ホーム > でん粉 > 調査報告 > さとうきび・でん粉原料用かんしょ作における協業組織化の条件と可能性
最終更新日:2010年3月6日
でん粉情報 |
[2010年01月]
【調査・報告】〜平成21年度共同調査〜
調査情報部
平成19年から始まったさとうきび・でん粉原料用かんしょの品目別経営安定対策の実施の目的の一つは、これらの品目の担い手の育成および生産の効率化である。他方で、農家の高齢化が進む地域のさとうきび・でん粉原料用かんしょ作を、今後誰が担い、地域の農地を誰が守っていくのかということも将来的な課題となっている。当機構では、こうした課題に対する取り組みの一つとして考えられる協業組織化の条件と可能性について、鹿児島大学農学部坂井准教授とともに共同調査を実施した。
品目別経営安定対策において、さとうきび・でん粉原料用かんしょの生産者が従来と同水準の収入を得るには、交付金の交付を受ける必要があるが、交付の対象となる要件の一つに協業組織がある。詳細は後述するが、協業組織として認められるためには規模要件に加え、組織として営農活動が行われていることなどが必要になる。しかし、これまでのところ両作物においてこの協業組織としての要件を満たす組織はない。
そのため、本稿では、協業組織化を進める上での参考という観点から、農業機械の共同利用を発端として協業組織化を目指す種子島のさとうきび生産組合と、鹿児島県本土において稲作の協業組織から法人化し、かんしょの生産も行っている農事組合法人の事例を取り上げて検討を行う。
まず種子島において協業組織化を目指している組織を取り上げるが、その前に種子島の農業の状況について概観しよう。2005年農林業センサスによれば、種子島の総農家戸数は4,323戸、1戸当たりの経営耕地面積205アールである。畑地のほ場整備率は約5割、かんがい整備率は約2割となっている。
表1
種子島農業の概要(平成19年度)
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資料:平成19年度鹿児島県熊毛支庁・熊毛地域農政企画推進会議「熊毛地域農業の概要」
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注:肉用牛の項の作付面積は、飼料作物である。
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島全体の農業産出額は152億円(平成19年度)、うち、さとうきびが38億円、肉用牛が約31億円、かんしょ20億円、水稲11億円の順である(表1)。作付面積では総作付面積8,500ヘクタールのうち、さとうきびが2,400ヘクタール、かんしょが2,200ヘクタール、飼料作物が1,700ヘクタール、水稲、1,100ヘクタールとなっている。さとうきび、かんしょ、肉用牛、水稲の4作目で島全体の生産額ベースの約7割、面積ベースでは9割と大部分を占めている。なお、かんしょの77%はでん粉原料用であり、島内には4社のでん粉工場が操業する。
種子島のさとうきび生産量は、近年16〜19万トン前後で推移している。南西諸島の多くの島がこの20年前後で大きく生産量を減らしている中で、種子島では平成元年の約20万トンからそれほど生産量を落としていないことは特徴的である。
島のさとうきび農家戸数は、平成元年の4,715戸から平成19年には2,573戸とほぼ半減している一方で、さとうきび農家1戸当たりの収穫面積は、平成元年の69アールから19年には93アールまでに拡大している。
同島のさとうきびの作型は、夏植えは少なく、春植え・株出し体系のもとで、株出しが2、3回行われるのが普通であり、さとうきびの更新後はかんしょとの輪作が行われることが多い。
種子島では、現在ハーベスタによる収穫率は約6割である。平成19年度に島内で稼働したハーベスタは84台であり、その内訳は農業公社などの第3セクターが管理するものが14台、機械利用組合によるものが52台、農家個人や農業生産法人によるものが18台という状況である。なお、この5年間のハーベスタによる収穫面積は、安定的に推移している。
同島では、さとうきびの収穫の受委託は、基本的に農業公社が窓口になり、農業公社自らが行うとともに他の受託者へも再委託を行っている。また、ハーベスタで収穫する場合、製糖工場は精脱葉処理後の原料を受け入れることになっている。
