タイから世界へ発信するサトウキビ・製糖産業における技術革新
最終更新日:2020年8月11日
タイから世界へ発信するサトウキビ・製糖産業における技術革新〜第1回国際糖・甘しゃ会議参加報告〜
2020年8月
国立大学法人 琉球大学農学部 渡邉 健太、平良 英三
NPO法人 亜熱帯総合研究センター・琉球大学協力研究員 新里 良章
【要約】
2019年7〜8月にタイ王国で開催された第1回国際糖・甘しゃ会議はタイ甘しゃ糖技術者会議とミトポンサトウキビ研究所を中心にタイの企業や大学の協力を得て開催された国際会議である。ゲストスピーカーとして著名な海外研究者らを招聘し、3日間にも及びサトウキビ・製糖産業における幅広い話題を扱った会議は大いに盛り上がり、サトウキビ大国であるタイの存在感を今一度アピールする良い機会となっていた。
はじめに
「The 1
st International Sugar and Sugarcane Conference(第1回国際糖・甘しゃ会議)」は、タイ甘しゃ糖技術者会議(Thai Society of Sugar Cane Technologists、以下「TSSCT」という)および大手製糖企業ミトポングループの有するサトウキビ研究所
1)が主催者となり、タイ最大の農業大学であるカセサート大学やタイ全土の製糖工場を統括するThai Sugar Millersの協力を受け、2019年7月31日〜8月2日にかけて、チョンブリ県パタヤシティ(図1)で開催された(写真1〜3)。パタヤシティはタイ湾に面する首都バンコク近郊の高級リゾート地であり、日本人を含め毎年多くの観光客が訪れる。「Novel techniques and innovation in cane and sugar industry(サトウキビ・製糖産業における斬新な技術革新)」というテーマの下開催されたこの国際会議に筆者らもメンバーの一員として参加し、口頭発表する機会をいただいたので、その様子について報告する。会議の概要は以下の通りである。
場所:タイ王国チョンブリ県パタヤシティデゥジットターニーホテル
日程:7月31日 開会式、基調講演(育種および病害虫防除)、一般口頭発表
8月1日 基調講演(工程管理)、一般口頭発表
8月2日 基調講演(糖および甘味料の動向)、一般口頭発表、閉会式、展示会
参加費:300ドル(3万2400円)(タイ人は3000バーツ〈1万440円〉)
(注)
(注)1ドル=108円、1バーツ=3.48円(2019年8月1日時点)
発表の内訳は、TSSCTから招待を受けた海外研究者の発表を含む19課題の基調講演、それ以外の一般口頭発表20課題、ポスター発表7課題となった。タイ、日本のほか、米国、インド、スリランカ、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、シンガポールなど多くのサトウキビ生産国から参加者が集った。以下に筆者らを含む数題の発表内容について紹介する。
1.日本人研究者の発表
(1)新里良章「The characteristics of sugarcane harvesters and the effective utilization of small sugarcane harvester in Okinawa(沖縄におけるサトウキビ用ハーベスタの特徴および小型ハーベスタの有効利用)」
タイでの加糖調製品の生産は、砂糖の調達コストの低減を模索する日本の実需者の意向を受けて始まった。現在も、同国で生産される加糖調製品の大部分は日本に輸出されているとみられることから、日本における輸入量がタイにおける生産量と仮定すると、ソルビトール調製品の生産量が圧倒的に多く、次いでココア調製品、穀粉調製品となっている(図3)。
また、特徴的な動きとして、ほとんどの品目がおおむね横ばいで推移する中、調製した豆(いわゆる「あんこ」)は、この5年間の増減率が平均53.9%と急激に生産が伸びている。これは、中国からの輸入依存度が高い3)ことに対するリスクを低減しようとする動きが背景にあるとみられ、代替生産地としてタイに注目が集まっていることがうかがえる。
タイで加糖調製品を生産する業者は少なくとも6社存在するとみられ、今回の調査ではそのうちの2社を訪問することができた。A社は、日本企業の子会社で、ソルビトール調製品を生産し、バンコク港近くの工業団地に工場を構えている(図4、写真1)。B社は、外国資本の会社で、ソルビトール調製品、粉乳調製品、ココア調製品などを生産し、タイ最大の貿易港であるレムチャバン港近くの工業団地に工場を構えている。
同国で加糖調製品を生産する理由として、(1)世界有数の砂糖(サトウキビ)とでん粉(キャッサバ)の生産国であり、原料調達が容易(2)日本より人件費を抑制できる(3)比較的安定した経済基盤があり、輸送インフラが整っている(4)海上運送の中継拠点として機能する地理的優位性から、原料調達先を多角化しやすい―ことなどが挙げられる。
(2)平良英三「Application of Near-infrared spectroscopy for sugar production in Japan(日本の製糖業における近赤外分光法の活用)」
