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最終更新日:2010年3月6日
でん粉情報 |
[2009年12月]
【生産地から】鹿児島県農業開発総合センター
大隅支場農機研究室
近年、さつまいもを原料とした焼酎の需要増に伴い、原料用さつまいもの確保が大きな課題となってきた。収穫面積・規模拡大のためには効率的に植え付けを行う必要があるが、原料用さつまいもの畦立作業時期は、天候不順に加え、他品目(春夏作物)の作付作業なども集中することから、短時間で作業を行う必要がある。加えて、品質の高い原料が求められることから、土壌消毒、施薬など多くの植付前作業を必要とする(図1)。
図1
慣行の植付前作業体系
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そこで、植付前に集中する複数の作業を畦立と同時に行う技術を開発したので紹介する。
機械は、2畦用畦立マルチャを基軸に、トラクターバッテリ電源を利用した施肥機土壌消毒機・薬剤散布機、動力噴霧機を組み合わせ、施肥・土壌消毒・施薬・畦立・マルチ作業を一工程で行う機械である(図2)。また、肥料、農薬などの資材は、畦立部のみに局所施用する構造である。
図2
施肥・施薬・畦立・マルチ一工程作業機と作業体系
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一工程化技術により、慣行作業の9工程が4工程に簡略化され、省力・低コスト化が図られた。一工程作業機の作業能率は、10アール当たり1.0時間で、畦立時期の3〜5月中の作業可能面積は19.8ヘクタールである。また、一工程体系の全作業時間は同2.35時間、畦立に関する一連の作業を含めた作業工程の可能面積は7.8ヘクタールで、慣行体系に比べ2.1倍の面積を作業可能となる(表1)。
表1 一工程化技術による作業時間等(10a当たり)
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注)作業工程の可能面積は、堆肥散布から畦立マルチまでの植付前作業工程の作業可能面積
( )は慣行体系を100としたときの割合 |
施肥は、慣行体系では全面全層施肥が行われているが、一工程作業機では、畦上のみへの施肥、畦内混和が行われる。畦内混和は全面全層施肥より施肥面積が少なくなることから、施肥量について検討した。
畦内混和による局所施肥の施用量は、上いも収量の結果などから判断し、全面全層施肥の2割減肥でも同等の収量を確保できると判断できた(図3)。また、土壌消毒剤(D―D剤)の畦内土壌消毒は効果が高く、全面土壌消毒の1/3の薬量で同等の線虫防除効果が認められた(図4)。コガネムシ防除は、薬剤散布機による粒剤(商品名:ダントツ粒剤)の少量・局所施用が可能となった。(図5)。
注)肥料は配合肥料(N
: P : K=8:12:24)を使用した。
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図3 局所施肥とさつまいもの収量
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図4 土壌消毒方法とさつまいもの収量
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図5 コガネムシ防除剤施用と被害の関係
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一工程技術の10アール当り経費削減率は、局所施用により慣行体系に比べ肥料費で20%、農薬費で59%、一工程化により燃料費で41%、労賃で55%、全体では44%の削減が可能である(表2)。
表2 一工程化技術による経費削減効果(10a当たり、経費H20.8現在の価格)
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また、新たに2畦用畦立マルチャ・施肥機・畦内土壌消毒機・薬剤散布機を導入する場合のコストは、慣行体系の約50%程度である。
「食の安全・安心」志向の高まりにより、さらに精密に施肥・施薬が可能な技術の開発が求められることから、今後、車速連動型施肥機などを利用した施肥・施薬技術の開発に取り組みたい。また、現在の体系では搭載する資材の種類が多いことから、資材数の削減などについても検討を行う計画である。
一工程作業機は、畦立マルチャを基軸に施肥機、土壌消毒機、薬剤散布機を組み合わせトラクターに搭載した機械である。これらは、所有する作業機、作業形態などを考慮した組み合わせが可能である。
また、一工程作業機は作業能率が高く、局所的な施肥・施薬による肥料・農薬の節減が可能である。近年の原油高騰による肥料、資材費の高騰対策としても有効と考えられる。