食品メーカーにおける天然でん粉および化工でん粉の利用形態
最終更新日:2021年3月10日
食品メーカーにおける天然でん粉および化工でん粉の利用形態
〜令和元年度甘味料およびでん粉の仕入動向等調査の概要(3)〜
2021年3月
【要約】
令和元年度(4月〜翌3月)の天然でん粉および化工でん粉の仕入量の動向は総じて安定しているが、加工でん粉を除くすべての種類で「減少」とする割合が「増加」とする割合を上回った。仕入価格の動向は総じて安定しているが、すべての種類で「やや上昇」とする企業が存在した。令和2年度の仕入量の見込みはすべての種類で「減少」とする割合が「増加」とする割合を上回った。
はじめに
わが国で流通するでん粉は、輸入トウモロコシを原料とするコーンスターチが9割弱、国内産いもでん粉が1割弱を占め、その他輸入でん粉(タピオカでん粉、サゴでん粉など)、小麦でん粉などが供給されている(図1)。
その用途は、異性化糖や水あめなどの糖化製品向けが最も多く、次いで化工でん粉
(注)、食品、繊維・製紙・段ボールとなっており、食品分野を中心に、工業や医療分野など幅広い用途で活用されている(図2)。このようにでん粉は、私たちの生活や社会と密接に関係していることから、安定的に供給していくことが欠かせない。
そこで当機構では、実需者のでん粉に対するニーズを把握し、でん粉の需給動向の判断に資する基礎的な情報を収集するため、主要なでん粉について食品製造事業者を対象としたアンケート調査を毎年実施している。
本稿では、令和元年度(4月〜翌3月)を対象に実施した「甘味料およびでん粉の仕入動向等調査」のうち、天然でん粉(ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、コーンスターチ、タピオカでん粉)および化工でん粉(デキストリン類、加工でん粉)の調査結果について報告する。なお、砂糖類および人工甘味料の調査結果については本誌
2021年1月号を、加糖調製品およびその他甘味料については
同2月号を参照されたい。
(注)天然でん粉を酸や熱、化学薬品などで処理することで、でん粉本来の特性を改良したり(接着力の強化、粘度の調整など)、新しい性質を加えたり(冷水による可溶性など)したもの。天然でん粉を原料として国内で製造されているものと、タイやEUなどから輸入された化工でん粉そのものの2種類が流通している。
1.調査の方法
(1)調査時期
令和2年9〜10月
(2)調査対象
でん粉を使用する食品製造事業者
(3)調査項目
令和元年度(4月〜翌3月)のでん粉の用途、仕入れ状況などに関する事項
(4)調査方法
郵送などによる調査票の発送および回収を実施
(5)回収状況
配布企業数 240社
回収企業数 97社
調査票回収率 40.4%
(6)集計区分
(7)集計結果についての留意事項
ア.図中の「n」は有効回答数を表す。
イ.端数処理の関係により、図中の内訳の合計が100%にならないことがある。
ウ.「不明・無回答」は比較対象から除外する。
2.調査企業の概要
でん粉を使用する企業97社の資本金の額と業種のそれぞれの構成比は、図3の通り。このうち、天然でん粉を使用する企業は80社、化工でん粉を使用する企業は72社であった(複数のでん粉を使用する企業があるため、回収企業数と内訳の合計は一致しない)。
3.集計結果
(1)天然でん粉
ア 天然でん粉の用途
天然でん粉の用途を見ると、「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」が36件と最も多く、「水産練り製品」「和生菓子・洋生菓子」がともに24件と続き、前年度調査と同じ順位であった(図4)。また、それぞれの用途に使われるでん粉の比率も前年度調査と同様の傾向である。
また、種類別に見ると、コーンスターチが14種類と最も多くの用途で使用されており、次いでタピオカでん粉が10種類、ばれいしょでん粉が9種類、かんしょでん粉が6種類となっている。「その他」に分類される用途には冷凍食品などが挙げられる。
イ 天然でん粉を用いた商品の数
天然でん粉を使用する商品の数は、1企業当たり「5点以下」が最も多く、かんしょでん粉では9割を占めた(図5)。
