食品メーカーにおけるでん粉の利用形態
最終更新日:2023年3月10日
食品メーカーにおけるでん粉の利用形態
〜令和3年度甘味料およびでん粉の仕入動向等調査の概要(2)〜
2023年3月
【要約】
令和3年度の天然でん粉および化工でん粉の仕入量は総じて安定しているが、仕入価格については、仕入先の価格改定などにより「上昇」と回答する企業が前年度調査と比較して増加した。
はじめに
わが国で流通する天然でん粉は、輸入トウモロコシを原料とするコーンスターチが約9割、国内産いもでん粉が約1割を占め、その他輸入でん粉(タピオカでん粉、サゴでん粉など)、小麦でん粉などが供給されている(図1)。
その用途は、異性化糖や水あめなどの糖化製品向けが最も多く、次いで化工でん粉(注)、食品、製紙・段ボールとなっており、食品分野を中心に、工業や医療分野など幅広い用途で活用されている(図2)。このようにでん粉は、私たちの生活や社会と密接に関係していることから、安定的に供給していくことが欠かせない。
そこで当機構では、実需者のでん粉に対するニーズを把握し、でん粉の需給動向の判断に資する基礎的な情報を収集するため、主要なでん粉について食品製造事業者を対象としたアンケート調査を毎年実施している。
本稿では、令和3年度(4月〜翌3月)を対象に実施した「甘味料およびでん粉の仕入動向等調査」のうち、天然でん粉(ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、コーンスターチ、タピオカでん粉)および化工でん粉(デキストリン類、加工でん粉〈でん粉誘導体〉、加工でん粉〈その他〉)の調査結果について報告する。なお、本調査の甘味料の調査結果については本誌2023年1月号を、砂糖および加糖調製品等の用途別消費動向に関する調査結果については同2月号を参照されたい。
(注)天然でん粉を酸や熱、化学薬品などで処理することで、でん粉本来の特性を改良したり(接着力の強化、粘度の調整など)、新しい性質を加えたり(冷水による可溶性など)したもの。天然でん粉を原料として国内で製造されているものと、タイやベトナム、EUなどから輸入された化工でん粉そのものの2種類が流通している。
1.調査の方法
(1)調査期間
令和4年9〜11月
(2)調査対象
でん粉を使用する食品製造事業者
(3)調査項目
令和3年度(4月〜翌3月)のでん粉の用途、仕入状況などに関する事項
(4)調査方法
郵送などによる調査票の発送および回収を実施
(5)回収状況
配布企業数 261社
回収企業数 105社
調査票回収率 40.2%
(6)集計区分
(7)集計結果についての留意事項
ア.図中の「n」は有効回答数を表す。
イ.端数処理の関係により、図中の内訳の合計が100%にならないことがある。
ウ.「不明・無回答」は比較対象から除外する。
エ.図に示す調査結果は、凡例と同様の選択肢による回答を得たものである。
(8)調査企業の概要
でん粉の種類別の企業資本金額と業種の構成比は、図3および図4の通り。
2.集計結果
(1)用途
ア.天然でん粉
天然でん粉の用途を見ると、「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」が27件と最も多く、次いで「和生菓子・洋生菓子」が20件、「水産練り製品」が16件となっている(図5)。
また、種類別に見ると、コーンスターチが16種類の用途で使用され最多となっており、次いでばれいしょでん粉が11種類、タピオカでん粉が8種類、かんしょでん粉が5種類となっている。その他に分類されている用途としては、片栗粉、はるさめ、パン、米粉麺、清涼菓子や豆菓子、乳飲料などさまざまな用途が挙げられた。
イ.化工でん粉
化工でん粉の用途を見ると、「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」が22件と他の用途よりも極めて多く、「プリン・ゼリー類」「キャンデー類・グミ・チューインガム」がそれぞれ9件で続く(図6)。
種類別に見ると、デキストリンは「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」「アイスクリーム類」「清涼飲料」が主な用途に挙げられる。また、「その他」としての回答も多く、粉末飲料、清涼菓子、サプリメントや栄養補助食品、介護食などが挙げられている。加工でん粉(でん粉誘導体)は「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」が最も多く、次いで「和生菓子・洋生菓子」「水産練り製品」などとなっている。このほかにもさまざまな用途がみられ、16種類と多岐にわたっている。「その他」としては、ふりかけ、成型フレークなどが挙げられている。また、加工でん粉(その他)については、「スナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット類」への使用が大半となっている。
