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最終更新日:2010年3月6日
でん粉情報 |
[2007年12月]
鹿児島県農業開発総合センター大隅支場
前回、鹿児島県で栽培されている原料用さつまいもの品種を紹介しました。今回はこれらの品種特性を踏まえながら、原料用さつまいもの栽培技術について報告します。
育苗はさつまいも栽培の中で最も重要な技術である。目標とする苗は、
長さ:25〜30cm
節数:7〜8節
重さ:20g以上
であり、このような苗を作るポイントは以下のような点である。
種いもは株単位で、品種固有の形状を有し、腐敗や病害のない健全ないもを選ぶ。
種いもは10℃以下の低温が続くと腐敗し、16℃以上で萌芽する。また、20〜30℃なると黒斑病、軟腐病が発生しやすくなる。腐敗や萌芽を防ぐためには、気温が15℃程度に下がってから収穫を開始し、降霜前には収穫を終える。収穫作業は、畑が良く乾いている晴天日に、種いもに傷をつけないように丁寧に行う。
生育日数と貯蔵性との関係は、生育日数が長いほど腐敗しやすい。一方、生育日数の短い若いいもはでん粉価が低く、食用、でん粉用などには向かないが、萌芽、苗立ちが優れ、種いもとして望ましい。また、コガネセンガンやコナホマレなどの貯蔵性の悪い品種では、マルチ栽培より無マルチ栽培の方が腐敗しにくく、種いもには望ましい。
品種により異なるが、1個重200〜300gのいもを、2回採苗の場合で10a当たり約 50〜100kg準備する。
貯蔵中のいもは適温適湿に保つことが大切である。温度は13℃を基準に11〜15℃とするが、コガネセンガンやコナホマレなどの貯蔵性が劣る品種では高めの14〜15℃とする。また、乾燥すると乾腐や消耗が多くなるので、湿度は80〜90%とする。
管理に便利で日当たりの良い排水良好な場所が良く、北西側には防風垣を設置する。苗床予定地は早めにクロールピクリンやD−D剤などで消毒する。特に連続して苗床を設置する場所は黒斑病、ハリガネムシ、センチュウ類の被害が多いので必ず実施する。
堆肥を床面積1?当たり10〜15kgをすき込む。未熟堆肥はアンモニアガスが発生し、種いもが腐敗したり、根腐れを起こす場合があるので使用しない。
施肥量は成分量で1?当たり窒素20g、リン酸10g、カリ13gとし、土と良く攪拌する。追肥は生育に応じて採苗後、成分量で1?当たり窒素5〜10gを施す。追肥後は、葉に肥料が付着しないようによく払い落とし、その後充分にかん水する。
1.伏せ込み期間
種いもの伏せ込みから1回目の採苗までは、1〜2月で60日、3月以降で50日程度必要とするので、植付期から逆算して伏せ込み時期を決定する。
2.伏せ込み方法
種いもは、しょ梗(なり口)を直径1cm程度に切りそろえると萌芽が揃い、また尾部(いも尻)の根(しっぽ)は切らない方が発根が早い。種いもの伏せ込み間隔は品種毎に異なるので表1を参考に伏せ込みを行う。頂部を同一方向に、水平に並べ、種いもがかくれる程度に覆土し、かん水を充分行ってポリマルチする。床土が乾燥すると発根、萌芽が遅れる。
1.温度
苗床の温度管理は、種いもの伏せ込み直後から萌芽までは28〜33℃、萌芽後の気温は昼間25〜30℃、夜間は15℃を目標に管理し、育苗前半はやや高めとする。
2.ポリフィルムの除去
種いもが萌芽し始めたら、日焼けを起こしやすいので、ポリフィルムに穴をあけて芽を出し、萌芽揃い後は直ちに除去する。
3.かん水
かん水は床面が乾かない程度に、温暖な日の午前中に行う。採苗前に強い水圧でかん水すると苗が倒れて曲がり苗になるので、低圧で行う。
4.病害虫防除
苗床で発生する害虫は、アブラムシ、ダニ類、イモコガなどで、防除基準に従って防除する。また、葉巻病や萎縮病、黒斑病などの病株は早めに種いもごと抜き取る。
5.馴化
植付前1週間ぐらいは十分に換気を行い、外気に馴らしておく。特に早植の場合は大切である。
葉数8〜10枚程度に伸長した苗を2〜3節の残して切る。苗の大きさは完全展開葉7〜8枚、苗長25〜30cmに調整し、1本重20g以上になるのが望ましい。
