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〜北海道遠軽町「えづらファーム」の取り組み〜
最終更新日:2024年2月9日
ア 新規就農の経緯
暁人氏は、就農以前は東京で勤務しており、勤め続ける中で家族との時間をより大切にしたいと考えるようになった。高校生まで暮らしていた北海道の広大な自然と、そこで体を動かした楽しさを思い出して、自分の目指す「ワークライフバランス」を実現するため、北海道での就農を決意した。また、農業に将来性やビジネスチャンスを感じていたという。
陽子氏は横浜で勤務していたが、暁人氏とともに農業を行うことを快諾し、結婚式の翌日に二人で北海道に移住した。陽子氏は北海道で農業を行うことは、不安よりも期待の方が大きかったという。
イ 就農前研修
就農前に、畑作農家において北見市で1年、遠軽町で2年の研修を行った。江面夫妻によれば、「今までの仕事より身体を使う分、大変だった部分もあるが、それよりも明るいうちに家に帰れることや、家族と過ごせる時間が多く、人間らしい生活を送ることができて嬉しかった」という。
毎日「作業日誌」をつけ、どの時期にどのような作業を行ったのか、労働時間や使用した農具、農業用機械の状況など、独立を見据えて記録した。作業日誌は、今でも見返し、毎年の作業見通しを立てる上で大いに役立っているとのことである。
ウ 第三者継承
2年間研修を行った遠軽町白滝地区の畑作農家から、機械、土地および家屋一式を有償譲渡で第三者継承した。江面夫妻によれば、2年での継承は他の事例と比較して早かったとのことであった。
第三者継承のメリットとしては、移譲者の経営ノウハウを継承(習得)できることから、経営方法を踏襲すれば、同程度の収入を得られる点を挙げた。ノウハウを継承できたので、独立後はすぐに生活費を確保でき、安定した収入があるので初期投資を行うことが可能となった。
デメリットとしては、移譲者との並走期間が長くなると人間関係の維持が難しくなることなどが挙げられるが、移譲者が非常に良い人だったので、そのようなことはなかった。
オ てん菜の作付け状況
てん菜の作付け状況などは表3、写真3の通り。
なお、輪作体系は「小麦→てん菜→ばれいしょ→スイートコーン」の順で実施。
カ 直播栽培への取り組み
直播栽培を導入して3年目となる。今後、直播の品質が安定すれば、直播の割合を現在の60%からさらに高めたい(最終的には100%を目標)が、品質的に移植の方が良い部分もあるので、今後のてん菜を取り巻く状況を見ながら対応していきたいと考えている。
キ 生産性向上の取り組み
早期定植・早期播種については、白滝地区で一番か二番の早さである。土壌分析を毎年行っており、分析結果に基づいてライムケーキや石灰、マグネシウムなどを投入し、堆肥の投入なども行っている。また、生産者同士で情報交換を行っており、具体的には、現場で苗を移植して活着したタイミングで農業改良普及センターや農協、製糖会社と一緒に各農場の生産状況を共有している。
ク 低コスト化の取り組み
肥料会社と相談しながら、肥料を安いものに変えている。この地域は火山灰の土壌でやせていることもあり、減肥がなかなかできないのが現状である。
ケ 昨年の夏季の高温の影響など
前半は比較的順調な生育であったが、夏季の高温により褐斑病(注1)が一部発生した。当農場ではヨトウムシ(注2)などの害虫の被害が大きかった。当農場のてん菜糖度は表3の通りであるが、他の地域は糖度が低くなっている(10%台もある)と聞いている。
(注1)葉に病斑が発生し、進行すると病斑が拡大して葉が枯死に至る病害。根中糖分が上昇する生育後期に病気が進行することが多いため、根中糖分に影響を与えることが多い。
(注2)ヨトウガの幼虫が「ヨトウムシ」と呼ばれ、多食性でほとんどの植物を食害する。
(1)地域社会(農村)との関わり方
