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加工食品の輸出拡大!海外食品添加物規制早見表

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最終更新日:2024年10月10日

加工食品の輸出拡大!海外食品添加物規制早見表

2024年10月

一般財団法人食品産業センター
事業推進部 次長 (ささげ) 智恵子
 

はじめに

 和食をはじめとする日本食は、健康的でおいしいだけでなく、外観も美しいことで海外では高い評価を受けており、また日本の加工食品についても加工技術の高さやおいしさで評価されている。国内人口が減少し、市場が縮小する中で、国内市場に依存する農林水産業や食品産業の目を成長が進む海外市場に向けることにより、食品製造事業者の利益拡大や輸出拡大を図るため、政府は食品の輸出拡大を推進し、2025年までに2兆円、2030年までに5兆円という輸出額目標を設定した。農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略を掲げ、バリューチェーン全体を「プロダクトアウト(できたものを販売する)」から「マーケットイン(求められるものを生産し、販売する)」に転換、日本の強みがある品目について輸出重点品目として掲げ、加工食品の輸出を促進している。昨年は前年比2.8%増の1兆4541億円で過去最高を記録した(図1)。うち加工食品は農産物9059億円の中に含まれており、5098億円と全体の約4割を占めている。

 しかしながら、2024年上半期の農林水産物・食品の輸出実績は、7013億円(前年同期比1.8%減)、うち加工食品は2568億円(同2.9%増)であり、ALPS処理水(注)放出などの影響により中国および香港向けの低調が続いている。その一方で、欧米を中心に堅調であること、円安傾向の影響により、今後一層の輸出拡大が期待されている。

(注)東京電力福島第一原子力発電所の建屋内などの水に含まれている放射性物質を安全基準を満たすまで浄化した水。
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1 加工食品の輸出課題

 加工食品は検疫などのハードルが低く、賞味期限も比較的長いものが多く、一般的に季節変動がないので通年での輸出が可能なことから、日本の高度で巧みな技術を生かし、輸出先国・地域の嗜好(し こう)や食習慣に合わせた付加価値のある提案が可能である。このように、加工食品はまさに日本の強みを生かせる領域であり、原材料の多くを輸入に頼る日本が得意とする加工貿易型のビジネスであるが、国内の食品事業者が加工食品の輸出に取り組む上でハードルとして挙げられるのが輸出先国の品質規制への対応であった(図2)。品質規制は、加工食品で使う原材料や食品添加物、容器・包装など多岐にわたることから、輸出先国ごとに個別に対応していく必要があり、輸出を考える食品製造事業者にとって、規制情報を調査する方法やその対応策を講じることは容易でない。この加工食品の輸出の大きな障害となっている食品添加物規制については、輸出先国・地域に対する食品添加物の認可申請を支援するとともに、早急に輸出を拡大させていく観点から、輸出拡大実行戦略の中に、輸出先国・地域の規制に合った食品添加物の代替利用を促進するため、現状把握や代替品の調査を行うとともに、食品添加物規制に対応した新商品の開発を支援することが記されており、その対応策を講じることが必要だった。



 

 食品製造事業者が輸出するに当たっては「必要な情報の収集方法がわからない」「どんなリスクが潜んでいるのかわからない」「事前に必要な情報が入手できず、いつの間にか規制違反になってしまう」などの課題がネックになっている。食品添加物規制は、輸出先国・地域ごとに異なっているため、一般財団法人食品産業センター(以下「食品産業センター」という)は、食品の輸出支援を行っている農林水産省の補助事業を活用し、これら課題の解決のため加工食品の国際標準化事業の取り組みに着手した。

2 「海外食品添加物規制早見表」とは

 輸出先国・地域の規制やニーズに対応した加工食品への支援具体策の一つに、私が所属する団体である食品産業センターが企画・制作そして運営をしているWebページ「海外輸出規制プラットフォーム(https://yushutukisei.com/)」に収載しているコンテンツで「海外食品添加物規制早見表(以下「添加物早見表」という)」が挙げられるので、こちらについて紹介したい。

 開発目的は、輸出に取り組む事業者が、食品添加物について各国・地域における使用の可否や定義、使用できる食品の範囲、使用できる量などの違いを把握できるようにし、また、使用できない場合に代替添加物の検討ができるようにすることである。わかりやすい情報提供によって食品事業者が輸出を検討する商品の間口を広げ、輸出拡大につなげられることを狙いとした。将来的に政府間交渉により規制緩和が進むことを期待しつつ、喫緊の課題である添加物規制に対応できるよう、使用可能な添加物が容易に判定できるツールを開発して、両面から事業者を後押ししたいと考えた。ターゲット層は、輸出に意欲的ではあるが情報入手が難しい中小の食品事業者向けに「見やすく、わかりやすい」ことにこだわり、情報提供することにした。