ばれいしょでん粉およびコーンスターチについては、101点以上の商品に用いる企業が1〜2割見られ、比較的多くの商品に使用されていることが分かる。また、前年度の調査ではタピオカでん粉を50点以上の商品に用いる企業はいなかったが、今年度は「51〜100点」の商品に用いる企業が存在した。
ウ 天然でん粉を使用する理由
天然でん粉を使用する理由は、「食感を良くする」が49件、「商品の特性上、他のでん粉では代替できない」が48件と、前年度調査と同様この2項目が主な回答となっている(図6)。天然でん粉の使用理由としては、それぞれのでん粉の特性などを生かした食感の改良などを主な目的に使用されていることがうかがえるが、「製造原価(製造コスト)を抑える」「調達が容易である」「価格が安定している」という調達面を評価する回答も一定数あり、それらの回答にタピオカでん粉は含まれていなかった。「その他」として「原料表示に記載するため」とする回答もあった。
エ 仕入量の動向
(ア)直近1年間の仕入量
令和元年度の仕入量は、「10トン以上100トン未満」が25%と最も多く、100トン未満が過半を占めた(図7)。
種類別の割合で見ても、かんしょでん粉を除き「10トン以上100トン未満」が最も多い。すべての天然でん粉で「1300トン以上」仕入れる企業が存在し、業種は製粉や菓子製造などであった(図8)。
(イ)前年度と比較した仕入量の動向
平成30年度と比較した令和元年度の仕入量の動向は、いずれの天然でん粉も「横ばい」が最も多かったものの、「やや減少」または「大幅に減少」とする企業がタピオカでん粉で4割、その他のでん粉でも2割程度存在した(図9)。減少の理由としては、いずれの天然でん粉でも「需要の減少により商品の出荷数量が減ったため」とした回答が多かった。一方、ばれいしょでん粉は「やや増加」または「大幅に増加」の割合が前年度調査の約3倍となっており、その理由としては、「需要の増加」「新商品の開発」が多く、業種としては菓子製造などであった。
(ウ)今後の仕入量の見込み
令和2年度の仕入量の見込みは、「やや減少」または「減少」とした企業の割合が2〜4割と減少傾向がうかがえるが、コーンスターチは「横ばい」が7割を占め、他のでん粉と比較すると安定した見込みとなっている(図10)。減少見込みとする理由としては「需要の減少により商品の出荷数量が減ったため」が大宗を占め、「新型コロナウイルス(COVID-19)の影響」を挙げる企業もあった。かんしょでん粉では、かんしょ不作の解消を見込み「大幅に増加」とする企業があったが、令和元年度においてもサツマイモ
基腐病は収束しておらず、生産量への影響が懸念されている状況である。
オ 仕入価格の動向
(ア)直近の仕入価格
1キログラム当たりの仕入価格(令和2年3月時点)は、前年度の調査では「80円以上120円未満」が最も多かったが、今年度は「120円以上160円未満」が最も多い(図11)。これは有効回答数の多いばれいしょでん粉とコーンスターチにおいて、同価格帯の割合がそれぞれ前年度比1.5倍、4倍に増加していることが寄与している(図12)。
全体的な仕入価格の動向は前年度調査と同様で、200円未満の価格帯が大宗を占めた(図11)。
(イ)前年度と比較した仕入価格
平成30年度と比較した令和元年度の仕入価格の動向は、いずれのでん粉も「横ばい」が最も多く6〜7割を占めたものの、かんしょでん粉は「やや上昇」とした企業の割合が4割弱に上り、理由は仕入れ先の価格改定などであった(図13)。タピオカでん粉は前年度調査で「やや上昇」「大幅に上昇」の割合の合計が約4割に上ったが、今年度は「やや上昇」の割合が約1割となり、「やや下落」とした企業もあった。タピオカでん粉の主な輸入先であるタイの国内価格は、干ばつや洪水などによるでん粉原料用キャッサバの供給不足などを背景に29年(2017年)末から急上昇し、30年(2018年)を通して高騰して推移したものの、30年後半にはタイでの天候回復や、収益性の劣るサトウキビからキャッサバへの転作などによって作付面積が増加したことにより国内価格は下落し、その後は比較的安定的に推移している(図14)。
