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北海道産でん粉原料用ばれいしょ生産振興の取り組み

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最終更新日:2024年6月10日

北海道産でん粉原料用ばれいしょ生産振興の取り組み

2024年6月

 ホクレン農業協同組合連合会 農産事業本部 農産部     
でん粉課 課長 野田 達也             こな美ちゃん

はじめに

 生産者の皆さまにおかれましては、でん粉原料用ばれいしょの生産、JAの皆さまには安全・安心なでん粉の製造にご尽力いただき、厚くお礼申し上げます。

 また、消費者の皆さまやでん粉販売に係る皆さまにおかれましては、日頃から北海道産ばれいしょでん粉をご愛顧いただき厚くお礼申し上げます。

 北海道産ばれいしょでん粉は、近年生産者一戸当たりの面積増加による省力作物転換やばれいしょ内での他用途転換によるでん粉原料用ばれいしょ品種の作付面積減少に加え、近年の気象変動による収穫量の減少およびでん粉含有量の低下によって年々供給量が減少しています。

 その現状と生産量回復に向けた取り組みについて図1の概要に沿ってご紹介いたします。
 
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1 北海道産ばれいしょの作付面積、ばれいしょでん粉の生産動向

(1)北海道産ばれいしょの作付面積

 令和5年産の北海道におけるばれいしょ全体の作付面積は、4万5801ヘクタールとなっています。そのうち、でん粉原料用ばれいしょの作付面積は、前年対差104ヘクタール増加の1万3944ヘクタールとなっています(表1)。



 

 その内訳は、オホーツク地区が全体の約67%の9393ヘクタール、十勝地区が同約32%の4519ヘクタールの作付けとなっています。

 でん粉原料用ばれいしょ専用品種については、北海道の農業協同組合(以下「JA」という)担当部長、JA北海道中央会、ホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」という)にて構成する「馬鈴しょでん粉の安定供給体制確立に向けた検討プロジェクト」にて議論を重ね、安定生産に向けた産地の取り組みとしてばれいしょシストセンチュウ抵抗性品種の普及を進め、令和4年産までに抵抗性品種への切り替えが100%完了しました。

 その内訳として、主要品種である「コナヒメ」が令和4年産では全体の73%、令和5年産では全体の78%まで増えています。

 今後の作付け計画について、各JAの営農計画などを勘案し、「馬鈴しょでん粉の安定供給体制確立に向けた検討プロジェクト」にて議論をし、将来の作付け目標面積を設定しています(表2)。令和7年産に向けて「北海道農協畑作・青果対策本部」で決定している作付け指標である全道合計1万4700ヘクタールが当面の目標となります。さらに、需要を満たすためには1万5800ヘクタールが必要となり、令和9年産の目標面積としています。この計画は関係機関とも共有しており、種子生産計画に反映されています。
 
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(2)令和5年産の作柄状況

 令和5年産でん粉原料用ばれいしょの生育状況については、7月下旬までは順調に生育していましたが、8月後半以降の記録的な猛暑の影響で地上部の茎葉の枯れが促進され、オホーツク地区を中心にでん粉原料用ばれいしょ専用品種の収量が減少しました。さらに9月の平均気温が平年を大きく上回ったことから、全道的に低ライマン価(注)の原料が多く、でん粉生産量としては平年を大きく下回る結果となりました。

 その結果、令和5年産農協系統工場のでん粉生産量は平年を大きく下回る14万1600トンとなりました。需要に対して供給量が少ない状況となっています。


(注)でん粉価。ばれいしょに含まれているでん粉の量を比重から算出する推計式で求めた値。

(3)ばれいしょでん粉生産量と作付面積の推移

 図2は、北海道におけるでん粉生産量とでん粉原料用ばれいしょ作付面積をグラフで示しています。

 特に棒グラフの「でん粉生産量」の落ち込みが大きく、平成19年の「でん粉生産量」が22万5000トンに対して、令和5年では14万1600トンとなり、この17年間で8万3400トン減少し、令和5年は平成19年対比で63%の生産量にまで落ち込んでいます。

 特に不作年だった平成22年、28年、令和2年の翌年に作付面積が減少しており、不作により種いもが確保できなかったことや生産者の生産意欲減退が翌年の面積減少の大きな要因となっています。直近では、不作の年が続き、生産量がこれまでで最も少ない状況となっています。
 
