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ジャガイモシロシストセンチュウ抵抗性でん粉原料用新品種「きよみのり」

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最終更新日:2026年10月9日

ジャガイモシロシストセンチュウ抵抗性でん粉原料用新品種「きよみのり」

2026年10月

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター寒地畑作研究領域
畑作物育種グループ 研究員 赤井 浩太郎

【要約】

 2015年に発生が初確認されたジャガイモシロシストセンチュウに対する緊急防除は、多くの対象圃場(ほ じょう)において順調に進捗してきた。一方で、ばれいしょ生産を再開するに当たり、十分なジャガイモシロシストセンチュウ抵抗性を持つでん粉原料用品種はいまだに少ない。今回、“やや強”のジャガイモシロシストセンチュウ抵抗性を有し、でん粉収量が多い新品種「きよみのり」を育成したので、その特性と育成の背景について紹介する。

はじめに

 ジャガイモシストセンチュウ類(Potato Cyst Nematodes、以下「PCN」という)とは、ばれいしょなどのナス科作物の根部に寄生し、養水分を収奪することによって生育の阻害や収量の低下を引き起こす重要害虫である。メス成虫は自身の体内に産卵し、さらに外皮を硬化させることで耐久体である「シスト」を形成し、シスト周囲に宿主となる植物が現れると、孵化(ふ か)し、寄生を開始するのが特徴である。このため、一度圃場(ほ じょう)に侵入すると根絶が難しく、長期間被害が継続してしまうおそれがある(図1)。

 PCNのうち、ジャガイモシストセンチュウ(Globodera rostochiensis、以下「Gr」という)(図1左)は、1972年に北海道で発生が確認されて以来、道内のばれいしょ生産地帯の多くで発生が確認されている。また、本州や九州においても、一部地域で発生が確認されるなど発生地域が拡大している。植物防疫法に規定される種ばれいしょ検疫では、Grの発生歴がある圃場は種ばれいしょ生産圃場として設定することができず、Grの蔓延(まん えん)に伴って種ばれいしょ生産が困難になる状況が続いている。Grに対して強力な抵抗性を与えるH1遺伝子を導入した各種Gr抵抗性品種が育成されており、北海道内で作付けされるでん粉原料用品種においては、そのすべてがGr抵抗性品種へ切り替わったところである。

 ジャガイモシロシストセンチュウ(Globodera pallida、以下「Gp」という)(図1右)は、Grと外見がよく似ているが、Grとはやや異なる生態を持つ別種である。外見上での違いはわずかで、シストの成熟過程において黄色を呈さずに、白色から黒褐色に直接変化する点で区別できるが、成熟したシストの場合にはDNAに基づく種同定やGr抵抗性品種への寄生性などを確認する必要がある。Gpは、2015年に北海道のオホーツク地域において発生が確認され、植物防疫法に基づく緊急防除が展開されている。緊急防除については、本誌18年5月号1)および23年7月号2)に詳しく説明されている通りであるが、Gp確認圃場でのばれいしょを含むナス科植物の作付け禁止などの厳しい措置がなされている。
 
1

1 緊急防除後のGp抵抗性品種の活用

 2016年10月に緊急防除が開始されてから10年が経過し、関係各所の努力により、Gp検出圃場は順調に減少し、Gpが検出されなくなった。これに伴い、緊急防除による制限が解除された圃場が増加している。一方で、一度Gpが検出されなくなった圃場であっても、その後に再びGpが検出される事例が一定数確認されており、緊急防除終了後もGpの再顕在化を抑制するための対応が必須であることも明らかになってきた。

 このことから、ジャガイモシロシストセンチュウ再発防止対策指導要領(令和2年4月23日付け2消安第401号農林水産省消費・安全局長通知。以下「再発防止要領」という)では、緊急防除終了後の圃場にばれいしょを作付ける場合には、「Gpに対して相当の抵抗性を有していると認められる品種を選択する」ことを求めている。しかしながら、国内で流通するばれいしょ品種の中で、Gpに対して抵抗性を有する品種には限りがあり、かつ海外導入品種に依存する傾向が強いことから、Gp抵抗性品種を国内で育成することへの要望が高まっている状況にある。

