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さつまいも生産における機械化の推進など・経営合理化への取り組み状況について(その2)

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最終更新日:2010年3月6日

さつまいも生産における機械化の推進など・経営合理化への取り組み状況について(その2)
〜機械化が農家経営の改善にもたらす効果など〜

[2009年7月]

【調査・報告】

鹿児島県農業開発総合センター・大隅支場
農機研究室 前室長
飛松 義博


5.未利用資源(塊根収穫時の残さ:茎葉)の有効活用技術

(1) さつまいも茎葉家畜飼料化技術の開発

「背景・目的」

 鹿児島県のさつまいも栽培面積は約14,000ヘクタール(以下ha)で、用途別にはでん粉用41%、焼酎用43%で、残りは青果・食品加工・その他用途である。これらでん粉・焼酎用の栽培面積約11,760haから生産されるさつまいも茎葉は約35万トン(生重、3トン/10アール(以下a))が見込まれるが、塊根収穫時に細断され、ほ場にすき込まれ有効活用されていない状況にある。過去においては、人力作業や簡易な茎葉処理機(バインカッター)による刈り取り後、乾燥し、飼料として利用する形態が一部見られたが、さつまいも収穫作業の省力化に伴い、茎葉処理機は細断型が主流となり、ほ場還元する体系がとられ、飼料としての利用が困難になっている。また、家畜飼養の効率化により稲わら、配合飼料など購入飼料への依存度が高くなり、さつまいも茎葉は家畜飼料としてほとんど利用されない状況になっている。また、近年の農家経営は、耕種・畜産部門が分離する形態が多くなり、家畜飼料としての利用が困難になっていると思われる。
 これら背景のもと、平成16〜18年度において、農林水産省委託プロジェクト農林水産バイオリサイクル研究(以下「委託プロジェクト」という。)が実施され、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センターでは、南九州畑作地域におけるゼロエミッション型カスケード利用システムの開発が行われた。全体的な研究目的の概要は、近年、環境負荷が小さいリサイクル社会の構築が要望され、農林水産業から排出される廃棄物や残さの積極的な利活用が強く求められていることから、南九州地域特有のさつまいもに由来した廃棄物(焼酎廃液、でん粉かす、さつまいも茎葉)や家畜排泄物などを利用したゼロエミッション型カスケード利用地域システムの開発にある。鹿児島県農業開発総合センター大隅支場においては、さつまいも収穫残さ(茎葉)を家畜飼料化し、家畜の排泄物をほ場還元する循環型農業技術確立の一環として、さつまいも茎葉家畜飼料化のための効率的茎葉回収機の開発と簡易サイレージ化のための機械調製技術の確立について担当し、一応の成果が得られた。現在、実用化に向けた取り組みとして現地実証試験を継続中であり、これらについて紹介する。
 
「成果の内容」

(1)「さつまいも茎葉回収機の開発」と「簡易サイレージ化の調製技術の確立」
 さつまいも茎葉回収機の開発に当たっての構想は、徳島県の青果用さつまいもの茎葉引抜き用に開発された「つるまくり機」を、鹿児島県のでん粉・焼酎用品種や栽培法への適応性予備試験を行いさつまいも茎葉回収機開発の心臓部に採用している。
 開発機は、自走式乗用型で全長4.3メートル(以下m)、全幅1.6m、全高2.9m、質量1,740キログラム(以下kg)、エンジン出力18.4キロワット(25馬力)、ゴムクローラ走行部(履帯中心距離94センチメートル(以下cm))、渡りつる切断カッタ部(レシプロ型)、つる引抜き・搬送ゴムベルト(未引抜き株切断カッタ付き)、細断カッタ部(シリンダ型)、収納タンク(約400kg)などから構成されている。
 作業能率は、栽培作式、品種、茎葉量、時期により異なるが、鹿児島県の代表品種であるコガネセンガン・シロユタカを処理する場合、ほ場内回収とほ場外搬出を含めた作業時間は10a当たり1.1〜1.2時間程度で、茎葉の抜取り株率は99〜100%、茎葉回収率95%以上、塊根損傷発生率0.3%以下で高精度の茎葉回収が可能である(表15・16)。また、茎葉抜取りはいもの藷梗部から引きちぎられることから、その後の塊根収穫作業の高能率化にも貢献できると思われる。
 本機の性能を十分に発揮させるには、走行部の履帯中心距離が94cmであることや、畦間の渡りつる切断部およびつる引抜き機構などから見て、さつまいも栽培様式は畦幅90cm以上、畦裾幅45〜55cm程度が望ましいと考えられる。


