畑作経営の大規模化とでん粉原料用ばれいしょの位置付けの特徴
最終更新日:2026年10月9日
畑作経営の大規模化とでん粉原料用ばれいしょの位置付けの特徴
2026年10月
帯広畜産大学 環境農学研究部門 農業経済学分野
准教授 三宅 俊輔
【要約】
北海道の畑作においては、加工用ばれいしょの作付けは漸増しているが、でん粉原料用ばれいしょ(以下「でん原ばれいしょ」という)は必ずしも増加していない。一方で、でん原ばれいしょは、加工用ばれいしょに比べて省力的な生産体系や比較的少ない機械投資額といった特徴を持つとともに、近年は販売価格の上昇などの利点もあり、家族労働力が限られる大規模経営に合致しやすい特徴を持つ作物である。今後の生産振興には、単価向上や省力技術の普及を進めることにより、大規模経営において10ヘクタール以上のでん原ばれいしょを安定的に作付けできる条件を整備することが重要である。
はじめに
北海道においては畑作経営の大規模化が進展する一方で、投下労働時間が相対的に長いばれいしょの作付面積は減少傾向にある。でん原ばれいしょのそれも、2005年に18064ヘクタール(ha)であったものが、20年には15473haと15%弱減少している。北海道の畑作経営は小麦、豆類、てん菜およびばれいしょを中心とした輪作を実施している。従って、でん原ばれいしょが安定的に確保されるためには、大規模経営の中の輪作作物として、でん原ばれいしょが10ha以上安定して作付けされることが重要である。以下では、道東畑作地帯の農業協同組合(JA)における畑作経営の規模別の経営展開の特徴を踏まえて、経営耕地面積による作付作物の違いに注目するとともに、大規模経営におけるでん原ばれいしょの位置付けの方向性を検討する。
1 畑作経営の規模分布と土地利用
調査対象JAにおける畑作経営の規模分布を図1に示した。畑作経営の平均経営耕地面積は44ヘクタール(ha)であり、最頻値(モード)は30〜40ha層であったが、40〜50ha層にもほぼ同数の経営体が分布している。また、50〜60ha層にもこの2階層に次ぐ経営体数が分布しており、平均経営耕地面積の前後に多くの経営が集中していることが分かる。一方で、60ha以上の経営は1割強であり、道東畑作地帯以外の地域を対象とした三宅(2023)1)が指摘したように、調査対象JAにおいても60ha以上への展開は著しく進んでいるわけではないことが分かる。
図2には、経営耕地面積階層ごとのばれいしょの平均作付面積と、そのうちのでん原ばれいしょの平均作付面積、図3には、経営耕地面積に占めるばれいしょおよびでん原ばれいしょの作付割合を示した。ばれいしょの作付面積は経営耕地面積の拡大に伴い比例的に拡大している。その結果、経営耕地面積に占めるばれいしょ作付けの割合はおおむね25〜30%の間に位置している。一方、でん原ばれいしょに注目すると、70ha以上の大規模経営において、ばれいしょ平均作付面積とでん原ばれいしょ平均作付面積の差が大きくなっており、経営耕地面積に占めるでん原ばれいしょ作付けの割合は10〜15%の間に位置している。すなわち、大規模経営において加工用ばれいしょ生産を行う経営が一定数おり、ばれいしょ作付面積の拡大ほどにはでん原ばれいしょ作付面積が伸びていないことが分かる。
次に、規模の変化について、2019年における規模分布を図4に示した。図4では、規模階層ごとに25年時点の経営耕地面積の変化(離農、経営耕地面積の縮小、同維持、同拡大)を示している。この図4からは、離農は40ha未満の経営を中心に生じていることが分かる。経営耕地面積の維持および拡大については、50haまでの階層の約半分の経営体が19年と同じ経営耕地面積を維持しており、2〜3割の経営体は25年までに面積が拡大している。大規模化に注目すると、40ha以上の一部の経営体が拡大することで60ha以上へと展開している。これらの動向から、40ha未満の中小規模の経営体が減少する一方で、残る経営体が離農者の農地を吸収することで大規模化が進展しているものと推測される。
