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かんしょ産地における基腐病軽減技術

センシングドローンとGPSレベラーの活用による
かんしょ産地における基腐病軽減技術

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最終更新日:2024年2月9日

センシングドローンとGPSレベラーの活用による
かんしょ産地における基腐病軽減技術

2024年2月

鹿児島大学農学部 准教授 神田 英司

【要約】

 沖縄県でサツマイモ基腐(もと ぐされ)病が初めて確認されて以降、鹿児島県内でも急速に広がっており、かんしょ栽培に甚大な被害を与えている。そこで、GPSレベラーによる圃場(ほ じょう)高整備によって圃場内停滞水の排水を行うこと、ドローンでの空撮画像に基づくサツマイモ基腐病発病リスク判定結果を活用し、発病株の早期抜き取り・防除の支援を行うことで圃場内での基腐病のまん延を軽減する技術の実証を行っている。

はじめに

 サツマイモ基腐病(以下「基腐病」という)は2018年11月に沖縄県で初めて発生が報告された病害で、糸状菌(Diaporthe destruens)に感染することで引き起こされる。圃場では生育不良や(しお)れ、黄変、赤変などが発生した株の地際が暗褐色〜黒色となる。発病株を圃場に残しておくと、分生子殻と呼ばれる微小な黒粒が多数形成され、そこからおびただしい数の胞子が漏出する。胞子は降雨により生じる滞水や跳ね上がりなどにより周辺株に広がり、基腐病のまん延を引き起こす。圃場で茎葉が繁茂する生育旺盛期は、株元の異常に気付きにくいため、発生がひそかに拡大する。そのため、茎葉の生育が衰える秋頃になって一気に枯れ上がったように見えることが多い。

 当初は九州・沖縄地方が発生の中心であったが、2021年8月に北海道、2022年10月に大阪府、11月に和歌山県、12月に三重県でも発生が報告され、31道府県に感染が拡大している。鹿児島県でも2018年12月11日に基腐病が初めて確認されて以降、さまざまな対策を実施しているものの急速に広がっており、青果用、加工(主に焼酎)用、でん粉用などかんしょ栽培に甚大な被害を与えている。JA鹿児島県経済連の2021年度のかんしょ取扱量は2018年度と比較し35%まで減少している。宮崎県、鹿児島県の焼酎メーカーでは、2021年、2022年の基腐病被害による原料のかんしょ不足のため、一部商品の販売を休止したり、生産量が計画に届かなかったりしている。

 鹿児島県内のかんしょ主産地の一つであるいぶすき農業協同組合(JAいぶすき)は加工用、でん粉用も含め、すべてで厳しい状況にある。特に、青果用の単収の落ち込みが大きく、目標単収2.2トンに対して、2021年度の実績単収は1トンしかない。また、安納芋で知られる青果用かんしょの主産地である種子屋久農業協同組合(JA種子屋久)西之表支所でも単収が0.8トンと低くなっており、早急な対策を実施する必要がある。

 基腐病対策としては、病気を「持ち込まない」「増やさない」「残さない」という三つの対策がある。圃場に「持ち込まない」ためには、JA鹿児島県経済連野菜・花き種苗センターから供給されたウイルスフリー苗をJA育苗センターで増殖して生産者に供給し、種芋を使わないかんしょ栽培が確立されつつある。「残さない」ために、収穫時、罹病(り びょう)した芋をコンテナに分け、市町村などが設置した残渣(ざん さ)処理場に持ち出し、圃場内に残渣を残さない対策を行っている。さらに収穫後も残渣の持ち出しに努めている。

 現場で課題となっているのが「増やさない」ための対策である。感染拡大を防ぐには、発病株を早期に発見し抜き取るか、ドローンなどによる薬剤散布が有効である。これを支援するために、2021年度に鹿児島県の事業を用いて、JA鹿児島県経済連、鹿児島大学、株式会社南日本情報処理センターが共同で、センシングドローンによる基腐病の早期発見と関係者へのLINE WORKS(注1)による警報送信システムを開発している。また、降雨時の胞子の拡散を防ぐため、GPSレベラー(注2)による圃場高整備によって圃場内停滞水の額縁明渠(めい きょ)(圃場の周囲に沿って掘られた排水溝)への排水を確実にすることで基腐病被害を軽減する技術の実証を行っている。

