種ばれいしょ生産の取り組みについて
最終更新日:2022年12月9日
種ばれいしょ生産の取り組みについて 〜北海道更別村農業協同組合の事例〜
2022年12月
【要約】
全国の種ばれいしょ生産の9割以上を占める北海道において、種ばれいしょ生産は、生食用・加工用や、でん粉原料用ばれいしょ生産よりも作業労働時間が長いことや、ジャガイモシストセンチュウ発生地域の拡大により、生産量が減少傾向にある。このため、種ばれいしょ生産の省力化とジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種の普及拡大が喫緊の課題となっている。
こうした中で、道内のばれいしょ主産地の一つである更別村農業協同組合では、選別・貯蔵施設の整備による選別作業の省力化などが行われており、でん粉原料用品種については、抵抗性品種への切り替えが完了している。また、更別村では種ばれいしょ生産に係る労働作業の更なる省力化に向けた「ICT(情報通信技術)活用種ばれいしょ生産実証事業」が行われている。
はじめに
ばれいしょは、親と全く同じ形質を持ったいもを安定的に収穫するため、1粒ごとに遺伝的形質が異なる種子ではなく茎の一部である塊茎(伸びた地下茎の先端が栄養分を溜め肥大したもの)を植え付けし、子いもを収穫する作物である(図1)。全国の種ばれいしょ(注1)生産の9割以上を占める北海道では、他県も同様と思われるが、種ばれいしょの作業労働時間が、生食用・加工用、でん粉原料用ばれいしょの労働時間よりも長い。農林水産省(以下「農水省」という)の資料によれば、生食用・加工用の作業労働時間が1ヘクタール当たり113.6時間であるのに対して、種ばれいしょの作業労働時間は、同207.6時間となっている(表1)。これは、種ばれいしょ生産者が圃場を巡回する際に、発病株の検出やその抜き取り作業に時間を要することが大きく影響している。
また、ばれいしょは、栄養繁殖(注2)により増殖するため増殖率が低く、原原種→原種→採種の3段階(注3)を経て、一般栽培用の種ばれいしょが生産される。ばれいしょなどの栄養繁殖による農作物が一度ウイルスなどに感染したり、それらにジャガイモシストセンチュウ(注4)(以下「シストセンチュウ」という)などのセンチュウ類などが発生すると防除が困難で、産地にまん延し生産に大きな打撃を与える。北海道では、令和4年3月現在で56市町村(約1.2万ヘクタール)にシストセンチュウの発生が確認されている。植物防疫法上、シストセンチュウが確認された圃場では、種ばれいしょの生産は認められない。令和元年度でシストセンチュウに対する抵抗性品種の作付面積割合は約35%となっている。
このため、全国と同様に北海道でも種ばれいしょ生産は減少傾向にあり、生産の省力化とシストセンチュウ抵抗性品種の普及拡大が喫緊の課題となっている。
こうした中で、今般は北海道最大のばれいしょ生産地域である十勝地区の生産地の一つである更別村農業協同組合(以下「更別村農協」という)における種ばれいしょ生産に係る上記課題に対する取り組みや、今年度から労働作業の省力化対策として、更別村で始まった「ICT活用種ばれいしょ生産実証事業」などについて紹介する。
注1:種ばれいしょは植物防疫法の関連規定では「種馬鈴しょ」、一般には「種いも」などと呼称されているが、本稿では「種ばれいしょ」として表記する。
注2:植物の生殖の様式の一つであり、胚・種子を経由せずに根・茎・葉などの栄養器官から、次世代の植物が繁殖する無性生殖である。短い期間に同じ遺伝子型の作物を繁殖させることができる。ばれいしょでは、塊茎を用いる。
注3:種ばれいしょ生産の拠点となる原原種は、高い無病性が求められるため、「国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構種苗管理センター」が供給している。原原種は道県の原種農場(農協連など)で増殖される。その後、それらは道県内の農協(採種農家)などの採種圃場でさらに増殖される。そこで生産されたものが「種ばれいしょ」として農家に出荷される。
注4:ばれいしょの根に寄生し、養分を吸収して収穫量を大幅に減らしてしまう害虫。人体には無害だが、一度発生するとシストと呼ばれる袋の中の卵が長期間畑で生存し、根絶させることが難しくなる。
1 北海道の種ばれいしょ生産の状況
(1)ばれいしょ生産の状況
ア 作付面積