(2)使用する商品の数
ア.天然でん粉
天然でん粉を使用する商品の数は、いずれのでん粉も「5点以下」が最も多かった(図7)。特にかんしょでん粉は「5点以下」の割合が6割を超え、タピオカでん粉も半数に上っている。一方、ばれいしょでん粉とコーンスターチは「5点以下」は4割以下となり、「101点以上」と商品点数が多い企業もややみられた。
イ.化工でん粉
化工でん粉を使用する1企業当たりの商品数は、デキストリンは「5点以下」が37%で最も多く、次いで「11〜20点」が15%、「6〜10点」が12%となっている。加工でん粉(でん粉誘導体)は「101点以上」が29%で最も多く、次いで「5点以下」が22%となっており、両極端な割合となっている。加工でん粉(その他)は「5点以下」が32%、次いで「6〜10点以下」が21%で、半数以上が10点以下となっており、使用する商品点数はさほど多くはないことがうかがえる(図8)。
(3)使用する理由
ア.天然でん粉
天然でん粉を使用する理由は、「食感を良くするため」が48件、次いで「商品の特性上、他のでん粉では代替できないため」が41件となっており、この二つの理由が全体の半数近くを占めている(図9)。
種類別にみると、ばれいしょでん粉とコーンスターチにおいて使用理由が多岐にわたっている。その他の用途としては、「打ち粉として使用」「くっつき防止」「離型剤として」「保形性を保つため」などが挙げられている。
イ.化工でん粉
化工でん粉を使用する理由は、「食感改良のため」が43件と最も多く、次いで「品質が安定しているため」が21件、「商品の付加価値を高めるため」が14件となっている(図10)。
種類別に見ると、デキストリンは「食感改良のため」「商品の特性上、他のでん粉では代替できないため」「とろみを付けるため」が主な理由となっている。加工でん粉(でん粉誘導体)は、「食感改良のため」が最も多く、次いで「品質が安定しているため」「商品の付加価値を高めるため」などとなっている。加工でん粉(その他)では、「食感改良のため」が多くを占めており、他の理由についてはあまりみられない。なお、その他の理由には、「他のでん粉との併用による糊化・老化調整のため」「原材料に対する安心感を訴求するため」「作業性を良くするため」「保水性の向上」などが挙げられている。
(4)仕入量の動向
ア.天然でん粉
(ア)直近1年間の仕入量
天然でん粉の令和3年度の仕入量は、「1トン未満」が25%と最も多く、次いで「1トン以上5トン未満」「10トン以上100トン未満」がともに17%となっている(図11)。
種類別にみると、かんしょでん粉は「1トン未満」が4割半を占め最も多い。また、ばれいしょでん粉、タピオカでん粉も「1トン未満」が最多となっているが、2割台に留まり、他の仕入量帯にも分散されている。コーンスターチでは、「10トン以上100トン未満」が26%で最多となり、次いで「1トン未満」が21%となっている(図12)。
(イ)前年度と比較した仕入量の動向
令和2年度と比較した3年度の仕入量の動向は、いずれのでん粉も「横ばい」が最も多い(図13)。特にかんしょでん粉では、7割超が「横ばい」と回答している。また、ばれいしょでん粉、コーンスターチは、「大幅に増加」と「やや増加」を合わせると3割程になり増加傾向がうかがえる。昨年度調査では、いずれのでん粉も「横ばい」は4割程度で、減少と約3割が回答していたことから、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による需要減が落ち着いてきたものと推測される。
増加の要因には「需要の増加により商品の出荷数量が増えたため」が大半となっている。一方でタピオカでん粉では「需要の減少により商品の出荷数量が減ったため」などの理由から、「やや減少」と「大幅に減少」を合わせると2割程になり、やや減少傾向がうかがえる。
(ウ)今後の仕入量の見込み
