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〜北海道遠軽町「えづらファーム」の取り組み〜

「人が集まる農場」として、農業の豊かさを発信
〜北海道遠軽町「えづらファーム」の取り組み〜

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最終更新日:2024年2月9日

「人が集まる農場」として、農業の豊かさを発信
〜北海道遠軽町「えづらファーム」の取り組み〜

2024年2月

札幌事務所 石井 清栄

【要約】

 持続可能な農村を形成していくためには、地域づくりを担う人材の養成などが重要である。また、都市住民も含め、農村地域の支えとなる人材の裾野を拡大していくためには、農的関係人口の創出・拡大や関係の深化を図っていくことが必要である。

 こうした中で、江面(え づら)暁人(あき と)氏・陽子氏夫妻は平成24年に北海道で新規就農し、現在経営する「えづらファーム」では、てん菜やばれいしょなどを42ヘクタールの農地で生産するほか、農家民宿、住み込みボランティア、企業研修やレストラン経営など多彩に活動し、農業の豊かさや魅力を積極的に発信している。

 以上の取り組みなどにより、人口513人の北海道遠軽町白滝地区にあるえづらファームには、世界中から年間数百人が訪れる「人が集まる農場」となっている。

はじめに

 農村は、国民に不可欠な食料を安定供給する基盤であるとともに、農業・林業などさまざまな産業が営まれ、多様な地域住民が生活する場でもある。さらには国土の保全や水源の涵養(かん よう)など多面的機能が発揮される場としての役割も果たしているため、その振興を図ることが重要である。

 わが国には少子高齢化・人口減少の波が押し寄せており、農村地域も今後、非農業者を含めた人口の減少や、存続が危ぶまれる集落の増加に直面する可能性がある。その一方で、近年、若い世代を中心に地方移住への関心が高まっており、農村の持つ価値や魅力が再評価されている。

 こうした中で、人口513人(令和5年11月末現在)の遠軽町白滝地区で農業を営む江面暁人氏・陽子氏夫妻(以下「江面夫妻」という)は、てん菜など42ヘクタールを作付けする「えづらファーム」を経営している(写真1、2)。同ファームは、畑作のみならず農業の魅力を伝える多彩な取り組みで、世界中から若い世代など年間数百人が訪れる。

 本稿では、「人が集まる農場」を実現した江面夫妻の人を引き付ける農業とそれらの発信に係る取り組みについて報告する。



 
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1 農村集落の現状と政府の取り組み

(1)農村集落の現状

 「令和4年度食料・農業・農村白書」(以下「農業白書」という)によると、令和2年の人口は、平成27年に比べ都市で1.6%増加した一方で、農村では5.9%減少であった。農村では生産年齢人口(15歳〜64歳)、年少人口(0〜14歳)が大きく減少しているほか、総人口に占める老年人口(65歳以上)の割合は、都市の25%に対して、農村が35%と、農村は高齢化が進んでいることがうかがえる(図1)。




 一方で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が長期化した中、若い世代を中心に地方移住への関心の高まりが見られる。

 令和4年6月に内閣府が行った調査では、東京圏在住で地方移住に関心があると回答した人の割合は34.2%で、その割合は増加傾向にある。特に関心のある人の割合は20歳代において45.2%と高く、若い世代を中心に地方移住への関心が高まっていることがうかがえる(図2)。
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(2)「農山漁村発イノベーション」の推進

 農業白書によると、農山漁村の所得向上や雇用機会の創出を図るため、農林水産省(以下「農水省」という)は、従来、農村への産業の立地・導入を促進するとともに、農業者が加工・販売などに取り組む6次産業化の取り組みなどを推進してきた。

 今後の農村施策の展開に当たっては、農業以外の所得と合わせて一定の所得を確保できるよう、多様な機会を創出していくことが重要であるため、従来の6次産業化の取り組みを発展させ、「農山漁村発イノベーション」を推進している(図3)。




 この事例の一つとして、「農泊」が挙げられるが、令和3年度の農泊地域の延べ宿泊者数は、前年度に比べ約58万人泊増加し約448万人泊となった。このうち、訪日外国人旅行者の延べ宿泊者数は前年度に比べ約1万人減となった(図4)。

 


 このような農泊地域の宿泊者数増加は、都市住民が農山漁村での仕事に関わるきっかけとなり、最終的には就農するために農山漁村に生活の拠点を移すといったケースも想定され、農山漁村の振興にもつながる可能性がある。