今回調査した種子島南種子町西之町の「西之町さとうきび生産組合」(以下、「西之町生産組合」という)は、現在、品目別経営安定対策の制度上は、「機械の共同利用組織」という整理になっているが、協業組織化に意欲を持っている。以下、その組織の設立の経緯、実態および協業化への課題などについて述べたい。
南種子町では、平成6〜13年に西之町生産組合を含む10組織がハーベスタを導入し、種子島農業公社から委託されてさとうきびの収穫作業を行っていた。これらの組織が共同で平成14年に精脱葉施設を補助事業で導入し、利用する運びとなった。
西之町生産組合は、平成13年に農家3人が集まり補助事業でハーベスタを導入することによって設立した。設立当初は、計10ヘクタールの組合員のほ場を収穫し、農業公社から10ヘクタール程度の収穫作業を請け負っていた。
しかしながら、雨の日が続くと精脱葉施設の利用が予定より遅れるなどのこともあり、平成18年には精脱葉組合から脱退し、独自に精脱葉施設を建設した。これに伴い農業公社から収穫作業を請け負うこともやめた。
当時、3人の組合員としては、①地域に遊休地がほとんどなく、かつ借地による規模拡大が大きく進展する見込みがない中で、安定的にハーベスタの収穫量を確保したい②借地によって規模拡大が進んでも3人だけではさとうきびの管理作業が十分に行えない―という判断から、新たに組合員を増やすことにした。
この時に新規加入したのは高齢農家と兼業農家であり、さとうきび専作農家もいれば、複合経営農家もいる。現在の組合員12名のほとんどはこの時に加入した農家である。居住地は必ずしも同集落ではなく、近隣の集落に点在している。組合員全員のさとうきび栽培面積をあわせると21ヘクタールになる。
高齢農家の多くは後継者がおらず、将来的には西之町生産組合による農地の管理を望んでいるが、体が動くうちは何らかの農作業を行いたいという意向が組合の方針とも合致した。また、これまでの農業公社によるハーベスタ収穫は、広範囲をできるだけ移動ロスがないよう行われるため、更新する予定の畑を早く収穫し、新植する予定の畑は遅く収穫したいなどの要望が常に通るわけではなかったが、組合に加入することで収穫時期の意向を聞いてもらえるのでは、という期待も新規加入の組合員の間にはあった。
西之町生産組合では、小型ハーベスタ、トラクタ(深土破砕、株出し管理、植付け)、精脱葉施設を共同利用し、それぞれの作業の料金とオペレータが決まっている。組合員のほ場のさとうきびの基幹作業(「植付け」「耕起・整地」「株出し管理」「収穫」の各作業をいう)は、ほぼ組合で実施している。
機械を導入する際の費用負担は、各組合員で平等となっている。ただし既に導入されていたハーベスタについては、後から加入した組合員の負担金はなく、今後更新する場合のみ負担することになっている。
作業料金は、町内で統一されている。ハーベスタ収穫料金は1トン当たり4,000円、精脱葉料金は1トン当たり2,300円である。
高齢・兼業の組合員が行う作業は精脱葉施設の作業補助、ハーベスタ収穫の補助、除草などである。組合ではオペレータ賃金もこれらの補助作業も時給860円で統一されている。ただし補助作業が作業員本人のほ場で行われる場合、賃金は支払われない。
西之町生産組合では、組合名義で原料の一元出荷を行う協業組織化を目指しているところである。しかしながら、現時点では、どの組合員のほ場から出荷された原料であるかを組合で把握するものの、農家によってほ場条件、栽培技術や管理の違いがあるため、各組合員が栽培したさとうきびの原料代は各人の収入になる形になっている。原料を組合として出荷し、地代や労賃という形で組合員に収益を分配するという本来的な意味での協業の形にはなっていないため、西之町生産組合は、品目別経営安定対策上「共同利用組織」という整理になっており、各組合員は「共同利用組織の構成員」という要件区分で交付金対象となっている。
資材の購入については、肥料、農薬はこれまで各自で支払っていたが、平成22年度からは各農家の注文を組合がとりまとめ、支払いも組合で行う予定である。この場合についても肥料や農薬の利用量は各農家の栽培方法によって異なっているが、栽培技術を組合で統一するところまでは行わない。
なお、現在は法人格がないため組合の経営地はない。地域に遊休地がある場合は、組合員が個人で引き受ける形をとっている。法人化はこれからの課題である。組合の会計処理は組合長の妻と娘が担当し、役場職員である組合長の娘婿がサポートしている。会計の問題は組合を維持するための最も重要なことの一つと組合では考えている。
