよいか」という照会に対しては、食品や玩具や衣類などの製品を介した感染はおこり難いものの、定期的な手洗いなどの日常における衛生対策と、食品を扱う際の衛生面の確保が重要であるとした他、新型コロナウイルスは熱に弱く、食品を加熱することで感染リスクをさらに減らすことができるとした。
 
(国際調査グループ)

2.(令和2年3月19日付)欧州委員会、新型コロナウイルスの感染拡大に対し、食品流通を含む国境管理措置に関するガイドラインを公表。欧州食品安全機関、食品を介した感染の証拠はないと報告

 欧州各地にて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るっている。フランスのマクロン大統領は3月16日にテレビ演説を行い、翌17日正午から最低15日間は原則的に市民の外出を禁止するとした。演説の中で、「我々は(新型コロナウイルスとの)戦争状態にある」と現在置かれている状況をフランス国民に強調した。ドイツでも近隣諸国との出入国制限が措置されたほか、ベルギーでも18日正午から外出が禁止されるなど、各国で感染拡大を抑制するための動きが続く。

〈食品流通を含む国境管理措置に関するガイドラインを公表〉
 そのような中、欧州委員会のフォン・デア・ライエン欧州委員長は3月16日、感染拡大を抑制するため、原則として、第三国から欧州連合(EU)への不要不急の渡航を30日間禁止する異例の方針を示し、加盟国首脳は17日、この方針に合意した(参考1)

 また、欧州委員会は16日、欧州における急速な感染拡大を背景として、各国が推し進める国境管理措置に関するガイドライン(参考2)をEU加盟国に通知した。これは、食料や医療機器などの不足を防ぎ、EU単一市場を確保したうえでEU市民の健康を守るためのものである。医療従事者などの渡航の必要のある者には適切な処遇を保障し、家畜を含む食品など生活必需品の物資や、乳幼児・高齢者ケア、公益事業などの生活必需サービスの確保を図る。また、特に食品や医薬品、医療機器など必需品の必要性から、当該貨物輸送については優先レーンを導入することなどを加盟国に求めた。

〈食品を介した感染の証拠はないと報告〉
 欧州食品安全機関(European Food Safety Authority〈EFSA〉)は3月9日、現時点で、食品がウイルスの感染源または感染経路である可能性を示す証拠はないと報告した(参考3、4)

 EFSA担当者は、「同様の重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の発生時に、食品を介した感染は確認されておらず、現時点で、今回の新型コロナウイルスがこの点で異なることを示す証拠はない」とした。また、欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control〈ECDC〉)によれば、今回のウイルスは人から人への飛沫感染により広がっているとし、世界中の関係者およびEFSA自らも当該ウイルスを監視し続けているものの、食品を介した感染の報告は現時点でないとした。なお、EFSAはイタリア北部のパルマを拠点としており、イタリア政府による移動規制対象地域となっている。

(参考1)COVID-19: Temporary Restriction on Non-Essential Travel to the EU(令和2年3月16日閲覧)
https://eeas.europa.eu/headquarters/headquarters-homepage/76221/covid-19-temporary-restriction-non-essential-travel-eu_en
(参考2)COVID-19 Guidelines for border management measures to protect health and ensure the availability of goods and essential services(令和2年3月16日閲覧)
https://ec.europa.eu/home-affairs/sites/homeaffairs/files/what-we-do/policies/european-agenda-migration/20200316_covid-19-guidelines-for-border-management.pdf
(参考3)Coronavirus: no evidence that food is a source or transmission route(令和2年3月16日閲覧)
https://www.efsa.europa.eu/en/news/coronavirus-no-evidence-food-source-or-transmission-route
(参考4)ドイツ政府機関、食品を介した新型コロナウイルス感染の証拠はないと報告(本誌80ページEU1番の情報) https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002666.html



 
(国際調査グループ)