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2 北海道産ばれいしょでん粉の需給および販売状況

(1)北海道産ばれいしょでん粉の需給状況

 表3の需給表について、主に4年産が該当する4でん粉年度は、供給量合計が17万2100トン、販売量合計が16万6700トン、次年度繰り越しが5400トンとなります。5でん粉年度は繰り越しを含めた供給量が15万3500トンとなります。すでに前年度の販売数量に対して供給量が1万3200トン不足している状況となり、すべての用途で数量の制限を行わざるを得ない状況です。

 このままだと外国産でん粉への代替を行うユーザーが出てきてしまう状況で、「危機的な需給状況」と認識しています。ユーザーに対しては、北海道産ばれいしょでん粉の生産量回復時に再度使用していただけるよう、産地では将来的な安定供給ができる体制を示す必要があり、6年産でん粉専用品種の作付面積が増えることがユーザーに継続して使用していただくための説得材料となります。
 
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(2)でん粉の用途別需要動向

 用途別の需要について、本来「北海道産ばれいしょでん粉でなくてはならない需要は18万トン程度ある」とされていますが、平成28年以降は16万トン前後の販売数量となっています(図3)。供給量と販売数量はおおむねリンクした関係にあり、平成19年から23年までの供給量の減少にあわせて、販売数量も減少しています。また、減っていく生産量に対して需要に応えるために、繰り越し在庫も減っていることが分かります。




 用途ごとの需要動向は以下の通りです。

ア 糖化用
 
糖化用は、主に清涼飲料水などに使われる異性化糖の原料向けになります。この用途は主に輸入とうもろこしの価格に連動します。直近では円安の影響で糖化用価格は以前より上昇しています。一方、5でん粉年度は北海道産ばれいしょでん粉が供給不足であるため、前年実績の数量を確保できない見込みです。

イ 化工用
 
化工用は、ばれいしょでん粉に化学的・物理的な加工処理をし、食感改善や保存安定性の向上を図っており、養鰻餌用アルファでん粉などの用途があります。これまでは、おおむね年間3万トン程度の需要で安定していましたが、全体の供給量自体が減少したため、化工用の供給も調整を行わざるを得ない状況となっています。

ウ 固有用途
 
固有用途は、でん粉そのものを使用する用途としておりますが、用途は多岐にわたっています。

(ア)片栗粉
 
でん粉を使用する一番大きな用途である片栗粉用は、コロナ禍以降家庭での調理頻度が増えているため需要は安定していますが、供給量減少の影響からメーカーによっては小容量品への取り扱いが進んでいます(写真1)。一部ではEU産ばれいしょでん粉への切り替えの動きも出てきています。


 


(イ)菓子用
 
代表的な「えびせんべい」は、新型コロナウイルス流行以降なかなか需要が回復せず、低調な販売が続いています。一方、「ボーロ」は外出需要の回復や輸出需要の増加、ドラッグストアへの販売が好調です。

(ウ)水産練り製品およびハム・ソーセージ
 
水産練り製品は、すり身の価格高騰により値上げを実施したことで需要離れがみられます。

 ハム・ソーセージは、生協向けやコンビニ向けの需要が定着しています。

(エ)麺類・春雨
 
即席麺は、一昨年、昨年と複数回の製品値上げが実施されており、北海道産ばれいしょでん粉の需要動向に与える影響については注視が必要です。

 春雨は、冬期の需要期に向けて製造します。冬期の気象要因が需要を左右します。

(オ)スープ・冷凍食品
 
スープ市場は喫食機会の増加により販売は堅調です。冷凍食品は巣ごもり需要の反動により、需要は落ち着いています。

(カ)工業用・その他
 
ばれいしょでん粉は、工業用にも使用されています。紙コップなどの板紙向けの需要は堅調です。その他として医療用の錠剤や精密機械製造にも使用されています。

3 北海道産ばれいしょでん粉生産振興の取り組み

 このような需給状況のため、ホクレンとしては生産振興への取り組みを強化しています。

(1)生産者手取り金額の向上(粗収入金額の上昇)

 一番重要な取り組みとして、生産者の手取り確保に向けたでん粉原料用ばれいしょ粗収入金額の上昇を図るため、JA・全農と連携して各用途での段階的な価格改定を実施しています。

 生産者における10アール当たり粗収入の目安としては、令和4年産でん粉原料用ばれいしょの全道平均10アール当たり4194キログラム、でん粉製品歩留まり21.57%の場合、工場経費など控除後で約10万8300円、ばれいしょトン当たり単価は2万5834円と試算されます。生産基盤拡充を目的とした複数回の価格転嫁によって少しずつ単価は上がっており、単収や歩留まりが上がれば、さらに単価は上昇します(図4)。

