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ばれいしょでん粉工場での固有用途向けに対する取り組み事例

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最終更新日:2010年3月6日

ばれいしょでん粉工場での固有用途向けに対する取り組み事例
〜特徴あるでん粉で差別化を図る〜

[2009年11月]

【調査・報告】

札幌事務所 所長補佐 北村 徹弥
調査情報部調査課 係長 前田 昌宏


 国内産ばれいしょでん粉については、現在、約4割が糖化製品用として使用されているが、地域ごとの実情に応じて、糖化製品用から他用途への転換が求められている。また、国内産かんしょでん粉についても、その約3/4が糖化製品用に仕向けられており、用途の拡大が必要となっている。でん粉価格調整制度の下で、用途の拡大は国内産いもでん粉にとって共通の課題となっているところである。

 そこで、本稿では、北海道上川地域の士別市に所在する株式会社カワハラデンプンと株式会社丸三美田実郎商店のそれぞれで、固有用途向けとして製造されている特徴あるばれいしょでん粉について紹介する。


1.士別市の概要

 士別市は、北海道北部の中央部に位置し、札幌市からは北へ約200キロ、旭川市からは北へ約60キロ、北海道最北部の稚内市からは南へ約200キロの距離にある。

 士別市の平成18年の農業産出額は、117億8000万円で、北海道全体の1.12%を占めている。内訳では耕種部門が76億2000万円で士別市の64.7%を占めており、このうちばれいしょを含むいも類は同3.40%となっている。

 士別市を含む上川地域の平成19年の畑作物の作付面積を見ると、小麦が最も多く1万1300ヘクタール、次いで豆類の9237ヘクタール、そばが5184ヘクタール、てん菜が4495ヘクタール、ばれいしょが3670ヘクタールと続いている(図2)


図1 カワハラデンプンと丸三美田実郎商店の所在地

表1 平成18年の農業産出額
(単位:億円、%)
出典:農林水産省「生産農業所得統計」

出典:北海道上川支庁
図2 上川地域の主要畑作物の作付面積(平成19年)

 上川地域では、3つのばれいしょでん粉工場が稼働している。その内訳は、本稿で紹介する商系の株式会社カワハラデンプンおよび株式会社丸三美田実郎商店と、上川郡剣淵町に所在する農協系の上川北部農協合理化でん粉工場である。

 なお、図3には、一般的な製粉ばれいしょでん粉の製造工程を示している。本稿中でのでん粉の製造方法に関する記述の際に、参考にしていただきたい。


出典:「澱粉科学の事典」朝倉書店
図3 一般的なばれいしょでん粉の製造工程

2.カワハラデンプンの事例
〜昔ながらの「未粉でん粉」〜


(1) 工場の概要

 カワハラデンプンは、士別市南町の国道40号線沿いに所在する大正5年創業のでん粉工場である。創業当時は道内に3カ所(士別市、名寄市、栗山町)の工場を所有していたが、昭和61年に栗山工場を閉鎖し、平成8年には、名寄市の工場も閉鎖して現在の場所に集約した。

 原料ばれいしょの処理能力は1日当たり約90トン、操業期間は春秋の年2回で、春は4月末から6月中旬まで、秋は8月末から11月末までとなっている。通常の操業時間は、朝5時から午後6時までであるが、年間30日程ある繁忙期には24時間操業を行っている。原料ばれいしょの集荷範囲は、上川、空知地区が主となっており、約1000戸の生産者が出荷している。原料の処理量は、春が約3000トン、秋が約7500トンの年間計約1万500トンとなっており、約2000トンのでん粉を製造している。なお、製造に使用する水は全量地下水で賄っている。


(2) 製品の特徴
 〜「さらし」工程による高品質化〜

 カワハラデンプンにおけるでん粉製造の最大の特徴は、「さらし」と呼ばれる工程にある。「さらし」とは「精製・濃縮」に含まれる工程で、でん粉乳を水で洗浄することであり、これを1回4時間で3回行っている。こうして洗浄されたでん粉乳を、静かに沈殿させ、下に溜まった比重の重いでん粉乳だけを取り出している。これにより歩留りが通常よりやや落ちるものの、不純物が取り除かれた純度が高いものとなる。