日本の品質取引における細裂NIR法(近赤外分光法)(注)の運用と基本的な考え方と今後の可能性について発表した(写真4)。近赤外分光法は非破壊計測であり、そのメリットも多い反面、精度評価や複数装置の運用に配慮しなければならない。近赤外分光法の測定は簡便かつ迅速である一方、従来の分析は労力と時間がかかる。近赤計の精度評価には、従来法を維持する必要があり、管理センターに労力が集中する。近赤外分光法の導入に当たっては、サンプルの代表性、前処理(破砕法とその精度)、近赤外分光法と従来法の測定量、従来法の繰り返し精度などの確認が必須であることを説明した。また、実運用に当たってネットワークシステムが強力なツールと成り得ること、さらに、技術が高度化する一方で、実際に運用可能なシステムを選択すべきと持論を述べた。品質取引以外への応用についても紹介した。
(注)かつては、サトウキビの品質は搾汁液を利用して測定されていたが、細裂したサンプルを近赤外分光法(NIR法)により直接分析することにより、迅速かつ低コストで測定できる。
(3)渡邉健太「Potassium management strategy to improve sugarcane quality in northeast Thailand(東北タイにおけるサトウキビの品質向上を目的としたカリウム管理法)」
肥培管理はサトウキビの収量および品質に大きな影響を与える要因の一つであるが、その中でもカリウムは肥料の三要素の一つとして知られる一方で過剰に施用するとサトウキビの糖度を大きく低下させることが報告されている。また、カリウムを多量に含む原料は製糖工程において糖の回収率を低下させることも知られている。そのため、単位面積当たりから得られる糖収量を最大化するためには、サトウキビの栄養状態を正確に把握し、その結果に基づいた必要量のカリウムを施用するのが望ましい。ミトポンサトウキビ研究所勤務中に、現地東北タイの主要品種を用いて原料茎中の最適なカリウム含有量を明らかにするとともに、2年間にわたって近隣の製糖工場に搬入される原料茎の元素分析を行った。その結果、工場の管轄下にあるサトウキビ圃場の約60%がカリウム過剰であることが明らかになった(図4)。日本とタイでは栽培品種の養分吸収特性や土壌化学性が大きく異なると予想されるため、この研究結果を直接日本に適応することはできないが、手法そのものは容易に導入可能である。今後、同様の研究を日本でも進めていきたい。
2.海外研究者の発表
(1)Dr. Thanankorn Jaiphong(TJ博士)「Effects of irrigation and fertilizer application depth on root distribution, growth and yield of sugarcane(灌水および肥料の施用深度がサトウキビの根の分布、成長および収量に与える影響)」
TJ博士は日本への留学経験があり、鹿児島大学大学院連合農学研究科(琉球大学所属)で植物栽培学を専攻し、2017年に博士号を取得した。現在はカセサート大学カムペーンセーンキャンパスの敷地内にある国立農業機械センターの研究員として働いている。タイ帰国後も筆者らと頻繁に交流を図り、現地での視察や研究活動を積極的にサポートしてくださっている。
タイでは管理機を用いて20〜30センチメートルの深さに肥料を施用するのが一般的だが、この深さを推奨する学術的な根拠があるわけではないと言う。最適な施用深度を明らかにすることで根の発達を促進し、肥料の利用効率を高めることができるため、結果として原料の増収へとつながる。また、根をより下方まで伸長させることができればタイでは大きな問題となっている干ばつ時の減収被害も軽減されると考えられる。TJ博士は灌水条件下と干ばつ条件下で肥料の施用深度を10、20、30センチメートルと変化させた大型のポット試験を行った(写真5、図5)。施用深度が深くなるにつれ、ポット深部での根の成長が促進される傾向が見られたが、地上部の成育には大きな違いは認められなかった。また、干ばつ下では地上部の成育だけでなく根の成長も大きく阻害されたが、再度水を与えるとその後の根の成長は灌水条件下よりも早かった。以上より、深度10〜30センチメートルの範囲では収量関連形質に大きな違いが見られなかったことから、燃料の消費を抑えることができるため肥料の施用位置が浅い方が好ましいと結論付けている。また、干ばつ後の再灌水は根の成長を著しく促進するため、地上部の回復に関与している可能性がある。
(2)Assist. Prof. Khwantri Saengprachatanarug(クワントリ博士)「Farm monitoring and mapping platform for sugarcane using UAS imagery(ドローン画像を用いたサトウキビのための圃場モニタリングとマッピング基盤システム)」