表15 茎葉回収機の作業能率(10a 当たり)
注:有効作業効率=ほ場作業量/有効作業量(有効作業幅×作業速度平均値)

表16 茎葉回収機の作業精度


(2)「簡易サイレージ化のための調製技術の確立」
 細断型ロールベーラによる成型作業は、さつまいも茎葉の細断材料(切断長2.8±1.8cm)においても適応性が高く、またネットを巻くことで成型放出後のロール崩壊も無く実用性が実証された。その後のラッピングマシンを用いた梱包作業においても牧草作業と同程度の作業性が得られ、さつまいも茎葉を利用した飼料化の調製技術として市販機が適応可能であることが認められた。茎葉回収から調製作業までの作業時間は、ラッピング体系では2.3h/10a程度の作業が可能である(表17)。


表17 茎葉回収から調製までの作業時間(10a 当たり)

注)運搬用トラック2t,運搬距離1km,細断型ロ―ルベ―ラはギ酸混入装置付き
資料:鹿児島県農業開発総合センター大隈支場

(3)さつまいも農家茎葉の家畜飼料化としての評価
 委託プロジェクトにおいては、宮崎県畜産試験場において、また、その後、鹿児島県農業開発総合センター畜産試験場で、さつまいも茎葉を利用した家畜飼料化の研究が行われている
 さつまいも茎葉重(繁茂量)は品種や時期により異なり、コガネセンガン、シロユタカは8月が最大となり、11月は8月に比べ32〜37%の減少率である。シロサツマ、ダイチノユメは9月が最大で、11月は9月に比べ16〜23%の減少率である。これら生育後半の茎葉重減少は、茎葉成熟に伴う枯れ上がりと水分減少が大きな要因と考えられ、茎葉水分については時期別の調査データが無いが、繁茂最盛期の8〜9月で90%台、10〜11月はやや減少して80%台と推察される(表18)。

 この水分含量の高いさつまいも茎葉からの高品質のサイレージ製造に当たっては、水分調整材料や腐敗防止対策などの解決すべき課題が多いが、ギ酸・ビートパルプ・フスマ・稲ワラなどの材料を利用した製造技術の検討が行われ、有効に活用できる家畜飼料生産方法が明らかとなった。宮崎県畜産試験場においては、さつまいも茎葉にギ酸0.2%またはビートパルプを加えることで水分80%に調整することで発酵品質が改善され、可消化養分総量(TDN)は59.7%であることや、サイレージ化の検討では、細断型ロールベーラでの梱包やバンカーサイロへの貯蔵が可能であることなどが報告されている(表19)。鹿児島県畜産試験場においては、低コスト・高品質サイレージ化のための水分調整材料の種類や添加量、低コスト製造法などの検討が進められ実用化技術が開発されつつある(表20・21)。

表18 品種別・時期別茎葉重の推移(10a 当たり)
資料:鹿児島県農業開発総合センター大隈支場

表19 さつまいも茎葉サイレージの飼料組成など(単位:%)
注)さつまいもつる・ソルガム・イタリアン数値:日本標準飼料成分表(2001)
DM:乾物,CP:粗蛋白,CF:粗繊維,CA:灰分,TDN:可消化養分総量,
DCP:可消化粗蛋白
資料:宮崎県畜産試験場