新規就農に当たって重要なことの一つとして、「地域社会(農村社会)にいかに溶け込むか」が大事であるが、地域社会に縛られすぎると、人間関係の逃げ場を失う可能性がある。
江面夫妻は、当然のことながら、地域社会を尊重しつつも、宿泊客やボランティアの人たちとの交流、また、SNSなどを通じて、人間関係のバランスを取っている。
夫妻によると、「地域の常識に従って生きていくことが、一番大切だと思っている。地域に溶けこむことができないと、やはりその良さはわからない。東京にいた時代は仕事で接する人の数は多かったものの、一人の人と関わる時間は短かった。この地域で暮らすようになり、一人ひとりと接する時間を長くとれるようになった。一方で、地域に溶け込んでその生活に慣れてしまうと、固執した考え方に陥りやすい部分がある」とのことである。
(2)ここまで事業展開することができた理由
農業は基本的には一年間で同じ作業の繰り返しであり、それを基本に行っていけば、特段の状況変化が発生しない限り一定の収入は担保できる。
こうした中で、農業も「ビジネス」と同じで「トライ&エラー」や「スモールスタート」が重要だと考えている。これらの手法で、自分たちで迅速に判断して進めてきたから、ここまで展開することができたのだと思う。
そして、実績を重ねていけば、自然と周りがついてきてくれる。民宿経営については、先ほども述べたが、今でこそ年間約500人を受け入れているが、当初は部屋に空きがあったものの、地域のウィンタースポーツ事業者からの声掛けがあったことがきっかけで、人とのつながりにより少しずつ広がっていった。自分たちの事業はすべてのことが、「身近な人の力になりたい」ということから始まっている。少しずつでも実績を重ねると、自然と周りの人たちも協力してくれるようになった。
一方で、非農業部門の運営については、気候変動や農閑期のリスクマネジメントの観点から、複合経営により全体の経営安定化を図っている(その年の作柄に関わらず一定の収入が得られる)という面もある。逆に、コロナ禍の状況下ではボランティアの受け入れや農家民宿の客数が減ったため、その分畑の植え付けを増やすなどして対応した。
やはり何事に対しても「積極的に取り組む姿勢」が重要だと思う。さらに、自分たちは「外から来た人」なので、新しい風を吹かせたい、既存の農家の人たちがしていないことをやっていこうという思いもある。畑作の技術の面では既存の農家の人たちにはかなわないところがあるので、技術面については教えてもらいつつ、「外から来た人」である自分たちの強み(自由な発想や迅速な対処)を生かして事業を展開することが良いのではないかと思う。
(3)現在の課題や今後の事業展開
自分たちは、毎年一つ「新規事業」に取り組んでいる。今後は、(1)えづらファームでの新規就農人材育成(農地の紹介なども含む)(2)宿泊施設の増設(空いている土地にトレーラーハウスを設置、写真10)(3)レトルト食品の開発−などを行っていきたいと考えている。
現状では人手不足のため、将来的には人材を確保したい。
(4)今後の地域農村のあり方
インターネットの普及などにより、人材の流動性が大きくなっている中で、その影響に直面しているのが地方の農村であると思う。
農村は閉鎖的で変化を受け入れない側面があるが、農村にいる人たちこそ今直面している人材の流動性の変化に対応できるようにしていかなくてはならない。
最近は感染症や気候変動など外的な要因で農業を取り巻く環境が大きく変わっている。生産することのみではなく、リスクヘッジとして農業以外の事業にも取り組む農家が増えていけば良いのではと思う。
(5)農業経営で成功するために一番大事なこと
やはり農家としての基盤をきちんと作り上げることが一番大事である。基盤を作り上げるのは1日、1年で実現できることではない。畑作業の基礎について誰よりも努力して習得し、挑戦はその後に行う。挑戦をするためには、地域で実績が認められるように努力して、理解を得ることが必要である。