病院食における砂糖とでん粉
最終更新日:2023年7月10日
病院食における砂糖とでん粉
2023年7月
独立行政法人国立病院機構 千葉医療センター
統括診療部外来管理部糖尿病代謝内科 栄養管理室長 森田 茂行
近年、日本における医療の世界では、「人生100年時代」が掲げられています。私たちは平均的に寿命と健康生活が延び、食生活を含めた豊かな生活が長く送れるようになっていると思われます。特に日本における食生活は、世界的に「トップクラスの食文化」として注目を集めています。これは日本人の平均寿命および健康寿命の高いデータが評価されていることとつながっています。そして、国立病院に勤務する管理栄養士の業務として、入院患者に食事療法として提供する食事にも世界が注目をしています。国立病院の中には、主にアジアの発展途上国への食事支援をしているところがあります。例えば、ある国では心臓病などの循環器疾患が多く、発症は食生活と深く関わっていることが認識されていました。その要因の一つとして、塩分の摂り過ぎが挙げられ、食事支援の一環として減塩食を基本に食事療法を行ってきました。
私たち日本人は、いろいろなことで先人の知恵を継承し、その時代に適合したものへと進化や発展をしてきました。まさに食文化も同様と言えると思われます。外食産業などでは、さまざまな食材や料理が散見されますが、「病院食」も時代とともに食文化を大切にしてきました(写真1)。
1.病院食の食事基準
ここからは、私たち国立病院の管理栄養士が入院患者に提供している治療のための病院食を紹介し、「砂糖とでん粉の重要性」をお伝えしたいと思います。病院食の食事基準について説明します。当院は総合的な急性期病院で、入院患者の平均入院期間は約12日間となります。生活習慣病といわれる糖尿病、腎臓病、心臓病、肝臓病、脂質代謝異常症(高脂血症)、膵臓病、がん、消化器術後などの治療を主体としています。さまざまな病状に合わせ約50種類の食事が分類・提供されており、中でも最もスタンダートな食事は、「常食」として位置付けています。
この常食が基準となり、全粥食や消化器術後食、糖尿病食、腎臓病食、心臓病食などの「展開食」として応用されます。常食の基準値は1日当たりエネルギー1900キロカロリー、水分量1800ミリリットル、たんぱく質70グラム、脂質50グラム、炭水化物340グラム、塩分8グラムとなります。そして、食品構成として1日当たりの食品使用量が目安として決められています。具体的には表1の通りです。
また、3大栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物)におけるエネルギー比率を見ると、たんぱく質エネルギー比15%、脂質エネルギー比25%、炭水化物エネルギー比60%となります。エネルギー比率は、たんぱく質1グラム当たり4キロカロリー、脂質1グラム当たり9キロカロリー、炭水化物1グラム当たり4キロカロリーのエネルギー量より算出されます。この栄養素のバランスが整った食事が入院患者へ勧める食事として、また入院患者への「教育食」となっています(写真2)。
2.病院食での砂糖とでん粉
ここで、本題の砂糖とでん粉について説明します。砂糖は上白糖を調理に使用しています。使用量は1日10グラムほどですが、エネルギー源として即効性があり活動する上で必要不可欠な食品となります。また、でん粉は主に芋類、穀物類、主食の米飯、豆類、調味料としての片栗粉などで摂取します。私たちの食事の主体であり、とても重要な食品と言えるでしょう。私たちの食事は、約6割のエネルギーをこの炭水化物で摂取することが理想とされています。このバランスがとれた食事を続けられれば、多くの生活習慣病は予防できると考えております。また、これを基礎として応用することで治療食として利用することができます。
3.入院患者への栄養食事指導
私たち国立病院の管理栄養士は外来、入院患者に対して栄養食事指導を実施しています。当院では6人の管理栄養士により年間2000件の食事指導を行っており、疾病別では糖尿病、心臓病、脂質代謝異常症(高脂血症)、腎臓病の順に件数が多い結果となっています。いずれの疾病に対しても(1)食事療法(2)運動療法(3)薬物療法-が3本柱となり併用されます。その中でも食事療法がとても重要な治療として中核的な治療となっています。患者の栄養状況を食事で改善することが、早期の病状回復へつながると言っても良いでしょう。
また、集団栄養食事指導として糖尿病教室、腎臓病教室、肝臓病教室、がん患者のための料理教室や精神科プログラムとしての料理教室など、さまざまな取り組みを国立病院は実施しています(写真3)。病院によって疾病別に特徴があり、開催頻度も違いますが管理栄養士が患者、家族に対して指導していきます。
4.糖尿病の食事管理
糖尿病の食事管理について説明します。糖尿病の栄養管理は主に血糖値を正常に保つために、食事は炭水化物、糖質とエネルギーを制限して高血糖や低血糖を防いでいきます。そして、糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、動脈硬化(脳卒中、心臓病)などの合併症を予防します。まず、食事管理として、患者の年齢、性別、身長、体重、生活活動強度(1日活動し体を動かす力量=4段階係数)により1日必要エネルギー量を算出します。また、簡易的には、身長から標準体重を求め、その体重1キログラム当たり25〜30キロカロリーを掛けると、目安の1日必要エネルギー量が求められます。
例として、身長160センチメートル、体重65キログラム、50歳女性患者をみてみましょう。標準体重は56キログラム(1.6m×1.6m×22BMI)、1日必要エネルギー量は1400キロカロリー(56kg×25Kcal)となります。ちなみに、この患者はBMI25.3です。わずかですが25を超えていますので肥満症と定義されます。体脂肪率も25%を超えて高めだと思われます。このことから、食生活では必要エネルギー量をオーバーする栄養過多状況が継続していたことが推測されます。そして、この患者に対して病院では、糖尿病の治療食が提供されます。エネルギーコントロール食1400キロカロリーの基準値は、1日エネルギー1400キロカロリー、水分量1500ミリリットル、たんぱく質60グラム、脂質35グラム、炭水化物220グラム、塩分6グラムとなります(表2)。
先程の常食の基準値よりエネルギーと炭水化物の差が大きく調整されるため、これを食品で調整する主体は、米飯(1日当たり90グラム減)となります。次に油脂類(同10グラム減)、砂糖(同4グラム減)と続きます。他の食品は基本的に同量となります(エネルギーが高い食品は調整)。
高血糖や低血糖を予防し良好な血糖値を安定させるためにも、砂糖やでん粉は重要な役割があり、必要不可欠な食品であると言えると思います。最近、さまざまな世論により、炭水化物を除くダイエットがはやっていることが見受けられます。この影響を受けて糖尿病患者の中には高血糖を回避する目的のために炭水化物を極端に除く食事を実施している方がいますが、そのような患者へ栄養素のバランスの重要性、1日必要エネルギー量を守ることや炭水化物の必要性を栄養食事指導の中で伝えています。
最後になりますが、当院で入院患者へ提供している献立を紹介します(写真4)。少しでも健康食に興味を持って頂き、病院食を理解され、日常の食生活に役立てて生活習慣病を予防してもらえれば幸いです。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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