かんしょは日本全国で栽培されており、2024年の生産量は72万トンである。都道府県別に見ると、鹿児島県が21万8000トンで全国1位、宮崎県が7万7000トンで4位であり、かんしょは南九州の農業生産と地域経済において重要な作物となっている。しかし、2018年、南九州および沖縄の産地で、国内では未発生であったサツマイモ基腐病(以下「基腐病」という)が確認された。基腐病は、Diaporthe destruens(ディアポルテ・デストルエンス)という糸状菌の1種がかんしょに感染することにより発生し、茎葉の枯死や塊根腐敗を引き起こす土壌伝染性の難防除病害であり、今では36都道府県(2026年2月時点)で発生が確認されている。
鹿児島県では、2018年当時、「コガネセンガン」を主力品種とする焼酎原料用途が生産量全体の54%、次いで「シロユタカ」を主力とするでん粉原料用途が33%を占めていた(図1)。しかし、基腐病の発生以降「コガネセンガン」は甚大な被害を受け、焼酎原料の不足が深刻化した。でん粉原料用の「シロユタカ」も同様の被害を受け、でん粉原料不足も避けられない状況となった。需要と供給のバランスが崩れた結果、買い取り価格の高い焼酎原料用途への仕向けが増え、でん粉原料用かんしょの栽培面積は減少した。
さらに、以前から課題となっていた高齢化に伴う作付面積の減少も重なり、でん粉原料の生産量は縮小し続け、2024年のでん粉原料用途への仕向け量は17%まで低下している(図1)。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター(以下「九州沖縄農業研究センター」という)では2019年に、多収で、サツマイモつる割病や線虫に強いでん粉原料用品種「こないしん」を育成した。「こないしん」の誕生は、基腐病が確認された時期とほぼ重なっていたが、幸運なことに「こないしん」は基腐病に対しても抵抗性を示すことが後に明らかとなった。そのことも追い風となり、「こないしん」の普及は順調に進み、2023年の栽培面積は1615ヘクタールに達し、「シロユタカ」の1234ヘクタールを上回った。「こないしん」は病害虫抵抗性に優れ、しかも安定して多収である、といった優れた特性を持つ反面、しょ梗(塊根と茎をつなぐ部分)が硬いため収穫時の作業性が悪いという課題がある。でん粉用途向けの生産量を基腐病発生以前の水準にまで回復し、でん粉原料不足を解消するためには、「こないしん」の課題を改善した多収品種の開発に加え、焼酎原料を十分供給できる体制を構築し、需給バランスを適正化する必要がある。そこで九州沖縄農業研究センターでは、「コガネセンガン」よりも基腐病に強い、焼酎・でん粉原料用品種の開発に取り組み、2021年に「みちしずく」を育成した。「みちしずく」は、基腐病抵抗性、収量性、焼酎醸造適性、でん粉特性のいずれについても「コガネセンガン」より優れ、焼酎原料用のみならず、でん粉原料用としても利用できる汎用性を有している品種である。
本稿では、「みちしずく」の育成経過および特性について紹介する。