図4のように無水酢酸もしくは酢酸ビニルを用いて酢酸基をエステル結合で導入したものが、酢酸デンプン(アセチル化でん粉)、図5のようにプロピレンオキサイドを作用させ、ヒドロキシプロピル基をエーテル結合で導入したものが、ヒドロキシプロピルデンプンである。
一般に官能基の付加の程度を表すのに、グルコース残基あたりの置換基の数Degree of Substitutionの略「DS」を用いる。従って、すべての水酸基が置換されれば、DSは3となり、10個のグルコースに1個の官能基が導入されれば、DSは0.1となる。
酢酸デンプンおよびヒドロキシプロピルデンプンはDSが高くなるにしたがい、糊化開始温度が低下し、糊液は透明で老化安定性に優れる。これはでん粉粒子の結晶構造が弱くなり、酢酸基やヒドロキシプロピル基により親水性が増すとともに、老化時のでん粉分子の再配列に立体障害が生じるためと考えられている
1)。官能基の分子量が大きく、より立体障害が生じやすく、また高DSの設計が可能なため、ヒドロキシプロピルデンプンの方が、酢酸デンプンより老化安定性に優れている。
図6は濃度6%のタピオカでん粉
懸濁液をアミログラフで測定した粘度曲線である。アミログラフはでん粉懸濁液を通常1分当たり1.5度の一定の速度で加熱、冷却し、温度と粘度の関係を記録する測定器である。DSが高くなるほど、糊化温度が低くなり粘度も高くなることが示されている。
また、図7は、ばれいしょでん粉の未加工でん粉とヒドロキシプロピルデンプンの冷解凍した25%濃度ゲルを比較したものである。未加工のゲルは老化が激しく白濁してぼそぼそとした状態であるのに対し、ヒドロキシプロピルデンプンは透明で軟らかくみずみずしさを保っている。
主な用途は、でん粉の老化安定性が求められる冷凍うどん、冷凍かまぼこ、冷凍の和菓子類などがある。特に自然解凍で喫食する場合は、老化しやすい0度付近の温度領域をゆっくりと通過するため、高DSのヒドロキシプロピルデンプンが求められる。
また、タピオカのヒドロキシプロピルデンプンをベーカリー食品に用いると、もちもちとした食感の生地を得ることができる。