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〜でん粉収量と白度の高さで、焼酎・でん粉原料用として普及へ〜

サツマイモ基腐病に抵抗性のある新品種「みちしずく」
〜でん粉収量と白度の高さで、焼酎・でん粉原料用として普及へ〜

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最終更新日:2026年5月12日

サツマイモ基腐病に抵抗性のある新品種「みちしずく」
〜でん粉収量と白度の高さで、焼酎・でん粉原料用として普及へ〜

2026年5月

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
カンショ・サトウキビ育種グループ グループ長
(現・暖地畑作研究領域 研究領域長)
小林 晃

【要約】

 「みちしずく」は、焼酎原料用の主力品種「コガネセンガン」や、でん粉原料用品種「シロユタカ」よりも多収で、サツマイモ基腐病(もと ぐされ びょう)にも強い、焼酎・でん粉原料用の新品種である。焼酎にした際の香りと味は「コガネセンガン」の焼酎と類似しており、でん粉収量はでん粉原料用品種「こないしん」と同程度に多く、でん粉白度も高いことから、でん粉原料としても優れた特性をもつ。

はじめに

 かんしょは日本全国で栽培されており、2024年の生産量は72万トンである。都道府県別に見ると、鹿児島県が21万8000トンで全国1位、宮崎県が7万7000トンで4位であり、かんしょは南九州の農業生産と地域経済において重要な作物となっている。しかし、2018年、南九州および沖縄の産地で、国内では未発生であったサツマイモ基腐病(以下「基腐病」という)が確認された。基腐病は、Diaporthe destruens(ディアポルテ・デストルエンス)という糸状菌の1種がかんしょに感染することにより発生し、茎葉の枯死や塊根腐敗を引き起こす土壌伝染性の難防除病害であり、今では36都道府県(2026年2月時点)で発生が確認されている。

 鹿児島県では、2018年当時、「コガネセンガン」を主力品種とする焼酎原料用途が生産量全体の54%、次いで「シロユタカ」を主力とするでん粉原料用途が33%を占めていた(図1)。しかし、基腐病の発生以降「コガネセンガン」は甚大な被害を受け、焼酎原料の不足が深刻化した。でん粉原料用の「シロユタカ」も同様の被害を受け、でん粉原料不足も避けられない状況となった。需要と供給のバランスが崩れた結果、買い取り価格の高い焼酎原料用途への仕向けが増え、でん粉原料用かんしょの栽培面積は減少した。
 


 

 さらに、以前から課題となっていた高齢化に伴う作付面積の減少も重なり、でん粉原料の生産量は縮小し続け、2024年のでん粉原料用途への仕向け量は17%まで低下している(図1)。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター(以下「九州沖縄農業研究センター」という)では2019年に、多収で、サツマイモつる割病や線虫に強いでん粉原料用品種「こないしん」を育成した。「こないしん」の誕生は、基腐病が確認された時期とほぼ重なっていたが、幸運なことに「こないしん」は基腐病に対しても抵抗性を示すことが後に明らかとなった。そのことも追い風となり、「こないしん」の普及は順調に進み、2023年の栽培面積は1615ヘクタールに達し、「シロユタカ」の1234ヘクタールを上回った。「こないしん」は病害虫抵抗性に優れ、しかも安定して多収である、といった優れた特性を持つ反面、しょ梗(塊根と茎をつなぐ部分)が硬いため収穫時の作業性が悪いという課題がある。でん粉用途向けの生産量を基腐病発生以前の水準にまで回復し、でん粉原料不足を解消するためには、「こないしん」の課題を改善した多収品種の開発に加え、焼酎原料を十分供給できる体制を構築し、需給バランスを適正化する必要がある。そこで九州沖縄農業研究センターでは、「コガネセンガン」よりも基腐病に強い、焼酎・でん粉原料用品種の開発に取り組み、2021年に「みちしずく」を育成した。「みちしずく」は、基腐病抵抗性、収量性、焼酎醸造適性、でん粉特性のいずれについても「コガネセンガン」より優れ、焼酎原料用のみならず、でん粉原料用としても利用できる汎用性を有している品種である。

 本稿では、「みちしずく」の育成経過および特性について紹介する。

1 育成の経過

 「みちしずく」は、多収で基腐病抵抗性のでん粉原料用品種「こないしん」を母、乾物率が高く、蒸したいもの香りが良く、食味が「コガネセンガン」並みに優れる「九系09187−14」を父とする交配組み合せから選抜した品種である(図2)。