表20 さつまいも茎葉サイレージの飼料成分など
注)細断茎葉ラップサイレジ,BP:ビートパルプ,CP:粗タンパク,
CF:粗繊維,CA:粗灰分,TDN:可消化養分総量
資料:鹿児島県畜産試験場

表21 水分調整材料の種類、添加量と経費試算
注)水分および単価については、大隅酪農協同組合資料。(その他は試算値)

(4)実用化の取り組みと今後の課題
 上記の成果をもとに、現在各種団体などが鹿児島県内2カ所で現地実証の取り組みを行っている。鹿児島県経済連プロジェクトチームの取り組みは、肝属地域のさつまいも生産地域と同団体経営の肥育センターを拠点として、さつまいも茎葉回収機1台(2名)、運搬トラック2台(2名)の体制で、半径約10km前後のほ場から材料確保を行い、飼料調製場でラップサイレージ化を行う体系で実施され、実用化に向けた課題整理が行われている(図11・12)。


(茎葉回収)
(トラックへの積み込み)
図11 現地における茎葉回収作業風景(茎葉回収)

(荷下ろし)
(フスマペレットを混合)
(細断型ロールベーラへ投入・成型)
(ロールベーラによる梱包)
(広場で発酵・熟成)
図12 現地における調製作業風景

 さつまいも茎葉回収機の現地適応性は、本機の適応畦形状(畦幅90cm以上、畦高さ20〜28cm、畦裾幅45〜55cm)に該当しないほ場が散見され、作業性能の低下要因となっている。また、ほ場形状が不整形な場所では形状なりの曲がり畦が作られ、マルチフィルムの破損要因となり、回収茎葉内にフィルム片の混入が一部見られた。これらについては、さつまいも茎葉回収機の改良対策も必要となるが、栽培面からの歩み寄りとして畦立法の統一化などによる対応策もあることから、畦立作業から一貫した作業の必要性を痛感した。また、今回の調査ほ場は、ほ場形状は茎葉回収機に適合しにくいもののほ場両端に約4mのさつまいもを作付けしない枕地(機械が旋回するスペース)を設けてあることから、さつまいも茎葉回収機の作業は効率的にできたが、通常の栽培は枕地に畦を作り、さつまいもを植え付けてあることから、このような状況への対応が課題として残されている。
 さつまいも茎葉回収機の効率利用や低コスト飼料生産を行うに当たり、茎葉回収作業時間を分析すると、ほ場外搬出のための移動や荷下ろしに約35%を要していることから、ほ場作業効率向上のための収納方式・タンク容量などの検討が必要と思われる。また、トラック2台による運搬体系は、さつまいも茎葉回収機を連続的に稼働させるには有効な手段であるが、運搬経費削減の上から、トラックを常時待機させない運搬形態としてフレコンバックへの荷下ろしなども有効な手段であると思われた。連続作業における機械の耐久性についても改善が施されている。
 現在、実用機製作に向けて各種団体、農業機械メーカー、鹿児島県農業開発総合センターなどによる協議・設計が進められており、平成22年に製品販売化を目指している。鹿児島県経済連の本年の取り組みは、前年同様肝属地域を中心に、本格的なプロジェクト事業が立ち上げられ、さつまいも栽培方法の改善、機械の性能評価、製造飼料評価などを行い、これに基づき耕畜連携による体制作りと導入、他地域への拡大が計画されている。
 さつまいも茎葉を利用した家畜飼料化においては、十分活用できることが実証されているが、大量生産に対応した低コストサイレージ製造技術として、製造方法(ラップ、スタック・バンカーなど)や、水分調整材料の種類、添加量などの早急な技術確立が待たれている。
 さつまいも茎葉回収機を中心とした家畜飼料生産体制を普及・定着させるために、今後、いろいろな角度から方策が検討されると思われるが、耕種農家が塊根生産を目的として栽培するさつまいも茎葉を、畜産農家が家畜飼料として利用する場合、当事者間だけでは解決できない問題が山積することから、地域の連携・調整機能を持つ第三者の作業受託組織や粗飼料生産組織などの参画を図り、地域集落営の循環型農業を確立していくための検討が必要である。