 農水省は、農山漁村に関係する人口である「農的関係人口」の創出・拡大や関係の深化に向け、農山漁村におけるさまざまな活動に都市部等地域外からの多様な人材が関わる機会を創出する取り組みや、多世代・多属性の人々が交流・参画する場の導入などを推進している(図5)。
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(3)地域(農村)を支える体制・人材づくり

 農業白書によると、令和3年6〜8月に内閣府が行った世論調査では、農業の停滞や過疎化・高齢化などにより活力が低下した農村地域に対して、約7割が「そのような地域(集落)に行って協力してみたい」と回答している。

 一方で、その大部分は、「機会があればそのような地域に行って協力してみたい」との回答から、地域の支えとなる人材の裾野を拡大していくためには、農業・農村への関心の一層の喚起と併せて、関心を持つ人に対して実際に農村に関わる機会を提供することが重要である(図6)。



 こうした中で、これまで農村を支える体制・人材づくりに寄与してきた地方公共団体職員、特に農林水産部門の令和4年の職員数(7万8852人)は、平成17年(10万2887人)と比較して2割以上減少した。

 農水省は、地域への愛着と共感を持ち、地域住民の思いをくみ取りながら、地域の将来像やそこで暮らす人々の希望の実現に向けてサポートする「農村プロデューサー」の人材を育成するため、令和3年度から「農村プロデューサー養成講座」を開催し、令和5年3月末時点で146人が受講している。

2 えづらファームの取り組み

(1)遠軽町について

 えづらファームのある遠軽町は、北海道の北東部、オホーツク管内のほぼ中央、内陸側に位置し(図7)、面積は1332.45平方キロメートルと、市町村としては全国第9位の広さである。

 なお、遠軽町白滝地区の年間の気象条件については、図8を参照されたい。



 
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(2)遠軽町の農業

 農水省統計情報「わがマチ・わがムラ」によると、遠軽町の総農家戸数は115戸(令和2年)、耕地面積は7700ヘクタール(令和4年)であり、農業産出額は令和3年推計で54億5000万円であった。

 作付けされている農作物の作付面積、収穫量などについては、表1の通り。
 
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(3)江面夫妻の新規就農

ア 新規就農の経緯
 
暁人氏は、就農以前は東京で勤務しており、勤め続ける中で家族との時間をより大切にしたいと考えるようになった。高校生まで暮らしていた北海道の広大な自然と、そこで体を動かした楽しさを思い出して、自分の目指す「ワークライフバランス」を実現するため、北海道での就農を決意した。また、農業に将来性やビジネスチャンスを感じていたという。

 陽子氏は横浜で勤務していたが、暁人氏とともに農業を行うことを快諾し、結婚式の翌日に二人で北海道に移住した。陽子氏は北海道で農業を行うことは、不安よりも期待の方が大きかったという。

イ 就農前研修
 
就農前に、畑作農家において北見市で1年、遠軽町で2年の研修を行った。江面夫妻によれば、「今までの仕事より身体を使う分、大変だった部分もあるが、それよりも明るいうちに家に帰れることや、家族と過ごせる時間が多く、人間らしい生活を送ることができて嬉しかった」という。

 毎日「作業日誌」をつけ、どの時期にどのような作業を行ったのか、労働時間や使用した農具、農業用機械の状況など、独立を見据えて記録した。作業日誌は、今でも見返し、毎年の作業見通しを立てる上で大いに役立っているとのことである。

ウ 第三者継承
 2年間研修を行った遠軽町白滝地区の畑作農家から、機械、土地および家屋一式を有償譲渡で第三者継承した。江面夫妻によれば、2年での継承は他の事例と比較して早かったとのことであった。

 第三者継承のメリットとしては、移譲者の経営ノウハウを継承(習得)できることから、経営方法を踏襲すれば、同程度の収入を得られる点を挙げた。ノウハウを継承できたので、独立後はすぐに生活費を確保でき、安定した収入があるので初期投資を行うことが可能となった。

 デメリットとしては、移譲者との並走期間が長くなると人間関係の維持が難しくなることなどが挙げられるが、移譲者が非常に良い人だったので、そのようなことはなかった。

(4)てん菜作付面積および作付け状況など

 えづらファームのてん菜作付面積などの概要については、以下の通り。

ア 経営の開始時期
 
平成24年4月

イ 農地面積
 
42ヘクタール

ウ 労働力
 
江面夫妻、パート1人
 住み込みボランティア(大学生など)年間約50人

エ 栽培品目
 
栽培品目は表2の通り。


 


