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話題 畜産の情報 2018年11月号

第2回「和牛甲子園」の開催について

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全国農業協同組合連合会 畜産総合対策部長 山下 武彦

1 「和牛甲子園」とは

 全国には農業高校が300校余りあり、その中でも畜産学科が設置されている学校を中心に、授業やクラブ活動の一環として高校生の手によって和牛が飼育されています。そんな、全国の高校生と、彼らが育てた和牛が集まり、日ごろの和牛飼育の取り組みを発表し、その成果としての枝肉の肉質を競い合う大会、それが「和牛甲子園」です。
 「和牛甲子園」の構想は、JA全農グループ内で毎年実施している新規事業企画提案制度で採用されたアイデアから始まりました。年々、肉牛農家の後継者不足が深刻化する中、将来の担い手である高校生に就農意欲を高めてもらう、そんなきっかけ作りになればとの想いから、開催実現へ向けて検討を進めました。教育機関や東京都などに多大なる協力をいただき、約3年の準備期間をかけて、ようやく平成30年1月に第1回「和牛甲子園」を開催することができました。
 「甲子園」という大会名は、「高校生が競い合う大会といえば、やはり甲子園の高校野球」という発想から生まれました。この大会の主役は牛を飼う高校生なので、高校球児ならぬ“高校牛児”たちが全国から集まって、高校野球と同様に、正々堂々、真っ向勝負する場にしていきたい、そんな想いから「和牛甲子園」とネーミングしました。

2 「和牛甲子園」のねらい

 「和牛甲子園」開催のねらいは、一つは全国の“高校牛児”たちに、大会に出るという具体的な目標を持って、やりがいを感じてもらい、ぜひ将来の担い手になってもらいたいということです。「和牛甲子園」に出場する農業高校の生徒は、畜産農家の子供たちばかりかというと、必ずしもそうではなく、高校に入学して、たまたま和牛と出会った生徒も少なくありません。「和牛甲子園」をきっかけに「牛飼いって意外に楽しいな、一生の仕事にしたいな」という気持ちを後押しできたらと思っています。
 もう一つのねらいは、“高校牛児”たちが同じ志を持つライバルを日本各地に見つけ出し、お互いに切磋琢磨し合うような、同世代との交流の場を創出し、意欲と技術の向上に役立ててもらいたいということです。実際、高校で牛を育てる牛大好きな高校生同士の交流の場はこれまであまりなかったそうで、大会に参加した高校生や先生方に、非常に喜んでいただき、貴重な機会を提供できる大会になったと自負しています。


写真1 高校生による和牛飼育   写真2 第1回和牛甲子園の学校交流会

3 第1回大会について

 第1回「和牛甲子園」は、平成30年1月18日〜19日の2日間にわたり、東京芝浦の東京都中央卸売市場食肉市場において、全国8県15校から53名の高校生と黒毛和牛21頭を集めて開催しました。
 初日はまず、和牛肥育体験発表会を行い、各校が持ち時間10分間で、学校の地域特性、飼育環境、肥育目標や直面している課題と対策、今後の展望などについてプレゼンテーションを行いました。各校の発表では、雌牛の卵巣摘出の効果や双子生産の研究、種雄牛造成の取り組みなど、高校生とは思えないような高いレベルの創意工夫あふれる取り組みが紹介され、審査員を驚かせました。

 
                 写真3 和牛肥育体験発表会の様子
     

 発表会終了後は、和牛肥育ワークショップで枝肉の評価基準やチェックポイントについて学び、初日の終わりには、立食形式の学校交流会を開催し、高校生たちは肥育に関する情報交換をしながら他校の生徒と語らい、交流を深めました。
 2日目は早朝に集合して、東京食肉市場の冷蔵庫内で枝肉勉強会を開催しました。現場のプロから各校の枝肉の評価について解説を受け、生徒たちは自らが生産した枝肉を詳細に観察しました。その後は、いよいよ和牛枝肉共励会の開催です。各校とも、自分たちが育てた枝肉がセリにかけられる際には、「○○県立○○高校です!よろしくお願いします!」と元気に買参人にPRしました。出品牛の肉質は21頭中19頭が4等級以上に格付けされ、プロに負けない高い技術力を示すとともに、東京市場に全国から集まる買参人から高い評価を得て、次々と高値で競り落とされました。

