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でん粉を主原料としたオブラートの活用について

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最終更新日:2021年10月11日

でん粉を主原料としたオブラートの活用について

2021年10月

協和食品工業株式会社 専務 大橋 賢一

1.オブラートとは?

 皆さんはオブラートをご存知ですか?

 オブラートは、薬を飲むための丸い半透明の薄いシートです(写真1)。今でも薬局やドラッグストアで販売しているので、一度は目にしたことがあるかもしれません。

 しかし、最近ではカプセルや錠剤が主流となり、粉薬などの飲みにくい薬を服用するときに重宝されていたオブラートはあまり使われなくなっています。むしろ、テレビやラジオなどで「オブラートに包んで」という表現を耳にすることの方が多いのではないでしょうか。直接的な表現を避け、遠回しで軟らかな言い方をするときに、比喩として「オブラート」が使われています。

 そんなオブラートですが、実は薬を飲むときにだけ使われているのではなく、ゼリーやグミなどをはじめ、さまざまな菓子にも使われています。

 それでは一体、オブラートとは何か?それは、主原料や製造方法に大きく関係しているのですが、例えば今や非常食や保存食としても知られている、でん粉をアルファ化させたアルファ米。一度炊いた米を乾燥させたもので、熱湯や水を加えるだけで食べることができます。アルファ米は、炊いた米の状態で長期間の保存が可能な上、手軽に食べることができるのが特徴です。もちろん、オブラートはばれいしょでん粉やかんしょでん粉を使用しているので米ではありませんが、実はアルファ米と同じような要領で作られているのです。

 つまり、オブラートはアルファ米ならぬアルファでん粉そのものなのです。
 

2.オブラートができるまで

 オブラートの主原料は、ばれいしょでん粉やかんしょでん粉です。

 それらに少量の乳化剤を加えたあと、熱湯を入れて(かく)(はん)し、糊状原液を作ります(写真2)。この熱湯に溶かして糊状に変化する過程がでん粉のアルファ化です。

 次に表面温度約100度程度の回転式蒸気乾燥ドライヤーに、糊状原液を厚さの調整をしながら流し込み、回転させることで乾燥させます(写真3)。すると、薄くて半透明なオブラートシートが出来上がり(写真4)、それぞれの形状、寸法に調製して製品となります(写真5)。
 
 
 
 

3.オブラートの種類と用途

 どのオブラート製品も主原料や製造方法については基本的に同じですが、実はさまざまな形や用途があります。ここではそれらを紹介していきたいと思います(写真6)。

(1)薬用オブラート

 いわゆるオブラートといえば、薬を飲むときに使う薬用のオブラートが思い浮かぶのではないでしょうか。オブラートの中では最も薄く、丸型がポピュラーなもので、その他にも角型や袋型のものがあります。

 また、ぶどう味やいちご味のものもあり、いずれもより薬を飲みやすく、使いやすくするための工夫がなされて進化してきました。

(2)菓子用オブラート

 薬用のオブラートより若干厚めで、一般的には寒天ゼリーやあめなどの菓子に巻いて使用します。寒天ゼリーなどの菓子の表面をオブラートで覆うことで、包材との付着を緩和し、ペタ付きを抑えます。

(3)粉末オブラート

 白く光沢感のある見た目が特徴で、寒天ゼリーやグミ、柚餅子(ゆべし)などの菓子の表面にまぶすことによってペタ付きを抑えながら、キラキラとしたデコレーションを演出します。

 また、オブラートの吸水性が高いという特徴を生かし、フルーツ大福など、フルーツの表面にまぶすことでにじみ出る果汁を抑える離水防止という目的で使われることもあります。

(4)顆粒オブラート

 今までのように薬を飲むために使うことも、そして、新たな用途として料理や菓子作りの材料としても使うことができる新しい形のオブラートです。
 

4.でん粉製品としてのオブラート

 オブラートは、その主原料のほぼ100%がばれいしょでん粉やかんしょでん粉から作られているため、まさにでん粉製品そのものと言えると思います。

 最近ではSNSを中心にして、オブラートの「食べられる紙」としての特徴を生かし、可食インクで作られたフードペンや食用色素でオブラートに文字やイラストを描いて、弁当のおかず、パンや菓子などに貼って楽しむオブラートアートが広まっていますが、基本的にシート状のオブラートは、ご紹介した通り薬用オブラートと菓子用オブラートとして薬を包んだり、菓子に巻いて使用し、粉末オブラートは、取り粉や飾り粉として菓子にまぶして使います。

 ここまでいろいろとオブラートについて紹介してきましたが、これまでのオブラート製品はまだでん粉の特徴の一部を使ったものに過ぎないと考えています。ましてや、オブラートがアルファでん粉だとすると、さらに用途としての可能性は広がります。その可能性の一つが、「顆粒オブラート」です。

5.オブラートは「顆粒」という新しい形へ

 オブラートがでん粉製品そのものだということは先に述べましたが、皆さんの最も身近なでん粉製品といえば、片栗粉ではないでしょうか。片栗粉は、あんかけ料理のとろみ付けや揚げ物の衣付けなど、料理には欠かすことのできない食品です。