6.低コスト生産(経営安定化)に向けた機械化の推進

(1) 機械の能率・経費などから見た適正導入と効率利用

 (1)現在、鹿児島県の取り組みとして、農作業の効率化と労働負担の軽減を図りつつ、安全・安心な農畜産物の安定供給および農業の持続的発展などに資するため、農業機械化の推進に当たって、利用規模に見合った適正導入と利用の効率化を図る目的で「鹿児島県特定高性能農業機械導入計画」が策定されている。これに伴い鹿児島県畑作の基幹作物であるさつまいも栽培に必要な機械類についても修正が加えられ、適正導入の目安となる利用下限面積などの変更が種類・類別に行われた(表22・23)。これらさつまいも用主要作業機について、作業能率、作業期間などから「作業可能面積」「収穫機別収穫量」の試算結果を基に各機械の性能を検証した結果が表23・24である。


表22 さつまいも用特定高性能農業機械の種類と類別
資料:「鹿児島県特定高性能農業機械導入計画」から抜粋

表23 主な作業機の作業可能面積の試算
注)品目・用途:加工サ(サツマイモ),加工バ(バレイショ),○印:用途期間利用
作業可能面積:能率・期間等からの試算値,
利用下限面積:鹿児島県特定高性能農業機械導入計画の値,

表24 主な収穫機の収穫量の試算
注)反収:でん粉用単独2,800kg,でん粉・加工用組合せ2,600kg で試算


 (2)さつまいもの植え付け前作業の慣行作業は、土壌消毒、鎮圧、堆肥散布、施肥、耕うん、害虫防除剤散布、再度の耕うん、畦立マルチ作業などの多く作業工程が実施されているが、今後の低コスト生産への取り組みとして、鹿児島県で開発した「植え付け前作業一工程作業機(土壌消毒・施肥・施薬・畦立マルチ)」の利用性能を検証した。本開発機の利用下限面積は約6haであるが、でん粉・加工原料用さつまいもの作業期間(3月20日〜5月31日)に約30haが作業可能となる。利用下限面積の約5倍の面積を処理できることから、大規模栽培(30ha)では1台で対応が可能である。受託作業組織などにおいては受託作業面積などから導入台数を決定することが大事である。

 (3)慣行苗の植え付けに用いる「さつまいも挿苗機」の利用下限面積は約4haであるが、でん粉・加工原料用さつまいもの植え付け期間(4月1日〜5月31日)に約18haが作業可能となるが、1日当たりほ場作業量は32aと小さい。生産現場の動向として早期植え付け面積の拡大方向にあり、大規模栽培においては1日当たり1ha前後の植え付け希望が多い。小・中規模栽培の個別利用向けとして適応性が見られるが、大規模栽培や受託作業組織または共同利用機としてはやや能率が低い状況にある。

 (4)植え付け後の管理作業(病害虫防除、除草剤散布、中耕・除草・培土)は、でん粉原料用さつまいもの基幹作業に含まれない作業であるが、「乗用型多目的作業機(別名:乗用管理機(畑用))」が、さつまいも栽培では必要なことからその性能を検証した。主に水和剤による害虫防除が利用の中心となり利用下限面積は3.9haであるが、作業可能面積は約90haと高く、露地野菜・いも類で品目横断的に利用可能な高能率作業機である。

 (5)茎葉処理作業は、さつまいも掘り取りの前作業として必要不可欠で、地上部茎葉を細断してほ場散布するトラクタ用と自走式(専用機)のさつまいも茎葉処理機がある。両者の利用下限面積はそれぞれ1.7ha、2.4ha程度である。作業可能面積は、でん粉・加工原料用さつまいもの収穫作業期間(8月20日〜11月30日)に40ha前後で、ポテトハーベスタの1日当たり収穫面積と同等以上の処理面積を持つことから、収穫作業体系上大きな問題はない。また、本作業機はばれいしょや葉菜類の茎葉処理作業に汎用利用が可能であるが、価格が比較的低価格であることから、さつまいも専用で利用してもコストに大きな影響を及ぼすものではない。

