ホーム > 砂糖 > 調査報告 > さとうきび > 沖縄の黒糖産業、コロナ禍の苦境をバネに新しい市場を切り拓く
最終更新日:2023年10月10日
(注1)砂糖年度(SY)とは、当該年の10月1日から翌9月30日までの期間をいう。
(注3)一般に、ワインとその原料となるブドウが生産される土地の地形、気候、土壌などの自然条件・風土に、それらと共生・結合した人々の営みを含んだ空間を示す概念として使われている。そこで生産されるワインの品質や特徴、味わいに強く影響を及ぼすと言われている。現在、その概念は農畜産物や水産物、農産加工品に至るまで幅広く用いられている。
ア.取り組み概要
与那国島産の黒糖みつを用いた沖縄ファミマの「沖縄ぜんざい」は、令和4年8月9日の発表からわずか10日ほどで予定数量の10万個に達し、販売を一時休止するほどの人気商品となった(写真4)。今年は、増産体制を整備した上で昨年より前倒しして5月から店舗への出荷を始めた効果により、8月時点で販売数57万個を突破し、その後も勢いは衰える気配を見せていない。
この商品は、与那国島産らしい軽く焦がしたような香ばしさと、黒糖本来のまろやかで優しい甘さが広がる素朴な味わいに仕立ててあり、シニア層にはどこか昔懐かしさを感じられる一方、「Z世代」と呼ばれる10代から20代前半までの層には“自分たちなりの昭和”を感じられる味と、レトロ感を演出したパッケージが逆に今までにない新鮮なものと映っているようで、幅広い層から多くの支持を得ている。
沖縄ぜんざいは、県内の食堂や喫茶店、専門店のほか、スーパーマーケット、CVSなどの至るところで1年を通して気軽に食べられる商品として販売されている。また、嗜好品の部類でもあり、県内の人口(注4)に基づく商圏の市場規模はそれほど大きくない。このような環境下で累計出荷数が72万個を超えるという実績は、爆発的な売れ行きと言える。
(注4)沖縄県の人口はおよそ146万人。
今年6月から「黒糖おいしさ再発見!」と題して発売した沖縄県産黒糖を使った商品は、黒糖そのものの良さ・風味が生かせる商品を開発したいという思いから、商品群はデザート、菓子パン類に絞った。そして、それぞれに個性・特長がある風味・味を最大限引き出す最適な食材の組み合わせが何かを試行錯誤しながら試作・検討し、3カ月という短い開発期間で完成させた(写真5)。
黒糖を含めた砂糖を使った食品は、美容や健康を意識する層から敬遠される傾向にある。その層は、年々広がっており、糖質やカロリーの少ない食品へのニーズが高まっている。今回、商品開発に当たっては、そういった層やニーズを意識するあまり、黒糖の持ち味である風味や味わいが損なわれては本末転倒との考えの下、いずれの商品も黒糖の使用量を極端に減らしたり、副原料で甘みを調整したりしていない。そのため、黒糖の豊かな香りと、素朴で余韻が残る甘みがしっかりと感じられる味に仕上がっている。
こうしたこだわりは、消費者の心にも確実に届いているようで、こちらの商品も発売から2カ月程度で予定数量に達し、好評を博した。このうち、カップアイスは、株式会社ファミリーマート(東京都)の商品開発担当者の目に留まり、全国で販売が開始されることとなったという。
商品開発チームのほとんどが県内出身者で構成されており、自分たちが本当においしいと思えるものならきっと売れるという信念と、県民の味の好みを熟知しているからこそ、このようなヒットにつながったとも言える。
イ.沖縄県産黒糖に対する評価と課題
今回の企画では沖縄県産黒糖8トン程度を調達し、商品には伊江島産、多良間島産、与那国島産、西表島産のほか、複数をブレンドしたものが採用された。商品ごとの原料の産地指定は沖縄ファミマが行っているものの、同社から委託を受けて実際に商品を製造する食品メーカーの多くは、取引している加工黒糖メーカーを通じてパウダーや黒糖みつに加工されたものを仕入れている。
理由としては、含みつ糖工場から出荷される形状は、「ブロック」「粉状」「かち割り」の3種類のみであり、そのままでは(1)割る・砕くなどの工数が増えるまたはその設備が必要となる(2)液体に溶けにくい(3)生地に均等に混ざらない−など扱いづらい面があることから、含みつ糖工場から直接仕入れることは難しいと判断したものと思われる。
他方、担当者は「今回のような特定の原料にスポットを当てた商品であれば、調達価格が多少高くても利用する」としながらも、「年間を通じて一定量を継続して調達することとなった場合、生産された年によって味や色の濃淡、風味に違いが生じることを、どこまで許容できるのかといった点は検討する余地がある」と言う。
全国での販売を視野に入れたとき、県外の食品メーカーの協力が不可欠となるが、それぞれが独自に定める厳しい規格基準を満たせるか未知数の部分があり、今後、商品開発を進める上でのボトルネックとなる可能性を示唆した。
しかしながら、「今回の企画を通じて、初めて産地ごとの味の違いを認識した。今後県内で販売するものは、8島の黒糖それぞれの味わいやその年の風味の違いを逆手にとって、良さや魅力として訴求できる商品を開発できればと考えている」と語った。
この成功の裏側には、料理の味や量だけでなく、メニュー構成や調理法、会場のレイアウトに至るまで利用客の立場に寄り添い、質の高いホスピタリティを目指すホテルならではの戦略がある。
その一つが、「食べる楽しみ」と「健康」の両立である。特に後者に関しては、沖縄県産黒糖が行き場を失っている現状を目にしたり、耳にしたりしたことがある消費者であっても、「黒糖」に対する印象は必ずしもポジティブなものばかりとは言えない。なぜなら、健康や体型管理のことを考えれば、「糖類・糖質を摂りすぎたくない」と考えている人も少なからず存在するからだ。
