でん粉原料用ばれいしょ品種「パールスターチ」の特性
最終更新日:2020年11月10日
でん粉原料用ばれいしょ品種「パールスターチ」の特性
2020年11月
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
技術支援部東北技術支援センター 東北第1業務科長 田宮 誠司
【要約】
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センターが育成したでん粉原料用ばれいしょ「パールスターチ」は、従来の主要品種である「コナフブキ」より枯ちょう期が遅く、収穫時における上いも重がかなり多く、でん粉重についても上回るなど多収である。また、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持ち、近年「コナフブキ」に置き換えて栽培され始めている。
はじめに
でん粉原料用のばれいしょは「コナフブキ」が主要品種として栽培されてきたが、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性がないため、安定生産上の問題があり、でん粉の安定供給のため、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ品種の育成が求められてきた。近年、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性の品種が複数育成され、「コナフブキ」に置き換えて栽培され始めている。このうち、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という)北海道農業研究センターで育成した「パールスターチ」の特性を紹介する。
1.来歴および選抜経過
「パールスターチ」は平成13年に農研機構北海道農業研究センターにおいてジャガイモシストセンチュウ抵抗性の高いでん粉品種の育成を目標に、「ムサマル」を母、「北海87号」を父として人工交配を行い、14年に播種し、15年に圃場で第二次個体選抜試験を行った。17年には「01062-5」の系統名で生産力検定予備試験に供試、18、19年の生産力検定試験の結果、有望と判断され20年から「勝系24号」の系統名で生産力検定試験、系統適応性検定試験、特性検定試験を行った。23年に「北海105号」の地方番号を付与して北海道各地の奨励品種決定調査に供試し、25年から奨励品種決定調査(現地試験)に供試して実用性を検討し、27年に「パールスターチ」として、品種登録申請を行い、令和2年3月に品種登録された。
2.「パールスターチ」の特性
(1)栽培特性
「パールスターチ」は「コナフブキ」と比較して、萌芽期はほぼ同じで、終花期の茎長は「コナフブキ」よりも長く、枯ちょう期は「コナフブキ」よりも遅く(表1)、極晩生である。草型は「コナフブキ」の茎型に対して、中間型であり、花の色は白である(写真1)。
塊茎の形は「コナフブキ」と同様の短卵形で、目の数は「コナフブキ」よりもやや少なく、目の深さもやや浅い。皮色は「コナフブキ」と同様の淡ベージュで、目の基部にも「コナフブキ」よりも薄いが赤の着色がある。肉色は「コナフブキ」の白に対して、明黄である(写真2)。
(2)収量特性
「パールスターチ」の収穫期における上いも重は「コナフブキ」よりもかなり多く、でん粉価は「コナフブキ」よりも低いが、でん粉重は「コナフブキ」より上回る(表1)。
生育調査の結果では、上いも重は8月中旬から「コナフブキ」を上回る(図1)。でん粉価は生育期間を通して「コナフブキ」よりも低いが(図2)、でん粉重は9月中旬から「コナフブキ」をやや上回る(図3)。
(3)病虫害抵抗性
「パールスターチ」は、ジャガイモシストセンチュウとYモザイク病に対して抵抗性を持つ(表2)。そうか病抵抗性はやや弱で「コナフブキ」よりは強く、疫病抵抗性は弱で「コナフブキ」と同等、疫病による塊茎腐敗抵抗性は弱で「コナフブキ」よりも弱い。
(4)でん粉特性
「パールスターチ」のでん粉の粒子の大きさは「コナフブキ」よりもやや大きく、離水率は「コナフブキ」よりも低く、リン含量は「コナフブキ」よりも高い。糊化開始温度は「コナフブキ」よりも低く、最高粘度は「コナフブキ」並みである(表3)。
3.普及性・栽培上の注意
ジャガイモシストセンチュウ抵抗性であり、ジャガイモシストセンチュウ発生地域においても減収を避けることができるとともに、ジャガイモシストセンチュウの発生密度を低下させることができる。
上いも重は8月中旬から「コナフブキ」を上回るが(図1)、でん粉重が「コナフブキ」を上回るのは9月中旬以降であるため(図3)、「パールスターチ」の多収性を生かすためには栽培期間を確保する必要がある。
栽培上の注意点として、疫病による塊茎腐敗に対する抵抗性が「コナフブキ」より弱いため、疫病防除を適切に行うとともに、塊茎腐敗に効果のある薬剤の使用、排水不良圃場での栽培を避けるなどの対策を行う必要がある。
おわりに
「パールスターチ」という品種名は、多収で真珠(パール)のように高い評価をされるでん粉(スターチ)原料用であることから命名したものである。「パールスターチ」は平成30年から栽培が開始されており、他のジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種とともに令和4年度までに「コナフブキ」を置き換える予定となっている。
なお、「パールスターチ」の育成の一部は農研機構生研支援センターイノベーション創出強化研究推進事業の支援を受けたものである。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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