 Grに対しては、H1遺伝子の導入によりほぼ完全にシストの着生を抑えることができるが、Gpに対する抵抗性遺伝子には単一で強力なものがなく、複数の抵抗性遺伝子を重ね合わせることでシストの形成を抑えることを狙う戦略が一般的である。有名なGp抵抗性遺伝子(量的形質遺伝子座:QTL)としては、近縁栽培種Solanum tuberosum subsp. andigena由来のGpaIVsadgや、近縁野生種Solanum verrnei由来のGpa5、Gpa6などがあり、これら三つの遺伝子を集積すればGpのシスト形成をほぼ抑えることができる。また、抵抗性評価も、Grの抵抗性が有りまたは無しで示されるのに対して、Gpに対する抵抗性は、1〜9までの9段階評価あるいは弱から強までの5段階評価で説明される(図2)。



 

 今回、海外からの導入品種として先行して普及しているGp抵抗性品種「フリア」を置き換え得る国産のGp抵抗性でん粉原料用品種「きよみのり」を育成したので、その特性について紹介する。

2 「きよみのり」育成の経緯

 本稿で紹介する「きよみのり」は、PCNのうちGrだけでなく、Gpに対しても抵抗性を示すでん粉原料用品種として開発された。上記の通り、植物防疫法に基づく緊急防除終了後の圃場においてばれいしょの作付けを再開する場合には、Gpの再顕在化を抑制するために、一定程度の抵抗性を有する品種の作付けが推奨されることとなったが、Gp発生確認当時は、国内にGpに対して有効な抵抗性を持つ品種が流通しておらず、速やかにGp抵抗性品種を開発する必要があった。また、Gpの発生が確認されたオホーツク地域は、主としてでん粉原料用の作付けが行われている地域であり、でん粉収量が高い特性が求められた。

 「きよみのり」の開発プログラムは、Gp発生が確認された翌年の2016年に開始され、フランスで育成されたGp抵抗性品種「G05SC266.006」(現在は「フリア」として品種登録)を母とし、でん粉価が高い「サクラフブキ」を父として交配することによって得られた後代から選抜された(図3)。「きよみのり」の母である「G05SC266.006」(フリア」は、国産のGp抵抗性品種開発に10年近い年月が必要であることを踏まえ、同時期に導入された海外品種のうち、Gp抵抗性を持ち北海道での生産力が高い系統を選抜したものであり、Gp抵抗性を有するでん粉原料用品種として先行して普及している4)。一方で、「フリア」は多収ではあるものの、塊茎が小さくでん粉価が低いことが当初から懸念されており、この短所を打ち消すことを狙って、高でん粉価の「サクラフブキ」を父として交配したものである。



 

 交配が行われた16年の冬には真正種子を播種(は しゅ)し、得られた塊茎を翌17年に個体二次選抜、18年に系統選抜、19〜20年に生産力検定予備試験に供し、多収性が認められたことから、21年より「勝系54号」の系統名を付与し、生産力検定に供試した。22年からは「北海114号」の系統名を付与し、北海道優良品種決定調査に供試した。また、「きよみのり」の選抜と並行して、Gp抵抗性検定法も開発が進められ、「きよみのり」は親品種である「フリア」とほぼ同等のGp抵抗性を示したことから、緊急防除終了後、圃場での栽培に適すると考えられた。以上のことから、Gp発生確認地域であるオホーツク地域において普及が見込まれたため、24年に北海道の優良品種に認定され、24年度末に「きよみのり」の名で品種登録出願を行った。

 26年現在は種ばれいしょの増殖中であり、28年度からの一般栽培を目指している。

3 「きよみのり」の基本的な特性

(1)形態的特性および生態的特性について

 「きよみのり」の草型は“中間型”であり、草姿は“やや直立”と「コナヒメ」に近い特性を示すが、茎長は「コナヒメ」よりも長くなる。複葉は「コナヒメ」よりも大きい“やや大”であり、小葉の重なりは“開く”、二次小葉の出現度は“強”、複葉の緑色の濃淡は“やや濃”であるなど、地上部は外見から区別しやすい(写真1、2)。