そこで、そういった客層にも足を運んでもらえるよう、メニュー全体で栄養バランスが整うことに最も気を配ったと言い、「付け合わせやサラダなどで野菜が多く摂れるメニューを増やしたり、スープの味付けをいつもより薄めにしたりするなど、普段とは異なるメニュー構成にし、健康を意識する利用客でも、いわゆる『罪悪感』なく食事を楽しんでもらえる内容とした」と、担当者は話す。
また、黒糖を使うと、どうしても仕上がりが茶色く、地味になるという難点があることから、色鮮やかな緑黄色野菜で彩りをプラスし、会場の装飾を華やかするなどして、見た目を含めておいしさが伝わる工夫も凝らしたという。
そして、料理に沖縄県産黒糖が使われていることが分かるようポスターやPOPを設置したほか、8島の黒糖が試食できるスペースも用意し、イベントの趣旨が利用者にしっかりと伝わるよう努めた。さらに、イベント開始前には社内で沖縄県産黒糖の特徴や現状について理解を深めるための勉強会を実施し、接客スタッフが利用客からの質問に答えられるよう準備したという。
イベント開催に際しては、地元のテレビや新聞などのメディアに取り上げられたことによる集客効果を享受しながらも、こうした緻密で魅力的なメニュー構成、会場作りによる集客努力が功を奏したと言える。
イ.沖縄県産黒糖に対する評価と課題
このイベントを機に黒砂糖組合の助言を受けながら、沖縄県産黒糖を今後も安定的に調達できるよう独自の調達ルートを構築し、使い勝手が良い粉状のものを数トン程度(注5)仕入れている。その中で、料理長は、「多良間島産は、口に入れると溶けていく食感と、甘みがしっかりしているが、柔らかくまろやかな後味があり、メイン料理からスイーツまで幅広い料理に使えると感じた。伊平屋島産は、甘さの後に程よい塩味、渋みがあり、煮込み料理との相性が良いと感じた」と評価する。
また、料理スタッフからの意外な回答としては、「料理に甘さを加えるという用途だけでなく、食材の風味を引き立てたり、食材との組み合わせで複雑な味わいを生み出し、素材としての可能性の高さを実感した」「特性や特徴を知る良い機会となり、料理のレパートリーの幅が広がった」という意見もあった。これは裏を返せば、黒糖を使って料理を作るという機会・経験がこれまで意外と少なかったということでもある。要因としては、黒糖というと「かち割り」のような固形状のイメージが強く、水などの液体に溶けにくく、調理に手間と時間がかかるため、大量の料理を短時間で仕上げなければならない調理の現場では不向きな素材だと考えられてきたのかもしれない。そういう意味で今回のイベントは、多くの料理スタッフの先入観を覆すきっかけになったものと思われる。
それと同時に、課題も浮き彫りになっている。同じ多良間島産または伊平屋島産でも、仕入れた時期および包装された製品ごとに風味が異なることから、料理長がレシピを毎日微修正して、誰が調理しても均一な味付けになるよう調整するといった手間がそれなりにかかった。料理長や料理スタッフが、それを手間だと思うか、この手間も含めて魅力だと思うかによって、今後、仕入れの頻度、量に大きく影響する可能性がある。
しかしながら、イベントが終了した現在も、ビュッフェレストランにおいて沖縄県産黒糖を使ったスイーツを必ず1品提供しているといい、3年ぶりに営業を再開したバーでは、料理長とバーテンダーがタッグを組んだお酒と産地ごとの黒糖の相性を楽しむペアリング企画も進行中で、当面は沖縄県産黒糖を使い続ける考えを示している。
(注5)調達量には、利用者(約3500人分)へ無償配布した家庭用小袋を含む。
【コラム】新たな需要獲得が期待される黒糖商品JAおきなわは、黒糖には他の砂糖と比べミネラルが豊富に含まれていることに着目し、災害時の避難生活におけるエネルギーとミネラルの補給に役立ててもらおうと、「おきなわ黒糖防災缶」を今年9月に発売した(コラム-写真1)。 内容物は沖縄県産黒糖のみだが、特殊加工を施し、製造日から3年間の長期保存が可能で、一般に市販されている黒糖の賞味期限より2倍長いという。開発担当者は「小麦や卵など特定原材料等28品目不使用なので、食物アレルギーのある方も食べられる。また、停電が起きた際の熱中症の予防などにも役立つと考えており、従来の非常食を補完するアイテムとして活用してほしい」と話す。 コラム-写真2は、特殊な製法で黒糖に漬け込んだ野菜や果物をそのままゼリーに閉じ込めた犬用のペットフードである。令和4年の年末ごろから販売を開始し、現在、県内の道の駅2カ所とファーマーズマーケット1カ所でのみ取り扱われている。原料となる野菜や果物も、すべて県産品を使用し、ファーマーズマーケットなどから廃棄されるものや規格外品を仕入れている。人間も食べられると言い、かなり甘みが抑えられていて、かすかに黒糖特有の風味が感じられる。 商品を販売する株式会社CHURATHE(ちゅらざ、沖縄県那覇市)代表の吉村氏は、「旅先で、留守番しているペットへのお土産を買って帰る人が周りにたくさんいることに気が付いた」ことが開発のきっかけと話す。ペットにとって安全・安心なものであれば、なおさら購買意欲がそそられるという。 黒糖を原料に選んだ理由は、一つに、沖縄の代表的な食べ物であるということ。そして、犬も人間同様、夏場は熱中症になりやすいことから、ミネラルが豊富な黒糖は熱中症の予防に役立つと考えた。また、甘さもプラスされるので、食いつきがいいそうだ。 |