図4 さらし工程

 このように「さらし」工程を経たでん粉乳は、約9割が一般的な脱水、乾燥工程を経て精製でん粉となるが、残り1割は、未粉でん粉と呼ばれるでん粉向けに使用される。

 未粉でん粉とは、脱水後、一般的な乾燥機による短時間での乾燥(乾燥温度約150度)ではなく、低温(56〜57度)で3時間ほど乾燥し、その後、さらに一昼夜自然乾燥して製造するでん粉である(図5、6、7)。こうした乾燥方法により、でん粉の粒子が崩壊することなく大きいままであるため、とろみ付けに使用すればこしが強く、またから揚げの衣に使用した際にはサクサクとした食感が楽しめるという特徴を持つ。


図5 未粉でん粉の乾燥機
図6 未粉でん粉の乾燥の様子

図7 自然乾燥される未粉でん粉
図8 目視による未粉でん粉の不純物除去工程

 未粉でん粉の製造コスト面をみると、精製でん粉と比較して人件費や製造に要する時間が多くかかることから、高くなってしまうことは避けられない。乾燥工程においては、乾燥温度が60度を越えるとでん粉が糊化してしまうため、温度管理に注意を払う必要があり、かつその日の天候に合わせて乾燥時間を調節することも必要となってくる。また、乾燥後の不純物などを取り除く工程においては、未粉でん粉の細粒化を避けるためにシフター(粉ふるい機)が使用できないため、目視によって行われていることもコストがかかる要因として挙げられる(図8)。このため、販売価格もそれ相応のものとならざるを得ない。

 しかしながら、その品質の高さから評価を得ており、取引先からの引き合いは強いものとなっている。需要に応えるため、平成20年には不純物除去のラインを一つ増加した。

 なお、精製でん粉の出荷単位は、5キログラム、10キログラム、25キログラム、未粉でん粉の出荷単位は、300グラム、800グラム、5キログラム、10キログラム、25キログラムとなっている。

 カワハラデンプンの代表者である秋山氏に、こうした昔ながらの製法にこだわってでん粉を製造し続けていることについて伺ったところ、良い品質のでん粉を後世まで残していきたい、という気持ちからであると話してくれた。加えてもうひとつの理由として、精製でん粉の分野では、大規模な合理化工場と比較してどうしても製造コスト面で不利であることから、カワハラデンプンならではのでん粉を製造していくことが必要であるとのことであった。

 このほかにも、無農薬じゃがいも由来のでん粉製造の受託や、有機JASの取得(平成19年)など、高品質なでん粉生産のための取り組みを意欲的に進めている。


(3) 課題

 しかしながら、カワハラデンプンのでん粉製造方法は、大量生産に向いているものではないため、製造規模の拡大を図ろうとした場合、多くのコストがかかってしまうという課題がある。このため、現在は、既存の取引先に安定的に供給することを最優先にして対応している。取材を行った9月初旬の時点では、秋の原料ばれいしょについて、日照不足や多雨により、例年と比較して非常にライマン価(でん粉含有率)が低く、今後の作柄はまだ不明だが製造量に多少の不安があるという。


3.丸三美田実郎商店の事例
〜ありそうでなかった顆粒状でん粉「とろみちゃん」〜


(1) 工場の概要

 株式会社丸三美田実郎商店は、士別市上士別町に所在し、昭和29年からばれいしょでん粉を製造している。でん粉製造のほかに農薬、肥料などの販売や米の卸売も行っている。

 現在、丸三美田実郎商店で製造しているでん粉は、全量が後述する顆粒状のでん粉である。操業期間は、9/1〜10/20ごろまでの約50日間となっている。期間中の原料ばれいしょの処理量は約1000トンで、その集荷範囲は地元である士別と、そのほかに美瑛、上富良野である。一日当たり約3トン、年間約150トンの顆粒状でん粉を製造している。