塊茎についても、形は“短卵形”であり、皮色は“淡ベージュ”、肉色は“淡黄”であり、芽の基部の色は“赤”であるため、他のでん粉原料品種と区別しやすい(写真3)。






 
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(2)収量特性について

 早期肥大性および早ぼり収量は「コナヒメ」と同等であり、枯ちょう期は「パールスターチ」と同等の“かなり晩生”である。上いも重は“ごく重”、上いも数は“ごく多”であるが、上いもの平均重は“やや軽”であり、いわゆる個数型の品種特性を示す。

 北海道内の複数の試験地における栽培試験では、でん粉収量で「コナヒメ」比102〜130%、「フリア」比で129〜148%と多収であった(表1、表2、図4)。






 
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(3)病虫害抵抗性について

 Gpに対する抵抗性は“有”であり、推定遺伝子型はH1である。ジャガイモ疫病抵抗性は“弱”、ジャガイモそうか病抵抗性は“やや弱”、塊茎腐敗抵抗性は“極弱”、Yモザイク病抵抗性は“弱”である。

 Gp抵抗性は4カ年平均で“やや強”であり、「フリア」と同等の抵抗性を示す(図5)。また、道内の14圃場から採集されたGp個体群を用いた抵抗性検定では、個体群ごとにやや抵抗性強度が異なるものの、総じて「フリア」と同様の傾向を示した(図6)。Gp高密度圃場に「きよみのり」を作付けした場合にはGp卵密度は4分の1程度まで減少した(図7)。






 
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(4)でん粉特性について

 「きよみのり」のでん粉の白度は、「コナヒメ」並みである。平均粒径は「コナヒメ」よりも大きく、離水率は「コナヒメ」よりも高く「コナユタカ」よりも低い。リン含量は「コナユタカ」並みである。蒸留水中での糊化開始温度は「コナユタカ」並みであり、最高粘度およびブレークダウンは「コナヒメ」、「コナユタカ」よりも大きい。最高粘度時温度はいずれよりも低い。0.1N食塩水中(0.1当量濃度の食塩水。5.85グラムの食塩を水に溶かして全体を1リットルにしたもの)でも同様の傾向を示す。以上から、「きよみのり」のでん粉は、一般のでん粉原料用品種のでん粉特性の範疇(はん ちゅう)に収まる。

(5)栽培上の注意点

ア 枯ちょう期が遅く、未熟塊茎や小塊茎が茎から離れにくい場合があるので、収穫時期には留意する。また、収穫後の野良いも対策を徹底する。

イ 疫病抵抗性が“弱”、塊茎腐敗抵抗性は“極弱”であるため、栽培期間中は茎葉の疫病防除を徹底する。

ウ Gp発生履歴のある圃場における栽培については、国や北海道の指導に従う。

エ 気象条件などにより鎖型の二次生長が発生しやすいので、適切な培土の施工や施肥管理に留意する。また種ばれいしょ生産においては、塊茎の肥大状況を見ながらなるべく早く茎葉処理を行う。

4 今後のジャガイモシロシストセンチュウ対策の展望

 前述の通り、Gpに対して講じられてきた緊急防除は、行政や生産団体、生産者などの努力によって成功に近づきつつある。一方で、緊急防除終了後にGpの再顕在化を抑えながら、ばれいしょを基幹とした営農を再開する上で、解決しなければいけない課題も明らかになってきた。

 一つは、Gp抵抗性品種のラインナップの課題である。再発防止要領において求められる「Gpに対して相当の抵抗性を持つと認められる」品種とは、実質的に「フリア」以上の抵抗性を有する品種ということになるが、現状では、これを満たすGp抵抗性のでん粉原料用品種は、「フリア」、「ユーロビバ」、「きよみのり」の3品種のみである。これらの品種はいずれも熟期が遅く、環境ストレスが強くかかる条件下では、生理障害が発生しやすい傾向があることが懸念されている。特に、でん粉原料用の基幹品種である「コナヒメ」に近い熟期の栽培しやすい品種の選択肢がなく、作業分散やでん粉工場の操業期間の計画検討などが、営農上の課題となっているようである。

