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最終更新日:2010年3月6日
でん粉情報 |
[2008年9月]
【生産地から】鹿児島県農政部 農産園芸課
1.はじめに
本県におけるさつまいもは、でん粉原料用、焼酎用、加工用、青果用などとして普通畑の約20%に作付けされ、畑作地帯における輪作体系や自然災害の影響を回避する防災営農上重要な作物です。
その中でも、でん粉原料用さつまいもは、生産量の約45%を占め、平成19年度は県内23工場でそれらを原料とするでん粉製造が行われています。
でん粉製造においては、多量の水を使用するため、工場からの排水量が多く、またその排水はBOD(生物化学的酸素要求量)濃度が非常に高いため、公共用水域注1)へ排水するためには、排水基準を満たす処理を行う必要があります。でん粉工場から排出される排水については、環境負荷の軽減と国民の健康の保護を図るため、水質汚濁防止法により、一定基準以内の水質の遵守が義務づけられています。
注1)
河川、湖沼、港湾、沿岸海域その他公共の用に供される水域およびこれに接続する公共溝渠(こうきょ)、かんがい用水路など公共用に供される水路(終末処理場を設置する下水道は含まない)
2.さつまいもでん粉排水処理の方法
さつまいもでん粉排水の処理方法として、現在、嫌気池における嫌気処理と曝気池における好気処理を組み合わせた方法が採られています。
表1 さつまいもでん粉工場の 排水処理の方法(平成19年度操業工場) |
資料:鹿児島県 |
写真1 嫌気池(嫌気処理) |
写真2 曝気池 好気処理(長期表面曝気) |
写真3 曝気池 好気処理(活性汚泥方式) |
でん粉工場の排水は、原料いもを洗浄する際に排出されるフリューム排水と原料いもを磨砕、精製する過程で排出されるセパレート排水に分類されます(図1)。
資料:鹿児島県 |
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図1 でん粉工場の排水経路 |
フリューム排水は、BOD濃度が低いため、スクリーンでいもの皮や切りくずなどを除去し、沈殿池で泥や砂を除去した後、河川へ放流されます。
セパレート排水は、製造過程で分離されたタンパク質を多く含む排水のため、BOD濃度が高く、嫌気池で10日程度滞留させ嫌気処理を行いBOD濃度を下げます。その後、曝気池で1日程度好気処理を行い、沈殿池を経過させた後、河川へ排水されます。それぞれの処理過程で、水質検査を行い、排水基準を満たしていることを確認の上、河川へ排水されています。
表2 嫌気処理と好気処理の特徴 |
資料:鹿児島県 |
3.排水基準遵守の取組
(1)水質汚濁防止法に基づく検査等の実施
でん粉工場から公共用水域へ排出される排出水については、水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)で規制されています。
県環境生活部では、水質汚濁防止法に基づき、でん粉工場操業前の文書・巡回指導を実施するとともに操業時に採水検査を行い、排水基準超過が見られる場合、改善命令、改善勧告などの行政措置をとっています。
行政措置状況の推移をみると、平成16年度までは、複数の工場で行政措置を受ける工場もありましたが、17年度以降減少しています。
これは、排水処理施設の高度化に取り組む工場が増えたこと、また、でん粉工場再編整備事業によって課題を抱える工場が廃止されたことが要因と考えられます。
表3 排水基準 |
(単位:mg/ℓ) |
※COD は参考値扱い (排水を直接海に放流する場合に適用) |
閉鎖性海域付加基準 |
(単位:mg/ℓ) |
※八代海、鹿児島湾に関係する工場が対象 資料:鹿児島県 |
(2)その他の取組状況
鹿児島県では、農政部においても「でん粉工場排水処理に係る環境保全対策指導要領」を定め、関係機関・団体と連携し工場周辺の環境保全に取り組んでいます。
この指導要領では、排水処理に当たっての工場周辺の環境保全並びに事故防止に対する留意点、問題発生時の対応などでん粉工場が行う事項、公的指導機関が行う事項について整理されています。
その他にも、各工場ごとに定期的(1週間に1回程度)な水質検査の実施、各団体における排水処理研修会の実施、さつまいも・でん粉対策協議会等による水質検査、研修会を実施し、排水処理施設の管理技術の向上、環境保全に係る啓発活動に取り組んでいます。
写真4 排水処理施設管理技術研修会 |
4.おわりに
鹿児島県において、さつまいもは防災営農上重要な作物であり、その中でもでん粉原料用さつまいもは生産量の約4割を占めており、その受け入れ先として、さつまいもでん粉工場は重要な役割を担っています。
このような中、でん粉工場は平成19年度から導入された品目別経営安定対策に対応して、でん粉の安定的な生産を図るため生産コストの低減に取り組むとともに、周辺住民の環境保全に対する意識の高まりなどもあり、排水処理対策についても、適正な処理を徹底していく必要があります。
今後とも関係機関・団体一体となって環境保全対策に係る支援、啓発活動を行うこととしています。