 2014年に育成地である九州沖縄農業研究センターで交配採種を行い、翌年以降、選抜を進めた。でん粉歩留まりが高く、でん粉収量ならびにでん粉白度が優れていたことから、2019年に「九系359」の系統名にて系統適応性検定試験(宮崎県総合農業試験場畑作園芸支場および鹿児島県農業開発総合センター大隅支場)、立枯病抵抗性検定試験(徳島県立農林水産総合技術支援センター)、黒斑病抵抗性検定試験(長崎県農林技術開発センター)、焼酎醸造適性試験(かんしょ品質評価研究会)に供試した。2020年には、生産力検定試験および系統適応性検定試験、焼酎醸造適性試験に加え、基腐病抵抗性検定試験を実施し、収量性および焼酎醸造適性が優れること、さらに基腐病抵抗性にも優れている可能性を見出したため、同年12月に「九州200号」の九州番号を付した。2021年に奨励品種決定試験を鹿児島県と宮崎県で実施し、「コガネセンガン」よりも多収であること、さらに、基腐病に対しても「コガネセンガン」より強いことが確認できたため、同年12月に品種登録出願を行った。
 
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2 特性の概要

 「みちしずく」の主要特性を表1に示した。
 
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(1)形態的特性

 草姿は開張で、茎の一次側枝の長さおよび節間長は「コガネセンガン」や「こないしん」、「シロユタカ」よりやや短い(写真1)。茎の太さは「コガネセンガン」と同程度で、「こないしん」や「シロユタカ」よりやや細い。茎および茎の先端や節のアントシアニンの着色は無または極弱であり、節に着色がある「コガネセンガン」とは異なる(写真2)。葉はごく浅い裂片をもつ三角形に近い形で、葉の裏面の葉脈および密腺にはアントシアニンの着色は無く、「コガネセンガン」や「こないしん」、「シロユタカ」とは形態が異なる。塊根の形は楕円形でやや大きく、皮色は黄白、二次色は桃、肉色は淡黄白で、目は浅い(表1、写真3)。塊根の生理障害としては、皮脈(塊根表面のミミズ腫れ状の隆起)の発生はなく、「コガネセンガン」で多く見られる条溝(塊根の表面にできる縦方向の溝)の発生は“微”である。裂開の発生は“微”で、陥没型の裂開が見られることがある。しょ梗の強さは“中”である。しょ梗が強いと塊根が茎から離れにくく収穫作業性が低下し、弱いと容易に離れるため作業性が良い。「みちしずく」のしょ梗の強さは、「シロユタカ」よりは強いが「こないしん」よりは弱く、「コガネセンガン」と同程度であり、収穫時の作業性に問題はない。






 
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(2)生態的特性

 萌芽(ほう が)の遅速は“中”、萌芽(そろ)いの整否は“中”、萌芽伸長の遅速は“中”、萌芽の多少は“中”である(表2)。萌芽性の総合評価は“中”で、「コガネセンガン」や「こないしん」と同等の評価で、「シロユタカ」よりはやや劣る。



 

 でん粉原料用の作付け体系として一般的な4月植え長期マルチ栽培では、「みちしずく」の上いも1個重は「こないしん」より小さく、「シロユタカ」や「コガネセンガン」と同等である。上いも収量は「こないしん」よりやや劣るが、「シロユタカ」よりやや優れ、「コガネセンガン」を21%上回る(表1)。5月植え標準マルチ栽培では、上いも1個重は「こないしん」、「シロユタカ」と同等で、「コガネセンガン」よりやや大きい。上いも収量は「こないしん」よりはやや劣るものの、「シロユタカ」より優れ、「コガネセンガン」を29%上回る(表1)。「みちしずく」のでん粉歩留まりは「こないしん」や「シロユタカ」より2〜4ポイント、「コガネセンガン」より4〜5ポイント高い。でん粉収量は「こないしん」と同等の多収であり、「コガネセンガン」と比較すると、長期マルチ栽培では47%、標準マルチ栽培では46%上回る。6月植え晩植マルチ栽培では、上いも収量は「シロユタカ」並みで「コガネセンガン」よりやや劣るが、でん粉歩留まりは「シロユタカ」と同等かつ「コガネセンガン」より高いため、でん粉収量は「シロユタカ」や「コガネセンガン」と同等である。早掘りマルチ栽培では、上いも収量は「シロユタカ」より優れ、「コガネセンガン」と同等で、でん粉歩留まりは「シロユタカ」や「コガネセンガン」より高いことから、でん粉収量は両品種を上回る。