また、規模別の土地利用の状況については、19年と25年の二つ時点を図5、図6に示した。図5を見ると、経営規模の拡大に伴って、小麦やてん菜の作付面積は比例的に拡大しているが、でん原ばれいしょおよび他の用途のばれいしょを含めたばれいしょ全体では、15ha前後で推移している。図6では、小麦やばれいしょの作付面積は比例的に拡大しているが、てん菜については、近年のてん菜を取り巻く情勢が反映され、ややてん菜の面積が伸び悩んでいる。また、ばれいしょ全体の作付面積は、規模階層の上昇に伴い拡大しているが、でん原ばれいしょは必ずしも増加していないことが分かる。70ha以上の大規模経営において、加工用ばれいしょや豆類が増加しており、一部の大規模経営においては、でん原ばれいしょから作付けがシフトしていると推測される。
2 でん原ばれいしょの作付け状況
上記のようにさまざまな規模の経営が存在することから、畑作経営の経営耕地面積とでん原ばれいしょ作付面積により畑作経営を類型化して整理する。経営耕地面積を三つの階層に分け、さらに各階層でのでん原ばれいしょの作付面積を0〜5ヘクタール(ha)、5〜10ha、10ha以上の3区分に分けた九つの類型で集計を行った。九つの類型に分けた上で、でん原ばれいしょ作付経営数の全畑作経営数に対する割合を図7に示した。でん原ばれいしょ作付経営数の割合が最も多かった類型は、経営耕地面積40〜60haかつでん原ばれいしょ作付面積10ha以上の類型である。次いで、40ha未満階層の同5〜10haと同5ha未満が続いた。60ha以上の階層で10ha以上でん原ばれいしょ作付経営数の割合は、全体の9%であった。このように、調査対象JAにおいては、でん原ばれいしょの生産は中小規模経営を中心に取り組まれていることが分かる。図8は、同じ9類型において、各類型に占めるでん原ばれいしょ作付面積の割合で示したものである。でん原ばれいしょの作付面積が最も大きい類型は、経営数と同様に経営耕地面積40〜60haかつでん原ばれいしょの作付面積10ha以上の類型である。また、次いで大きいのは、40ha未満の階層のでん原ばれいしょ作付面積5〜10haであり、こちらも同じ傾向であった。一方で、この類型とほぼ同じ割合を占めたのが、60ha以上の階層で10ha以上でん原ばれいしょを作付けする類型であった。40ha未満階層の同5ha未満の階層は、5%にとどまった。でん原ばれいしょの作付けは中小規模経営を中心として営まれている一方で、でん原ばれいしょの作付面積としては、経営体当たり10ha以上作付けしている経営が半分以上を占めている。従って、でん原ばれいしょの生産振興においては、経営耕地面積が平均規模以上で、でん原ばれいしょを大規模(10ha以上)作付けする経営が、今後も一定数安定して存在することが重要な視点になると言える。
そこで次に、9類型における作付作物の状況を確認する。9類型における土地利用について、畑作4品を中心に各類型の平均作付面積を図9に示した。各経営規模階層のでん原ばれいしょ作付面積5ha未満の類型において、でん原ばれいしょ以外のばれいしょ生産を行っていることが分かる。でん原ばれいしょを生産していない、または作付面積が小さい経営においては、ばれいしょ生産を行わないのではなく、加工用などのばれいしょ生産が選択されていることが指摘できる。
60ha以上の経営においては、60ha未満の経営とは土地利用の傾向がやや異なっていた。経営耕地面積60ha以上ででん原ばれいしょ作付面積が5ha未満の経営においては、加工用などのばれいしょが生産されているとともに、豆類の作付けが多いことが分かる。てん菜の作付面積も、60ha以上の他の2類型よりもやや小さいことが確認される。また、図には示していないが、てん菜の直播栽培はでん原ばれいしょが5ha以上の経営においてより大きい傾向がある。従って、60ha以上の層においては、1)てん菜の直播栽培も活用しつつ、でん原ばれいしょを中心に作付けする経営と、2)加工用などのばれいしょと豆類を多く取り入れでん原ばれいしょは非選択的な経営―の二つの方向性があることが推測される。