防除基準に従って消毒を行う。
採苗から植付までの期間は、苗の根に発根の兆しが見えた時が植え付け適期である。取り置きの期間は、気温で異なるので発根状況を見ながら決めるが、おおよそ3〜4月で4〜5日間、5〜6月で2〜3日間が適当である。
取り置きをする場合は、倉庫など日光、風の当たらない場所に束ねて立てて置く。下には濡れムシロなどを敷き、ポリフィルムで被覆し湿度を保つと発根が早い。発根した苗は、根を傷めないように丁寧に植え付ける。
さつまいもは、ネコブセンチュウやネグサレセンチュウなどの土壌病害虫の被害が大きいので、発生が見られたほ場は土壌消毒を実施する。
耕起は、耕土を軟らかくして、通気性と水はけを良好にすると同時に、雑草の発生を防止する効果がある。ただし、火山灰土壌ではかえって干ばつ害を受けやすくなる場合もあるので、ロータリー耕などでの過剰な耕起砕土はさける。耕起の際、堆肥などを全面散布して行うと作業効率が向上する。その後、地域基準を参考に施肥を行い、耕耘後畦立する。なお、近年鹿児島県の奨励品種に採用されたダイチノユメは既存品種の施肥量より多めに施肥することによって多収になる。
畦立作業は土壌が極端に乾燥している時や過湿時には行わない。土壌が乾燥しているときに作畦すると活着が悪く、反対に水分が多いと土壌が固まり、通気性が悪くなって活着後の生育やいもの肥大が劣る。
さつまいも植付時の平均気温は18〜20℃を目安にするが、地温が15℃以上になったら植え付けることができる。生育期間が長いほど収量が高いので、植付可能な温度になったらできるだけ早く植え付ける。
植付の方法には、水平植、斜め植、直立植、舟底植などがあり、気象条件などを考慮して植付方法を選択する。低温時に植え付ける場合はできる限り、水平植に近い状態で浅植にする。一方、植付が高温や干ばつ時には、斜め植にする。また、活着を良くするためには、高温・乾燥時の植付は日中を避け夕方に行うことや風向きによって植付方向を変えるなどの対策が重要である。なお、植付方法が収量に及ぼす影響は表2に示すとおりである。
植付本数は植付時期によって異なるので表3を参考に植付を行う。その際、可能な範囲でできるだけ疎植とし、その分労力や苗を確保して、作付全体の植付を早めた方が多収につながる。
マルチ栽培では、マルチ内に発生した雑草を枯死させるようマルチはできるだけ土に密着させて張る。無マルチ栽培では雑草が小さいうちに中耕を行う。また畦間除草などに除草剤を使用する場合は、使用基準に従って使用する。
無マルチ栽培は、生育初期の降雨による畦の崩壊、根の露出がいもの肥大に大きく影響するのでただちに培土する。
また、植付後20日前後に追肥を行い、培土する。
ナカジロシタバ、ハスモンヨトウ、エビガラスズメ、イモコガなどが発生したら防除基準に従って適期に防除する。
地上部の重量は、マルチ栽培では8月、無マルチ栽培では9月が最高になり、以降漸減する。一方、いも重はマルチ、無マルチ栽培いずれも8月以降11月の降霜まで増加する。でん粉歩留は、品種によりやや異なるが、概ね9〜10月に最高に達し以降収穫期まで横ばいで推移する。
これらの生育経過から1日でも生育期間を長くするため収穫期を遅らせた方がよい。しかし、でん粉工場の操業との関係があるので、早く植えたほ場から順次収穫する。なお、コナホマレは品種特性として腐敗いもが発生しやすいので、概ね180日を目安に収穫する。
収穫はつるを除去した後、マルチ栽培ではフィルムを取り除き収穫を行う。その際フィルムの切れはしがほ場に残ると後作に影響するので収穫後、丁寧に除去する。
掘り取りに当たっては、いもに傷をつけたり、土中に残ったりしないように掘取機を調整する。特に、ダイチノユメはいもが長くなりやすいので注意が必要である。掘り取ったいもは、くずいもを除き早めに出荷する。
でん粉原料用さつまいもは新制度に移行し、これまで以上に低コスト多収栽培を行うことが必要になっています。今回紹介した技術がその一助になれば幸いです。