クワントリ博士も鹿児島大学大学院連合農学研究科(琉球大学所属)で博士号を取得し、現在はコーンケーン大学で教職に就いている。博士はサトウキビの機械化や情報通信技術を活用したスマート農業の技術開発に関する研究を精力的に行っている。今回の講演では、 “Field practice solutions”という実用サービスの研究開発と実状について紹介していた。“Field practice solutions”は民間企業とともに進めているサービスで、現在は数千ヘクタールの規模でデモンストレーションを実施しているとのことであった。このサービスは三つのフェーズに区分され、圃場のセンシングと情報整備を行う“Farm Mapping & Monitoring”、これらの情報に基づく栽培管理を支援する“Farm Robotic solution”、さらに圃場の生産性評価と経営改善の可能性を支援する“Farm Business Intelligent”がある。このサービスのアイデアはクワントリ博士が琉球大学で学んだことをベースとしており、今回はドローンを利用した最新の研究事例を取り上げた。ドローンとマルチスペクトルカメラを利用することで、ブリックス(注)や収量の推定が可能であり、その推定に関する数理モデルについて詳しい説明があった。ドローンセンシングと地理情報システム(GIS)を活用し、ブリックスの変動解析(図6)、白葉病の被害評価、育種試験への応用などについて具体例を紹介していた。本サービスを受ける農家はLINEのようなソーシャルネットワーキングサービスを活用して対話的なサービスを受けることも可能と言う。本サービスの価格は、ドローン1フライトから得られる単位面積当たりの分析結果を最小単位として決定されるため、農家が導入しやすく長期利用が可能となるよう工夫されている。現在は、大規模生産者や製糖工場がテスト運用およびデモンストレーションとして利用しており、本格的なサービス稼働に向けて準備を進めている。
(注)搾汁液の中に溶けていて乾燥させると固まる物質(可溶性固形分)の割合。搾汁には、ショ糖、転化糖、その他の成分が溶けており、これをブリックスと表すが、糖分そのものではない。
(3)Pisittinee Chapanya「Potential of near infrared spectroscopy using quantitative analysis of sugars in molasses and high test molasses(近赤外分光法による糖蜜およびHT糖蜜中の糖成分定量の可能性)」
糖蜜中の糖分分析に近赤外分光法を利用する研究が報告されていた。糖蜜はエタノール生産の原料として利用されるため、糖蜜中に存在する発酵可能な糖分量を迅速に把握する技術が求められている。タイの製糖企業ミトポングループでは、計画的なエタノール生産を行うために、圧搾汁を酵素で発酵させた糖蜜(high test molasses〈以下「HT糖蜜」という〉)を一部で生産している。HT糖蜜の利用は長期の保存が可能となる一方で発酵に伴って変化する糖分含量(ショ糖、ブドウ糖、果糖)の把握が重要である。これらの分析にはHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法が採用されているが、希釈やろ過などの前処理が必要であり、1サンプル当たり1時間程度かかる。そこで、通常プロセスの糖蜜とHT糖蜜に含まれる糖分を近赤外分光法で測定する技術を紹介していた。近赤外分光法を利用することで、いずれの糖蜜でもショ糖、ブドウ糖、果糖の定量分析が可能であり、迅速な評価が可能であった。この方法は、異常な測定値を示すことがしばしばあるものの、異常値を学習させることにより、測定精度の改善を図ることができたと報告していた。近赤外分光法を利用することで、1サンプル当たり約1分で糖分測定が可能である。
(4)Assist. Prof. Pitporn Ritthiruangdej「NIRS in sugar mill(製糖工場における近赤外分光法)」
サトウキビ原料の品質を近赤外分光法で評価する報告であった。タイではグリーン収穫(火入れを行わない収穫)を推進しているものの、バーン収穫(製糖に不要な
梢頭部 や葉などを除去するため火入れを行う収穫)原料の割合の方が多いのが現状である。そこで、グリーン収穫およびバーン収穫原料に対応する近赤外分光法検量モデル開発を紹介していた。紹介していた測定は日本で行われている細裂NIR法と同様な方法であり、破砕した原料をそのまま近赤外分光法で測定し、糖度を評価するものである(写真6)。全茎サンプル900点を収集し、その半分のサンプルをそれぞれ焼いて模擬的なバーン収穫原料を作成していた。バーン収穫原料の水分は、グリーン収穫原料よりも低くなる傾向にあり、逆に糖度は高くなる傾向を示した。近赤外スペクトルからも同様の傾向を推察することができた。糖度や水分、繊維率などの検量モデルを作成した結果、いずれの原料についても良好な精度で評価することが可能であった。さらに、近赤外分光法ではグリーン収穫とバーン収穫原料の判別も可能であることを報告していた。
上で紹介した議題に加え、国際会議の基調講演・一般口頭発表で用いられたプレゼンテーションファイルの多くはTSSCTのホームページから入手可能である(TSSCTのホームページは
こちら)。興味のある方はぜひ活用してほしい。
3.農機具会社の展示会
国際会議ではタイの農業機械や先端技術関連会社のブースがあり、係の社員が熱心に説明を行っていた。その中で、サトウキビ用の作業機や収穫機械の製造販売を行っている会社のブースを訪ねた。
(1)Samart Kasetyon LTD.