3 でん原ばれいしょ生産の特徴と展望
調査対象JAへの聞き取り調査から、でん原ばれいしょ生産の特徴と今後の展望について整理する。でん原ばれいしょを取り巻く生産概況として、加工用ばれいしょが拡大する一方で、てん菜とでん原ばれいしょが縮小しているとされた。でん原ばれいしょが減少している要因として、でん原ばれいしょを生産する農家の離農の他に、大規模経営を中心として、小麦や大豆を汎用コンバインで収穫しつつ、高収入を期待して加工用ばれいしょを選択する経営が現れていることがあるとされる。
でん原ばれいしょの作付経営の特徴としては、秋まき小麦の前作作物として位置付けられていることに加え、加工用ばれいしょを生産する場合と比べて収穫機への投資額がより大きいことから、投資額を抑制したい経営が多いことが指摘された。また、その中でもでん原ばれいしょを10ha以上作付けする経営の特徴としては、経済状況が良好な経営が8割以上を占めること、夫婦プラス他の世代の家族1名のように家族労働力が3人以下の経営が多いことが指摘された。従って、現状において家族労働力に一定の制約がある一方で、経営状況が比較的良好であり、収益をより向上させる必要がないことが、従前通りでん原ばれいしょの生産を継続させていると考えられる。対照的に、加工用ばれいしょの面積が大きい経営は、家族労働力が3〜4人確保されている経営や経営主が若い経営が多いとされ、秋まき小麦の前作に野菜も生産することで、早生品種による加工用ばれいしょの生産を抑制する対応がされているとされた。
道東畑作地帯で見られる加工用ばれいしょのオフセットハーベスタは、労働生産性の向上を可能とする有効な手段となっているが、でん原ばれいしょの生産体系は、4畦のカッティングプランタの利用が拡大していることや、でん原ばれいしょ用のオフセットハーベスタの普及も始まっており、現状においても省力的な生産に適した作物である状況は変わらないとされた。
でん原ばれいしょ生産の課題として単価が挙げられた。他用途のばれいしょに比べて、「単価が低いイメージ」があるとされる。ただし、近年はでん原ばれいしょの単価が上昇していることもあり、気候などの影響で加工用ばれいしょの単収や品質が低下する場合があることなどを踏まえ、でん原ばれいしょで高収量を実現すれば、収穫時に多くの労働力や収穫委託、あるいは高額の収穫機の導入を必要とする加工用ばれいしょと比べ、経済的なメリットは十分あると判断する経営も多いとされた。従って、でん原ばれいしょの生産性を高位安定させることにより、省力性と一定の経済性を両立する経営の存立が期待される。
おわりに
北海道の畑作経営において加工用およびでん原ばれいしょは重要な輪作作物である。農家戸数の減少と大規模化が進む中で、土地利用の傾向は中小規模経営と大規模経営とでは異なると考えられる。大規模化と家族労働力の縮小がともに進む中で、でん原ばれいしょは相対的に省力的な生産が可能であることから、畑作経営にとって重要性が高まっている作物であると考える。でん原ばれいしょの生産振興を図る上では、調査対象JAにおける生産状況の分析結果からも、大規模経営においてでん原ばれいしょを多く生産できる環境を整備(他用途と比べた経済性の確保、さらなる省力技術の開発・普及など)することが重要になると言えるだろう。
【参考文献】
1)三宅俊輔,大畑美結,木村智之(2023)「大規模畑作経営の展開とスマート農業技術による対応−北海道十勝地域を対象として−」『農業経営研究』(第61巻第2号)pp19-24
〈https://doi.org/10.11300/fmsj.61.2_19〉
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