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最終更新日:2010年3月6日
でん粉情報 |
[2008年2月]
【話 題】
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター 研究調整役 笹倉修司
でん粉原料用かんしょの生産については、新たな経営安定対策の下で、特例期間が終了する3年後までに生産組織の育成や経営規模の拡大などを行い、より効率的な生産体制を確立することが求められている。本稿では、鹿児島県の畑作やでん粉原料用を含むかんしょ生産の現状を分析し、問題点を浮き彫りにした上で、地域の実情に応じつつ効率的な生産を可能にする地域生産システムの考え方を提示したい。なお、本誌の目的からすれば、でん粉原料用かんしょを対象とすべきであろうが、一つは収集データの制約から、もう一つは、この後述べるかんしょ生産の現状から、菓子加工用や焼酎用、青果用も含めた「かんしょ全体」を取り上げて分析したい。
まず始めに、鹿児島県畑作の現状について確認する。戦後の鹿児島県畑作は、甘味資源不足に対応したでん粉原料用かんしょの大幅な拡大から開始された。1970年当初においてもかんしょは畑の4割以上を占めるが、その後急速に減少する。代わって大幅に増加したのが飼肥料作物であり、また、野菜は維持的に推移する。この結果、現在の作付面積で最も多いのが飼肥料作物、次いで野菜となり、かんしょは15%程度となっている(図1)。
飼肥料作物では、イタリアンライグラスなど寒地型牧草(冬季利用)を中心に増加する一方、とうもろこしやソルゴーなど夏型の長大作物は、増加の後減少傾向にある(図2)。また、野菜については、夏季利用品目の占める割合が低下し、秋から春利用品目の増加が著しい(表1)。すなわち、冬季の温暖な気候を活かす方向での展開は、秋から春季に重点を置いた、偏った作付構成を現出することとなった。そうした現状を踏まえると、今求められているのは夏型の作物であり、かんしょやさとうきびは貴重な夏作物になっているといえよう。
畑作付作物の15%程度を占めるかんしょは、経営にどのように取り入れられているのか。ここでは、鹿児島県でもかんしょ生産が多く、耕地の3割近くに作付けられている西之表市を例に見てみる。2005年センサスによれば、西之表市のかんしょ作付農家は販売農家の67%にも達し、鹿児島県でも有数の生産地であるが、1戸当たり面積は64aと小さい。これは平均値であり、当然、経営安定対策の個別担い手要件の一つである50a未満の経営も多い。
この中で、担い手と目される認定農業者に限定し、首位作目の種類とかんしょ作付農家割合などを見ると(表2)、首位作目で最も多いのは酪農で、以下、タバコ、肉用牛、茶と続く。かんしょが首位の経営は青果用のみで、わずか2%に過ぎない。では、かんしょ作付経営が少ないのかといえばそうではない。全体で45%の経営に取り込まれ、単一経営が多い酪農や茶を除くとほぼ7割の経営で作付けられている。ここで注目したいのが、ばれいしょとの親和性である。ばれいしょ首位経営では、ほぼ9割がかんしょも作付けており、酪農、茶を除く経営全体でも、かんしょとばれいしょを有する経営は4割を超えている。種子島のばれいしょの作型は、10月から1月に定植し収穫は3月から5月となる。これに対応できるかんしょの作型(用途)としては、青果用の早掘りから、加工用、そして11月末までのでん粉原料用もある。つまり、秋から春を中心とした野菜品目と組合せた多様な作型を選択できることが、かんしょの利点である。なお、1戸当たり作付面積は、センサスの販売農家平均より大きいが、それでも50a以下の経営割合は全体で25%を超えている。もちろん、認定農業者であるから面積に関わらず経営安定対策の要件を満たすが、ここで言いたいのは、(1)主要な担い手である認定農業者であっても、皆が大面積のかんしょを作付けしているのではないこと、(2)複合経営の首位作目ではなく、副次作物として大半の経営に組み込まれていること、(3)秋から春季利用作物との親和性が高く、多様な作型に対応した用途別の収穫時期の「ずれ」を活用しつつ、作付体系に不可欠な存在となっていること、といった諸点である。
