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“使い捨てから使い食べへ” 食べられる食器の展開

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最終更新日:2022年5月10日

2022年5月

元株式会社丸繁製菓 特別研究員 村瀬 博重

はじめに

 でん粉は、植物が光合成によって体内(実や根など)に貯蔵した炭水化物で、でん粉の特性は起源となった植物の種類により大きく異なります。でん粉はそのさまざまな特性を生かして、食品、製紙や段ボール、石こうボードなど幅広い製品に使用されています。

 当社ではでん粉を原料とした器まで食べることのできるトレー「イートレー®」を開発、販売しています。今回、アサヒビール株式会社と共同でイートレー®の技術を応用した新しい可食食器「もぐカップ」を開発しました。本稿では、もぐカップの開発の経緯や特徴、活用事例について紹介します。

1.開発の経緯

 アサヒビール株式会社ではパナソニック株式会社と共同で、プラスチックの削減と持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を目的に食物繊維を活用した世界初のエコカップ「森のタンブラー」(バイオマスマーク商品認定済)を2018年から開発し、2019年に販売を開始しました。

 一方で、エコカップをそのままゴミとして廃棄することに抵抗を感じる人もおり、アサヒビール株式会社の担当者は捨てる必要のないカップを作ろうと考えました。そこで「使って捨てるのがだめなら、使って食べればいい」との発想から、当社の食べられるトレー「イートレー®」(写真1)に着目し共同開発が始まりました。
 

 そもそもイートレー®の開発のきっかけは、十数年前に当社の代表取締役専務の榊原が、大規模イベントの屋台で提供されるプラスチックトレーが大量に廃棄された光景を目にし、衝撃を受けたことでした。そこで、当時当社で製造していたアイスモナカの皮の製造技術を応用して可食容器を作ることができないかと思いつき、イートレー®の開発に成功し、現在に至っています。

 イートレー®の主原料は国内産のばれいしょでん粉で、アイスコーンの製造方法と同様に高温高圧下で焼成して製造します。容器として一定時間の耐水性があるほか、味は焼きとうもろこし、紫いも、えびせんべい、オニオン味と4種類をそろえ、乗せるものに合わせて選ぶことができます。

 イートレー®の技術を応用した新しい可食容器「もぐカップ」の開発に当たっては、まずは型を作成し、イートレー®と同じ配合で製造試験を行いました。しかし、飲料を入れる目的のためにイートレー®よりも容器の厚みを薄くする必要があり、当初は満足のいく性能が発現できませんでした。

 数カ月間試行錯誤を繰り返した末、現在の配合にたどり着き、もぐカップが完成しました。

2.製品の特徴

 廃棄物の削減には、消費行動を変革させる5R(注)を促す商品が必要です。もぐカップは「使い捨て」を「使い食べ」に変革することで、楽しく消費行動を変革することを目指しました。

 もぐカップの主原料には北海道産のばれいしょでん粉を使用しており、生地を高温高圧で焼き固めることで、表面の数マイクロメートルに硬い膜を形成し、内面は空気を含んだ構造となります。これにより、耐水性は常温の水で約1時間と飲み物を飲む用途として十分な時間を保持でき、さらに食べやすさを両立することができました。

(注)リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の三つのR(アール)にリフューズ(Refuse)、リペア(Repair)を加えたもの。

3.活用事例

 もぐカップは飲料を飲む容器としてだけではなく、酒を飲む際のおつまみ入れとしても使用することができます。さらに、カップを使ったパフェなどのデザートの入れ物としても使用できるように、50ミリリットル、100ミリリットル、200ミリリットルと大きさを3種類用意しています(写真2)。
 

 味はえびせん、プレーン、チョコ、ナッツの4種類あり、用途に合ったカップを選んで好きな飲み物や食べ物と組み合わせると、無数のバリエーションを楽しむことができます(写真3)。カップのカリッとした食感が練りこまれた味のおいしさをより引き立たせます。
 

 実際に、飲食店やイベントなどのごみ削減だけでなく、もぐカップがノベルティーグッズとして配布されるなど、幅広く利用されています。

 このように廃棄物の削減と消費行動への変革に取り組んだことが評価され、もぐカップは公益社団法人日本包装技術協会主催の「2021日本パッケージングコンテスト」において、飲料包装部門賞を受賞しました(写真4)。


 

おわりに

 当社ではコップや皿のみならず、食べられるスプーン「パクーン」も開発し、販売しています。スプーンについては単に食べられるだけでなく栄養をプラスするなど、付加価値を高めた製品を考えつつ、開発を進めています。また、パクーン、イートレー®について令和3年5月21日の衆議院環境委員会でも取り上げていただき、可食容器の製造販売の社会的意義を認識しております。

 イートレー®に盛り付けたカレーライスやかき氷などを当社のパクーンで食べることで、“使い捨てから使い食べへ”を実現し、SDGsへのさらなる貢献を目指していきます。



【引用文献】
・村瀬博重(2020)「“おいしく食べて、ごみをゼロにする”可食トレー」『砂糖類・でん粉情報』(2020年10月号)独立行政法人農畜産業振興機構
・食べられるコップ「もぐカップ」公式ショップホームページ〈https://mogcup.shop/〉(2022年4月7日アクセス)

 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272