 (6)さつまいも栽培で、栽培面積や受委託作業・共同作業などに大きな影響を及ぼすものは掘り取り作業である。「品目別経営安定対策における対象生産者要件の運用改善」の収穫作業を委託する場合の取り扱いとして、ポテトハーベスタが普及するまでの当面の間、掘り起こし作業のみの委託も対象とされることから、トラクタ用掘取機とポテトハーベスタについて性能を検証した。
 トラクタ用掘取機は、さつまいもの掘り取りだけを行う機械で、その後、いも調製・袋詰めなどの作業が必要である。本機の利用下限面積は1.2ha、作業可能面積はでん粉用単独利用(利用時期:10月1日〜11月30日)の場合35.4ha、焼酎用との組み合わせ利用(利用期間8月20日〜11月30日)の場合51.3haである。受託作業組織においては受託作業量から装備台数を決定し、導入に当たっては集積機構を持つ掘取機が委託者の労働負担軽減を図る上から望ましい。
 でん粉・加工原料用さつまいもの掘り取りに使用されるポテトハーベスタは、大型(自走式・けん引式)、小型(自走式)に分類され、さつまいもの用途別収穫作業により利用下限面積および作業可能面積は異なる。大型自走式のでん粉用単独利用(収穫期間:10月1日〜11月30日)における利用下限面積は約30haで、作業可能面積約25haを上回ることから適正導入や効率利用と言える状況にない。焼酎用と組み合わせ利用(収穫期間:8月25日〜11月30日)では、利用下限面積28ha、作業可能面積35haとなり導入効果が期待でき、さらに、加工用ばれいしょを組み合わせることで利用下限面積を作業可能面積が大幅に上回ることから、高額な機械を導入する組織は安定した経営が確保されることになる。
 大型けん引式ポテトハーベスタは、価格が自走式に比べ1/2程度と安く、またけん引するトラクタは非収穫期間に他作業へ汎用利用が可能であることから、でん粉用単独利用でも利用下限面積は11haと小さい。作業可能面積は大型自走式に比べやや少ないが、経済負担が小さく導入効果の高い機械である。
 大型収穫機はばれいしょなどを含めた品目横断的な作業受託で作業面積を確保し、これら作業受託面積から導入・稼働台数を決定し効率利用を図ることが組織の経営安定やさつまいも生産の低コスト化に寄与できると思われる。
 小型自走式ポテトハーベスタは、でん粉・焼酎用などに利用するさつまいも専用機で、価格は大型自走式収穫機の1/2以下であることから、利用下限面積はでん粉用単独利用でも10ha程度と小さい。作業可能面積はでん粉単独利用約20ha、焼酎用との組み合わせ利用約27haで、中・大規模(10〜30ha)向けに最適な収穫機械である。
 大規模生産者や受託作業組織などにおいては、大型に比べ価格が安いことから複数台導入も一方策と考えられる。