以上のように、畑利用の面、経営における組合せ作物の面から不可欠の存在となっているかんしょであるが、その生産(技術)構造はどうなっているだろうか。図3は、約40年間の単位面積当たり収量の推移をみたものである。この間収量は順調に向上しており、1965年に約2t/10aであったものが、近年は3tへと1.5倍に増加している。これは水稲収量の向上よりも高い。また、10年ごとの変動係数も全期間で10%以下と、気象災害などで作柄が不安定な南九州、とりわけ近年、温暖化に伴って気象変動幅が拡大している中で、極めて安定しているといえる。
では、問題はないのか。10a当たり生産費を原料用ばれいしょと比較してみると(図4)、費用合計ではかんしょがかなり高いが、労働費を除くと、むしろかんしょの方が低い。要するに、労働時間が極めて長いことが高コストの要因といえる。投下労働時間の推移を、南九州地域で原料用かんしょと同じく経営安定対策対象となったさとうきびと比較してみると(図5)、さとうきびは収穫機械化の進展により20年間で半減したのに対し、かんしょは2割程度しか削減されていない。現時点ではほぼ同じ労働時間となっていて、特に、「定植まで」の時間が最も長いのが特徴である。多くの作物において機械化が進展する中で、今も挿苗が中心となっていることが、ここに表現されている。つまり、現在のかんしょ生産において最大の問題はいかに省力化を図るか、であることが理解できよう。
省力化をいかに実現するか、これがかんしょ生産の最大の課題である。挿苗という人力工程の解消には直播栽培の進展が求められるが、現時点では直播適性品種は少なく、3年後という期限を考えると品種育成を待ってはいられない。また、認定農業者でさえ複合経営での小規模作付けが多い中で、単にかんしょのみの規模拡大を志向するのは問題である。一方、でん粉工場では一定量の原料がなければ採算がとれない。つまり、小規模生産者も含めた地域としての生産維持による総量確保が必要であり、そうした状況下でいかに省力的かつ効率的な生産を実現するか、である。
そこで、「産地」としての活動強化という視点から、今後の方向について提案したい(図6)。ここでいう「産地」とは、でん粉用、加工用など用途別ではなく、それらを包括したかんしょ全体の生産に関わるものを意味する。でん粉原料用は、でん粉工場の稼働時期に合わせて作業が集中するため機械稼働率は一定以上高まらない。また、地域内、あるいは同一経営内にさえ複数用途のかんしょが作付けられている。そこで、用途による作業時期差に着目し、青果用の収穫は別にしても、可能な限り用途をまたいだ大型機の汎用利用により長期に作業を連続させることで、省力と使用機械台数削減による生産コスト低減を図ろうというのである。そのためには当然、用途毎の実需者からの要望面積を踏まえ、具体的な作付計画を策定する必要がある。その主体が「産地」であり、具体的には品目横断対策で措定されている地域協議会に類するものを立ち上げ、ここがその役割を担うべきである。
そして、そこで策定された生産計画に従って実施される作業の受け皿の核になるのが、広域作業受託組織(サービス事業体)である。集落営農が提案されているが、水田と違い、元来、生産活動に地縁的要素が入り混まない畑作では現実的でない。現在行われているのは、中核的な担い手が高齢農家の機械作業を請負い、その見返りとして高齢農家が挿苗などで加勢する、といった交換システムであろう。一足飛びに広域サービス事業体が全て賄うことは困難であるし、地縁的な作業・労働交換のほうが効率的な場合もあろう。将来的には、広域事業体に補完された地域生産システムの構築を目指すとしても、当面は、集落など狭域での活動を組織化しつつ、それと併存して活動する仕組み、システムの構築を図るべきであろう。そして、こうした補完システムへの支援を中心とした対策が、今後一層求められよう。
文献
笹倉修司:暖地畑作における担い手問題−品目別対策との関連において−、農業経営研究44(4)、17−27、2007.3