 普及見込み地帯である鹿児島県では、「みちしずく」は4月植え・5月植えのいずれの作型でも、「コガネセンガン」、「シロユタカ」、「こないしん」と比較して上いも収量およびでん粉収量が多い(図3)。また、どの作型においても、でん粉の白度は「シロユタカ」や「こないしん」と同程度に高く、食品加工用途向けのでん粉としても優れている(表3)。
 





 

 「みちしずく」は、基腐病に対して「コガネセンガン」や「シロユタカ」より強く、「こないしん」よりやや弱いものの、抵抗性評価の区分としては「こないしん」と同じ“やや強”である(表4)。サツマイモ立枯病抵抗性は“やや強”、サツマイモ黒斑病抵抗性は“中”、サツマイモつる割病抵抗性も“中”である。サツマイモネコブセンチュウには強い抵抗性を示し、ミナミネグサレセンチュウに対する抵抗性も“やや強”である。貯蔵性は“中”で、「シロユタカ」より優れるが、「こないしん」よりはやや劣る(表1)。
 
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(3)品質特性

 でん粉の白度は、使用する食品の外観に影響するため、高いほど望ましい。「みちしずく」のでん粉の白度は「シロユタカ」並みに高く、「こないしん」よりも高い傾向にあり、「コガネセンガン」よりも優れている(表5)。でん粉の糊化(こ か)開始温度は「シロユタカ」や「こないしん」よりやや低く、「コガネセンガン」と同等である。最高粘度、ブレークダウン、セットバックはいずれも「こないしん」、「シロユタカ」、「コガネセンガン」とほぼ同等であり、「みちしずく」のでん粉の粘度特性は従来のかんしょでん粉とほぼ同じである。これらのことから、「みちしずく」はでん粉原料用として十分利用可能な特性を有している。蒸しいもの肉質はやや粉質で、食味は“中”である。焼酎醸造適性も優れており、純アルコール収得量は「コガネセンガン」よりやや多い(表6)。焼酎の官能評価は「コガネセンガン」並みで、評価者の半数以上が、「みちしずく」の焼酎の酒質(味と香り)は「コガネセンガン」の焼酎と似ていると評価している。そのため、「みちしずく」はでん粉原料としてだけでなく、「コガネセンガン」に代わる焼酎原料用品種としても利用できる。



 
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3 適地および栽培上の留意点

 「みちしずく」は、南九州のかんしょ作地帯に適する。栽培上の留意点としては、基腐病には「コガネセンガン」より強いものの、在圃期間が長くなると発病株や被害いもが増加するため、基腐病対策マニュアル「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 技術者向け」(令和4年度版)などに基づき、適切な防除対策を講じる必要がある。

おわりに

 「みちしずく」という品種名には、「コガネセンガン」に代わる新たな“道”を切り開き、夢と希望に“満ち”あふれる品種となることへの願いと、焼酎を連想させる“しずく”の意味が込められている。

 「みちしずく」は「コガネセンガン」よりも基腐病に強く、焼酎の酒質も「コガネセンガン」を原料とするものと似ていることから、同品種に代わる焼酎原料用品種として期待できる。さらに、でん粉歩留まりが高く、でん粉収量およびでん粉白度、収穫時の作業性にも優れていることから、でん粉原料用品種としても秀でており、焼酎とでん粉のいずれの用途にも適した汎用性の高い原料用品種であると考えている。

 基腐病の被害が深刻な鹿児島県の産地では、基腐病に抵抗性をもち、「コガネセンガン」の代替として利用できる「みちしずく」の栽培が急速に広がり、2024年の栽培面積は1533ヘクタールに達しており、「こないしん」の1422ヘクタールを上回っている。基腐病は、病原菌を「持ち込まない、増やさない、残さない」という対策を総合的に実施する必要があるが、コスト負担の少ない対策の一つとして抵抗性品種の導入が挙げられる。「みちしずく」のでん粉原料用途への仕向け量は焼酎用と比べると依然として少ないと考えられるが、今後、さらなる普及が進むことで、でん粉原料用途への利用拡大が期待される。

 一方、地球温暖化の影響により、本来は高温に強いとされるかんしょでも高温障害や生育不良が発生している。加えて、近年では茎根腐細菌病など、これまで大きな問題とはされてこなかった病害の発生も増加しており、リスク分散の考え方はこれまで以上に重要になっている。でん粉原料用として「こないしん」と「みちしずく」を組み合わせて栽培することで、でん粉原料の安定供給が達成できることを切に願う。

 本品種の育成に当たり、ご協力いただいた全ての関係諸氏に感謝の意を表する。なお、本品種の育成の一部は、生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」(29028C)(01020C)の支援を受けたものである。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8678