 将来的に、優良事例の普及を図り生産技術対策による単収向上と品代上昇による精算単価の確保・向上に向けて関係各所とさまざまな推進を行ってまいります。 
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(2)でん粉原料用馬鈴しょ栽培共励会の開催

 5年産より、「でん粉原料用馬鈴しょ栽培共励会」を開催しています。オホーツク地区、十勝地区の7工場のエリア内からそれぞれ1人ずつの出展をいただき、他の模範となる栽培法で優秀な生産実績となった生産者を表彰します。令和6年2月に審査会を実施しました。その栽培技術を広く紹介し優良事例の水平展開を目的に、4月に4500部の冊子化を行い、でん粉原料用としてでん粉工場にばれいしょを出荷されている生産者へ配布を行いました。さらに6月には表彰式を開催する予定です。

(3)ホクレン農業総合研究所の取り組み

 ホクレン農業総合研究所での取り組みとして、令和5年度から、主にオホーツク地区、十勝地区を対象にでん粉原料用ばれいしょ品種「コナヒメ」の安定生産に向けて、「コナヒメ」栽培の実態調査、生産性改善に向けた有効技術の推進を行い、栽培体系、施肥体系、防除体系でそれぞれ生産性向上につながる提案を行っています。

 また、6年度には農林水産省の「持続的畑作生産体制確立緊急支援事業」を活用し、気候変動に伴う不安定な降水と高温条件による生育抑制の緩和に向けて、かん水処理による生育安定・収量確保を目指す実証事業も行います。

(4)生産振興に向けた啓蒙活動

 令和5年10月に、生産者の皆さまに北海道産ばれいしょでん粉が使用されている商品を紹介し、ばれいしょでん粉が不足している状況の周知を目的にリーフレットおよびポスターを作成し全道各地へ配布しました(図5)。また、5年12月に北海道産ばれいしょでん粉を使用した商品である「ゆかり」(せんべい)を、生産振興を目的に全道のばれいしょでん粉生産者へ配布しました。
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(5)「でん粉原料用馬鈴しょ生産者講習会」の開催

 でん粉生産量増加に向けた栽培技術の講習と全国12社の北海道産ばれいしょでん粉ユーザーと生産者・JA担当者が交流していただく機会として、「でん粉原料用馬鈴しょ生産者講習会」をホクレン主催にて開催しました(写真2)。

 令和6年2月29日に網走市、3月1日に帯広市にて開催された講習会には、生産者・JAなどを中心に網走市約190人、帯広市にて約130人が参加しました。情勢の報告やユーザーによるトークセッションも開催され、ユーザーからばれいしょでん粉は幅広い分野で使用され、他では替えが利かない原料であるため安定供給の要望が寄せられました。
 
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(6)北海道農産基金協会「馬鈴しょ安定供給緊急対策事業」の実施

 全道の6年産でん粉原料用ばれいしょの生産目標面積1万4700ヘクタールの達成に向けて、事業予算5000万円にて、各JAでの作付指標面積に向けた各種施策への助成を行います(図6)。

 支援する内容は、種いもの購入費用の一部助成や会議、研修会、巡回指導などの啓発活動費用の助成、啓発資料作成・配布などの費用の助成などとなります。
 
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おわりに 〜今後の展望〜

 近年、北海道産ばれいしょでん粉は需要量に対して供給量が少ない状態が続いています。畑作では生産者一戸当たりの面積が増加し、作業性の問題から省力作物である小麦や大豆類の作付けが増えており、ばれいしょ全体の作付けは減少傾向です。さらにばれいしょ内でも、生産者粗収入単価のより高い用途へのシフトが進んでいます。

 そのような中で、需要に応えるためのばれいしょでん粉生産量拡大に向けては、生産者粗収入増加による「でん粉原料用ばれいしょ作付面積の拡大」と栽培技術向上による「ばれいしょでん粉生産量増加」の両方を振興することが重要と考えております。

 生産現場におけるでん粉工場は、でん粉原料用ばれいしょはもちろんのこと、生食用・加工用ばれいしょにとっても無くてはならない施設です。

 また、でん粉原料用ばれいしょは、市況に左右されにくく中長期的に安定した収入が見込まれ、輪作体系を守る上でも重要な作物です。

 全国のユーザーがばれいしょでん粉を必要としております。ホクレンとしてはさまざまな施策を引き続き行ってまいります。今後ともでん粉原料用ばれいしょの作付面積拡大と北海道産ばれいしょでん粉生産量増加に向けて、生産者の皆さま、行政をはじめ関係する皆さまのご協力をお願いします。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272