 写真4 枝肉勉強会    写真5 枝肉共励会のセリ見学

 共励会終了後は、吉祥寺の行列ができるメンチカツで有名なサトウ食品株式会社の佐藤会長から、海外でも高く評価される和牛の魅力や食肉業界の仕事のやりがいなどについて講演していただきました。そして、最後に表彰式では、緊張した面持ちの生徒たちに入賞校が告げられ、総合評価部門の最優秀賞には岐阜県立飛騨高山高等学校(写真6)が、肉質評価部門の最優秀賞には鹿児島県立鹿屋農業高等学校が輝きました(表)。

表 第1回和牛甲子園の審査結果   写真6 総合部門最優秀賞の飛騨高山高等学校

4 第2回大会開催へ向けて

 第1回大会は、初開催ということもあり、手探り状態での大会運営でしたが、参加した高校生や先生をはじめ、教育機関の方々、畜産関係者、行政の皆様からも、「大きな目標ができ学習意欲が向上した」、「地域の畜産関係者との交流を図るきっかけになった」、「これまでにない有意義な取り組み」といった、大会開催を高く評価する声をいただき、次回以降の開催へ向けた大きな期待を寄せていただきました。
 平成31年1月17日〜18日にフクラシア品川クリスタルスクウェアおよび東京都中央卸売市場食肉市場において開催される第2回「和牛甲子園」は、さらにパワーアップした大会にすべく、開催実行委員会を早期に立ち上げて鋭意準備を進めています。今年7月からは、全国の“高校牛児”のモチベーションを後押しすべく、農業高校各校へ「『和牛甲子園』通信」というニュースレターの配信を開始しました。
 第2回大会の体験発表会・学校交流会の会場は、広さに余裕がある付近の会議室ホールで、より大きな規模でたくさんの参加者に対応できるよう準備を整えています。また、褒賞内容も総合評価部門、枝肉評価部門に加えて、取組評価部門の褒賞を新たに追加し、和牛枝肉共励会と和牛肥育体験発表会のそれぞれの審査結果が、多面的に評価されるように工夫いたします。その他2日間の大会メニューについても充実したものになるよう、さまざまな企画を検討中です。9月末時点で応募があった第2回大会の参加予定校は、前年を上回る11県の23校で、各校から合計28頭の和牛が東京芝浦に集まる予定となっています。盛大な大会にできるよう引き続き頑張って参ります。

5 おわりに

 いよいよ、第2回「和牛甲子園」開催まで2カ月余りとなりました。参加する農業高校では、発表内容のまとめと出品牛の仕上げにかかる時期かと思います。全国の“高校牛児”たちの牛飼いにかける熱い想いをしっかりと受け止めて、彼らの心に残る大会が開催できるよう、主催者の私たちも全力で準備を進めてまいります。そして、参加者の中から一人でも多くの“高校牛児”たちが、将来の担い手として畜産業を担っていってもらえたらと切に願っています。
 全国の畜産関係者の皆様におかれましても、ぜひ、「和牛甲子園」にご注目いただき、“高校牛児”たちに温かい声援をいただけましたら幸いです。

               写真7 第2回和牛甲子園案内チラシ
(プロフィール)
昭和58年 東京理科大学薬学部卒業
   同年 全国農業協同組合連合会入会
       (畜産生産部)
平成18年 大消費地販売推進部
   22年 畜産総合対策部 整備推進課長
   26年 畜産総合対策部 次長
   27年から現職