組合を設立し、かつ組合員を増員したことのメリットとして、当初の組合員にとっては安定的なハーベスタの稼働率を確保できたことがあげられる。他方、後から加入した兼業、高齢の組合員にとっては基幹作業を委託することで、さとうきびの面積拡大が可能になり、複合経営農家ではさとうきび以外の園芸や水田などへ労力を割くことができるようになったことがある。また、ハーベスタの収穫時期などに関して意向が反映されるということもメリットの一つである。
西之町生産組合は、農業公社からさとうきびの収穫を受託していない共同利用組織であるため、収穫原料の工場へ搬入の割り当ては各組合員の個人単位になされている。この場合、収穫期の割当量が日毎に大きく変動する。そのため、組合のハーベスタの稼働が非効率になるとともに、予定積載量から大きく変更が生じるなど原料輸送面での問題も多発した。協業組織ならば、毎日一定の収穫量が組織すなわち組合に対して割り当てられるので、計画的な収穫が可能になる。このことが、協業組織化を目指す大きな理由の一つである。
さとうきびの経営安定対策における協業組織とは、以下の全てを満たす組織である。①4.5ヘクタール以上の収穫面積を有する②組織の規約が作成されている③事業計画及び収支予算が作成され、計画に従って組織として営農活動(さとうきびの生産・販売)が行われている④基幹作業に係るオペレータが定められている⑤農業共済に加入する場合は組織名義で加入する。
以上のうち、西之町生産組合では③以外は既に満たしているか、満たすことがほぼ可能な状況にある。③の中でも難しいのは「組織として営農活動が行われている」(以下、「経理の一元化」という)という点である。組織名義による出荷であっても、実質的には組合員が個別に作った原料をそれぞれ出荷する形である場合は、協業組織としては認められない。協業組織化のためには経理の一元化が大きな課題となっている。
組合長(男性、50代前半)
元建設会社社長で会社経営は現在息子に譲っている。農業経営の内容は、でん粉原料用かんしょ2ヘクタール、さとうきび6.5ヘクタール、水田9アール、肉用牛(母牛)30頭である。でん粉原料用かんしょの収穫後には、デントコーンを作付けしている。肉用牛の飼養は、会社経営を息子に譲った後に始めており、牛の飼料にはC組合員の水田の稲わらも利用している。精脱葉施設から出るはかま類は牛舎の敷き料にした後、たい肥化している。なお、たい肥は自分の畑に散布するだけでなく、近所の農家にも販売している。
A組合員(女性、60歳代後半)
さとうきびのみ4.5アール経営。自分では機械作業ができないため、4年前に組合に加入した。自分のほ場の作業は、除草と追肥のみを行い、あとは組合に任せている。組合での仕事は、精脱葉の選別、ハーベスタ収穫の補助、植付け、種切、梢頭部のカット作業である。これらの作業は他の組合員の畑でも行う。その場合は作業日報をつけ、組合に申告している。
B組合員(男性、50歳代後半)
設立当初からの組合員である。農業経営は、安納いも10アール、でん粉原料用かんしょ1ヘクタール、加工用かんしょ10アール。加入時のさとうきびの経営面積は2ヘクタールほどであったが、公職(議員)が忙しく、現在は35アールまで減らし、収穫作業も全て組合に委託している。残りの畑は組合長に貸している。就労時間のうち4割は農業(残りは議員)であり、妻も農業を補助している。現在は全く組合の作業はしていないので、心苦しいと感じている。将来は、組合でさとうきびの一元出荷ができれば良いと考えているが、そうなった場合、各組合員の技術に差があると不公平感が生じるので、今後の課題として技術の平準化をあげている。
C組合員(男性、50歳代前半)
元々は組合長の建設会社で仕事をしていたが、今年から組合に新規加入した。精脱葉施設の責任者である。家族の中で農業には本人1人が従事し、農業専業である。4年前に島にUターンして、その当初はかんしょを生産していた。現在の農業経営の内容は、さとうきび4.5アール、安納いも1アール、水田2.3ヘクタールである。安納いもと水田は自分の経営内で作業を完結させている。さとうきびについては、植付け、収穫を組合で行い、自分では施肥、除草を行っている。水田の機械を一式所有しているため、組合員の水田の作業も受託している。これは組合とは全く別の仕事である。
