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最終更新日:2010年3月6日
かんしょでん粉工場の先進的取組事例 ―同時乾燥によるでん粉製造コストの低減と品質の向上― |
[2008年4月号]
【調査・報告】
調査情報部 調査役 荒木祐二
でん粉の新制度下において、国内産でん粉工場にあっては、でん粉原料用作物の需給と操業率の現状を踏まえ、生産性の向上とコスト低減に向けた一層の取組が求められている。特に、かんしょでん粉工場にあっては、でん粉の品質改善や新規用途開発が需要確保のための大きな課題となっている。
このような中、今回取材したコスモライン株式会社納官工場(鹿児島県熊毛郡中種町)(以下「納官工場」という。)は、北海道のばれいしょでん粉工場と同等の設備を目標に、でん粉の製造コストの低減と品質の向上に向け取り組んでいる工場の一つである。
本稿では、かんしょでん粉工場の先進的な事例として、本工場の取組概要を紹介する。
平成17年度の熊毛地域(種子島と屋久島からなる1市4町で構成)の農業産出額17,194百万円のうち、かんしょ生産額は2,513百万円と、さとうきび3,618百万円、肉用牛3,498百万円に次ぐ三番目に多い品目であり、かんしょが島の重要な基幹作物となっている(表1)。また、かんしょ生産量62,808トンのうち、でん粉原料用かんしょが占める割合が72%と焼酎用原料の22%を大きく上回っているのが熊毛地区の特徴であり、種子島に同工場を含む4工場(17年度は5工場)のでん粉工場が操業していることからも、でん粉産業がこの地域経済を支える重要な役割を担っていることが伺える(表2)。
19年度の納官工場の原料擦込み能力は、島内の4工場の中でも最も大きい22,440トン(22トン/h×17h/日×60日)となっている。同年産のでん粉生産状況は、工場稼働率が47.2%、でん粉生産量が3,371トン(歩留り31.83%)であった。
操業期間は、原料用かんしょの収穫時期である10月中旬から12月中旬までのおよそ2カ月間で原料の擦込み作業が行われ、その後、精製乾燥などの作業が2〜3ヵ月間行われる。擦込み作業期間の生産体制は、原料処理(かんしょを洗浄して擦込む)から精製ライン(でん粉とでん粉かすを分離する)までは、24時間体制で3人が12時間勤務の2交代制で当たっている。その後の工程となる製品乾燥も19年産から24時間体制をとっており、2人が2交代制で勤務している。その他、排水処理の見回りや、でん粉かすを畑に還元するための運送などに3人が従事している。
種子島では、原料用かんしょの工場への集荷は、工場ごとのかんしょの配分が調整し易いこともあり、全量がJAによる一元集荷である。JAから各工場への配分方法は、原則、均等であるが、熊毛地区に設立されているさつまいも・でん粉対策協議会の場で各工場の出席の下、原料処理や排水処理など工場の総合的な能力を勘案して毎年決定されている。
同工場の19年産の集荷実績は、10,581トン(種子島トータル39,339トン、配分率26.9%)で、その品種は多い順に、シロユタカ、シロサツマ、ダイチノユメ、コナホマレ、コガネセンガンとなっている。同工場としては、でん粉歩留りが高いダイチノユメ、コナホマレの作付けを推奨しているが、なかなか増えないとのことである。
ばれいしょでん粉工場や一部のかんしょでん粉工場では、原料処理からでん粉の精製、乾燥までを連続して同時に行う「同時乾燥」によりでん粉を製造しているが、一般的なかんしょでん粉工場は、でん粉を一旦生粉タンクに貯留し、その後、精製乾燥する昔ながらの製造方法をとっている。そのため、生粉タンクにおいて品質が低下し易く、その結果、ユーザーのニーズに適切に対応できず、ばれいしょでん粉の固有用途のような幅広い用途先には仕向けられていないのが現状である。
また、老朽化した製造設備はかんしょでん粉の多くの工場がそうであるように、生産性が低く、コストを押し上げている大きな要因となっている。
このように、かんしょでん粉工場の抱える課題は、稼働率の低さという構造的な問題を除けば、その製造方法と製造設備に起因するところが大きく、これらを改善することによって解決されると思われる。
上述したような同じ課題を納官工場も抱えていたが、平成16年度から19年度にかけ、製造コスト低減とでん粉の品質向上のために、原料処理と排水処理能力のアップを図りつつ、擦込みから精製乾燥までの作業を連続して行うことができる同時乾燥を目標に、関連する設備への投資を行ってきた。