令和4年度の仕入量の見込みは、いずれの天然でん粉も6〜7割が「横ばい」としており、前年度調査と同様の傾向にある。コーンスターチは、「大幅に増加する見込み」「やや増加する見込み」を合わせると2割程となり、やや増加傾向がうかがえる。一方で、かんしょでん粉においては、「大幅に減少する見込み」がおよそ2割、「やや減少する見込み」と合わせると3割程が減少する見込みと回答している。減少の要因として「一部コーンスターチへ切り替え」「需要の減少により商品の出荷数量が減るため」「1商品当たりの含有量を減らすため」が挙げられている(図14)。
イ.化工でん粉
(ア)直近1年間の仕入量
化工でん粉の令和3年度の仕入量は、「10トン以上100トン未満」が28%と最も多く、次いで「1トン未満」が20%、「1トン以上5トン未満」が17%となっている(図15)。
種類別にみると、いずれのでん粉でも「10トン以上100トン未満」が3割前後で最も多くなっている。ただし、デキストリンと加工でん粉(その他)は、「1トン未満」や「1トン以上5トン未満」の小数量帯を合わせると4割半程となっている。一方、加工でん粉(でん粉誘導体)は100トン以上の割合が3割を超えており、比較的仕入量が多い傾向がうかがえる(図16)。
(イ)前年度と比較した仕入量の動向
令和2年度と比較した3年度の仕入量の動向は、「横ばい」が最多となっている。デキストリンと加工でん粉(その他)は、「大幅に増加」と「やや増加」を合わせると3割近くに上り、増加傾向がうかがえる(図17)。増加した要因には、「需要の増加により商品の出荷数量が増えたため」や「新商品を開発したため」が挙げられている。
(ウ)今後の仕入量の見込み
今後の仕入量の見込みは、デキストリンは「横ばい」が前年度調査同様に7割超えとなり、仕入量は安定するものと見込まれる。また、加工でん粉(でん粉誘導体)も「横ばい」が6割強となり、比較的安定が見込まれる。一方、加工でん粉(その他)は「横ばい」が半数に満たず、「大幅に増加する見込み」と「やや増加する見込み」を合わせると3割程になる。増加の要因としては「需要の増加により商品の出荷数量が増えるため」が挙げられた(図18)。
(5)仕入価格の動向
ア.天然でん粉
(ア)直近の仕入価格
1キログラム当たりの仕入価格(令和4年3月時点)は、「120円以上160円未満」が21%、「160円以上200円未満」が19%で拮抗している。次いで「240円以上」が14%、「80円以上120円未満」が13%となっている(図19)。
種類別に見ると、最多の価格帯はそれぞれ異なっており、ばれいしょでん粉は「160円以上200円未満」、かんしょでん粉は「240円以上」となっている(図20)。また、コーンスターチは「120円以上160円未満」と「80円以上120円未満」の価格帯が多くこの2価格帯で半数を占めている。タピオカでん粉も同様に価格帯が集中しており「160円以上200円未満」「240円以上」の2価格帯で6割近くを占めている。
経年で比較してみると、いずれのでん粉も高価格帯の割合が大きくなってきており、価格上昇傾向がうかがえる(図21)。
(イ)前年度と比較した仕入価格
令和2年度と比較した3年度の仕入価格の動向は、ばれいしょでん粉は「横ばい」が6割以上と比較的安定している。その他のでん粉については、「大幅に上昇」「やや上昇」の割合が多く、合わせると半数以上に上る。特にコーンスターチにおいては、7割強が上昇したと回答している(図22)。
価格上昇の要因としては「仕入れ先の価格改定」が最も多く挙げられた。このほか「原料作物の市場相場の変動によるもの」「為替の変動によるもの」も散見された。
タピオカでん粉の主な輸入先であるタイの国内価格は、令和元年(2019年)にキャッサバの作付面積が増加したことから下落傾向であったが、2年(2020年)以降は輸出需要の高まりを受けて緩やかに上昇傾向で推移した。特に4年(2022年)4月以降は、原料費や燃料費の上昇により急騰したものの、7月を境に下落に転じている。今後も輸出需要の高まりなどを受けて依然として高い水準を維持すると予測されている(図23)。
イ.化工でん粉
(ア)直近の仕入価格
1キログラム当たりの仕入価格(令和4年3月時点)は、「280円以上」が44%と最も多く、次いで「160円以上200円未満」(12%)、「200円以上240円未満」(10%)の順となっている(図24)。
種類別に見ると、デキストリンと加工でん粉(でん粉誘導体)は、「280円以上」が4割程、他の価格帯も一定数見られ、価格帯が分散傾向にある(図25)。一方、加工でん粉(その他)は「280円以上」が6割程と大部分を占めている。
経年でみると、デキストリン、加工でん粉ともに高価格帯の割合が増加している(図26)。上昇要因としては「仕入先の価格改定によるもの」が主となっており、この他には「原料作物の市場相場の変動によるもの」「為替の変動によるもの」などが挙げられている。
