わが国では、人間の土地利用や自然資源の利用の変化、さらには冬季の少雪などの影響により、シカやイノシシなどの野生鳥獣の生息域が広がっていると言われています。これに伴い、さまざまな社会問題が発生しており、例えば、稲、野菜、果樹、飼料作物などを食い荒らすなどの農作物被害を引き起こしています。野生鳥獣による農作物被害額は、侵入防止柵の整備などの被害対策を講じてきた結果、令和4年度には全体で約156億円と、最も被害額が多かった平成22年度と比較して約35%減少しているものの、依然として高水準となっています。内訳は、シカによるものが約65億円と最も多く、続いてイノシシによるものが約36億円であり、これら2種類の獣類による被害が全体の約65%を占めています。特に、シカによる被害額は、令和元年度以降上昇に転じており、シカ被害の軽減が急務となっています(図1)。
農林水産省による農作物被害の調査では、砂糖類原料のサトウキビやてん菜は「工芸作物」として、でん粉原料のかんしょやばれいしょは「いも類(青果用、加工原料用を含む。)」としてそれぞれ集計されています。
工芸作物の被害額は、令和4年度に約5.8億円と、平成22年度と比較して約32%の減少となっています。獣種別の被害額では、シカによる被害が最も多く約4.3億円(約74%)となっており、続いてクマが約0.5億円(約9%)、イノシシが約0.4億円(約7%)となっています。サトウキビやてん菜の品目別の被害額は集計していませんが、サトウキビではイノシシによる被害、てん菜ではクマやシカによる被害が主となっています。
いも類の被害額は、令和4年度に約7.3億円と、平成22年度と比較して約42%の減少となっています。獣種別の被害額では、シカによる被害が最も多く約3.4億円(約47%)となっています。続いて、イノシシによる被害が約2.8億円(約38%)となっています。
また、鳥獣被害は、農家の営農意欲を減退させ、更なる耕作放棄、離農の増加を招いたり、人身被害や家屋被害を引き起こしたりするなど、被害額として数字に表れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしています。特に、クマについては、北海道、本州および四国の34都道府県に恒常的に分布し、四国を除く地域で分布域が拡大する中で、令和5年度は堅果類の凶作などにより、クマの出没が増加し、環境省の調査によると令和5年度のクマによる人身被害の件数が過去最多(198件)となっています。