
ホーム > でん粉 > 調査報告 > 士幌町でん粉工場の運営効率化と物流対策〜でん粉の安定的な生産・流通に向けて〜
最終更新日:2025年2月10日
イ 品質の安定と安全
貯留されている原料は、でん粉原料用ばれいしょと生食・加工用ばれいしょが混在する状態となっており、その比率はでん粉原料用が40%、生食・加工用が60%となっている。集荷エリアでは生食・加工用ばれいしょの生産が盛んなため、そこで生じる規格外品を多く受け入れており、有効利用が図られると同時に地域の食品ロス削減に貢献している。しかし、ライマン価はでん粉原料用が20%、生食・加工用が15%と品種によって異なり、そのまま混合製造すると歩留まりの低下や品質のバラつきにつながってしまうことから、士幌でん粉工場の大きな特徴として「分級」を行っている。分級とは、でん粉を粒子の大きさごとに分けることであり、士幌でん粉工場では、ばれいしょでん粉の品質の安定化を図ることを目的として、濃縮・精製工程において、3相セパレーターを用いて「湿式分級」を行っている(図5)。これにより、不純物が取り除かれたでん粉液が濃縮され、高速回転による強い遠心力で大粒子と小粒子に分けられる。分離ラインは、時期によって変動する原料の状態に応じ、オペレーターが常時監視しながら変動させることにより、常に高い品質を維持している。また、小粒子をどこまで回収できるかは非常に高度な技術が求められる工程であり、工場の技量の高さがうかがえる。
なお、3相セパレーターによる分級処理以降の工程は大粒子と小粒子に分かれて進むため、脱水から製粉に至るまでのすべての工程が2ライン存在しており、袋詰め前の製品を保管するサイロも粒子ごとに分かれている(写真3)。これらの工程により、一定の品質が保たれ、原料の時点では品種ごとにバラつきのあったライマン価が平均化され、回収率は19〜20%まで向上する。
また、操業期間中は10日に1回製造ラインを止め、ポンプを含む全設備を定置洗浄(注3)することで微生物汚染の発生リスクを抑え、製品の安全性を確保している。これは、タンクを減らし精製設備が一貫している士幌でん粉工場の配管ゆえ、行うことができる。さらに、配管ラインが直列化していることにより、でん粉が原料から製粉されるまでに、以前は約2時間かかっていたものが、約30分と大幅に短縮され製造効率が格段に上がった。
士幌でん粉工場は平成13年の大規模な建て替え工事以降、道内のJA系統でん粉工場の中では比較的新しい工場となっている。しかし20年以上が経過し、一部設備においては老朽化に伴い更新も検討されるが、ユーザーニーズに対応するため簡単には更新作業に要する時間を確保できないという問題もある。現在は定期的なメンテナンスや必要な修繕を行いながら稼働させている。
(注3)定置洗浄(CIP=Cleaning In Place)とは、設備を分解せずに製造ラインを洗浄する構造のこと。分解・組立作業が不要になり時間短縮されることで生産性の向上が期待できる。また、手作業に比べ労働力が省力化されムラもなくなることから、衛生水準が一定に保たれる。
【参考文献】
・士幌町農業協同組合ホームページ<https://www.ja-shihoro.or.jp>(2024/12/11アクセス)
・士幌町農業協同組合でん粉工場説明資料
・農林水産省「でん粉の需給見通しについて」(令和6年9月)<https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/kansho/attach/pdf/denpun-14.pdf>(2024/12/23アクセス)
・農林水産省「砂糖・でん粉をめぐる状況について」(令和6年9月)<https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kanmi/attach/pdf/240912-13.pdf>(2025/1/24アクセス)
・農林水産省農産局地域作物課「でん粉をめぐる状況について」(令和5年6月)<https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/imo/attach/pdf/siryou-8.pdf>(2024/12/11アクセス)
・北海道農政部生産振興局農産振興課「北海道の畑作をめぐる情勢」(令和6年7月)<https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/nsk/megurujousei.html>(2024/12/12アクセス)
・国土交通省「令和4年度貨物地域流動調査」<https://www.mlit.go.jp/k-toukei/kamoturyokakutiikiryuudoutyousa.html>
(2024/12/23アクセス)