全国のばれいしょの作付面積は、他作物への転換や、生産者の高齢化に伴う作付中止、規模縮小などにより減少傾向で推移している。令和2年度は5年前に比べ7.1%減の7万1900ヘクタールとなった(表2)。このうち、北海道は65%以上を占めているが、全国の作付面積の減少と同様の理由により、令和2年度は同5.7%減の4万8100ヘクタールとなった。
イ 作付農家戸数と一戸当たり作付面積
道内の作付農家戸数は減少傾向にあり、令和元年度は5年前に比べ8.7%減の1万1931戸となった(表3)。一方、一戸当たり作付面積はわずかながらも拡大傾向にあり、令和元年度は同7.7%増の4.2ヘクタールとなった。
ウ 生産量
令和2年度の全国のばれいしょ生産量は、5年前に比べ8.4%減の220万5000トンとなった(表4)。このうち、北海道は80%近くを占めているが、令和2年度は同9.1%減の173万3000トンとなった。
なお、令和2年度の10アール当たりの単収は、全国が3.07トンであるのに対して、北海道は3.6トンとなった。
(2)種ばれいしょ生産の状況
令和2年度の北海道のばれいしょ生産量(173万3000トン)のうち、種子用は約6%となる10万1000トンが仕向けられた。
ア 原種圃(注5)作付面積および生産量
令和2年度の全国の原種圃作付面積は、5年前に比べ5.3%減の551ヘクタールなった。このうち、北海道は90%を占める約496ヘクタールとなった(図2)。
また、全国の生産量は、5年前に比べ6.8%減の1万9100トンとなった。このうち、北海道は94%を占める約1万8000トンとなった。
注5:種ばれいしょ生産者(採種圃作付用)に販売するための種ばれいしょ(種子)を栽培する圃場。
イ 採種圃(注6)作付面積および生産量
令和2年度の全国の採種圃作付面積は、5年前に比べ11.2%減の4181ヘクタールとなった。このうち、北海道は95%を占める約3972ヘクタールとなった(図3)。
また、全国の生産量は、5年前に比べ12.4%減の14万5700トンとなった。このうち、北海道は97%を占める約14万1000トンとなった。
注6:生産者(一般圃場)に販売するための種ばれいしょ(種子)を栽培する圃場。
ウ 種ばれいしょ生産者数および採種圃場合格面積
令和2年度の北海道の種ばれいしょ生産者数(採種)は、5年前に比べ14%減の1119人となった(図4)。また、圃場合格面積は、5年前に比べ10.9%減の3979ヘクタールとなった。
(3)北海道における種ばれいしょの生産の流れ
北海道における種ばれいしょの生産の流れは、図5の通りである。
2 更別村農業の概況
(1)地理と気候
更別村は北海道、十勝地方の南部にある(図6)。東は幕別町、西は中札内村、南は大樹町、北は帯広市とそれぞれ接しており、十勝の母都市である帯広市から南へ35キロメートルの地点にある。とかち帯広空港から車で約30分、札幌までは約4時間である。
更別村の令和3年の最高気温は35.8度、最低気温はマイナス22.6度で、年間平均気温は6.8度となっており、年間日照時間は2019.6時間、降水量は1296ミリメートルとなっている。
(2)農業の概要
更別村は十勝地方の南西部に位置する豊かな自然に恵まれた地域で、ばれいしょ、小麦、てん菜、豆類の畑作主要産品の生産を行うとともに、キャベツ、グリーンアスパラ、トウモロコシなどの野菜栽培や、毎日約8万リットルの牛乳を生産する酪農業、年間約700頭の黒毛和牛を生産する畜産業も営まれている。また、農家戸数(組合員数)は210戸で、そのうち93戸が51ヘクタール以上の耕作地面積で農畜産物を生産している(表5、写真1)。
3 更別村農協の種ばれいしょ生産の取り組み
(1)ばれいしょ生産の概要(令和3年)
更別村農協の生食用、加工用、でん粉原料用ばれいしょ生産の概要については、表6の通りである。また、主な出荷先は生食用が関東、中京、中国地方の市場で、加工用は大手ポテトチップス製造業者などの加工業者、でん粉原料用は南十勝農産加工農業協同組合連合会(でん粉工場)にそれぞれ出荷している。
(2)種ばれいしょ生産の取り組み
更別村農協の種ばれいしょ生産の取り組みについては、表7の通りである。
※「生食用・加工用」と「でん粉原料用」の種ばれいしょ生産に特段の違いはない。また、以下の種ばれいしょの報告は、「採種生産者」の報告である。
コラム1 種ばれいしょ生産の流れ(更別村農協の事例)