3.(令和2年3月30日付)製糖関係団体、新型コロナウイルスの大流行を受けて欧州委員会に特別な措置を要請

 欧州てん菜生産者連盟、欧州砂糖実需者委員会、欧州食品・農業・旅行労働組合連合(以下これらを総称して「製糖関係団体」という)は3月20日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行によって今後数週間から数カ月の間にEUの砂糖産業が受ける可能性のある悪影響を緩和するため、欧州委員会に対し特別な措置の検討を求める声明を発表した。

 製糖関係団体は、EUで同感染症が流行する中、てん菜農家は営農活動を続けており、EU域内の食品供給に貢献していることを強調した。また、衛生用品の需要急増を受けて、製糖業者における消毒用アルコールの生産は万全の体制で対応していることを表明した。

 一方、同感染症の大流行が引き金となってEU域内の砂糖価格が下落し、製糖業者や農家、EUの砂糖産業に関わる約48万人の雇用が深刻な脅威にさらされていると訴えた。

 砂糖の国際価格は2月中旬、砂糖の世界的な供給過剰が解消に向かうとの期待から2年9カ月ぶりに1ポンド当たり15セント台後半の値を付けた(図)。しかしその後は、COVID-19の大流行による世界的な経済活動の減速が懸念されたことが一因となり、原油やレアルの相場が下落した。これに伴い、世界最大の砂糖生産国のブラジルが砂糖増産に転じる可能性を示唆したことを受け、砂糖の国際価格はわずか1カ月で20%以上値下がりし、今後も低迷が続く可能性がある。

 国際価格が下落するとEU域内に安価な輸入品が流入するため、砂糖価格やてん菜の買い取り価格が下落する。製糖関係団体は欧州委員会に対し、同感染症による砂糖産業への影響を最小限に抑えるため、砂糖の民間在庫補助や砂糖のセーフガード措置などを講ずるよう求めた。

 また、砂糖は生活する上で必要不可欠な食品であることから、加盟国と連携してEU域内の物流網を最大限に維持するよう強く要請した。



 
(国際調査グループ 塩原 百合子)

4.(令和2年4月8日付) 欧州委員会、新型コロナウイルス感染拡大に対応する農業・食品部門を引き続き支援

 欧州委員会は3月25日、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、食料の安定供給の重要性を改めて示すとともに、極めて厳しい状況に直面している農業および食品部門に対し、すでに措置している支援策の他にも必要があれば追加措置を実行する準備もあるとしてプレスリリースを行った。

 欧州委員会は同プレスリリースの中で、生産者らが多くの困難に直面する中、欧州大陸全体における食料安全保障と安定した食料供給体制の確保が、引き続き優先事項の一つであるという認識を示した。

 また、欧州委員会のヤヌシュ・ボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員は、「われわれが前例のない危機に直面している中、生産者らが絶え間なく努力を続けてくれていることに対し、これまで以上に感謝している」とした。そして、欧州連合(EU)各加盟国の農業担当閣僚らと開催した同日のテレビ会議を踏まえ、引き続き各加盟国間の連携を強化し、急激に変化する各国の状況や要望事項などの把握に努め、欧州委員会として必要があれば追加措置を実行する準備があるとした。
 
 EU委員会は農産物市場および食品貿易の動向(需給)を監視し、同委員会の市場観測サイト(注1)を定期的に更新している。

 欧州委員会はまた、新型コロナウイルスの発生以降、農業および食品部門に対して次の支援策をすでに措置しているとした。

・共通農業政策(CAP:Common Agricultural Policy)の補助金申請期限延長
 2020年5月15日であったCAPの補助金申請期限は、1カ月延長され、6月15日に変更された。当該延長は先行してイタリアで措置され、その後、全加盟国に対しても適用された。

・加盟国による補助の増額
 新たに採択された加盟国による暫定的な補助の枠組みにより、生産者1戸当たり最大10万ユーロ(1200万円:1ユーロ=120円)、食品企業は最大80万ユーロ(9600万円)の補助を受けることができる。同補助は、欧州委員会の事前承認なしに加盟国が実施できる、いわゆる「デミニミス」助成(注2)に追加して支出することが可能である。前年に同助成の上限額は2万5000ユーロ(300万円)に引き上げられており、これにより生産者1戸当たりの最大補助額は12万5000ユーロ(1500万円)となる。

