ジャガイモシロシストセンチュウの緊急防除の実施状況
最終更新日:2023年7月10日
ジャガイモシロシストセンチュウの緊急防除の実施状況
2023年7月
農林水産省 消費・安全局 植物防疫課国内防除第1班 課長補佐 中園 浩一
【要約】
平成27年8月に北海道網走市内の一部地域において、国内で初めてジャガイモシロシストセンチュウ(Globodera pallida〈Gp〉)が確認された。ジャガイモシロシストセンチュウは、生活史の中にシストという段階を持つ植物寄生性線虫であり、ばれいしょなどのナス科植物の根から養分を吸収し、寄生した植物の生育を阻害することで、植物を枯らすこともあるため、ばれいしょなどの生産に大きな被害を与える。本種は、ほとんど移動しないため、シストを含んだ土壌がばれいしょや農業用機械類に付着して、人為的に移動する。このため、平成28年10月から植物防疫法に基づく緊急防除を開始し、ジャガイモシロシストセンチュウのまん延防止や土壌消毒などの防除対策を講じている。
1 これまでの経緯など
(1)網走地区
平成27年8月に北海道網走市内の一部地域において、国内で初めてジャガイモシロシストセンチュウ(以下「Gp」という)(図)が確認された。その後の調査でGpが確認された網走市の11大字および大空町の1大字、計12大字を防除区域に指定して、平成28年10月から植物防疫法に基づく緊急防除を実施し、Gpのまん延防止を図っている。
(2)斜里地区
令和元年8月に北海道斜里町の一部地域において、新たにGpが確認された。その後の調査でGpが確認された斜里町の7大字および清里町の1大字、計8大字を防除区域に指定して、緊急防除を実施し、Gpのまん延防止を図っている。
2 緊急防除の内容
(1)作付けの禁止
Gp確認圃場におけるばれいしょなどのナス科植物の作付けを禁止。
(2)移動の制限
防除区域内で生産されたナス科植物の地下部(ばれいしょ)やその他植物の地下部であって土の付着したもの(てん菜など)の移動を制限(移動させる場合は、植物防疫官が土壌の分散防止措置などが講じられていることを確認)。
(3)廃棄
防除区域内に存在する移動制限植物などのうちGpが付着し、または付着している恐れがあるもので、Gpのまん延を防止するため必要があると認めて植物防疫官が指定するものの廃棄。
3 防除区域における防除対策
Gpが確認された圃場において、対抗植物の植栽や土壌くん蒸による防除を実施し、Gp密度の低減を図る(写真1、表)。
4 これまでの緊急防除の実績
防除対策の結果、大字内のすべての圃場でGpが検出されなくなった場合には、適宜防除区域からの除外を行っており、これまでに2市町5大字を防除区域から除外している。また、防除の進捗に応じ、大字内の発生状況や地理的条件(河川など)などを踏まえ、Gpのまん延リスクが低いと判断された場合は、大字の一部地域を防除区域から除外している。
令和4年度末時点では、網走地区と斜里地区で合わせて3市町15大字を防除区域に指定し、対策を講じている。
5 防除区域における防除指導
防除対策によりGpの密度を低下させたとしても、その後に農機具の洗浄や輪作などの適切な管理が実施されなければ、Gpが再発したり新たな圃場でGpが確認されたりする恐れがあることから、生産者に対し北海道、市町村および農業者団体が連携して以下の指導を実施していく必要がある。
(1)Gpが確認されている圃場
Gpが確認された圃場では、野良生えの処理に取り組むことによりGpの密度増加を防ぐとともに、農機具の洗浄などにより当該圃場からの土壌の移動を防ぐ必要がある(写真2)。
(2)防除対策によりGpが検出されなくなった圃場
Gpが検出されなくなった圃場では、Gpを検出限界以下に維持し、そのまん延を防止するため、ばれいしょを栽培する場合には、Gp抵抗性品種の作付け、野良生え処理および輪作に取り組むことが必要である。このため、これらの圃場を対象に植物防疫官が、(1)Gpを再発させないための取り組みを実施していること(2)その取り組みの結果Gpが再発していないこと―を確認する調査を実施している。
また、調査が終了するまでの間、その圃場からばれいしょやてん菜などを出荷する際に、植物防疫官が土壌の分散防止措置が取られていることを確認することとしている。
6 今後の予定
令和5年度は、4年度までに実施した土壌検診の結果、Gpが検出された圃場を対象に対抗植物の植栽などによる防除対策を実施する。
おわりに
Gpの緊急防除の円滑な実施には、関係各位の協力が不可欠である。今後、Gpを適切に防除し、日本のばれいしょの安定生産が図られるよう、緊急防除の実施にご理解とご協力をいただくようお願いしたい。
また、Gpが確認されていない地区や防除区域から除外された地区でも、Gpの発生リスクがあることを認識し、農機具の洗浄、輪作、野良生え処理などの基本的な取り組みやGp抵抗性品種の栽培を徹底するなど、地域が一体となってGpのまん延防止対策に取り組んでいただきたい。
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