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食品メーカーにおけるでん粉の利用形態〜令和5年度甘味料およびでん粉の仕入動向等調査の概要(1)〜

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最終更新日:2024年5月10日

食品メーカーにおけるでん粉の利用形態
〜令和5年度甘味料およびでん粉の仕入動向等調査の概要(1)〜

2024年5月

調査情報部

【要約】

 令和5年度の天然でん粉および化工でん粉の仕入量は総じて安定しているが、仕入価格については、仕入先の価格改定などにより「上昇」と回答する企業が前年度調査と比較して増加した。自由記述では、国産でん粉に関しては供給制限による安定供給への不安、輸入でん粉に関しては円安や原料相場高騰などによる価格面での不安の声が多くあった。

はじめに

 わが国で流通する天然でん粉は、輸入トウモロコシを原料とするコーンスターチが9割弱、国内産いもでん粉が1割弱を占め、その他輸入でん粉(タピオカでん粉、サゴでん粉など)、小麦でん粉などが供給されている(図1)。

 その用途は、異性化糖や水あめなどの糖化製品向けが最も多く、次いで化工でん粉(注)、食品、製紙・段ボールとなっており、食品分野を中心に、工業や医療分野など幅広い用途で活用されている(図2)。このようにでん粉は、私たちの生活や社会と密接に関係していることから、安定的に供給していくことが欠かせない。

 そこで当機構では、実需者のでん粉に対するニーズを把握し、でん粉の需給動向の判断に資する基礎的な情報を収集するため、主要なでん粉について食品製造事業者を対象としたアンケート調査を毎年実施している。

 本稿では、令和5年度(令和4年10月〜翌年9月)を対象に実施した「甘味料およびでん粉の仕入動向等調査」のうち、天然でん粉(ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、コーンスターチ、タピオカでん粉)および化工でん粉(デキストリン類、加工でん粉)の調査結果について報告する。なお、本調査の甘味料の調査結果については本誌2024年6月号に掲載予定である。


(注)天然でん粉を酸や熱、化学薬品などで処理することで、でん粉本来の特性を改良したり(接着力の強化、粘度の調整など)、新しい性質を加えたり(冷水による可溶性など)したもの。天然でん粉を原料として国内で製造されているものと、タイやベトナム、EUなどから輸入された化工でん粉そのものの2種類が流通している。



 

 

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1 調査の方法

(1)調査期間
 
令和5年11月〜令和6年1月

(2)調査対象
 
でん粉を使用する食品製造事業者

(3)調査項目
 
ア.用途および使用する理由
 イ.仕入量および仕入価格の動向
 ウ.仕入状況に対する評価

(4)調査対象期間
 
令和5年10月現在(ただし、年間を対象とした項目については令和4年10月から翌年9月までの1年間)のでん粉の用途、仕入状況などに関する事項

(5)調査方法
 
郵送による調査票の発送および回収を実施

(6)回収状況
 
配布企業数   330社
 回収企業数   106社(表1)
 調査票回収率  32.1%
 


 


(7)集計結果についての留意事項
 
ア.図中の「n」は有効回答数を表す。
 イ.端数処理の関係により、図中の内訳の合計が100%にならないことがある。
 ウ.「不明・無回答」は比較対象から除外する。
 エ.図に示す調査結果は、凡例と同様の選択肢による回答を得たものである。

(8)調査企業の概要
 
業種と資本金額の構成比は、図3の通り。
 

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2 集計結果

(1)用途

ア 天然でん粉
 
天然でん粉の用途を見ると、「菓子・冷菓」が54件と極めて多く、次いで「水産練り製品・ハム・ソーセージ類」が18件、「めん・即席めん・はるさめ」が12件となっている(図4)。

 また、種類別に見ると、ばれいしょでん粉とコーンスターチでは「菓子・冷菓」「水産練り製品・ハム・ソーセージ類」、かんしょでん粉では「菓子・冷菓」「めん・即席めん・はるさめ」、タピオカでん粉では「水産練り製品・ハム・ソーセージ類」への使用がそれぞれ多い。

 「その他」に分類されている用途としては、びん・缶詰・ジャム類、食品添加物、粉末スープ、ミックス粉、レトルトパウチ食品、種実加工品、乳飲料などが挙げられた。

 


 

