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最終更新日:2023年8月10日
コラム1 サトウキビ・砂糖法タイでは従来、サトウキビ生産者と製糖業者の交渉を経て、売買価格が決定されていたが、変化に富む国際価格の影響を受けて、価格交渉の紛糾が頻発していた。そこで同国政府は豪州やフィリピンなどで採用されている利益分配システムを参考に、1984年に砂糖製品の利益のうち7割を農家、3割を製糖業者へ分配する収益配分システム「サトウキビ・砂糖法(Cane and Sugar Act)」を導入した(なお、導入以降、現在まで配分割合に変更はない)。収益分配の根拠となるサトウキビ価格は、政府、サトウキビ農家代表、製糖工場代表で構成されたサトウキビ・砂糖委員会(TCSB:Thai Cane and Sugar Board)が算定している(コラム-図1)。具体的には、期首(12月)にこれから製糖を開始する砂糖産業全体の収益(国内および輸出向け砂糖の平均落札価格などを元に算出される暫定値)の7割をサトウキビの生産予測量で除した期首価格が公表され、製糖業者によるサトウキビ生産者への前払金の算定に利用される。その後、年度終了時(10月)に実績に基づき再計算された期末価格により、当該年度の代金精算が行われる。なお期末価格が期首価格より安価となった場合(=製糖業者の過払い)、砂糖産業の収益を原資とした「サトウキビ・砂糖基金(Cane and Sugar Fund)(注5)」から製糖業者に対し補填金が拠出される仕組みとなっている。(注5)サトウキビ・砂糖基金は砂糖産業や国内砂糖価格の安定を目的として、生産者と製糖業者からの納付により造成された基金。製糖業者への過払い補填のほか、サトウキビ生産者への低利融資などにも活用される。 なお、先述の通り、2022年12月24日にサトウキビ・砂糖法が改正された。主な改正点は以下の4点である。 1.収益算定対象にバガスを追加することの是非 2022年中旬以降、サトウキビ生産者と製糖工場の間で、収益の算定対象にバガス(サトウキビ搾汁後の残さ)を組み込むことの是非について議論が行われた。サトウキビ生産者は改正案の中でバガスを収益の算定対象となる副産物の定義に含めるように要求した。これまで、バガスは主に製糖工場の燃料として使用されていたが、この要求が通ればバガス関連の収益の3割がサトウキビ生産者に分配される。製糖工場側は、これを不服とし、TCSBから製糖工場の委員を引き上げた。現在は、製糖産業の運営を止めないため、代替委員は補充されているが、改正法には依然としてバガスを副産物として取り扱うことが記載されており、製糖工場は当該事項の削除を強く求めている。なお、今後数年間は従来通り、バガスを収益算定に含めないと非公式に合意されており、引き続きバガスの取り扱いについて協議が続けられる。また、製糖工場側でも意見は統一されておらず、一部でバガス追加を容認する意見もある。 2.期首価格の算定手法の変更(算定の上限比率を80%から95%に) 現行の期首価格の算定では、予測収益の80%を上限としていたが、改正により95%まで上限が引き上げられた。期首価格の増額が可能となった一方、製糖業者の過払いの要因となり、サトウキビ・砂糖基金からの補填拠出が増える可能性がある。 3.サトウキビ・砂糖基金事業における閣議了承義務の廃止 サトウキビ・砂糖基金は従来、過払い補填や低利融資などの事業を実行する際にタイ政府の閣議決定が必要であった。しかし、ブラジル政府はサトウキビ・砂糖基金がタイ政府の閣議決定を仰ぐことは、タイ政府の産業関与であるとしてWTO提訴で勝訴したため、改正が必要とされていた。改正により本基金は閣議決定を経ずに事業展開が可能となる。 4.ケーンジュースの砂糖生産以外での利用の解禁 これまで、ケーンジュースはその利用用途が砂糖の生産に限られていたが、改正によりエタノールなどへの加工利用が可能となった。これに伴い、現在、収益算定におけるケーンジュースの取り扱いについて検討が進められている。 |
コラム2 サトウキビおよびキャッサバの活用状況(サトウキビ)1000キログラムのサトウキビから700キログラムのケーンジュースが取れる。このケーンジュースからは、粗糖100キログラムと糖蜜47キログラムが生産される(コラム2-図1)。そして、粗糖は砂糖やシロップとして利用される。2022年12月24日のサトウキビ・砂糖法の改正により、ケーンジュースから直接エタノールへの仕向けが可能となったことで、現在従来よりケーンジュースからエタノールを生産している工場のデータを参考として、収益分配システムにおける価格設定が検討されている。 糖蜜からは、エタノールが生産され、その工程の副産物として、バイオガス、液体肥料、飼料が生産される。また、サトウキビ1000キログラムからはバガスが250キログラム取れ、発電、紙およびパーティクルボード(注6)に活用される。 (注6)木材などの小片を接着剤と混ぜて圧縮した資材。
(キャッサバ) キャッサバ1000キログラムからは400キログラムのキャッサバチップが生産される(コラム2-図2)。このキャッサバチップからは、160リットルのエタノールと副産物であるバイオガスが生産されるほか、加工食品や飼料にも用いられる。なお、キャッサバチップを経ずにキャッサバから直接エタノールを製造することも可能である。 なお、同量のキャッサバからは200キログラムのでん粉が生産され、650キログラムのキャッサバの残さが生じる。 |