・優先レーンによる途切れない食品流通
 農産品を含む食品の優先的な流通のため、各加盟国との連携により「グリーンレーン(優先レーン)」を創設し、EU単一市場の機能を担保する。同レーンは、指定の主要国境検問所に設けられ、検査は15分以内に実施される。

 欧州委員会はその他、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために各加盟国で国境管理が行われている中、農業部門における必要な季節労働者などの移動が円滑に進むよう症状を示していない労働者に対する強制的な検疫を免除したり、医師による健康証明書を求めないよう手引きを定めるなど、対応を進めている。

(注1)欧州委員会は生乳、食肉、砂糖、作物、果樹・野菜、ワインに関する市場観測サイト(EU market observatories)を開設している。生乳、果樹・野菜のサイトについては、「生乳クオータ制度廃止後の需給調整を目的に市場観測サイトを設置」(海外情報(平成26年4月23日発)) https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_001020.html
「欧州委員会、需給動向の情報提供を行う果樹・野菜市場観測サイトを開設(EU)」(海外情報(令和元年10月24日発)) https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002533.html をそれぞれ参照されたい。
(注2)EU加盟国が農業部門に対して補助をしようとするときは、事前に欧州委員会に通知して認可を受ける必要がある。一方、補助金の総額が充分小さく、域内市場での競争や貿易歪曲的でないとされる場合は、「デミニミス」助成として、この通知や認可の必要がない。各国の補助金総額の上限は、各国の農業生産額の1.0%とされていたが、2019年2月に1.25%(特定の条件では1.5%)に引き上げられた。

 
(国際調査グループ)

5.(令和2年4月21日付) 欧州委員会、追加支援措置を採択。新型コロナウイルスの影響下にある生産者のキャッシュフローの改善など

 欧州委員会は4月16日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により困難な状況にある欧州連合(EU)の農業および食品部門を支援するため、二つの追加支援措置を採択したと発表した。生産者のキャッシュフローの改善と、関係当局および生産者の行政手続負担の軽減が期待されている。

〈前払金の増額〉
 欧州委員会は、生産者へ支払う補助金の前払分を増額するとした。具体的には、EUの共通農業政策(CAP)のうち農業者の収入保障として実施している直接支払いの前払金を現行の50%から70%に、条件不利地域対策などを講じている農村振興政策の前払金を同じく75%から85%に増額する。生産者は10月中旬から前払金を受け始めることとなる。

 また、さらなる条件緩和として、加盟国は現地確認完了前であっても生産者へ前払いすることが可能となる。

〈現地確認の軽減〉
 欧州委員会は、補助金に係る現地確認の数を減らすこととした。本来であれば、加盟国は生産者らの補助金受給要件が満たされているかを確認する必要がある。しかしながら、現在の状況では、生産者と現地確認の検査官の間の物理的な接触を最小限に抑えることが重要となっていることから、現地確認に係る抽出率をCAP予算のうち5%から3%へと減らす。

 なお、確認時期についても柔軟な対応を許可した他、これまでの農場訪問の代わりに、衛星画像を活用した農場の活用状況の確認や、位置情報が埋め込まれた写真による調査箇所の証明といった新技術の活用も推奨している。

【欧州委員会のプレスリリース】(令和2年4月17日閲覧)
https://ec.europa.eu/info/news/coronavirus-commission-adopts-additional-measures-support-agri-food-sector-2020-apr-16_en


(国際調査グループ)

【豪州】

(令和2年5月12日付)クイーンズランド州のサトウキビ生産者団体、大型トラックの運転免許試験を再開するよう州政府に要請

 豪州産糖の9割以上を生産するクイーンズランド(QLD)州では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止のために入州規制が行われており、現在、同州の居住者でない者は、国外または他州からの入州を認められていない。例外として、同州に隣接する州の居住者や、医療や物流、農業部門などに携わる労働者などについては、必要事項を満たせば入州することができるものとしている。農業部門の労働者の場合においては、QLD州入州許可証(Queensland Entry Pass)の取得や雇用証明書などの携帯が必要とされ、過去14日間以内に国内外の特定地域に滞在した場合には,14日間の自己隔離が要求されている(注1)。この入州規制は5月19日まで実施される予定であるが、必要であればさらに延長される可能性もある。