南九州では、農業生産の組織化の動きが弱いとされる。そのような中で、水田転作作物の栽培と機械の共同利用組織を経て、農業生産法人を設立した鹿児島県南九州市(旧川辺町)古殿地区(古殿上および古殿下の両集落)の農事組合法人どんどんファーム古殿(以下、「どんどんファーム」という)の事例を検討することで、さとうきび・でん粉原料用かんしょ作における協業組織化の手がかりとしたい。
古殿地区では昭和59〜60年にかけて基盤整備事業を行ったが、当時から地域内に農業の担い手は少なく、他地域からの入り作が多かった。入り作農家による水田の管理は必ずしも満足のいく状況ではなく、何とかしなければという思いが地域の農家の間で強くなり、平成4年から地域で話し合いをはじめた。平成7年から生産調整の休耕田3.5ヘクタールで大豆を作ったところ単収が300キログラムほど上がり、これを生協に持ち込んだところ高値で取引され、その大豆で作った豆腐は薩摩木綿として人気が高く、大成功となった。
また、以前から、トラクタ、田植機、ハーベスタ、バインダー、乾燥機などの稲作用機械をそれぞれの農家で所有しており、まさに「機械化貧乏」の様相を呈していたことから、共同利用組織の設立についても話し合いの場はあった。しかしながら、昭和40年代に機械の共同利用を試みたが持続しなかった経緯があったため、なかなか踏み込めない状況であった。
しかし、この大豆の成功が契機となって、平成8年には3900万円かけて、機械と格納庫を導入して、当時古殿地区の73戸のうち、賛同する36戸で機械の共同利用組織である機械利用組合を発足させた。この組合は、水田農家と土地持ち非農家からなり、農業で生計を立てている農家は4戸のみで、残りは兼業や高齢農家である。この4戸は今でもこの地域では数少ない認定農業者である。
平成16年まで、大豆栽培と機械協同利用に加えて30品目ほどの作目を試験的に作ってきたほか、組合員が作った米の委託販売を行ってきた。
その後税制上の問題や、農地の賃貸借名義の関係など任意組織であることの弊害が大きくなってきたため、平成17年4月に54戸と農協の出資・参加によって鹿児島県内初の集落型農業生産法人となり、同年5月には、特定農業法人となった。現在は、水稲、たまねぎ、大豆、加工用およびでん粉用かんしょなど農産物の生産に加えて、水稲の収穫および乾燥作業の受託や甘酒、たまねぎドレッシングなどの加工品の製造・販売も行なっている。
どんどんファームは、県の農村振興運動の一環として発足した古殿地区村づくり委員会の組織の一つという位置付けである(図1)。どんどんファームには現在、農協を含めて60人の組合員がおり、非農家や近接集落の住民も加入している。その内訳は、農家が2/3、土地持ち非農家が1/3となっている。農家のうち兼業農家は約7割であり、残り3割が専業農家であるが高齢化が進んでいる。
組合員になるためには、最低3万円出資することが必要である。どんどんファームは、組合員からでなくても借地が可能なため、非農家があえて組合員になるメリットは少ないが、農地を組合で管理してもらうという安心感を得るためにも加入を希望する非農家は多い。
組合員が農家の場合は、各自の農業経営はできるだけ継続してもらい、個人でできない部分をどんどんファームが担う形である。したがって、認定農業者の組合員は、どんどんファームとは別の確固たる農業経営を持つ。
図1のようにどんどんファームの下部組織として「機械利用部会」「若葉会」「どんどんプリティ」がある。機械利用部会は、法人化前の機械利用組合が移行したもので、どんどんファームの作業を実施する組織である。オペレータは全員組合員で、高齢農家や兼業農家をはじめ、農業以外の職業を持つ人も多く、現在20名が加入している。
図1
古殿地区村づくり委員会の組織図
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若葉会は一部組合員でない者もいるが、全て高齢の女性である。どんどんファームのほ場の管理作業を行っている。
どんどんプリティは組合員の妻から構成されており、味噌、甘酒、たまねぎドレッシングの生産など加工部門の担当である。
平成20年の栽培作物は、米は6ヘクタール、加工用かんしょ12ヘクタール、大豆3ヘクタール、水田裏作のたまねぎ1ヘクタールなどで、計2100万円の売上であった(表2)。農産物以外では、水稲の収穫・乾燥の作業受託収入が300万円、甘酒やたまねぎドレッシングなどの農産加工品の売上が200万円、組合員の米を買い上げ販売する販売受託による収入が1000万円、転作関連補助金700万円など合わせて2200万円である。農産物や農産加工品の販売先は、農協と地元の直売所に加えて、量販店などである。
