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ばれいしょでん粉工場とばれいしょでん粉の固有用途の取り組み

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最終更新日:2010年3月6日

ばれいしょでん粉工場とばれいしょでん粉の固有用途の取り組み
〜北海道胆振支庁管内・花和高橋澱粉工場および洞爺食品有限会社の事例〜

[2009年4月]

【調査・報告】

調査情報部 審 査 役 斎藤 孝宏
調査情報部調査課 課長代理 遠藤 秀浩
札幌事務所 所長代理 戸田 義久

 北海道内にあるばれいしょでん粉工場は、平成21年3月現在、農協系が10工場、民間が7工場の合計17工場となっている。

 今回は、北海道胆振支庁管内洞爺湖町に位置する民間の花和高橋澱粉工場と、同工場が製造するばれいしょでん粉を用い、緩慢冷凍製法という伝統的な手法ではるさめを製造している洞爺食品有限会社でのばれいしょでん粉の固有用途の事例について、紹介する。


1.胆振支庁管内などでのばれいしょ生産の現状

 洞爺湖町がある胆振支庁管内における平成18年の農業産出額は約454億円となっており、北海道全体(約1兆527億円)の4.3%にあたる。そのうち、ばれいしょを含むいも類は約12億円で、支庁管内農業産出額の2.6%となっている(表1)。


表1 平成18年北海道および胆振支庁管内の農業産出額
(単位:億円、%)
資料:北海道農政部、北海道胆振支庁
注:四捨五入の関係で、各項目の計が合計と一致しない場合がある。

地図:花和高橋澱粉工場と主な集荷地域
資料:花和高橋澱粉工場からの聞き取りにより機構作成

 胆振支庁管内における平成18年のばれいしょ作付面積は698ヘクタールで、北海道全体(55,700ヘクタール)の1.3%にあたる。用途別の内訳で見ると、生食を主用途とする品種が585ヘクタールと最も多く、次いで加工を主用途とする品種が102ヘクタール、でん粉を主用途とする品種はわずか1ヘクタールのみとなっている(表2)。


表2 平成18年度ばれいしょの支庁別・品種別作付面積
(単位:ヘクタール)
資料:北海道農政部

 胆振支庁以外の後志、檜山、渡島の各支庁管内においても、でん粉を主用途とするばれいしょはほとんど栽培されていないことから、これらの地域に位置するでん粉工場は、地元の生食を主用途とするばれいしょおよび加工を主用途とするばれいしょまたは、他の地域から運び込まれたでん粉を主用途とするばれいしょを、原料とする必要がある。

 洞爺湖町の畑作においては、ばれいしょのほかに小豆やてん菜の生産が盛んで、主として菜類→豆類→てん菜→ばれいしょの輪作体系が組まれており、ばれいしょは必要不可欠な作物の一つとなっている(表3)。


表3 洞爺湖町および周辺地域の平成18年産主要作物の作付面積
(単位:ヘクタール)
資料:JAとうや湖
注:「−」は皆無。「0」は0.5ha未満。果樹はりんご、おうとう、ぶどうのみ

2.花和高橋澱粉工場

(1) 工場の概要


図1 花和高橋澱粉工場の外観
資料:洞爺食品有限会社ホームページ

 花和高橋澱粉工場は、平成20年に洞爺湖サミットが行われた洞爺湖町内の西側に位置する民間のでん粉工場で、平成21年で創業から40年目を迎えた。

 平成20年におけるでん粉生産は、例年どおり、8月中旬から試運転を始め、9月上旬から11月上旬まで行われた。操業期間中は、1週間あたり3日から5日間設備を稼働させ、昼は原料搬入作業を含め3〜4人、夜は2人ずつの2交代、計3交代の24時間体制で製造される。操業期間中の従業員数は延べ10人ほどで、主にほかの企業を定年退職した地元の人を雇用している。

 原料となるばれいしょの主な集荷範囲は、地元の洞爺湖町をはじめ隣の壮瞥町、北に位置する倶知安町や京極町、また、倶知安町より西の地域では、でん粉工場がないため、今金町、八雲町、七飯町、知内町の広範囲に及んでいる。

 また、前述のとおり、これらの地域は生食用および加工を主用途とするばれいしょの産地であり、原料ばれいしょの品種はでん粉を主用途とするものではなく、ほとんどがポテトチップスやコロッケなど加工を主用途とするものおよび生食を主用途とするものの規格外のもので、工場側が生産農家から直接原料を買い取っている。原料の集荷は、工場側が生産農家へ出向いて搬入するものと、生産農家側が工場へ持ち込む二通りあり、その割合は半々である。


(2) でん粉の製造工程

①製造工程など

 搬入された原料ばれいしょは、通常、その日のうちに図2の工程により処理され、およそ半日ででん粉に加工される。


資料:花和高橋澱粉工場からの聞き取りにより機構作成
図2 花和高橋澱粉工場における製造工程

 なお、製造コストの割合は、原料代50%、製造費25%、燃料代25%となっている。また、平成20年に製造されたでん粉は、約25%が洞爺食品へ、残りの約75%が商社や問屋へと販売された。