カ 天然でん粉の調達面に対する評価
天然でん粉の調達面の5段階評価において、いずれのでん粉も「満足」「やや満足」「普通」の割合の合計が8割以上を占めた(図15)。「不満」「やや不満」とする企業もあり、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、タピオカでん粉は「原料の安定的な供給に不安がある」、コーンスターチは「仕入れ先の価格の上昇による」が主な理由として挙げられた。
(2)化工でん粉
ア.化工でん粉の用途
化工でん粉の用途を見ると、「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」が27件と最も多く、次いで「水産練り製品」(15件)、「和生菓子・洋生菓子」(10件)となった(図16)。上位3位までは天然でん粉と同じであるが、天然でん粉で9位(2件)であった「即席麺」が4位(7件)に入っている。
種類別に見ると、デキストリンは「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」の用途が最も多く、次いで「清涼飲料」「アイスクリーム類」となっており、「清涼飲料」および「アイスクリーム類」はデキストリンのみであった。清涼飲料にデキストリンを使用する理由は商品中のカロリーを抑えるためや、品質が安定していること、商品のコンセプトによるものなどさまざまである。一方、加工でん粉では「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」「水産練り製品」が同件数で最も多く、次いで「和生菓子・洋生菓子」の順となっている。
「その他」に分類される用途には「とろみ調整食品」や「冷凍食品」などが挙げられた。
イ.化工でん粉を使用する商品の数
化工でん粉を使用する1企業当たりの商品数は、デキストリンが「5点以下」、加工でん粉が「101点以上」の割合が最も多く、加工でん粉の方が比較的幅広い商品に使用される傾向がうかがえた(図17)。
ウ.化工でん粉を使用する理由
化工でん粉を使用する理由は、「品質が安定している」が28件と最も多く、次いで「商品の付加価値を高める」(19件)、「天然でん粉の欠点を補う」(17件)となっている(図18)。
種類別に見ると、「品質が安定している」「商品の付加価値を高める」「天然でん粉の欠点を補う」「かさ増しする」「価格が安定している」「調達が容易である」などは加工でん粉が7割以上を占め、安定した品質と価格が評価されていることが分かる。一方、「商品の特性上、他のでん粉では代替できない」「食感を良くする」「とろみを付ける」などはデキストリンのみの回答となっており、商品を特徴付ける用途に多く使われていた。「その他」に分類される回答は加工でん粉が多く、「成形性を高める」「加熱耐性の強化」など加工でん粉の機能性に応じた多様な理由が挙げられた。
エ.仕入量の動向
(ア)直近1年間の仕入量
令和元年度の仕入量は、「5トン以上100トン未満」が36%と最も多く、100トン未満の仕入量が多いのは前年度調査と同様の傾向である(図19)。
種類別に見ると、どちらの種類も「5トン以上100トン未満」が最も多い。加工でん粉では「900トン以上」とする企業も1割程度存在した(図20)。
(イ)前年度と比較した仕入量の動向
平成30年度と比較した令和元年度の仕入量の動向は、どちらの種類も「横ばい」が5〜6割程度と大半を占めるが、「増加」と「減少」とする企業も一定数見られた(図21)。デキストリンは「大幅に減少」「やや減少」の割合の合計が3割に上り、減少の理由として「需要の減少により商品の出荷数量が減ったため」「1商品当たりの含有量を減らしたため」などが挙げられた。
「増加」の理由はいずれの種類も「需要の増加により商品の出荷数量が増えたため」「新商品の開発」などが挙げられている。
(ウ)今後の仕入量の見込み
今後の仕入量の見込みは、どちらも「横ばい」が7割程度と最も多い(図22)。一方、前年度調査では1割程度であった「大幅に減少」「やや減少」見込みの割合が、今年度の調査ではいずれの種類も2割程度に増加した。減少見込みの要因としては「需要の減少により商品の出荷数量が減ったため」が大半を占めたが、「COVID-19の影響」を挙げる企業もあった。