納官工場は、歩留りアップのために、北海道ばれいしょでん粉工場で擦込み実績のある高速磨砕機(120トン/日、台)を導入した。以前の磨砕機は、5〜8時間の擦込み作業が終わると、その都度磨砕機の刃を目立てする作業が必要であり、それには相当の時間を要するだけでなく、熟練工しか出来ない作業であるため、それを請ける技術者の確保が容易ではなかった。
一方、高速磨砕機は、磨砕機の刃をそのまま別の刃に取り換えれば、即時に作業が続けられ、しかも耐久性に優れていることから、1日1回程度の交換でよく、作業効率が大幅にアップした。
また、部品の手入れを行う必要が無くなったため、それに掛かっていた人員コストが削減できたほか、計画的な作業時間の管理による効率的な人員配置により、原料処理ラインの人員削減が可能となった。さらに、高速磨砕機は、従来の磨砕機に比べ2倍近く細かく磨砕できるため、でん粉の回収率が上がり、その結果歩留りの向上にも繋がっている。
でん粉とでん粉かすを分離する工程には、遠心篩機を導入することで、水の使用量が以前に比べて3分の2に削減された。導入前は、磨砕物に水を掛けながら濾して、さらに固まったものに水を掛け、徐々に薄めて分離するといった方法であったが、新たに導入した遠心篩機は、常時洗浄しながら、同時に脱水するため、水の使用量が少量で済んでいる。これは、結果的に調整池に溜める排水量も少なくて済むため、排水処理にかかるコストの低減にもなっている。
前述のとおり、一般的な工場で製造されるかんしょでん粉は、その製造方法が原因でばれいしょでん粉に比べて品質が劣るとされている。納官工場では、一連の製造工程に能力の高い高速磨砕機、遠心篩別機、ノズルセパレーター(遠心分離機)、遠心脱水機、乾燥機の導入・増設を図ることで、原料の擦込から乾燥までを連続して3時間程度で行うことができる同時乾燥化を実現し、でん粉の品質向上を図った。19年度の同時乾燥率は、乾燥設備の不具合などにより、およそ30%と目標に達しなかったが、20年度は80%まで上げることを計画している。
この他、品質向上のための水の使用方法として、精製ラインには多量の水を使用し、不純物の除去率を上げ、一方で、その他のラインではできるだけ節水するといった取組も行っている。これは、全量地下水で賄っている本工場だから取り組めることであるが、擦込み操業中1日当たり2,800トンもの水を使用する本工場にとっては、節水と品質向上のためのバランスが非常に重要である。
以上のような取組により、本工場のでん粉品質は向上しており、さらに今後同時乾燥率を上げることで、現在の販売先である糖化用から菓子やその他食品への用途にも販路を拡げていきたいと工場長は考えている。
かんしょでん粉工場の排水は、原料の洗浄、磨砕・分別、生粉タンク排水、精製などにかかる排水の数種類に分かれており、その水量も多く、また、有機物を多量に含むことなどからその処理は技術的に難しく、鹿児島県の指導のもと適正な管理が行われているが、現在もでん粉工場操業における課題の一つとなっている。
納官工場においては、排水基準を100%順守するため、攪拌能力の高いブロアー装置を導入し、排水処理能力の増強を図っている。曝気池の全体に空気を均一に送ることができるこの装置は、酸素を必要とする浄化のためのバクテリアなどの細菌類を増殖させ、働きを活発化させることで、基準値をクリアする排水処理を可能とした。同工場では、地域社会への配慮、環境負担の低減を認識し、早くから排水処理対策を実施してきた。その結果、原料擦込み能力の増強も問題なく実現している。
今回紹介したコスモライン(株)納官工場の取組は、平成16年から19年までの設備投資であり、現在もなお進行中であるため、本稿ではその効果を数値的に表すことができなかった。しかし、今回の取材で本工場のコスト低減およびでん粉の品質向上は間違いなく進んでいることが伺えた。
でん粉工場において、設備投資以外のコスト低減の取組としては、工場稼働率の向上や、ダイチノユメ、コナホマレなど高でん粉多収品種の普及によるでん粉歩留りの向上、また、でん粉かすの有効利用などが考えられるが、最も有効な取組としては、今回紹介したような製造設備への投資であろう。しかし、各工場の財政事情もそれぞれ異なり、納官工場と同じような大規模な投資ができる工場は限られるかもしれない。同工場も自前による設備投資と併せて、国の補助事業を効果的に利用した取組であり、他の工場にとってこの事例が多少なりとも参考になれば幸いである。
また、同時乾燥の実現により、かんしょでん粉の品質向上は、飛躍的に向上していることを、でん粉ユーザーに知っていただき、今後のかんしょでん粉の販路拡大に期待したい。
最後に、今回の取材に対し、お忙しい中ご協力していただいたコスモライン株式会社種子島事業所総支配人市丸氏と納官工場長の川畑氏に深く感謝いたします。
参考文献
高橋禮治「でん粉製品の知識」