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鳥獣被害対策の現状~農畜産物を守るためにできること~

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最終更新日:2024年12月10日

鳥獣被害対策の現状~農畜産物を守るためにできること~

2024年12月

農林水産省農村振興局農村政策部
鳥獣対策・農村環境課鳥獣対策室

1 野生鳥獣による被害の概要

 わが国では、人間の土地利用や自然資源の利用の変化、さらには冬季の少雪などの影響により、シカやイノシシなどの野生鳥獣の生息域が広がっていると言われています。これに伴い、さまざまな社会問題が発生しており、例えば、稲、野菜、果樹、飼料作物などを食い荒らすなどの農作物被害を引き起こしています。野生鳥獣による農作物被害額は、侵入防止柵の整備などの被害対策を講じてきた結果、令和4年度には全体で約156億円と、最も被害額が多かった平成22年度と比較して約35%減少しているものの、依然として高水準となっています。内訳は、シカによるものが約65億円と最も多く、続いてイノシシによるものが約36億円であり、これら2種類の獣類による被害が全体の約65%を占めています。特に、シカによる被害額は、令和元年度以降上昇に転じており、シカ被害の軽減が急務となっています(図1)。
 


 

 農林水産省による農作物被害の調査では、砂糖類原料のサトウキビやてん菜は「工芸作物」として、でん粉原料のかんしょやばれいしょは「いも類(青果用、加工原料用を含む。)」としてそれぞれ集計されています。

 工芸作物の被害額は、令和4年度に約5.8億円と、平成22年度と比較して約32%の減少となっています。獣種別の被害額では、シカによる被害が最も多く約4.3億円(約74%)となっており、続いてクマが約0.5億円(約9%)、イノシシが約0.4億円(約7%)となっています。サトウキビやてん菜の品目別の被害額は集計していませんが、サトウキビではイノシシによる被害、てん菜ではクマやシカによる被害が主となっています。

 いも類の被害額は、令和4年度に約7.3億円と、平成22年度と比較して約42%の減少となっています。獣種別の被害額では、シカによる被害が最も多く約3.4億円(約47%)となっています。続いて、イノシシによる被害が約2.8億円(約38%)となっています。

 また、鳥獣被害は、農家の営農意欲を減退させ、更なる耕作放棄、離農の増加を招いたり、人身被害や家屋被害を引き起こしたりするなど、被害額として数字に表れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしています。特に、クマについては、北海道、本州および四国の34都道府県に恒常的に分布し、四国を除く地域で分布域が拡大する中で、令和5年度は堅果(けん か)類の凶作などにより、クマの出没が増加し、環境省の調査によると令和5年度のクマによる人身被害の件数が過去最多(198件)となっています。

2 鳥獣被害対策

 鳥獣被害対策は、(1)個体群管理(鳥獣の捕獲)(2)侵入防止対策(柵の設置や追払い)(3)生息環境管理(刈払いなどによる餌場・隠れ場の管理、放任果樹の伐採)-の3本柱が基本であり、これらの対策を適切に組み合わせ、地域ぐるみで総合的に取り組むことが重要です(図2)。



 

 侵入防止柵を設置する場合は対象となる野生鳥獣に有効なものを選ぶ必要があります。例えば、木に登ることができるクマは金網柵では侵入を防ぐことができず、電気柵が最も効果が高いです。また、侵入防止柵は設置して終わりではなく、柵下部地面の掘削による侵入や倒木による損傷部分からの侵入が報告されていますので、定期的な補修・管理が重要です。

 対策を実施しているにもかかわらず被害が減らない地域では、稲刈り後の「ひこばえ」や野菜くずなどの収穫残さの放置といった「無意識の餌付け」が行われている、柵の設置やその後の管理が適切ではない、追払いや捕獲が正しく行われていないなどの原因が考えられるため、対策の実践状況を点検の上、正しい知識と技術で対策を進めることが重要です。

 鳥獣被害対策の担い手の減少・高齢化により、捕獲従事者や柵の管理者などの人手不足が進む中、情報通信技術(ICT)などを活用した捕獲、追払いなどに関する研究・開発やICT機器などの現地への導入が進められています。ICTなどを活用した鳥獣被害対策としては、センサーカメラやドローンによる野生鳥獣の生息・被害状況調査や遠隔監視・操作システムによるオリやワナでの捕獲といった技術があり、これらを組み合わせることで、見回りなどの労力の軽減や捕獲効率の向上が図られるものと考えています。また、これら生息・被害状況調査や捕獲実績、さらには柵やワナの設置状況などをデジタル地図上にまとめ、関係者で共有し、鳥獣被害対策の進捗管理を行うことは、経験や勘だけではなく、加害個体の生息状況および被害発生箇所のデータの蓄積・分析に基づく計画の策定や「計画→実行→点検→改善」(PDCAサイクル)に基づく対策の改善にも有効です(図3)。

 農林水産省では、鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律を踏まえ、鳥獣被害防止総合対策交付金により、市町村が作成する「被害防止計画」に基づく3本柱など、地域ぐるみの対策を支援しています。この中で、センサーカメラやドローン、ワナの遠隔監視・操作システム、ICTなど新技術の導入も支援対象となっています。鳥獣対策でお困りの方で相談をご希望の方は、市町村鳥獣被害対策ご担当までお問い合わせください。
 
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3 ジビエ利用について

 捕獲した鳥獣については、ジビエ利用を推進しており、令和5年度のデータでは、シカ、イノシシの捕獲頭数約124万頭に対し、食肉処理施設で処理された頭数は約16万頭で、その割合は約13%となっており、この割合は年々増加しています。食肉処理施設で処理される以外でも、捕獲者が自宅に持ち帰って食べる「自家消費」などもあるため、残りすべてが捨てられているわけではありませんが、多くの個体が焼却・埋設されています。このことは、自治体や捕獲者にとって経済的、肉体的、精神的な負担が大きく、捕獲個体をジビエ利用できれば、こうした状況も改善すると考えています。また、新たな地域資源となることで、特産品が作られるなど地域おこしに利用されることが期待されます。
 

おわりに

 農村人口の減少・高齢化が見込まれる中、持続的に鳥獣被害を低減させていくためにICTなど新技術の活用は有用な手段となり得るものの、ICT機器を導入するだけですべての課題が解決するわけではありません。まずは、鳥獣被害対策の3本柱をきちんと理解した上で、新技術を活用することが効果的な被害対策につながるものと考えています。

 農林水産省では、効率的かつ効果的な鳥獣被害防止の技術や手法などの情報共有の場として、例年2月頃に、全国における鳥獣対策の優良活動事例の紹介のほか、鳥獣被害対策技術などの展示やポスターセッションなどを行う「全国鳥獣被害対策サミット」を開催しており、今年度においても令和7年2月に東京都内での開催を予定しております。詳細が決定し次第、農林水産省HPにおいて開催日時や観覧者募集に関するお知らせを行いますので、参加についてぜひご検討ください(昨年度の様子は農林水産省公式YouTube「maffchannel」に掲載しており、図4の2次元コードからご覧いただけます)。
 
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このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272