(イ)前年度と比較した仕入価格
令和2年度と比較した3年度の仕入価格の動向は、いずれの種類も上昇傾向がみられ、「大幅に上昇」と「やや上昇」を合わせると約半数を占めている。前年度調査と比較すると「横ばい」の回答率は半数程度となっている(図27)。上昇要因には、「仕入先の価格改定によるもの」「原料作物の市場相場の変動によるもの」「為替の変動によるもの」が挙げられている。
(6)調達面に関する評価
ア.天然でん粉
天然でん粉に対する調達面の評価を「満足」「やや満足」「普通」「やや不満」「不満」の5段階評価で尋ねたところ、コーンスターチは「満足」と「やや満足」を合わせると6割超えとなり満足度が高い。また、ばれいしょでん粉やかんしょでん粉においても5割以上が満足としており、満足度はおおむね高い。ただ、かんしょでん粉においては、「原料の安定的な供給に不安があるため」「仕入れ先の価格の上昇による」などの理由から「やや不満」が3割弱となっている。一方タピオカでん粉は、「普通」が6割以上となり、他の天然でん粉に比べると満足度は低くなっている(図28)。
イ.化工でん粉
化工でん粉に対する調達面の評価を「満足」「やや満足」「普通」「やや不満」「不満」の5段階評価で尋ねたところ、デキストリンと加工でん粉(でん粉誘導体)においては、「満足」と「やや満足」を合わせると5割半ばとなり、おおむね満足していることがうかがえる(図29)。一方、加工でん粉(その他)は「満足」と「やや満足」を合わせても5割に満たず、他の化工でん粉に比べるとやや満足度は低い。不満の理由としては、「仕入れ先の価格の上昇」「原料の安定的な供給に不安があるため」「物流コストの上昇」「為替の変動による」などが挙げられている。
(7)その他
今回、経済状況などによる影響(物価上昇、円安など)について、自由記述で調査を行った。
天然でん粉においては、原料価格の高騰や円安、エネルギーコスト上昇などによる価格改定(値上げ)の影響を示す回答が多数見られた。また国産原料については「原料の不作」による影響があるとの回答が見られた。国内産でん粉原料用ばれいしょ・かんしょは、天候不順や、病害などの影響により減産となっており、一部企業においてでん粉の十分な確保が難しかったものとみられる。
化工でん粉では、「穀物相場の上昇」「円安」「日本国内での製造経費増加」による調達コストの上昇を挙げる回答が多数あり、度重なる値上げが商品設計にも影響していると推察される。しかし、一部には「特に影響なし」とする回答も見られた。
おわりに
天然でん粉および化工でん粉の仕入量の動向は、前年度調査では「大幅に減少」または「やや減少」とする割合が2〜4割に上っていたが、令和3年度を対象とした今回の調査では「横ばい」とする割合が増加したことから、仕入量の減少に歯止めがかかったと推測される(図13、図17)。4年度の仕入量の見込みにおいても、すべての種類で「横ばいの見込み」が5〜7割となり、総じて安定していると言える(図14、図18)。
一方で仕入価格は、すべての種類で「大幅に上昇」「やや上昇」との回答が前年度調査から増加し、ばれいしょでん粉は「横ばい」が6割以上となり安定しているものの、その他のでん粉では「上昇」とした回答が5〜7割を占めるなど、仕入価格の上昇傾向がうかがえる結果となった(図22、図27)。
農林水産省の需給見通し(5年2月時点)によると、3でん粉年度(10月〜翌9月)のでん粉需要は、COVID-19による外出自粛などの影響により減少していた需要が緩やかに回復し、前年度を0.8%上回った(40ページ表1を参照)。そして、4でん粉年度については、経済活動の回復により清涼飲料向けなどの需要の緩やかな回復が想定されることから、でん粉需要は前年度を3.8%上回ると見通している。
今回の調査では、世界情勢の変化に伴う物価高騰などを背景に、今後さらなる仕入価格の上昇を懸念する声もあり、でん粉価格上昇とそれに伴う仕入量への影響が、次年度以降の調査結果にどのような変化をもたらすのか注目されるところである。
当機構としても、でん粉の価格調整業務の的確な遂行などを通じ、でん粉需給の安定に貢献できるよう努めてまいりたい。
最後にお忙しい中、本調査にご協力いただいた企業の皆さまに、改めて厚く御礼申し上げます。
【参考文献】
・農林水産省『でん粉の需給見通しについて』
・農林水産省『砂糖及びでん粉をめぐる現状と課題について』
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272