 (7)機械化作業体系におけるモデル経営(栽培面積など)構築の基本は、各作業(たい肥散布・耕うん・畦立マルチ・植え付け・防除・収穫作業)に使用する機械類の中で、作業可能面積の少ないものが制限要因となる。表23に示すとおり、最も期間作業量の少ないさつまいも挿苗機を組み合わせた栽培可能面積は20ha弱となる。1台の作業能率から見て他作業機とのバランスがとれない現状であるが、生産現場の短期間に多くの面積を植え付ける方向や大規模化に対応するには複数台の導入が必要であり、30〜40haの栽培規模には、オペレーターの存在を前提に2〜3台の導入が望ましいと思われる。しかし、大規模栽培農家の現状は、機械は使用せず大量雇用で植え付けが実施されている状況にある。
 挿苗機を除いた機械化作業体系の中で、栽培面積決定に大きく影響する作業機はポテトハーベスタである。収穫期間(8月20日から11月30日)の作業可能面積は大型自走式35ha、大型けん引式30ha、小型自走式27haであり、適正な栽培面積は大型機利用で約30〜35ha、小型機利用で30ha弱となる。利用下限面積はこれを下回ることから十分採算ベースに乗る経営面積と考えられる。経営モデル策定に当たっては、ポテトハーベスタの1日当たり作業量、期間作業量などを重視することが必要である。
 さつまいも栽培の中で、新たな作業体系として茎葉家畜飼料化のための茎葉回収機の導入利用が進められつつあるが、これの利用方式によってはさつまいも栽培農家の従来作業(茎葉細断)が不要となり、新たな作業体系が構築されるとともに耕種部門においては収穫作業体系の簡略化が図られ、更なる省力・低コスト化が進む状況にある。
 家畜飼料化はでん粉原料用さつまいもを中心にした取り組みが計画されているが、でん粉原料用さつまいも栽培農家は作付け・管理まで人力で行い、以降の収穫作業に伴う茎葉回収・掘り取り作業は委託作業で行う体系が構築されやすくなることから、でん粉原料用さつまいも栽培面積・規模拡大効果や担い手育成につながることが期待される。


(2) 機械の大きさおよびほ場整備などの現状と適正導入・効率利用法

 さつまいも栽培用機械のうち、ほ場形状が影響して効率利用の妨げとなるものは、機体全長が最も長い収穫用のポテトハーベスタである。この機体寸法とほ場整備などの現状から効率利用のための検討を行った(表25)。


表25 主要な収穫機の機体寸法など

 ほ場内で使用する機械類のほ場作業効率を高めるには、長辺方向が長く1筆当たりの旋回回数などを少なくすることが基本となる。機体の長い収穫機は旋回性が悪く旋回に時間を要することがほ場作業効率低下の要因となっている。
 導入・利用の多いポテトハーベスタの機体全長は、大型自走式5.7m、大型けん引式10.2m(トラクタけん引時)、小型自走式5.1mで、自走式が旋回性に優れることがわかる。旋回スペースの枕地は自走式5〜6m、けん引式8〜10mが必要であるが、空き地にするか、枕地畦を作りさつまいもを植え付けて確保する必要がある。基盤整備ほ場の長辺は70〜100mであることから、枕地を空き地にするとほ場利用率が低下し収量減につながることから、枕地畦を作るケースが一般的である。この様な状態の中で機種毎の1筆ほ場面積は、小型自走式20a(10m×100m)以上、大型自走式30a以上(2畦またぎの走行部であるため)、大型けん引式40〜50a以上のほ場利用が望ましい。大規模農業生産法人などの借地を含めたほ場集積状況は平均面積30〜40aであるが、小区画ほ場(10〜20a)が20〜30%を占めている。大型形状への基盤整備はすぐできる状況にないことから、機体寸法(機種)の異なる組合せ導入も検討する余地がある。特に、作業受託組織では要検討事項と思われる。


7.今後の課題

 (1) 畑作地域のほ場整備(区画20a以上)率は60〜70%と進捗しているが、未整備ほ場や大型機械効率に不向きな小区画ほ場も多い。農家人力による畦畔取り外しなどによる大区画への改善努力が実施されているが限度がある。耕作放棄地のさつまいも生産ほ場への復元化などと合わせた支援が望まれる。

 (2) 生産コストに占める種苗費は約30,000円(3,000本×10円/本)と高く、ウイルスフリー苗の低コスト増殖技術や、早期植え付けに対応した大量種苗の生産組織や供給体制の確立が望まれている。鹿児島県で研究開発している省力育苗採苗システムの早期開発が期待される。