 また、でん粉原料用以外での用途についても品種数は十分ではなく、将来的には各種用途に適するGp抵抗性品種群を育成し、さまざまな選択肢を提供可能にすることが必要である。しかし、これまでのGp抵抗性育種ではヨーロッパ由来Gp抵抗性母本を用いた育種戦略が主流であり、得られる後代では北海道での栽培において収量が低く、熟期が遅くなる傾向が強い。主力品種と同等の能力を持つGp抵抗性品種を開発するにはもう1世代、2世代程度の育種選抜が必要と考えられる。

 二つ目に、Gp抵抗性が打破されるリスクを適切に管理することが必要である。上述のように、Gpに対する抵抗性遺伝子は、主に三つの品種が育種的に利用されているが、それぞれ単独では十分な抵抗性を示さない。ばれいしょ品種側の抵抗性反応を乗り越えて増殖したGpの中には、これらの抵抗性遺伝子の反応を回避できる遺伝的変異を持つ個体が含まれる可能性があり、これが集団内で優占すれば、抵抗性遺伝子の効果は失われる。すでにヨーロッパでは、一部地域においてGpa5遺伝子による抵抗性を回避するGp個体群の発生が確認されているほか、オホーツク地域の複数地域に由来するGp個体群の中ではGp抵抗性に対する反応がやや異なる個体群が含まれるようである。一般に、少数の抵抗性遺伝子から構成される抵抗性品種を広大に栽培した場合には、抵抗性が打破されやすいとされるが、選択肢の少ないGp抵抗性品種を栽培することによって、Gp抵抗性が打破されてしまう可能性は十分に考慮すべきである。Gpの再発防止とばれいしょ栽培を持続可能な形で両立していくためには、品種が持つGp抵抗性のみに依存するのではなく、捕獲作物を加えた新たな輪作体系や、殺線虫剤の施用といった他の防除技術を組み合わせた総合的な防除を維持していくことが重要であると考えられる。

おわりに

 Gp発生確認から10年余が経過し、緊急防除はほとんどのGp検出圃場で奏功しつつある。これからの10年は、緊急防除の成果を無駄にしないためにも、Gpの再顕在化を抑えながらばれいしょを生産していくことが必須である。いずれのGp抵抗性品種も最適な栽培法が模索されている中であり、直ちに万事解決という形にはならないものの、今後拡充されるであろう品種群も含めて、Gpの増殖を抑制することができる品種を普及させることが、将来のばれいしょの安定生産につながると期待している。

謝辞

 本成果は、戦略的スマート農業技術等の開発・改良事業「ばれいしょの輸出を促進するジャガイモシストセンチュウ類低減・管理技術の開発」(SA2-104P)の研究成果である。
【参考文献】
1)農林水産省「植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の実施」『砂糖類・でん粉情報』2018年5月号 pp2-4. 独立行政法人農畜産業振興機構
2)農林水産省「ジャガイモシロシストセンチュウの緊急防除の実施状況」『砂糖類・でん粉情報』2023年7月号 pp59-61
3)農研機構北海道農業研究センター(2020)「バレイショのジャガイモシロシストセンチュウ抵抗性検定マニュアル」農研機構技術紹介パンフレット
4)浅野賢治(2021)「ジャガイモシロシストセンチュウ抵抗性でん粉原料用ばれいしょ品種「フリア」」『砂糖類・でん粉情報』2021年11月号 pp.59-65. 独立行政法人農畜産業振興機構
5)中西靖裕(2019)「植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の実施状況」『砂糖類・でん粉情報』2019年5月号 pp.50-51. 独立行政法人農畜産業振興機構
6)中園浩一(2023)「ジャガイモシロシストセンチュウの緊急防除の実施状況」『砂糖類・でん粉情報』2023年7月号 pp.59-61. 独立行政法人農畜産業振興機構
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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