ベースライン調査を2017年度に実施し、ベトナム・カンボジア両国の一般的なキャッサバ生産者の生産状況と社会経済状況を明らかにした。両国のキャッサバ生産者とも一定数苗を新規に購入していた(ベトナム:キャッサバの栽培面積5ヘクタール以下の生産者の約3割、5ヘクタール以上の約2割、カンボジア:1ヘクタール以下の生産者の約3 割、1ヘクタール以上の約5割)。キャッサバ生産者の世帯の多くは雇用労働を主な収入源としており(ベトナム47.2%〈n=176〉、カンボジア45.2%〈n=199〉)、キャッサバを主な収入源としている生産者はベトナムで22%、カンボジアで28%であった。ベトナムでは苗の購入先は5割が隣人や親類から、5割が種苗販売者から、それぞれ購入しており、種苗販売ビジネスの存在が示唆された。カンボジアの苗の購入先は、8割弱がバッタンバン州やパイリン州内の近隣であったが、タイやベトナムの商人から購入した事例もそれぞれ約1割見られた。キャッサバ苗の販売の需要があること、病害虫感染拡大を招く可能性が高い苗の移動や病害虫に対する知識が無く病害虫防除を行わない農家が半数近くあることから、病害虫管理の知識や技術の普及の必要性が確認された。また、キャッサバ芋は、農家自身または仲買人を通じて集積加工場に集められることや、仲買人・集積加工場・輸出はキャッサバの大規模生産者が担う傾向があることが分かった。
次に、ベトナムのHLARCとカンボジアのNUBBで生産されたストック種苗を増殖して一般生産者に販売する「健全種苗生産者」を通じた持続的な生産体制を構築した。健全種苗生産者には、2週間ごとの病害虫モニタリングを課した。ベトナムおよびカンボジアにおける健全種苗生産者数、健全種苗の販売者数、販売量の推移を表2に示す。
ベトナムでは、2018年度にドンナイ省で健全種苗を生産した3軒のうち2軒は、収穫時の低い塊茎でん粉含量を理由に健全種苗の生産を断念した。2019年は1軒、2020年度は4軒の生産者が新たに健全種苗生産を試みたが、ドンナイ省のCMD感染拡大により生産者5軒すべての圃場でのCMDの感染率が高くなり、最終的には健全種苗として認められる生産者はなかった。2021年度は、新たに2軒が健全種苗生産を試みている。
カンボジアでは、NUBBで生産された健全種苗(KU 50とRayong 7)を2軒のキャッサバ生産者(バッタンバン州に所在するキャッサバ組合長とバンティミンチェイ州でドイツ国際協力公社〈以下「GIZ」という〉と連携しているキャッサバ生産者)へ売却し、病害虫モニタリング法を指導した。また、GIZと連携し、ウドンミエンチェイ州とバンティミンチェイ州のキャッサバ生産者向けのワークショップを開催し、健全種苗や病害虫モニタリング法の情報を提供した。バンティミンチェイ州の生産者の状況を見た生産者が健全種苗の生産に興味を持ち、翌年以降の生産者数が増えた(表2)。健全種苗生産者による病害虫モニタリングの実施は定着しつつある。また、生産した健全種苗の一般農家への販売も行われ、市場価格よりわずかに高い価格設定をする生産者も見られた。以上、カンボジアの健全種苗生産者の場合、CMDの感染が抑制されれば、小規模ビジネスとして継続することは可能であると考えられる。
ベトナムでは、本プロジェクトの共同機関の一つであるHLARCがキャッサバの健全種苗の生産を実施しているが、カンボジアにおいてキャッサバ生産を担当する農林水産省農業総局(以下「GDA」という)は本プロジェクトの共同研究機関ではない。そこで、GDAとワークショップなどにより情報・技術の共有を行うとともに、主要なキャッサバ生産州の地方農業局職員を対象とした研修を行った。ベトナム・カンボジアのキャッサバ生産農家のほとんどが病害虫に関する十分な情報を持たないことを踏まえて、キャッサバの病虫害や栽培技術に関する情報(リーフレット、ポスター、Tシャツなど)をパッケージとしてキャッサバ生産者に配布した(写真8)。結果、普及対象農家に対する調査結果から病害虫の基本情報や防除法を示したポスターにより農家の病害虫の知識や防除法の実践が向上することが証明された。