オ てん菜の作付け状況
 
てん菜の作付け状況などは表3、写真3の通り。
 なお、輪作体系は「小麦→てん菜→ばれいしょ→スイートコーン」の順で実施。

 





カ 直播(ちょく はん)栽培への取り組み
 
直播栽培を導入して3年目となる。今後、直播の品質が安定すれば、直播の割合を現在の60%からさらに高めたい(最終的には100%を目標)が、品質的に移植の方が良い部分もあるので、今後のてん菜を取り巻く状況を見ながら対応していきたいと考えている。

キ 生産性向上の取り組み
 
早期定植・早期播種(は しゅ)については、白滝地区で一番か二番の早さである。土壌分析を毎年行っており、分析結果に基づいてライムケーキや石灰、マグネシウムなどを投入し、堆肥の投入なども行っている。また、生産者同士で情報交換を行っており、具体的には、現場で苗を移植して活着したタイミングで農業改良普及センターや農協、製糖会社と一緒に各農場の生産状況を共有している。

ク 低コスト化の取り組み
 肥料会社と相談しながら、肥料を安いものに変えている。この地域は火山灰の土壌でやせていることもあり、減肥がなかなかできないのが現状である。

ケ 昨年の夏季の高温の影響など
 
前半は比較的順調な生育であったが、夏季の高温により褐斑(かっ ぱん)(注1)が一部発生した。当農場ではヨトウムシ(注2)などの害虫の被害が大きかった。当農場のてん菜糖度は表3の通りであるが、他の地域は糖度が低くなっている(10%台もある)と聞いている。

(注1)葉に病斑が発生し、進行すると病斑が拡大して葉が枯死に至る病害。根中糖分が上昇する生育後期に病気が進行することが多いため、根中糖分に影響を与えることが多い。
(注2)ヨトウガの幼虫が「ヨトウムシ」と呼ばれ、多食性でほとんどの植物を食害する。

(5)農家民宿

 農家民宿を始めたきっかけは、地域のウィンタースポーツの関係者から宿泊先を確保したいという話があったことである(写真4)。自宅として譲り受けた家が親子三代で住んでいたこともあり、部屋が多くあるので、何か有効活用できないかと考え、北海道の自然の豊かさや農業の楽しさを他者と共有したいと思ったのが始まりであった。

 民宿経営については、自分たちの行える範囲で徐々に進めてきたことから、あまり苦労は感じていないが、経営開始当初は、「おもてなしをしなければならない」と肩に力が入っていたという。しかし、宿泊者が求めているのは、「質の高い接客」ではなく、「飾らない農家の暮らし」であることに気付いてからは、自然体で接するようになった。

 また、宿泊中などに行うさまざまな農業体験プログラム(表4)については、大学生のボランティア(後述)などからのアイデアが多い。彼らから良いアイデアが出た場合は、すぐに採用している。夫妻によれば、「自分たちは『自営業者』で自由度が高いため、良いと思うことはとりあえず実行してみて、うまくいかなければ止めれば良いと思っている」とのことである。




 これまでの宿泊者のうち、約3割から4割が外国人であるが、これは観光資源としての「北海道(の大自然)」の魅力がやはり大きいと考えている。また、外国人宿泊者が在住している国の中にも、農泊施設はあるが、その中でも日本を選ぶ理由としては、やはり施設面や衛生面での日本に対する安心感や信頼があるのではないかと思う、とのことであった。

 また、外国人宿泊者がえづらファームを選ぶ理由としては、(1)インターネットで「北海道、ファームステイ」と検索すると、えづらファームが検索画面のトップに出てくるように工夫していること(2)英語版のホームページを開設していること(3)海外の宿泊予約サイトにも情報を掲載していること−が挙げられる。このような取り組みからコロナ禍が落ち着いた昨年は、リベンジ旅行の影響もあり、宿泊者の8割を外国人が占め、年間約500人を受け入れる予約がすぐに埋まってしまった。
 
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(6)住み込みボランティア

 農作業などを行う中で、えづらファームの所在地などの理由から通いの従業員を継続的に雇用することが困難になったため、個室と食事3食を提供し、長期滞在(基本的に一週間以上)しながら農作業やレストランの手伝い、食品加工などを行ってもらう住み込みボランティアの募集を平成25年から開始した。