表2
収入の内訳(平成20年) |
当初は大豆で成功したのであるが、地域の土壌が必ずしも大豆にあっているわけではなく、今後は大豆の栽培面積を減らす予定である。
どんどんファームの経営地は、加工用かんしょも含めて多くが水田であるが、遊休農地を補助事業で開墾した畑も2ヘクタールほどあり、そこではでん粉原料用かんしょを栽培している。
園芸作物を導入するという考え方もあるが、労働集約的な作物は人件費の支払いが高額になってしまう。このため、手間のかかる園芸作物は集落営農にはなじまないと考えている。なお、大豆の収穫は農業公社に委託し、精米は組合員の精米業者に委託している。
平成20年のどんどんファームの売上は計4200万円であり、売上高は年々増加傾向にある。経費のうち1200万円は労賃であり、地代や農家からの米の仕入れ代金も含めると約2000万円は組合員や集落の地権者に支払っていることになる。
近年は、黒字の年と赤字の年があるが、利益を出さないことには法人の経営が成り立たなくなるという危機感があり、機械の格納庫として畜舎の廃屋を利用したり、役員報酬のカットを進めるなど、徹底的なコスト削減を図っているところである。
若葉会のメンバーは20数名であるが、常時作業を行うのは10数名である。賃金は時給750円で、労働時間は基本的には自己申告による。大豆、かんしょの作業は全員が行うが、稲作の作業については組合員によって得意・不得意があるので、その点を考慮してどんどんファーム側で作業を割り当てている。ただし、一部の組合員に作業が偏ることのないよう配慮もしている。どんどんファームから若葉会に対する支払いは、年間約600万円になっており、平均するとメンバー1人当たり60万円程度の収入を得ていることになる。
近年の米価下落により、水田を小面積耕作してもほとんど利益はないし、赤字のリスクの方が大きい。若葉会のメンバーのなかには、自分で農業を経営するより、確実に収入になるどんどんファームで作業をすることを選択している者もいる。
機械利用部会のオペレータ賃金は、日当8,000円で、どんどんファームからこの部会への支払いは年間約500万円となっている。1人当たり平均の年間収入は20万円程度であるが、これを主な仕事としている者ではないため支障はない。作業の割り振りなどについては、オペレータを集めて決定している。
平成21年からは、どんどんファームの専従者を1名雇用することとした。組合員の大半が兼業や自分の農業経営があるなかで、どんどんファームのほ場に管理が行き届かない場合がしばしばあったためである。
どんどんファームでは農業機械として、コンバイン(2台)、田植機(3台)、トラクタ(3台)、乾燥機(4台)などを所有している。個人が現在所有している機械については、根強い反対があるために処分を強制していないが、個人での新規導入はしないという約束になっている。
このように集落営農における協業組織化は、水田地帯においても容易ではなく、地域内での話し合いと試行錯誤を長年にわたって続け、ようやく可能となるものである。この間、一貫して地域を引っ張っていったのが、代表の中間幸敏氏と事務局長の水溜一紀氏である。彼らのリーダーシップと献身とともに、このままでは集落の水田が維持できなくなるという地域住民が共有する危機感があった。
組合長(男性、60歳代)
クルクマ30アール、その他の花20アール、水田1.2ヘクタールを経営。法人に預けている土地はないが、転作田に係る作業はすべてどんどんファームに任せている。ハウス用の小さなトラクタを個人で所有しているが、作業には組合の機械を借りて利用している。
D組合員(男性、50歳代)
前理事であり、これまではボーリング業を営んでいたが、今年からどんどんファーム専従社員となった。現在は、水田の経営面積をこれまでの40アールから70アールまで拡大している。平成8年から機械利用組合に加入し、オペレータでもある。田植機、トラクタはどんどんファームから借りて、コンバインについてもどんどんファームに作業を委託している。組合に入ったのは、機械を個人で買う必要がなく、比較的自由に使えるためである。
E組合員(男性、50歳代)