 なお、本実証課題は、農林水産省「スマート農業実証プロジェクト(スマート農業産地形成実証)(課題番号:畑4H5、課題名:センシングドローンとGPSレベラーのシェアリングによるさつまいも産地における基腐病軽減技術の実証)」(事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)の支援により実施されたものである。


(注1)インターネット通話やチャット機能のサービスを提供するコミュニケーションアプリ「LINE」のビジネス版。
(注2)GNSS(衛星測位システム)による位置情報を利用して圃場を均平にする作業機。なお、「GPSレベラー」は製品名。

1 圃場の排水性と基腐病の発生について

 2021年度の現地調査で圃場の排水不良箇所を中心に、基腐病の発生が多いことが明らかになっている。また、JAいぶすき管内のえい地区と山川地区の青果用かんしょの単収推移を比較すると、2021年度の単収はえい地区では2018年度の40%の単収にとどまるのに対し、隣接地域である山川地区では128%と単収は増加していた。同じJA管内の隣接地域であるが、えい地区は黒ボク土である一方で山川地区は開聞岳(かいもんだけ)からの火山砂・(れき)からなる特徴的な礫土で、大雨が降ってもほぼ水がたまらない特異的な土壌である。

 このことから、圃場内の排水性が基腐病に対し大きく影響することが強く推測される。降水の縦浸透だけでは不十分で、圃場に額縁明渠などを設置するとともに、圃場内に緩やかな傾斜をつけ、圃場内から明渠への排水路を接続することが重要である(図1)。




 そこで、トラクターにGPSレベラーを装備し、GPS位置情報(緯度・経度)に基づき、縦勾配0.4%、横勾配0.2%を基本に圃場高低差を修正し、圃場の排水性を確保する。整地作業前にGPSレベラーでくまなく走行することで詳細な圃場高低差を測定することもできるが、かんしょ作付け前もしくは直後にドローンによる空撮を行い、三角測量を応用したアルゴリズムで圃場内の高低差マップを作成することで、収穫後のGPSレベラーでの整地前に圃場高さの整備計画を立てることができる。図2の圃場では、青色で示すエリアが明渠手前よりも低く、左側の明渠に排水するためには、右側から左上側になだらかな勾配を作る必要がある。
 
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2 GPSレベラーによる整地作業の実証

 基本の作業体系はプラウ混層耕、バーチカルハロー砕土鎮圧、GPSレベラー整地、プラソイラ硬盤破砕である。JAいぶすきでは、プラウとプラソイラは生産者が実施、バーチカルハローとGPSレベラーはJAいぶすきの農業管理センターが実施している。

 整地作業は、作業量をできるだけ減らすために、圃場が持つ元々の高低差をできるだけ生かしGPSレベラーの運土量が少なくなるよう、縦勾配0.3〜1.3%、横勾配0.3〜1.0%を目安に設定している。写真にGPSレベラーによる整地作業前と後の状態を示す。圃場手前および右側の土壌の盛り上がりが排除されているのがわかる。

 溝堀機による額縁明渠施工は、後作がない圃場は1月中旬、後作にニンジンやキャベツを栽培する圃場は収穫終了後の2月下旬にJAが実施する。

 GPSレベラーの作業時間(測量〜整地)は、圃場の形状、元勾配にもよるが、10アール当たり3時間から4時間必要である。GPSレベラーの整地作業は、最初は2年連続で行うことが望ましいが、その後は3年に一度の作業で排水性を維持できると考えている。これについてはかんしょまたは後作の作物の収穫後にドローン空撮による高低差測定を行い追跡中である。なお、現在のGPSレベラーの作業料金は、人件費、軽油代、減価償却費を考慮すると10アール当たり2万7000円であるが、オペレーターの習熟による作業時間の減少、かんしょ以外の畑作物圃場の整地など作業面積の拡大による減価償却費の低下を考慮すると徐々に作業料金は減額されていくと考えている。
 