 大学生を中心に応募が増加し、現在は年間(2月から10月まで)約50人を受け入れている(受け入れ人数は10年間で延べ600人に上る)。

 応募殺到の理由は、江面夫妻が応募者に「えづらファームに来たい理由」「滞在中にしたいこと」などを事前に聞き取り、その人の能力や性格を見ながら、彼らの希望をかなえられるようにしていることにある。例えば、レストラン経営に興味がある学生には「メニュー開発」を担当してもらうなど、お金に換えられない経験をしてもらうことが「労働の対価」と考えている。一方、彼らの自由で斬新なアイデアなどが自分たちの経営にも役立っており、お互いに「ウィン・ウィンの関係」を築いている(写真5、6)。

 「一般的に農業に対して『きつい、大変』というイメージがあるが、実際の農作業などを通じて、農業は取り組み方次第で収入を増やすことが可能ということが実感できるため、イメージを変えることができる。自分たちの取り組みにより、『農業に対するイメージアップ』に微力ながら貢献できればと思っている」と江面夫妻はいう。ボランティアとして働いたことがきっかけで農家になった人や、就農希望で働いている人もいる。



 
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(7)企業研修

 暁人氏の知人からの「新入社員研修」の相談がきっかけで、平成27年から企業研修の受け入れをコロナ禍前まで年2回(累計実施回数14回)実施している(写真7)。

 研修日程などは表5の通り。



 
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(8)収穫レストラン「TORETATTE(トレタッテ)」

 令和3年、敷地内にえづらファームの採れたての野菜や、近隣農場から直接購入した自然卵、放牧牛乳、肉製品などおいしく新鮮な食材を使用した料理を提供する収穫レストラン「TORETATTE(トレタッテ)」をオープンした(写真8)。

 メニューの多くは、住み込みボランティア(大学生)が考案し、調理などについては、パート、ボランティアと陽子氏で行っている(写真9)。



 
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(9)ホームページやSNSによる発信

 前述の取り組みと併せて、これらに関する情報発信、ブログや農場紹介の動画公開、ばれいしょ畑のオンラインツアーなど、積極的な情報発信を行っている。

ア 立ち上げた経緯
 
就農当時から積極的な情報発信は重要と考えており、ホームページは平成25年、農場紹介などと併せて民宿開始とボランティア募集も目的として開設し、翌年には英語版も開設した。

イ 動画などの企画や運営
 
当農場の紹介動画はボランティアの男子学生の提案で、ドローンを使って撮影し、学生自ら編集してくれたものである。彼にはこの後、動画制作の仕事の依頼があったという。農場を知らない人にも動画で魅力を発信することができ、動画を制作した本人にもプラスの結果となった。

 なお、運営はすべて自分たちで行っている。

3 江面夫妻の考え

(1)地域社会(農村)との関わり方
 
新規就農に当たって重要なことの一つとして、「地域社会(農村社会)にいかに溶け込むか」が大事であるが、地域社会に縛られすぎると、人間関係の逃げ場を失う可能性がある。

 江面夫妻は、当然のことながら、地域社会を尊重しつつも、宿泊客やボランティアの人たちとの交流、また、SNSなどを通じて、人間関係のバランスを取っている。

 夫妻によると、「地域の常識に従って生きていくことが、一番大切だと思っている。地域に溶けこむことができないと、やはりその良さはわからない。東京にいた時代は仕事で接する人の数は多かったものの、一人の人と関わる時間は短かった。この地域で暮らすようになり、一人ひとりと接する時間を長くとれるようになった。一方で、地域に溶け込んでその生活に慣れてしまうと、固執した考え方に陥りやすい部分がある」とのことである。

(2)ここまで事業展開することができた理由
 農業は基本的には一年間で同じ作業の繰り返しであり、それを基本に行っていけば、特段の状況変化が発生しない限り一定の収入は担保できる。

 こうした中で、農業も「ビジネス」と同じで「トライ&エラー」や「スモールスタート」が重要だと考えている。これらの手法で、自分たちで迅速に判断して進めてきたから、ここまで展開することができたのだと思う。

 そして、実績を重ねていけば、自然と周りがついてきてくれる。民宿経営については、先ほども述べたが、今でこそ年間約500人を受け入れているが、当初は部屋に空きがあったものの、地域のウィンタースポーツ事業者からの声掛けがあったことがきっかけで、人とのつながりにより少しずつ広がっていった。自分たちの事業はすべてのことが、「身近な人の力になりたい」ということから始まっている。少しずつでも実績を重ねると、自然と周りの人たちも協力してくれるようになった。