ケーンローダやハーベスタを生産販売しており、2000年初頭に日本の小型ハーベスタ製造のメーカーと提携し小型ハーベスタ生産を手掛けたようである。しかし、その後150馬力クラスの中型ハーベスタ生産へと移行し、現在では200馬力クラスの大型ハーベスタを2機種製造販売している(図7)。
大型ハーベスタは、土壌踏圧の軽減を考慮して走行部はクローラが採用されており、販売のうたい文句となっていた。すでに、自国内で大型ハーベスタを製造するまでに農機具メーカーは進展を遂げている。タブレットのモニタを備え付けるなど、豪州やブラジルの大型ハーベスタに匹敵する外観である。収穫原料はハーベスタ後方に取り付けられたバケットでの搬出で、日本の小型ハーベスタと類似した仕様である。大型ハーベスタの製造販売は2015年からとのことで、まだ新規参入の状況である。大規模農家では豪州製の大型ハーベスタがよく見られるので、国産機種が普及していくのはこれからだと思われる。
(2)Chan Tractor
ケーンローダ、リーフカッタおよびトラクタ装着型全茎式ハーベスタが主力商品であり、会場に展示されていた(図8)。リーフカッタは立毛状態で回転するナイロンカッタによりサトウキビの枯葉を除去する装置である。15馬力程度の小型トラクタから30馬力程度の中型トラクタに搭載し、収穫前に畝間に進入して作業を行う。収穫前に枯葉を焼却する必要がなくなり、グリーン収穫が可能となる。全茎式ハーベスタは単軸のベースカッタによりサトウキビを刈り取り、ゴムロールで保護された搬送装置でバケットに積込み、集茎するサトウキビ刈り取り機である。20メートル程度刈り取ると、バケットの仕切りを開いて集茎したサトウキビを停止することなく圃場に落下させていく。ビデオ上映では茎長の短い倒伏キビも収穫しているが、直立に近い立毛状態のサトウキビが適している。
日本でも集積バケットを備えた全茎式刈り取り機が開発された経緯がある。しかし、台風や強風により倒伏し、湾曲している原料茎を集積することは困難で、刈り取り機と細断・脱葉機(ドラム脱葉機)および搬出機は別機種として開発され普及した。刈り取り機は昭和60年代前後に歩行型とトラクタ装着型(図9)が開発されたが、刈り取り部と搬送部はタイの国産刈り取り機と同様な機構であった。ドラム脱葉機は昭和50年代に開発された脱葉・細断専用機である。刈り取られて圃場に整列したサトウキビは、人力で投入口に投入すると同時に細断され、複数の脱葉ロールでドラム状になった脱葉部で脱葉しながら専用の収納袋に排出される。収納袋はトラクタや専用搬出機で圃場外へ搬出される。ハーベスタが本格的に導入される以前の収穫機械化一貫体系である。
その後、自走式刈り取り機が開発され、現在、一部離島で利用されている(図10)。特に含蜜糖を生産する離島地域で夾雑物の混入を避けるために、ドラム脱葉機と併用して稼働している。
リーフカッタも全茎式ハーベスタもタイの気象条件では、乱倒伏の少ない圃場で威力を発揮すると思われるが、台風などの影響で乱倒伏の圃場が多い日本での利用は困難である。しかし、適正に管理された6〜8カ月程度の種苗圃では、倒伏も少ないので、種苗刈り取り集積機として利用できそうである。
フロアでは、その他にもサトウキビの非破壊品質評価を手掛ける外国メーカーや、ドローンによる空撮と解析を行う企業、製糖工場内設備の設計・装備を手掛ける会社など多くのテナントがあった。サトウキビ生産が大規模化していく中で、機械化が進む状況が整いつつあるということを実感させられた。
4.会議期間中の海外研究者との交流