種ばれいしょ生産の流れについては、以下の通りである(コラム1−図)。以下の流れの中で更別村農協の事例を紹介する。
(1)原種の購入
10〜11月に上部団体である十勝農協連から原種(採種用)を購入。1袋(20キログラム)をキログラム単位で購入。基本的にコンテナを容器として1基当たり1300キログラム程度で詰める。
(2)保管(貯蔵)
コンテナは光が入らない貯蔵庫にて保管。おおむね室温2度・湿度90%以上を保つようにしている。
(3)圃場準備
基本的に、ばれいしょ→小麦→てん菜→豆類の4輪作を維持している。
(4)土づくり・排水
深耕・心土破砕(注1)などの土層改良により、作土層を膨軟にして根域圏を確保し、乾湿ストレスに強い圃場を作る。完熟堆肥(バーク堆肥(注2))などの有機物を適量施用する。
(5)融雪促進
融雪は、基本的に「秋まき小麦」の圃場で行っている。
(6)施肥
種ばれいしょは基肥のみ行っている。
(7)消毒
4月に種ばれいしょを出庫する。腐れ・規格外品を選別によりより分けた後、種子消毒(散布法)を行い、出庫する。ばれいしょ全体に消毒薬がかかるよう気を付けている。
(8)浴光育芽(催芽)
浴光育芽は、温度条件6〜20度の範囲内の低い温度で日光あるいは散光を当て、少しずつ芽を伸ばし、20〜30日かけて長さが3〜5ミリの強い濃緑の芽を育てる。日数は長い方が良好である。
(9)切断
現在では大半がカッティングプランター(注3)を用いて播種していることから、種ばれいしょの規格を40〜200グラムの混み玉で設定している。切断作業はあまり多くはない。
(10)植え付け
植え付けについては、一般的に、種ばれいしょの切り口を下にした方が、出芽のそろいが良くやや早いようであるが、カッティングプランターを使用しているので、切り口が下になるようにはできない。
(11)うね幅
生産者で多少異なるが、種ばれいしょでは、うね幅75センチ、株間は25センチで行っている。製品規格が40〜200グラムであり、肥大しすぎないようサイズコントロールをしている。
(12)中耕・培土(注4、5)
培土については、ロータリーヒラー(農作業機械)による早期培土を行っている。水分を多く含む土壌を圧迫しすぎると培土が固くなり、萌芽に支障をきたすため、培土の前後の天気(降雨)には気を使う。
(13)芽かき
芽かきは行っていない。
(14)茎葉処理
茎葉処理には枯凋剤を主とし場合により茎葉チョッパー(農作業機械)を用いる。
(15)収穫・選別・調製
収穫後1〜3日の間に圃場単位で集荷し、農協の施設で風乾を行っている。これまでは7〜10日程度圃場にて風乾後集荷をしていたが、生産者の負担軽減、また近年では温度が高い日が多くキュアリング処理(注6)が進まないことや、高温で腐ることもあるため対策(仮貯蔵)を講じている。
(16)野良ばれいしょの除去と管理
野良ばれいしょを防止するため、収穫の際には収穫機(ポテトハーベスタ)のコンベアのロット調整、速度調整を行い、小粒塊茎の落下を防止する。
(注1)心土破砕とは農地に一定の間隔で切り込みを入れて水が通る道を作り、速やかに排水が行われるようにする作業。
(注2)バーク堆肥とは、樹皮(バーク)を発酵させて作った有機質肥料。
(注3)種ばれいしょを切断しながら植え付ける機械。
(注4)中耕とは中打ちともいい、作物の生育期間中に条間を耕起する作業。
(注5)培土とは、作物の栽培において作物の株際に土を寄せる作業をいい、土寄せともいう。
(注6)キュアリングとは、収穫した作物を貯蔵前に一定期間高温多湿の条件下においてコルク層(植物の一番外側にある保護組織)を発達させ、収穫時にできた傷口をふさぐこと。
|
ア 種ばれいしょの生産の省力化について
上述の通り、北海道の種ばれいしょの生産の投下労働時間については、生食用・加工用が1ヘクタール当たり113.6時間のところ、同207.6時間かかっており、省力化が急務とされている。農協担当者によれば、更別村農協では、国による年3回の防疫検査(病気株などの検査)に備え、発病株を抜き取る巡回作業などで、年ごとの種ばれいしょの生育状況にもよるが、207.6時間を超える場合もあるという。
更別村農協では、生産者団体の選別・貯蔵施設を整備するほか、生産者段階での選別の後、コンテナで集荷し、その後の選別作業などをすべて農協で行い一元化することで省力化につなげている(写真2、3)。