②工場の近代化

 製造工程で、でん粉に残るたんぱく質などの不純物を取り除くため、従来の遠心分離機(図3)に加え、平成5年頃にでん粉の洗浄濃縮工程としてオランダ製のハイドロサイクロン(図4)を導入した。このことにより、高度に不純物を取り除くことができ、製品の品質向上につながった。


資料:洞爺食品有限会社ホームページ
図3 遠心分離機

資料:洞爺食品有限会社ホームページ
図4 ハイドロサイクロン

 なお、製造工程において生じるでん粉かすは、工場内で貯蔵し発酵させ、牧草用肥料として主に畜産農家へ販売することにより、農地に還元されている。また、廃液は、ばっ気処理(注)により浄化した上で、河川に排出される。


(3) 製品の特徴

 原料がでん粉主用途のものではなく、加工主用途および生食主用途のばれいしょを使用しているので、比較的粒子が細かく、粘度の高いでん粉となっている。

 また、製品へのこだわりとして、白度の高いでん粉の供給に努めている。白度が従来90度だったものが、前述のハイドロサイクロンを導入したことにより、92〜93度まで向上し、販売先にも喜ばれている。工場では、白度を94〜95度を目標とし、品質向上に取り組んでいる。


図5 洞爺食品向けに出荷された製品(一袋25kg入り)

3.洞爺食品有限会社

(1) 会社の概要

 洞爺食品は、昭和32年の創業で、平成20年に50年目を迎えた。主力製品は北海道産ばれいしょでん粉のみを原料とした北海道で唯一製造しているはるさめであり、その他に片栗粉をはじめ、小豆、大豆、黒豆などの豆類の袋詰めも行っている。

 同社での平成20年のでん粉使用量(内訳は、はるさめ6、片栗粉4の割合)は、例年に比べおよそ2割増加した。その理由として、通常国内で流通しているはるさめは中国産の緑豆由来のものが多いが、昨今の中国産食品に対する消費者の懸念の高まりから、国産ばれいしょでん粉を原料としたはるさめの需要が高まり、でん粉使用量が増加した。工場の従業員数は14人で、現在、通年フル稼働で従事している。


(2) はるさめの製造工程と製品の特徴〜製法のこだわり〜

①製造工程

 洞爺食品は、はるさめを製造するにあたり、創業当初から国産ばれいしょでん粉を使っており、過去に様々なばれいしょ工場の製品を試してきた。現在は、地元の水との相性もよく、粒子の大きさおよび粘度の強弱など、はるさめの製造に適した花和高橋澱粉工場からのばれいしょでん粉に一本化している。

 なお、同社ではるさめ1キログラムを製造するには、ばれいしょでん粉1.2キログラムが必要である。

 最初の工程のでん粉の練り込みは、専門の職人がつきっきりで行う。でん粉は、水に溶かして初めてその性質がわかる部分が大きく、職人が、その日の気温、湿度、原料の量、粒子の大きさ、粘度の強さなどのさまざまな要因を踏まえ、投入する水の量と練り込み具合を調整する。職人の長年の経験と勘が頼りとなる重要な工程である。

 その後、練り上げたものを麺状化させ、100℃の温水で煮沸した後、冷水で冷やされる。

 そして、冷凍室へ運び込まれ1日半かけてじっくり冷凍させる。他の工場では、国産ばれいしょやかんしょでん粉を原料としたはるさめを、半日だけ冷凍庫に入れ急速に凍らせる冷凍製法で作るのが一般的であるが、洞爺食品では、はるさめを時間のかかる緩慢冷凍製法で作っている。

 その後、冷凍室から出したものを丸1日かけ水にさらして解凍し、2日かけて屋内で乾燥させる。時間をかけて乾燥しないと折れやすくなるためでもある。


資料:洞爺食品有限会社からの聞き取りにより機構作成
図6 洞爺食品におけるはるさめ製造工程

図7 でん粉練り込み
図8 麺状化
図9 煮沸
図10 冷却
図11 冷凍室搬入前
図12 解凍
図13 乾燥室

②製品の特徴

 緩慢冷凍製法で製造したはるさめの組織には、無数の穴ができるため、煮物などの煮汁が染み込みやすいという利点があり、特に冬の鍋物に向いている。一方、このはるさめはお湯をかけただけでは戻らない性質なので、近年流行の即席はるさめスープには適さないという特徴がある。


4.まとめ

 花和高橋澱粉工場は、生産農家から規格外の原料を買い取り加工することにより、でん粉資源を有効活用しており、地域における資源循環の一例を示した形となっている。また、洞爺食品は、このでん粉を原料に、大量生産はできないものの、緩慢冷凍製法という伝統的手法を守り、付加価値の高いはるさめを作ることにより、でん粉の需要の拡大にも貢献している。

 このような地域に根差したばれいしょでん粉とその製品製造は、ばれいしょでん粉の固有用途の拡大、そして、畑作における輪作体系の維持や地域経済の活性化につながっており、国内産いもでん粉の固有用途の取組事例として注目すべき点が少なくないと思われる。両者の今後の発展に期待するとともに、本稿が国内産いもでん粉の用途拡大の一助となれば幸いである。

(注)廃液を空気と強制的に接触させることにより、好気性微生物の分解処理を促進させ、浄化させる処理。

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713