 日本の食品添加物は、2022年10月26日現在、香料を含め指定添加物474品目、既存添加物357品目の合計831品目ある一方、食品添加物の国際的な基準などはFAO/WHOのコーデックス委員会食品添加物部会(CCFA)で検討されており、392品目(香料を除く)の食品添加物が指定されている。日本の食品添加物は、国際的な規格や基準にできるだけ沿うように定められているが、日本と諸外国ではこれまでの長い食生活や制度の違いなどにより、添加物の定義や対象食品の範囲、使用可能な量などが異なっている場合がある。

 2021年農林水産省の委託事業でアクセンチュア株式会社が調査した食品事業者に対するアンケートの結果、輸出拡大の障壁と感じる輸出先国の食品添加物規制(用途別)のうち最も要望の多かった着色料について、食品産業センターは調査を開始し、2023年1月に「添加物早見表」を公開した。

 公開当初の収載は、海外10カ国・地域(米国、EU、中国、韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、ベトナム、豪州)の着色料83品目の情報であった。その後、着色料に次ぐ課題添加物である甘味料、乳化剤、調味料について海外10カ国・地域(前年と同様の国と地域)の調査を実施し、2024年1月には、甘味料22品目、乳化剤59品目、調味料75品目の計156品目の情報を追加して添加物早見表1)を公開した。

 現在は4用途、合計239品目を公開し、食品添加物の国際整合に向けた取り組みを実施している。

3 添加物早見表の仕様

 輸出規制プラットフォームにシステムの使い方を掲載しており、各海外規制コンテンツの内容説明、添加物早見表フロントページの検索方法、添加物早見表の詳細ページの検索方法、取扱説明書(解説書)の表示方法などを紹介している。添加物早見表は、フロントページが表形式となっており一目で見てわかりやすいところがポイントで、縦に食品添加物名、横に10カ国・地域名を配し、交差するセルに○?を表示しているので、フロントページで簡易的に「使用可否が判断できる」特長を有する仕様になっている(図3)。



 

 一覧表内の「国・地域」と「食品添加物名」が交差するセルの「○」をクリックすると、二次階層(以下「詳細ページ」という)が出現する。詳細ページでは、選択した「国・地域」と「食品添加物名」の基本情報と、(1)選択した食品添加物の英名(2)選択した食品添加物の別名(3)INS番号(Eナンバー)(4)機能(5)使用基準(6)その食品添加物を使用する際の食品ごとの使用基準(上限値)(7)使用基準出典元URLリンク(8)成分規格(9)成分規格出典元URLリンク(10)ページ作成日(11)更新日−の情報を収載している。

4 甘味料

 今回、砂糖やでん粉に関係する読者が多いということから、今年公開した3用途のうち、本稿では関連する甘味料や乳化剤について記載する。

 甘味料は、日本では食品表示基準の別添添加物1−4において「食品に甘味を付与する機能を持つ物質」と定義されているが、海外では、食品添加物の機能・役割を明確にする定義として「甘味物質の対象」や「使い方」を規定している。

 輸出先国・地域によって、使用可能な甘味料を砂糖の代替物質や合成品に限定していたりするので、国・地域を特定して個別に確認することが必要である。国・地域ごとの甘味料の定義については、添加物早見表にある甘味料解説書の2.定義のうち、「表1 甘味料の定義」を参照いただきたい(図4)。

 日本の定義は、中国、韓国と類似していて対象範囲が広い。そして香港やシンガポール、ベトナム、豪州は、砂糖の代替として使用を限定し、あるいは、甘味料にならないものを明記することとしている。香港やシンガポールは炭水化物を除いており、糖質は含まれない。また、コーデックス規格では、単糖類および二糖類が除かれる。ベトナムでは甘味料が人工甘味料である定義となっているため、糖質が除かれる。また、一般的に、糖質に多糖類は含まれるが、甘味がないため食品扱いとなっている国・地域がほとんどである中、タイではマルトデキストリンを添加物としているなど、さまざまな違いがある。

 そして、添加物早見表は日本の指定添加物、既存添加物の甘味料を対象として制作しているため、糖アルコールなどが添加物であっても、国内で「食品扱い」となっている物質は対象外としており、例えば、エリスリトールやラクチトールについては記載していない。また、EUでは表示規則上、単糖類・二糖類が糖類と表示できるため、単糖であるL-アラビノース、D-キシロース、L-ラムノース、D-リボースは、添加物早見表では「食品扱い」として使用できることから○にしている。韓国でもキシロース、リボースは添加物として○であるが、アラビノースとラムノースについても「食品扱い」となることから添加物早見表では○としている。