更別村農協によると、生産者が収穫する際、石・土塊・腐敗・変形・規格の大小をハーベスターによる機上選別で行っているが、細かな選別はできない。より品位を高めるため更別村農協の共同選別施設にて、選別を行っている(写真4、5)。秋は9月中旬〜11月下旬、春は3月中旬〜4月下旬に出庫に合わせて再度確認のための選別を行っている。現在、選別作業員(10人程度)を短期雇用しているが本来は12人が必要であり、人材確保が問題となっているという。
また、道の補助事業により近年開発された消毒機能付きカッティングプランターを種ばれいしょ生産者15人全員が使用することで、種ばれいしょ生産における「予借作業(種子を植え付ける前に、発芽および発芽後の生育を良くするために行う消毒作業)など」の削減を図っている。
その他、作業省力化の取り組みとしては、生産現場での1日農業アルバイトによる人員の確保を行っている。コントラクターへの農作業委託については、種ばれいしょ生産では、病害が伝染する可能性があるため行っていない。今後は抜き取り作業などの圃場管理も含めた対策を検討していかなければならないとしている(写真6)。
イ シストセンチュウ対策および病害虫対策
更別村農協管内では平成29年にシストセンチュウが発生したが、シストセンチュウ対策、病害虫対策として、農水省や道などの指針(注7)やマニュアルに沿って、以下の取り組みを行っている(表8)。
注7:各都道府県は、農水省が平成31年2月に定めた「ジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種の作付拡大のための目標」に基づき、抵抗性品種の作付割合を、でん粉原料用品種については、令和4年度までに目標達成(100%)、生食用、加工用品種についてはシストセンチュウの発生が確認されている圃場では、令和10年度までに目標達成とし、取り組みを推進している。
なお、圃場の団地化(一般圃場からの隔離)については、団地化を継続してきたが、種ばれいしょ生産者の確保を優先するため、撤廃したとのことであった。
ウ 種ばれいしょの労働作業の将来的な省力化に向けた「ICT活用種ばれいしょ生産実証事業」
上述の通り、種ばれいしょ生産者が圃場を巡回する際に、発病株の検出やその抜き取り作業に時間を要することから、道ではこの作業時間の軽減に向けて、ドローンからの撮影画像を活用し、人工知能(AI)を用いた新たな発病株検出技術の確立を検討する実験を始めた。令和4年度からは、民間企業に委託し、更別村で、(1)ドローンによる発病株(色などで判断)・生理障害株の写真・映像データ収集(2)AIによる発病株の判定の精度向上のための技術実証(3)従来の目視確認による抜き取り回数などのデータ集計(モニタリング検査)−などの実証実験を行っている。更別村農協によると、「現在、実証データを蓄積中であるが、すべての作業工程の中で抜き取り作業の負担が間違いなく大きい(1日5〜6時間ほどかかる)。また、専門知識があり、発病株の見分けがつく者しか抜き取りに入れないのが現状であり、仮に発病株をAIで認識できるとなると、ある意味発病株の発見は素人でもできることになる(ことを期待している)。一方、どんなに病気の発生が少ない状況でも圃場すべてを歩き、確認する必要があるので、時間というより何日という単位で作業が軽減されるのではないかと期待している」とのことであった。
エ その他
(ア)新規就農者の参入
更別村農協管内では、上述の通り、個々の生産者の面積が比較的大きい。既存の生産者は面積拡大を望んでおり、営農中止された(される)生産者の畑は既存の生産者に配分されることから、新規就農がなかなか進んでいない。
(イ)最近の肥料価格や原油価格の高騰による畑作(種ばれいしょ)への影響
種ばれいしょで言えば、基肥のみなのであまり影響はないが、営農に直結するので、来年以降は非常に不安視している。
オ 種ばれいしょ生産に係る今後の取り組み(課題)
更別村農協管内の種ばれいしょ生産者は、現在15人で管内のばれいしょ生産に供する種ばれいしょをすべて賄うことができている(栽培面積を有している)。その大きな理由としては、同農協が、安定的な種ばれいしょの生産を行えるよう、その取引価格を引き上げることにより、種ばれいしょ生産者の所得を向上させることで、生産量を確保しているためと考えている。