 一方で、非農業部門の運営については、気候変動や農閑期のリスクマネジメントの観点から、複合経営により全体の経営安定化を図っている(その年の作柄に関わらず一定の収入が得られる)という面もある。逆に、コロナ禍の状況下ではボランティアの受け入れや農家民宿の客数が減ったため、その分畑の植え付けを増やすなどして対応した。

 やはり何事に対しても「積極的に取り組む姿勢」が重要だと思う。さらに、自分たちは「外から来た人」なので、新しい風を吹かせたい、既存の農家の人たちがしていないことをやっていこうという思いもある。畑作の技術の面では既存の農家の人たちにはかなわないところがあるので、技術面については教えてもらいつつ、「外から来た人」である自分たちの強み(自由な発想や迅速な対処)を生かして事業を展開することが良いのではないかと思う。

(3)現在の課題や今後の事業展開
 
自分たちは、毎年一つ「新規事業」に取り組んでいる。今後は、(1)えづらファームでの新規就農人材育成(農地の紹介なども含む)(2)宿泊施設の増設(空いている土地にトレーラーハウスを設置、写真10)(3)レトルト食品の開発−などを行っていきたいと考えている。

 現状では人手不足のため、将来的には人材を確保したい。

 



(4)今後の地域農村のあり方
 
インターネットの普及などにより、人材の流動性が大きくなっている中で、その影響に直面しているのが地方の農村であると思う。

 農村は閉鎖的で変化を受け入れない側面があるが、農村にいる人たちこそ今直面している人材の流動性の変化に対応できるようにしていかなくてはならない。

 最近は感染症や気候変動など外的な要因で農業を取り巻く環境が大きく変わっている。生産することのみではなく、リスクヘッジとして農業以外の事業にも取り組む農家が増えていけば良いのではと思う。

(5)農業経営で成功するために一番大事なこと
 
やはり農家としての基盤をきちんと作り上げることが一番大事である。基盤を作り上げるのは1日、1年で実現できることではない。畑作業の基礎について誰よりも努力して習得し、挑戦はその後に行う。挑戦をするためには、地域で実績が認められるように努力して、理解を得ることが必要である。

おわりに

 「えづらファーム」の取り組みについて見てきたが、同ファームの取り組みは、まるで前述の「農業白書」で示されている今後の農村の方向性などに沿って具現化されているかのように思われる。江面夫妻は、先見的な見方で自分たちの強みを生かし、(1)大学生たちの自由なアイデアの実行(2)無理のない着実な事業展開(3)積極的な情報発信「見せる農業・発信する農業」−を行っている。またその一方で、農業に対する真摯(しん し)な取り組みは当然のこととして、地域(農村)社会を非常に尊重している。それでは、現在の事業展開が首尾よく進むことは、当然の帰結と言えるかもしれない。夫妻は、すでに現地の「農村プロデューサー」の役割を果たしているとも言えるのではないか。お二人の取り組みについては、深く敬服するばかりである。

 現在は、農業を営みながら他の仕事にも携わる「半農半X」といった従来の新規独立就農・専業経営にとらわれない就農形態も出てきている。しかしながら、これを受け入れつつも、やはり今後、わが国の農業を担うべき中核的な人材の育成、まずは農業の基盤を確保し、「農山漁村発イノベーション」を推進する人材が必要であると考える。江面夫妻のような人たちが、今後の農村(地域社会)の将来をけん引していくのではないだろうか。今後のえづらファームの取り組みについて、ますます目が離せない。
謝辞

 本稿の執筆に当たり、本調査にご協力いただきました江面暁人さま、陽子さまに厚く御礼申し上げます。

〇「えづらファーム」ホームページ
https://www.ezurafarm.com/〉(2023/12/25アクセス)


(参考文献)
・農林水産省「令和4年度食料・農業・農村白書」第3章 農村の振興〈https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r4/r4_h/trend/part1/chap4/index.html〉(2023/12/25アクセス)
・農林水産省『農村プロデューサー』養成講座
https://www.maff.go.jp/j/nousin/course/#a_4〉(2023/12/25アクセス)
・農林水産省「わがマチ・わがムラ」
https://www.machimura.maff.go.jp/machi/〉(2023/12/25アクセス)
・北海道遠軽町の位置・面積
https://engaru.jp/information/page.php?id=223〉(2023/12/25アクセス)
・北海道遠軽町「令和4年度遠軽町 町勢要覧資料編」
https://engaru.jp/common/img/content/content_20230424_113731.pdf(2023/12/25アクセス)
・気象庁「過去の気象データ検索(遠軽町白滝地区)」
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php〉(2023/12/25アクセス)

 

 

 

 

 

 

 

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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272