次期リーダー候補として期待されている。本業は精米業であるが、水田の経営面積も90アールある。田植機、トラクタはどんどんファームから借りて、コンバインは作業委託による。平成8年からの組合員であり、組合に加入するまでは、機械を所有しておらず、水田50アールが限界であったが、加入後は機械を利用できるようになったため、どんどんファームから水田を借りて規模拡大することができた。ただし、本業があるので、これ以上の規模拡大は難しい。コンバインのオペレータも務めている。どんどんファームに対しては、農産物のブランド化に取り組んでいくことを望んでいる。
F組合員(女性、60歳代)
平成8年からの組合員で若葉会に所属している。以前の経営面積は10アールだったが、今は40アールまで拡大している。増加分の30アールはどんどんファームからの借地である。機械については、個人で所有しているトラクタと他人から借りる収穫のバインダー以外は、どんどんファームのものを利用している。若葉会では、かんしょの植付けや収穫の作業、たまねぎの収穫や調製作業を担当しており、年間の作業日数は100日弱である。どんどんファームに対しては、除草作業のタイミングを早めて欲しいと考えている。この点については、今年度から専従社員が管理に当たることで、適宜実施されることが期待される。
G組合員(女性、70歳代)
F組合員と同様、平成8年からの組合員で同じく若葉会に所属。15アールの水田を持っているが、5年前からどんどんファームに作業を委託している。若葉会での仕事内容は、F組合員と同じである。
H組合員(女性、70歳代)
上記2名と同様、平成8年からの組合員で若葉会所属。夫はオペレータで、畦畔管理やマルチ、ロータリーなどを担当している。18アールの水田を経営し、収穫のみ委託し、その他の作業は個人で所有する機械で行っている。畑も28アール所有し、そこででん粉原料用かんしょを生産していたが、昨年からどんどんファームに貸している。
集落営農型法人であるどんどんファームは、農業の担い手が不足する地域で、水田の生産調整対策と機械の過剰投資の回避から出発し、さまざまな作目の栽培や農産加工に取り組むことで法人化に至った事例である。この事例の農家の間では①将来は地域の水田の多くを集落営農組織が耕作することになるという長期的な共通認識があり②この組織がうまくいかなければ自分の水田は守れないという危機感があった。その上で、米価が低迷する中で、高齢者や女性労働力が確実で安定的な収入を得られる仕組みを組織で作り、経済的メリットを組織のメンバーが享受できるようにしたことも大きい。さらにリーダーの力量、行政・農協等の関係機関の支援、生産調整に関連する各種補助金といった制度の存在も、組織の運営に不可欠な要素であった。
さて、さとうきび・でん粉原料用かんしょ作において協業組織化が進む条件はあるのだろうか。
協業組織には、比較的経営規模の大きな農家数戸が組織を作る場合と、種子島の事例のように小規模農家も含めた10戸以上の農家が組織する場合が想定される。ここでは、後者のような小規模農家も含めた協業組織の条件と可能性について検討したい。
西之町生産組合でもそうであったが、協業組織化の最大の課題となっているのは経理の一元化である。先述したように、さとうきび・でん粉原料用かんしょ作の協業組織化のためにはメンバー間の長期的な共通認識と地域の農家の危機感、経済的なメリットは不可欠であろう。
鹿児島県における平成20年産さとうきび生産者に占める60歳以上の割合は約53%、でん粉原料用かんしょでは同約65%となっており、担い手の確保という観点では、高齢化が将来に向けての深刻な問題の一つとなっている。西之町生産組合のA組合員の事例から明らかなように、個人では農業経営が困難になった高齢生産者も、協業組織の一員となることによって農作業への出役が可能となる。また、高齢生産者の所有する農地が組織によって活用されることにより、耕作放棄地とならずに農地として維持される効果も期待できるであろう。
また、経済的なメリットについては、経理の一元化に必要な事務処理の労力という点でのコストは生じる一方で、農業機械の効率的な利用や生産資材の共同購入によるコスト削減の効果も見込まれることから、組織としての収益の増減という点から今後検証する余地はあろう。
いずれにしても、協業組織化は、個々の農家が段階を踏まずに目指すのではなく、機械の共同利用から始めるなどして徐々に組織を発展させることが必要となろう。併せて、地域のリーダーがイニシアティブを発揮し、地域での協力が得られれば、経理の一元化という課題を克服して協業組織化を実現する可能性も見いだせるだろう。
鹿児島大学農学部 生物生産学科
准教授 坂井教郎
農畜産業振興機構 調査情報部調査課
係長 前田昌宏
農畜産業振興機構 鹿児島事務所