更別村でも、種ばれいしょ生産に係る作業負担が大きいため、これまで生食用・加工向けばれいしょに転換した生産者もいる。これを防ぐためには、労働作業に対する価格面でのメリット(労働対価に対する報酬)がポイントになってくるのではないかと考えており、今後とも種ばれいしょ生産を維持する課題として対策を検討していく。
コラム2 種ばれいしょ生産者の事例 佐藤氏
種ばれいしょ生産者である佐藤隆氏(54歳)に話を伺うことができたので紹介する。経営の概要は以下の通り(コラム2―表)。
今年はおおむね春から萌芽も早く、生育も順調に推移したが、8月に入り降雨が多くなり防除作業がなかなか難しい年でもあった。比較的ばれいしょが小玉傾向で肥大が進まないのも今年の特徴である。しかし、最終的には規格内重量にはなり、種ばれいしょとしてはまずまずの生産状況だったのではないかと感じているという。
また、佐藤氏は、親の後を継ぐ形で二代にわたりでん粉原料用種ばれいしょの生産を行っている。種ばれいしょの生産は、基本的に更別村農協から委託を受けて栽培しており、施肥量や株間など経験を積みながら緑肥作物を作付けし、畑を休ませながら輪作を行うなど、自分の畑にあった体系を模索しているという。
(1)佐藤氏が役員となっている「種ばれいしょ生産部会」について
・ 会員数:15人(年齢層:平均50代)
・ 活動実績
部会(講習会)の開催:年1回
視察研修(営農全般):経営主または女性それぞれ3年間に1回
・ 圃場巡回
共同の発病株抜き取り作業:年3回
個人の発病株抜き取り作業:年15〜20回
(2)現在の課題や今後の事業展開
やはり抜き取り作業が大変でかなりの時間を費やしている。人員の確保も必要であるが、発病株などの抜き取りとなると人任せにはできないので苦慮している。種ばれいしょの品質については、自分だけのものが良ければ良いということではなく、地域として品質を上げていかなければならないので、何かと気を使う。また、防疫検査についても、検査に受かればよいということではなく、一般ばれいしょ生産者に良いものを提供しなければという思いで栽培している。今後は労働力にあった取引価格や抜き取り作業について何らかの対策が必要だと思うが、どのような対策が良いのかは今のところ、思案しているところである。
|
おわりに
更別村農協における種ばれいしょ生産の取り組みを見てきたが、「生産の省力化」については、選別・貯蔵施設の整備による選別作業などの省力化といった取り組みの強化と併せて、「ICT活用種ばれいしょ生産実証事業」の成果が注目されるところである。
また、シストセンチュウ対策については、既にでん粉原料用品種には抵抗性品種「コナヒメ」に切り替えが完了していることから、国や道の指針などに基づく取り組みを進めながら、生食用・加工用品種に対する抵抗性品種の切り替えが行われていくことになるであろう。
こうした中で、農水省の令和4年度補正予算の「持続的畑作生産体系確立緊急支援事業」では、種ばれいしょの安定的供給対策として、種ばれいしょの新産地育成や実需と連携した産地モデルの育成、病害抵抗性品種の導入などといった取り組みへの支援が行われる予定である。
しかしながら、種ばれいしょ生産における「発病株の抜き取り作業」については、農協担当者や生産者のコメントにもある通り、今後、省力化を図るのはなかなか難しいと見受けられる。こうした中で、更別村農協で種ばれいしょ生産者数(栽培面積)維持のために行っている「取引価格の引き上げ(労働作業時間に対する金銭的補償)」については、個人的には今後の種ばれいしょ生産の維持・拡大対策に有効な手段となる可能性もあるのではないかと考える。
近年のばれいしょの自給率は70%近くを維持しているが、ウクライナ紛争の影響などにより、「食料安全保障」確立の声が強まる中、農水省は令和12年度までにばれいしょの生産量を239万トンまで引き上げることを掲げている。このためにも、全国のばれいしょ生産量の80%近くを占める北海道の果たす役割は大きく、種ばれいしょの安定的供給は必要不可欠である。管内の種ばれいしょ生産者からの供給により、ばれいしょ生産を行っている更別村農協では、「安定的供給」が行われている。今後も安定的供給に向けた更別村農協の種ばれいしょ生産の取り組みを期待して注視したい。
最後に、大変お忙しいところ、本取材にご協力いただきました更別村農業協同組合農産部梶浦裕太農産課長、種ばれいしょ生産者佐藤隆さまに厚くお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画調査グループ)
Tel:03-3583-9272