 QLD州のサトウキビ生産者団体であるCANEGROWERS(注2)によると、サトウキビの収穫が見込まれる5月下旬を前に、ニュージーランドや他州から出稼ぎに来るトラック運転手の入州に制限がかかることで、州内で収穫したサトウキビを製糖工場や専用貨物列車(注3)まで搬入するトラック運転手の不足が懸念されている。同州におけるサトウキビ生産量第1位で約25%を占めるバーデキン地方(注4)だけでも、最低60名は不足するとみられ、製糖業者や生産者は州内での人材確保に急いでいる。

 このような動きは、COVID-19拡大の影響で職を失った州内の労働者に対する新たな就労機会の創出が期待される一方、同州のCOVID-19感染防止対策により、大型トラックの運転免許試験も3月末から3カ月間、業務が停止される予定であることから、今後、トラック運転手への就労を希望する者がいても、免許を取得できず就労できない状況にある。

 こうした状況を受け同団体は5月5日、大型トラックの試験であれば、必要に応じ試験時に個人防護具の着用を行うことなどにより、試験官と受験者の社会的距離を十分保つことができるとして、可能な限り速やかに運転免許試験を再開するよう、州政府に対し、事態の改善を要請した。

(注1)概要は、在ブリスベン日本国総領事館「2020年4月30日付【新型コロナウイルス】クイーンズランド州における入州制限(農業従事者の必要事項等)」を参照されたい。
https://www.brisbane.au.emb-japan.go.jp/downloads/cvirus30042020.pdf
(注2)CANEGROWERSは1934年に設立され、QLD州のサトウキビ生産者の4分の3が加入している。
(注3)QLD州におけるサトウキビの輸送体系は、「外部環境が激変する中で変革期を迎えた豪州の砂糖産業」『砂糖類・でん粉情報』2018年12月号を参照されたい。
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001862.html
(注4)豪州砂糖製造業者協議会(ASMC)の統計(2019/20年度〈4月〜翌3月〉)によれば、同地方のサトウキビ生産量は同州の42%。


 
(国際調査グループ 塩原 百合子)

【タイ】

(令和2年5月21日付)タイ政府、キャッサバ農家への所得補償として追加予算を承認〜新型コロナウイルス感染症拡大による輸出減退などを受け市場価格が低迷〜

 タイでは、農業経営の安定化を図るために、主要農作物のうち5品目(コメ、アブラヤシ、天然ゴム、キャッサバおよび飼料用トウモロコシ)で、所得補償のための価格保証制度(注)が導入されている。

 4月末時点において、2019年10月〜2020年12月31日までに収穫されるキャッサバに係る予算額96億7158万バーツ(327億円:1バーツ=3.38円)のうち、半分が消化されるという試算を踏まえ、政府は2020年4月28日、今後も補てん請求の増加が見込まれるとして、キャッサバ農家向け支援に4億5800万バーツ(15億円)の追加予算を承認した。

 政府保証価格の算定基礎となるキャッサバの市場価格低迷の背景には、前年の干ばつの影響によるキャッサバの品質低下や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、主要輸出先である中国向けのキャッサバ製品(タピオカでん粉など)の輸出が平年と比較して低調であることなどが指摘されている。報道によると、制度支出の増加を見込む政府は、市場価格の保証基準価格割れ(=市場価格の低迷)の継続も想定していると考えられ、市場価格の低迷は、今後、同国のキャッサバやタピオカでん粉などの生産動向や貿易動向などにも、影響すると考えられる。

(注)当制度は、各農作物の市場価格が、農作物別に設定された政府保証価格(キャッサバ根茎(でん粉含有率25%):1キログラム当たり2.5バーツ(8円))を下回った場合に、その差額を補てんするもの。1戸当たりの保証対象生産量は、100トンまで。


087a
 
(国際調査グループ 荒川 侑子)
(国際調査グループ 小林 智也) 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272