イ 化工でん粉
 
化工でん粉の用途を見ると、「菓子・冷菓」が38件と最も多く、次いで「清涼飲料・酒類」が10件、「乳製品」が9件となっている(図5)。

 種類別に見ると、デキストリンは「菓子・冷菓」「清涼飲料・酒類」への使用が多い。「その他」としては、サプリメント、栄養補助食品、ゼリーなどが挙げられている。加工でん粉は「菓子・冷菓」をはじめ「水産練り製品・ハム・ソーセージ類」「冷凍食品」「めん・即席めん・はるさめ」「パン」など使用用途が多岐にわたっている。「その他」としては、粉末飲料・スープ、穀物飲料、片栗粉などが挙げられた。
 

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(2)使用する理由

ア 天然でん粉
 
天然でん粉を使用する理由は、「食感付与」が63件、次いで「とろみの付与・粘度調整」が32件、「品質が安定しているため」が22件と続く(図6)。

 種類別に見ると、コーンスターチにおいて「食感付与」の多さが目立つ。「その他」の用途としては、餅の表面のべたつきを抑える、離水防止、糊化(こ か)開始温度の調整、粉末の溶解性向上、とうもろこしでん粉の代替品、加工助剤などが挙げられた。



 


イ 化工でん粉
 
化工でん粉を使用する理由は、「食感付与」が40件と最も多く、次いで「とろみの付与・粘度調整」が29件、「加工適性の向上」が16件、「老化耐性の付与」が15件となっている(図7)。

 種類別に見ると、デキストリンは「とろみの付与・粘度調整」「食感付与」が主な理由となっている。「その他」には、原材料に対する安心感を訴求するため、液体を粉末へ加工するため、食物繊維として使用、造粒時の賦形(ふ けい)(注)などが挙げられている。加工でん粉は「食感付与」が他の理由に比べると多い。この他「とろみの付与・粘度調整」「加工適性の向上」「老化耐性の付与」なども比較的多くなっている。

(注)錠剤などの成型、増量、希釈を目的に加える添加剤のこと。
 

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(3)仕入量の動向

ア 天然でん粉
(ア)直近1年間の仕入量
 
天然でん粉の令和5年度(令和4年10月〜翌年9月。以下同じ)の仕入量は、「1トン以上5トン未満」が21%と最も多く、次いで「10トン以上100トン未満」が17%、「1トン未満」が15%となっている(図8)。

 種類別に見ると、ばれいしょでん粉、タピオカでん粉においては、「1トン以上5トン未満」が2割台で最も多い。かんしょでん粉は、「1トン以上5トン未満」と「10トン以上100トン未満」が同26%で最多となっている。コーンスターチは、「1トン未満」が19%で最多となっているが、その他の数量帯も同程度が多く、比較的分散されている(図9)。

 


 

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(イ)前年度と比較した仕入量の動向
 
令和4年度と比較した令和5年度の仕入量の動向は、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、コーンスターチは「横ばい」が半数程度となっているものの、「増加」「減少」も一定の割合がみられ、仕入量の増減がうかがえる。タピオカでん粉は、「横ばい」が6割半で最多となっているが「やや減少」と「大幅に減少」を合わせると3割半に上り、減少傾向がみられる(図10)。

 増加の要因には「需要の増加により商品の出荷数量が増えたため」が大半となっている。減少の要因には「需要の減少により商品の出荷数量が減ったため」が大半となっている。ただ、かんしょでん粉においては「かんしょ不足による供給制限」との理由が多くなっている。





 

(ウ)今後の仕入量の見込み
 
令和6年度の仕入量の見込みは、いずれの天然でん粉も6〜7割が「横ばいの見込み」で最多となっている。ただ、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉においては、「やや減少する見込み」と「大幅に減少する見込み」を合わせると3割程にのぼる。特にかんしょでん粉においては、前年度調査に続き「大幅に減少する見込み」が2割程と多くなっている。減少の要因として「かんしょの生産量の減少」「供給制限が見込まれるため」などが挙げられた(図11)。

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イ 化工でん粉
(ア)直近1年間の仕入量
 
化工でん粉の令和5年度の仕入量は、「10トン以上100トン未満」が34%と最も多く、次いで「1トン以上5トン未満」が17%となっている(図12)。

 種類別に見ると、ともに「10トン以上100トン未満」が3割以上で最多となっている(図13)。
 





 