(2) 製品の特徴

 〜顆粒状でん粉〜

 丸三美田実郎商店では、昭和50年に工場を合理化でん粉工場にして、ほかの工場と同じように精製でん粉を製造していた。しかしながら、大規模工場と比較すれば製造コスト面などで不利な状況であることは変わらず、付加価値がつけられないか検討していた。

 そこで主婦層に対して、片栗粉(でん粉)に対する意見を聞きとりしていたところ、調理中のとろみ付けに当たって、「だまができやすい」、「水溶きが手間である」といった内容が多くを占めた。このことにヒントを得て、ふりかけタイプの片栗粉、すなわち顆粒状のでん粉が製造できないかという思いに至った。通常の片栗粉の粒子は20〜30ミクロンであるため、粒子が固まっていると周囲のみが溶け「だま」になることがあり、水溶きが必要となるが、顆粒状のでん粉であれば、粒子が大きいため、粒子が固まることもなく水溶きが不要になるのではないかと考えたのである。


図9 振動造粒機
図10 顆粒状となったでん粉(乾燥前)

図11 乾燥機
図12 顆粒状でん粉の粒子(拡大図)

 そこで、平成3年、原料はでん粉100%のまま顆粒状のでん粉を製造する方法の開発について、上川にある北海道立工業試験場に協力を依頼した。でん粉100%にこだわったのは、離乳食や介護食にも利用しやすいようにと考えてのことであった。それから2年を要し、平成5年に振動造粒法で顆粒でん粉を製造する方法を開発した。この方法は、「脱水」工程までは通常の精製でん粉と同様であるが、その後に「整形」、「整粒」の工程がある。これらの工程で、脱水されたでん粉を振動させることによってでん粉を顆粒状にするのである。また、乾燥機についても、顆粒を壊さないよう、熱風でじっくりと水分を飛ばしながら乾燥させる特注のものを使用している。こういった製造過程は未粉でん粉にヒントを得ており、同様にシフターは使用できないため、目視にて検品を行っている。


出典:株式会社丸三美田実郎商店提供
図13 通常のでん粉の粒子(拡大図)

 併せて、容器についても研究を行った。従来のポリエチレンの袋では、持ち運びや使用の際に顆粒が壊れてしまうため、ペットボトルタイプの容器を採用することとし、その形状と適量が出るような振り出し口の穴の大きさについて試行錯誤を繰り返した。こうして、できた顆粒状でん粉を「とろみちゃん」の商品名で平成6年から製造・販売を開始した。なお、この顆粒状でん粉の製造方法については、平成8年に特許を取得した。

図14 顆粒状片栗粉(商品名:とろみちゃん、200グラム入り)

 とろみちゃんについては、丸三美田実郎商店で製造から販売まで一貫して行っている。販売先は、東京、関西といった本州向けがほとんどである。また、使い勝手の良さから、業務用として外食産業にも一部出荷している。

 TVコマーシャルなどによる宣伝は予算の面から行っていないが、口コミや育児雑誌などで取り上げられるなどして徐々にその知名度は向上してきた。平成9年にはそのアイデアが認められ、農林水産大臣賞を受賞している。


(3) 今後の課題 

 課題は、流通コストである。特に少量の注文については、宅配便を使用するため、輸送コストが大きくなり、これをいかに下げていくかが今後の課題となっている。また、目視による検品など、今後の機械化の可否についてコスト面からも検討しているところである。


4.おわりに

 今回紹介した事例については、カワハラデンプンが「昔ながらの方法で高品質なでん粉」、丸三美田実郎商店が「新しい発想で利便性に長けた新商品」と、でん粉製造業者としてそれぞれ工夫を凝らし、特徴あるでん粉を製造していた。こういった取り組みに敬意を表すとともに、本稿が国内産いもでん粉の今後の用途拡大に向けた取り組みの参考となれば幸いである。

 最後になるが、お忙しいなかご協力いただいた株式会社カワハラデンプン代表取締役社長の秋山氏と株式会社丸三美田実郎商店代表取締役社長の太田氏に感謝申し上げたい。


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