オ.仕入価格の動向
(ア)直近の仕入価格
1キログラム当たりの仕入価格(令和2年3月時点)は、「280円以上」が23%と最も多く、次いで「160円以上200円未満」(14%)、「120円以上160円未満」(12%)となっている(図23)。種類別に見ると、デキストリン、加工でん粉ともに価格帯が分散している傾向にあるが、デキストリンの「280円以上」の割合は前年度調査の1割から2割に増加している(図24)。化工でん粉にはその加工処理工程に応じてさまざまな種類があることから、その特性や機能性に応じて価格帯が分散するものと推測される。
(イ)前年度と比較した仕入価格
平成30年度と比較した令和元年度の仕入価格の動向は、いずれの種類も「横ばい」が約7割と最も多く、おおむね安定的に推移していると言える(図25)。一方、加工でん粉では約2割が「やや上昇」と答えており、上昇の理由としては「原料作物の市場相場の変動によるもの」が「仕入先の価格改定によるもの」と並んで最も多く、主要な輸入先国はタイであった。また、「為替の変動によるもの」とした回答もあった。
カ.化工でん粉の調達面に対する評価
化工でん粉の調達面の5段階評価において、デキストリンおよび加工でん粉のいずれも「満足」「やや満足」の割合の合計が過半を占めている(図26)。加工でん粉では「不満」とした企業は無かったが、「普通」の回答の理由として「求めるニーズに合う特性や品質の原料が無いまたは不足しているため」とした意見もあった。デキストリンにおいて「やや不満」とする回答の理由としては「仕入れ先の価格の上昇による」「原料作物の安定生産に不安がある」などが挙げられた。
おわりに
令和元年度(4月〜翌3月)を対象とした今回の調査では、天然でん粉および化工でん粉の仕入量の動向は、おおむね横ばいが最も多く総じて安定していると言えるが、「大幅に減少」または「やや減少」とする割合が2〜4割に上り、加工でん粉を除くすべての種類で「減少」とする割合が「増加」とする割合を上回った(図9、図21)。2年度の仕入量の見込みにおいては、すべての品目で「減少」が「増加」を上回っている(図10、図22)。
農林水産省の需給見通しでは当初、元でん粉年度(10月〜翌9月)について、東京オリンピック・パラリンピックの開催などを背景とした需要の増加を見込んでいたが、COVID-19の拡大を受けて開催が延期となったことに加え、外出自粛などの影響により下方修正され、最新の見通し(2年9月時点)ではでん粉需要は前年度を3.0%下回って推移すると見込まれている(表)。一方、2でん粉年度については、延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催による清涼飲料向けの需要の増加などを見込み、でん粉需要は前年度を2.5%上回ると見通しているが、COVID-19の収束が見通せない中、先行きは不透明な情勢が続いている。
今回の調査においても、2年度の仕入れ見込みについて「需要の減少」を見込んだ慎重な意見が多かったものの、少ないながらも「新商品の開発」「需要の増加」を理由に「増加」とする企業もあった。在宅勤務の拡大などによるライフスタイルの急激な変化に伴い、でん粉を使用する商品の需要も変動する中、消費者の新たなニーズを捉えた商品の開発に取り組む企業の努力もうかがい知ることができた。当機構としても、でん粉の価格調整業務の的確な遂行などを通じ、でん粉の需給の安定に貢献できるよう努めてまいりたい。
最後にお忙しい中、本調査にご協力いただいた企業の皆さまに、改めて厚く御礼申し上げます。
【参考文献】
・農林水産省『でん粉の需給見通しについて』
・農林水産省『砂糖及びでん粉をめぐる現状と課題について』
・調査情報部(2021)「世界のでん粉需給動向(2019年度)」『砂糖類・でん粉情報』(2021年1月号)独立行政法人農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272