(イ)前年度と比較した仕入量の動向
 
令和4年度と比較した令和5年度の仕入量の動向は、デキストリンは「やや減少」と「大幅に減少」を合わせると3割以上となる。前年度調査と比較すると「大幅に減少」の割合が増加しており、減少傾向がうかがえる(図14)。減少の理由として「需要の減少により出荷数量が減ったため」が大半を占めている。

 加工でん粉は、「大幅に増加」と「やや増加」を合わせると3割程になり、やや増加傾向がうかがえる。増加の理由には「需要の増加により商品の出荷数量が増えたため」が最も多く、この他「1商品当たりの含有量を増やしたため」「他のでん粉から切り替えたため」が挙げられた。



 


(ウ)今後の仕入量の見込み
 
今後の仕入量の見込みは、デキストリン、加工でん粉ともに8割以上が「横ばいの見込み」となっている。前年度調査から1〜2割程「横ばいの見込み」が増加しており、仕入量は安定するものと見込まれる(図15)。
 

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(4)仕入価格の動向

ア 天然でん粉
(ア)直近の仕入価格
 
1キログラム当たりの仕入価格(令和5年10月時点)は、「200円以上240円未満」が19%、「160円以上200円未満」「240円以上」が18%、「120円以上160円未満」が16%と、それぞれの価格帯が拮抗している(図16)。




 
 種類別に見ると、最多の価格帯はそれぞれ異なっている。ばれいしょでん粉は「200円以上240円未満」、コーンスターチとタピオカでん粉は「240円以上」が最多となっている。かんしょでん粉は「80円以上120円未満」「160円以上200円未満」が同率で最多となっている(図17)。





 経年で比較してみると、いずれのでん粉も価格の上昇がみられる。かんしょでん粉は前年度調査までは「80円未満」の割合も多かったが、今年度は全くみられなかった。コーンスターチ、タピオカでん粉においても、年々高価格帯の割合が多くなり、今年度は最多が「240円以上」へと移行した(図18)。





(イ)前年度と比較した仕入価格
 
令和4年度と比較した令和5年度の仕入価格の動向は、いずれのでん粉も「上昇」が「下落」を大きく上回る。特にばれいしょでん粉、かんしょでん粉においては、「大幅に上昇」と「やや上昇」を合わせると7割以上と価格の高騰が顕著にみられる。

 価格上昇の要因としては「原料作物の市場相場の変動によるもの」「仕入先の価格改定によるもの」が大多数を占めている。この他「原料作物の生産量の変動によるもの」が散見された(図19)。
 

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イ 化工でん粉
(ア)直近の仕入価格
 
1キログラム当たりの仕入価格(令和5年10月時点)は、「280円以上500円未満」が27%となり、次いで「500円以上」が19%、「160円以上200円未満」が11%の順となっている(図20)。




 
 種類別に見ると、最多の価格帯はデキストリン、加工でん粉ともに「280円以上500円未満」が2〜3割を占め、次いで「500円以上」が2割となっている(図21)。
 



 
 経年で見ると、どちらも「240円以上280円未満」や「280円以上」の割合が増加傾向にあり、価格の上昇がみられる(図22)。




 


(イ)前年度と比較した仕入価格
 
令和4年度と比較した令和5年度の仕入価格の動向は、いずれの種類も上昇がみられ、「大幅に上昇」と「やや上昇」を合わせると6割〜7割程となっている(図23)。上昇の要因には、「仕入先の価格改定によるもの」が多く、この他「原料作物の市場相場の変動によるもの」「為替の変動によるもの」が挙げられた。
 

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(5)調達面に関する評価

ア 天然でん粉
 
天然でん粉に対する調達面の評価を「満足」「やや満足」「普通」「やや不満」「不満」の5段階評価で尋ねたところ、コーンスターチとタピオカでん粉は「満足」と「やや満足」を合わせると半数程となっており、前年度調査と比較するとコーンスターチは満足度がやや低下、タピオカでん粉は「満足」「やや満足」が2割から5割へと増加し、満足度は上昇した。なお、不満の要因には挙げられていないものの、円安による価格への影響を危惧する意見が多く挙げられた。