 (3) 農作業受託組織の所有機械類(特に作業受託の多いポテトハーベスタ)が耐用年数を大幅に超過して使用され、多額の修理費を必要とすることから経営を圧迫している。また、故障などにより受託面積がカバーできないことも受託面積減少の要因となっている。高額機械の再導入に対する支援が望まれる。

 (4) 一時の原油高騰の影響から生産資材(肥料、農薬、マルチフィルムなど)の価格が上昇し、農家経営に及ぼす影響は大きい。鹿児島県で開発した植え付け前作業一工程機の利用で、畦内局所施肥・施薬が可能となり、大幅な資材費削減と作業行程簡略化による規模拡大効果が大きいことから、早急な機械装備や導入を図り低コスト生産を推進して頂きたい。

 (5) 契約栽培によるさつまいも生産が増加傾向にあり、期限付き大量収穫が必要となる ケースも多い。ほ場区画などに適応しづらい大型収穫機であることなどが要因で、計画出荷量が収穫できないなどの問題が提起されている。ほ場の大区画化も必要であるが、現状のほ場に適応した機体寸法で高能率収穫機の開発要望もある。これは、受託作業料金の引き下げによる生産者の経営安定化や受託組織の経営安定につながることから、大きな技術開発課題である。

 (6) さつまいも茎葉の家畜飼料化に向けて、茎葉回収機や飼料化技術が開発されている。この茎葉回収機を利用した新収穫作業体系や耕畜連携による作業受委託作業を構築することで、さつまいも栽培の規模拡大などの効果が期待できることから、早急な実用化が望まれる。

 (7) 生産コスト削減は、機械化による省力低コスト化だけでなく、高収量・高品質いも生産が基本となる。これらにかかわる機械装備(たい肥散布、耕土改良、排水対策)を充実することも重要である。

 (8) さつまいも栽培の規模別農家数は、平成19年現在で0.5ha未満が約60%を占め、依然として小規模経営農家が多い。これら農家は、基幹作業の委託や共同利用による作業推進が重要となり、委託作業内容は農家個々の経営状況・機械装備などから判断して決定することになる。重労働を強いられ一番大変な作業項目を委託に出し、残された作業は農家が意欲を持って生産活動に参加することが、所得確保を図る上で大事なことであり、また、生産量の確保、夏場の土地利用、でん粉工場の経営安定化を図る上からも必要なことである。


8.おわりに

 さつまいも栽培の機械化は、ほ場内作業の中で最も多くの労力を必要とし、重労働であった収穫作業を中心に機械開発が進められ、省力・軽作業化技術の飛躍的な進歩などで作業可能面積が拡大し大規模経営が可能な状況にある。
 今後、更なる省力・低コスト化により規模拡大や経営の安定を図る方策として、経営規模やほ場環境に適した導入機械・台数の決定や、今回紹介した新開発技術などの活用が必要であるが、品目横断やさつまいもの用途利用拡大による効率利用化を図り、低コスト化を推進することも重要である。また、受託作業組織などにおいては、これらに留意して組織の経営安定を図ることが最も重要であり、さらに受託作業料金設定が農家経営の安定や、さつまいも栽培の維持・拡大にも影響することから、受託者、委託者双方が満足する受委託作業体制確立を目指して頂きたい。
 最後に、今回の調査ではさつまいも生産の維持・拡大に向けて、また生産現場の生産性向上のための課題を提起したが、生産現場では解決できない課題も多いことから、今後の行政施策・支援の一方策の参考に資することや、試験研究の技術開発課題として早急に検討されることを期待したい。


9.謝辞

 今回、独立行政法人農畜産業振興機構の委託調査に当たり、ご協力を頂いた鹿児島県経済連、薩摩酒造(株)、アグリン鹿屋、(株)ハヤシ、有田農産(有)、JA南さつま知覧支所さつまいも育苗センター、JA南さつま育苗センター、鹿児島県農業開発総合センター畜産試験場、同農産物加工研究指導センターにこの場を借りてお礼申し上げます。

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713