 一方でオブラートは長い間、主に薬用と菓子用としてその限られた用途の中で利用されてきました。基本的には現在もその傾向は変わっておらず、そのために近年オブラートの出番はだんだんと減ってきています。

 そこで、オブラートをもっと身近で、同じでん粉製品である片栗粉よりもさらに手軽に幅広く使ってもらいたいという想いから、 オブラートを日常へ”というコンセプトのもと開発されたのが顆粒オブラート「とろみの精」という商品です(写真7)。

 「とろみの精」は、とろみ調理用粉として料理や菓子作りに使います(写真8)。顆粒ということで、ダマになりにくく溶けやすいため、片栗粉と違い水で溶く必要がなく、そのまま振りかけて使うことができ、カップなどの容器に溶かして直接とろみを付けることも可能です。

 また、アルファでん粉であるオブラートということで、低温高温どちらの場合でもとろみを付けることが出来、一度しっかりととろみを付けてしまえば、片栗粉と違って時間が経ってもとろみが緩くなりにくいのも特徴です。そして、とろみを付けたあと冷やして固めると、ゼラチンで作ったものでも寒天で作ったものでもない、もっちりとした食感が得られます。

 さらにオブラートは吸水性が高いので、ミンチ料理や混ぜ料理のつなぎとして使うと、水分を吸収しながら具材をまとめ、ふわっと軟らかく仕上げます。

 このようにオブラートを顆粒にしたことでさらに用途が広がり、使いやすくなりました。 
 
 

6.より必要とされるオブラートへ

 時代の変化とともに必要とされるものは変わります。日本では今後さらに高齢化が進み、2050年には3人に1人が高齢者になるという予想もあるほどです。そして、年齢を重ねていくにつれて食事との向き合い方も変わっていきます。

 「人間は、喉から年を取る」という言葉があるくらい喉の衰えは早いようで、「最近、食事をするときによくむせる」と思うのは、だんだんと喉の力が弱くなってきているからかもしれません。加齢とともに喉の力が弱くなってくると、誤って気管に飲食物が入ってしまう「()(えん)」を起こしやすくなります。

 そこで、重要となってくるのは、食べ物や飲み物にとろみを付けることです(写真9)。例えば、紹介した「顆粒オブラート」を使用してとろみを付けることで、喉の通りが良くなり、食べやすく飲みやすくすることによって「誤嚥」を防ぐことができます。

 最近では、とろみを付けることができる専門のとろみ剤をドラッグストアなどでよく目にするようになりました。こうした商品は高齢者施設や病院などでは日常的に使われているようですが、家庭でとろみ剤を利用している人はまだまだ少ないように思われます。

 むしろ、食べ物や飲み物にとろみを付けることで未然に「誤嚥」を防げるということ自体があまり知られてないのではないかと思います。中には知っていたとしても家庭で専門のとろみ剤を使うことにちょっとした抵抗を感じており、利用していないかもしれません。それは、高齢者本人の場合もあるかもしれませんし、家族の方が感じられている場合もあるかもしれません。

 いろいろなケースがあるかとは思いますが、もし、家庭においてお互いが抵抗感なく、日常的に利用していたもので「誤嚥」が防げるとしたら・・・。

 人間にとって食べることは生きていく上でとても大切なことです。おいしく食べる、楽しんで食べることは人生の大きな楽しみでもあります。微力ながらオブラートも、その一翼を担える存在になれればと思っています。
 

おわりに

 昨今、オブラートを言葉として知っていたとしても、実際には使ったことがない、あるいは知らないという人も多いのではないでしょうか。また、菓子を包んでいる透明な紙のようなものとして知っている人がいたとしてもやはり、オブラートと言うと、薬を包むというイメージが強いのではないかと思います。

 そんなイメージを変えるべく、オブラートを日常的に使えるよう顆粒化した顆粒オブラートは、「とろみの精」という名称の通り、オブラートが持つ水分に触れるととろみ”が出るという特性を生かして料理や菓子作りだけでなく、離乳食や家庭で作る介護食といったとろみが必要なケースの一助としても使える新たなオブラート製品です。

 もちろん、今までと同じように薬を飲むときに使うことも可能です。湯や水を入れたカップに顆粒オブラートを溶かしてとろみを付けたあと、その中に薬を入れます。そうすることで、飲みにくい薬を「とろっと」「つるっと」飲むことができます。顆粒タイプなので、温度や使用する量、混ぜ方を変えることでとろっとからつるっとまで好みの食感を作り出すことができ、自分好みの飲み方によって薬を服用することが可能になります。

 今までほとんど知られていなかったオブラートの特性を顆粒という形で表現し、オブラートがより日常的なものとして手軽で幅広く使えるようになりました。一方で、まだまだ未熟な製品ですので、まずは認知されるところから始めなければなりません。その特性を含め、利点や用途などさまざまなことを発信していきながら、魅力を伝えていこうと思っております。

 古いようで新しいオブラート。そんな雰囲気を感じてもらいながら、みなさんの暮らしを少しでも豊かにできる新しいアイテムとしてオブラートを使っていただけたら幸いです。

 そして最後に、オブラートと粉末オブラートを使って鶴と雪を表現してみました(写真10)。少し、オブラートの印象が変わったでしょうか。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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