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3 センシング用ドローンシェアリングによる基腐病リスク判定の実証

 センシング用ドローン(DJI P4 Multispectral)で高度10メートルで空影した画像をリスク判定システムにアップロードし、地上での発病調査と照合するため、オルソ化(注3)した後、株ごとにリスク判定を行った。具体的な判定方法は、可視光と近赤外光の反射を組み合わせた式の値が一定のしきい値を上回ると発病しているリスクがあると判定する。2021年度に開発したこの発病リスク判定法は、生育初期であれば発病リスクの高い株の60%の検出が可能である。リスク判定結果を関係機関(鹿児島大学、JA鹿児島県経済連、JAいぶすき、JA種子屋久、鹿児島くみあい食品株式会社)で迅速に共有するため、リスク判定システムの管理元である株式会社南日本情報処理センターからLINE WORKSにて関係機関に解析画像のリンクの通知を行っている(図3)

(注3)画像の位置ズレをなくし、真上から見たような傾きのない、正しい大きさと位置に表示される画像に変換し、結合する処理のこと。

 


 
 2022年度には鹿児島県南九州市えい地区と西之表市の農家圃場においてかんしょ栽培期間中(定植2週目から収穫まで)にセンシングドローンによる週1回間隔の撮影と基腐病のリスク判定を実施した。併せて圃場の基腐病発生について目視による発病調査を行った(図4)。

 ただし、圃場全体のオルソ画像を作成するためには設定範囲より一回り以上広い範囲を撮影する必要があり、5アールの小さな圃場では電線や立木などの障害物を回避すると、倍の10アールの撮影範囲が必要となった。当初はリスク判定に高度10メートルでの撮影を行っていたが、高度20メートル、重複率80%での空撮画像でもリスク判定結果はほぼ同じ精度であった。また、リスク判定は、今後の実用性を考慮し株ごとではなく50センチメートルメッシュごとに行うこととした。

 2022年度は梅雨入りが遅く、降雨量が例年より少なかったため発病時期が遅く、目視による地上調査が可能な生育初期を過ぎてから、茎葉が繁茂する生育旺盛期に株元で発病がひそかに拡大していた。また、発病が遅くなったことにより、茎葉が別の株まで広がって発病し、発病株は発病リスクありと判定された茎葉から1〜3株離れていることもあった。人が圃場に入れなくなった茎葉が繁茂した後のリスク判定は薬剤防除の必要性の判定に有効であるため、塊茎に基腐病菌が侵入する前の段階での、圃場内の発病割合の判定精度の向上に努めていきたい。

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4 今後の展望

 鹿児島はかんしょの生産量が日本一であり、茶とともに基幹作物である。それだけに基腐病の被害による単収減少の農業経営への影響は大きく、かんしょ産品の維持だけでなく、かんしょ産地の維持も危ぶまれている。

 2023年も鹿児島県、宮崎県、佐賀県などで基腐病の発生が確認されたが、8月上旬の台風6号以降、降水量が少なく、鹿児島地方気象台の9月の降水量は平年の19%と天候に恵まれ、基腐病のまん延は抑えられた。また、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構により育成された基腐病に抵抗性のある、焼酎・でん粉原料用新品種「みちしずく」の栽培がJAいぶすき管内でも始まったことも大きい。「みちしずく」は現在主力品種として普及している焼酎原料用の「コガネセンガン」よりも基腐病に強く、多収で、焼酎にした時の酒質は「コガネセンガン」の焼酎に似ているとされ、でん粉収量が多く、でん粉の白度も高いため、でん粉原料用としても優れているとされ、南九州のかんしょ産地で栽培農家が増える見込みである。

 今後は今回紹介した実証を継続し、圃場高低差の改善による基腐病被害の軽減と発病株の早期発見、早期抜き取りおよび防除の支援のためのセンシングドローンによるリスク判定精度の改善を行ってまいりたい。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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