 香港では明記されていない甘味料について、早見表では×にしているが、INS番号がある食品添加物については認められる可能性があるため、香港当局に確認するとよい。

 また、日本では使用可能であるステビアや甘草についても、海外では使用できないケースがあるので注意が必要である。
 
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5 でん粉

 一般的にでん粉は片栗粉やコーンスターチなどが挙げられ、キャッサバやかんしょ、サゴヤシなどからも製造されている。また、ブドウ糖、果糖、異性化糖に加工され、甘味料として清涼飲料に使用されたりしている。一方、加工でん粉はでん粉に化学的な加工を加えたもので、日本では12品目が食品添加物となっている。加工でん粉は、ドレッシング類の水分と油分が分離するのを防いだり、水産練り製品やソーセージなどの弾力性を向上させたり、パンやてんぷら粉などの食感改良、冷凍食品の離水防止など幅広い用途で業務用加工食品を中心に原材料の一つとして使用され、食品添加物の中でも多く使用されている。今年公開した乳化剤の用途の1物質として収載した加工でん粉、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム3)(無水オクテニルコハク酸でエステル化したもの)を例に挙げて紹介する。日本ではドレッシングの原材料や増粘剤として使用されており、乳化剤や増粘剤の他、安定剤、ゲル化剤、糊料などとしても使用されている(表1)。

 

 

 オクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、添加物早見表の調査対象国となっている10カ国・地域で使用可能であるが、同一物質であっても、各国・地域によって、使用できる用途が異なる4)。日本では幅広い用途で使用可能であるが、海外では、台湾は糊料のみ、香港では増粘剤と乳化剤用途、シンガポールでは乳化剤、安定剤などに用途が限定される(表2)。このように、国・地域によって使用できる用途が異なることから、各用途別に収載した解説書内にはそれぞれの用途ごとに機能分類表5)を収載している。
 
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 この機能分類表は、事前に食品事業者に行ったヒアリングで「各国・地域ごとに機能分類が違うので、輸出先国・地域でどのように使われているのか、比較ができるので使い勝手がよい」というご意見を反映したもので、機能・分類表内で、ショートカットキー「ctrl」+「F」で検索窓を表示し、表内を検索することも可能である。

 今年1月25日に開催した「海外食品添加物規制セミナー」では、最新の添加物早見表の仕様や検索方法について紹介した。そして、初回公開から今年8月末現在の添加物早見表の閲覧数は、のべ24万2089PV(ページビュー)を記録しており、多くの食品事業者の皆さまにご活用いただいている。

おわりに−これまでの成果と今後の取り組み−

 現在10カ国・地域、4用途239物質の情報を公開中であるが、次期公開(2025年1月)には、「保存料」「酸味料」「酸化防止剤」計108物質の添加物情報の収載に向けて作業を進めており、食品事業者が海外規制の現状を把握するための使いやすいツールとして活用が進むよう取り組んでいる。

 なお、これまでに食品産業センターが2021年から農林水産省補助事業「加工食品国際標準化」で実施してきた取り組み内容は、(1)海外輸出規制プラットフォーム公開 (2)海外食品添加物規制早見表の開発・公開(10カ国・地域×着色料、乳化剤、甘味料、調味料の4用途239物質収載) (3)輸出先対象国(10カ国・地域)における食品表示規制調査(仮訳、事例集収載) (4)海外行政機関における危害要因に関するデータ集収載 (5)輸出を止められた、またはできなかった事例対応集 (6)容器・包装における輸出先国・地域の規制の最新情報の提供 (7)海外規制セミナーの開催(全10回) (8)海外輸出規制の短編教育映像の制作収載 (9)海外輸出規制セミナー用テキストの制作収載 (10)海外輸出規制セミナー動画アーカイブの制作収載−である。読者の皆さまにはぜひ一度、食品産業センターの輸出規制プラットフォームを閲覧いただき、菓子をはじめとする砂糖やでん粉を使用した加工食品の輸出促進に役立てていただきたい。

参考文献
1)一般財団法人食品産業センター 海外食品添加物規制早見表 甘味料早見表参照
https://yushutukisei.com/food_additives_list/?ignoremodal=true&usage=sweeteners
(2024/09/02アクセス)

2)一般財団法人食品産業センター 海外食品添加物規制早見表 甘味料解説書参照https://yushutukisei.com/food_additives_list/manual/#sec03
(2024/09/02アクセス)

3)4) オクテニルコハク酸デンプンナトリウム
2023年9月22日開催 農林水産省主催 GFP加工食品部会 第3回添加物対応セミナー
食品産業センター 海外食品添加物規制早見表の取り組みについて資料参照
5)機能分類表

甘味料 機能分類表
https://yushutukisei.com/wp-content/themes/tenkabutsu/assets/pdf/manual/sec03-01.pdf
(2024/09/02アクセス)

乳化剤 機能分類表
https://yushutukisei.com/wp-content/themes/tenkabutsu/assets/pdf/manual/sec02-01.pdf
(2024/09/02アクセス)

 

 

 

 

 

 

 

 

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