 一方、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉は、「普通」が3割半を占めるものの、他のでん粉と比べると「やや不満」「不満」の割合が高く、満足度はやや低い。特にかんしょでん粉においては、「満足」「やや満足」を合わせても2割に満たず、不満とする割合の方が多くなっている。ばれいしょでん粉、かんしょでん粉ともに不満の理由としては「生産量不足による供給量の制限」が大半となっている。自由記述をみても、供給が不安定なことから製造への影響を不安視する意見や安定的な供給を望む意見などが多く挙がっている(図24)。





イ 化工でん粉
 
化工でん粉に対する調達面の評価を「満足」「やや満足」「普通」「やや不満」「不満」の5段階評価で尋ねたところ、どちらの種類も「満足」と「やや満足」を合わせても4割台にとどまり、「普通」が半数を占めた。前年度調査と比較すると満足度は1割程低下している(図25)。

 不満の理由としては、「価格の上昇」「供給制限」などが挙げられている。自由記述からも円安やエネルギーコストの上昇により、価格が大きく上昇しているとの意見が多くみられる。
 

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(6)その他

 今回、経済状況などによる影響(物価上昇、円安など)について、自由記述で調査を行った。

 天然でん粉においては、原料価格の高騰やエネルギーコスト、物流コスト上昇などによる価格改定(値上げ)の影響を示す回答が多数見られた。中でも、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉といった国産でん粉については「原料の不作」により必要量の確保ができないとの回答が多数見られた。令和4年産でん粉原料用ばれいしょ・かんしょは、天候不順や、病害などの影響により減産となり、でん粉の十分な確保が難しかったことから供給制限が生じるなど、各社使用量・配合比率の変更、国産から輸入への切り替え、他原材料へのレシピ変更などを迫られており、原料の安定確保が見込めない状況が続いていることが今後の商品設計にも影響していると推察され、「国産でん粉の安定供給」を要望する回答が多く寄せられた。また、コーンスターチやタピオカでん粉といった輸入でん粉については、原料相場は落ち着いてきたものの「円安」「輸入コストの増加」により値上げが続いているとの回答が多くあった。

 化工でん粉では、「円安」「エネルギーコスト上昇」「原料穀物相場の上昇」による調達コストの上昇を挙げる回答が多数見られた。

おわりに

 天然でん粉および化工でん粉の仕入量の動向は、タピオカでん粉を除き「大幅に増加」または「やや増加」とする割合が2〜3割程度となり、経済活動の回復に伴う需要の増加がうかがえる一方、「大幅に減少」または「やや減少」とする割合も2〜4割に上っていることから、用途により仕入量の増減にばらつきがあったと推測される(図10、図14)。

 今後の仕入量の見込みにおいて、すべての種類で「横ばいの見込み」が6〜9割となり、総じて安定していると言えるが、国産でん粉では供給制限を要因として「減少」見込みが3割を占めるなど減少傾向がうかがえる(図11、図15)。

 一方で前年と比較した仕入価格は、いずれのでん粉も「上昇」が「下落」を大きく上回り、タピオカでん粉を除き「大幅に上昇」「やや上昇」とした回答が6〜8割を占めるなど、前年度調査以上に仕入価格の上昇傾向がうかがえる結果となった(図19、図23)。

 農林水産省の需給見通し(令和6年2月時点)によると、令和4でん粉年度(10月〜翌9月)のでん粉需要は、経済活動の回復に伴い緩やかに需要が増加し、清涼飲料および土産需要などが増加したことから前年度を2.2%上回った。そして、5でん粉年度については、外出機会の増加やインバウンド需要の回復が想定されることから、でん粉需要は前年度を0.7%上回ると見通している(表2)。

 今回の調査では、供給制限や円安、各種コストの増加などを背景に、今後さらなる仕入価格の上昇を懸念する声が多くあり、でん粉の価格上昇とそれに伴う仕入量への影響が、今後のでん粉需給へどのような変化をもたらすのか注目されるところである。

 当機構としても、でん粉の価格調整業務の的確な遂行や生産・流通に関する情報の収集・整理・提供などを通じ、関係する皆さまが行う事業の健全な発展に貢献できるよう努めてまいりたい。

 最後にお忙しい中、本調査にご協力いただいた企業の皆さまに、改めて厚く御礼申し上げます。
 
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【参考資料】
・農林水産省「でん粉の需給見通しについて」
・農林水産省「砂糖及びでん粉をめぐる現状と課題について」
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272