国際会議ということもあり、会議期間を通して多くの海外研究者と交流する機会を得た。特に前述したTJ博士とクワントリ博士は、日本滞在中に長く研究活動を共にしたこともあり、現在の活動内容や今後の共同研究などについてさまざまな話をした(写真7)。例えば、クワントリ博士とは、現在、生育中の立毛茎に対して糖度や繊維分などの非破壊分析を行えるよう、畑にも持ち運びできる近赤外分析計の共同開発を行っている。ドローンとその情報の利用についても、地域の実態に合わせた応用法について議論を深めた。TJ博士はタイの経済発展を目的としたスマート農業の推進活動に携わっており、情報交換や実態調査を兼ねて2020年2月に沖縄を訪問している。誌面の都合上、彼らとの研究活動を通じた国際交流に関しては別の記事で紹介したい。また、会議初日と最終日の夜には、以前より交流関係のあったミトポンサトウキビ研究所の所長がプライベートディナーに招待してくださり、他の海外研究者とともにディスカッションを行う場を設けていただいた(写真8)。さらに、以前にも別の国際会議で知り合ったスリランカ研究者とは同国唯一のサトウキビ研究機関「Sugarcane Research Institute2)」への視察許可をいただくなど、さまざまな国の研究者と友好関係を築いた。
おわりに
本会議はTSSCTおよびミトポンサトウキビ研究所の共同主催により開催された初めての国際会議である。以前より会議開催の話は出ていたと思うが、今回開催に踏み切った背景には、砂糖税の導入や砂糖の国際価格の下落に伴う国内サトウキビ原料価格の低迷、干ばつによる2019年期の大幅な減収など厳しい状況にあるタイの製糖業界を活気づけ、その存在を他国にアピールする意味もあったのだろう。これまでISSCT(国際甘しゃ糖技術者会議)3)やIAPSIT(製糖およびその統合技術に関わる専門家たちの国際協会)4)など国際組織が主催となってタイで開かれた国際会議はあったが、今回このような大きなイベントをタイの組織が中心となって無事成功へと導いたことには大きな意義があるように思う。
本稿ではあまり触れられなかったが、各分野の代表ともいえる著名な海外研究者が多く参加したこともあり、サトウキビ生産、工程管理、糖製品の開発に関わる幅広い内容が本会議では扱われた。一方で、「サトウキビ・製糖産業における斬新な技術革新」というかなり大まかなテーマや口頭発表のおよそ半分の課題数となった基調講演の多さが示す通り、全体としてどのようなビジョンを持った会議であったのかが不明瞭であったように感じる。今後は、その年の研究トレンドを考慮した上で、タイならではのアプローチが可能なトピックに焦点を当て、会議全体にもう少しまとまりをもたせることが望まれる。また、国際会議にはつきもののエクスカーション(研究所や製糖工場など関連施設への訪問を兼ねた小旅行)や会議主催のディナーパーティーなども今回は催されなかった。タイは世界的なサトウキビ生産国というだけでなく、その独特な景観や食文化にも人々の関心が高いので、次回以降これらの点が改善されればより満足度の高い会議となるだろう。
現段階では第2回会議の開催に関してはっきりと決まっているわけではないが、早ければ2021年にも開催予定だという。この記事を読み、次回の国際会議参加に興味を持ってくださる方がいれば幸いである。
(参考文献)
1)渡邉健太(2020)「タイ王国のサトウキビ研究開発を先導するミトポンサトウキビ研究所」
『砂糖類・でん粉情報』(2020年4月号)独立行政法人農畜産業振興機構
2)渡邉健太(2020)「スリランカにおけるサトウキビ・砂糖産業および研究開発の動向 〜Sugarcane Research Institute視察報告〜」
『砂糖類・でん粉情報』(2020年1月号)独立行政法人農畜産業振興機構
3)寳川拓生、渡邉健太、城間力、川満芳信(2017)「「足るを知る」タイから学ぶ持続可能なサトウキビ産業の発展
〜第29回国際甘しゃ糖技術者会議プレコングレスツアー参加報告〜」『砂糖類・でん粉情報』(2017年5月号)独立行政法人農畜産業振興機構
4)渡邉健太(2018)「製糖およびその統合技術に関わる専門家たちの国際協会(IAPSIT)から知る世界の糖業界の方向性
〜第6回IAPSIT国際会議参加報告〜」『砂糖類・でん粉情報』(2018年9月号)独立行政法人農畜産業振興機構
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Tel:03-3583-9272