(1)株式会社菅与
ア 経営の概況
株式会社菅与(以下「菅与」という)は、秋田県南部の中心である横手市に本社を構える一貫経営の養豚事業者である。平成元年に同市に設立された飼料販売会社から始まって、飼料と肉豚の運搬業にも進出し、現在は売り上げの中心になっている養豚業に加えて、酪農業や肉用牛(日本短角種)の肥育も行っている。
秋田県、山形県および岩手県に繁殖豚舎15棟、肥育豚舎25棟を有し、肉豚を年間5万8000頭出荷し、北海道においても繁殖豚舎8棟、肥育豚舎14棟を有し、肉豚年間2万8000頭を出荷している。母豚は、イワタニ・ケンボロー社の技術指導を受けてきた経緯からハイブリット豚(ケンボロー)を使用し、豚舎を繁殖、離乳および肥育のステージごとに分ける3サイトシステムの導入などにより肉豚の平均出荷日齢は165日、出荷体重130キログラムと全国平均を上回っており、肉豚の約7割はエコフィード給与をしたブランド豚として販売されている。
菅与は、自社で食品リサイクル工場を有している。同工場は17年に操業を開始し、食品メーカーなどから提供される食品残さを原料としてエコフィードを製造している。このエコフィードを活用して畜産業を営む一方で、豚の肥育中に排出されるふん尿をたい肥製造の原料として利用している。このたい肥を、自社で生産するデントコーンや飼料用米などの飼料用作物の肥料として利用し、収穫された作物が畜産業の飼料となることで資源循環を実現している。
イ 飼料について
(ア)エコフィード活用の取り組みを始めた経緯
菅与がエコフィードの取り組みを始めたきっかけは、地元のパン工場から排出される毎日2トンもの食品残さを畜産業において有効利用できないかという提案があったことである。この提案を受け、産業廃棄物収集運搬業者の協力のもと、各工場の視察を重ね、エコフィードとして給与できる食品残さを確保できることが判明し、17年に産業廃棄物処分業の許可取得と同時に食品リサイクル工場を横手市内に設立し、年間約700トンの食品残さからエコフィード製造を開始した(図9)。
(イ)エコフィード活用に関する取り組み
a エコフィードの原料
エコフィードの原料として、平成28年は、年間で約8600トンの食品残さを東北地域の約70社から受け入れている。その中で最も多いのはホエイなど「液体」もの、次に菓子パンやパン生地などのパン類(写真1)、稲庭うどんなどの麺類(写真2、3)が続いている。
パン類や麺類は、製造工場の基準で廃棄になったものや流通在庫を使用している。これら以外の原料としては、酒かす、納豆、おから、冷凍食品などがある。
菅与は、食品残さを提供する食品メーカーなどとそれぞれ受け入れの条件を書面により協定を結んだ食品工場からの食品残さのみを受け入れている。菅与の食品リサイクル工場では、食品残さをキログラム単位で管理し、1ケースごとに同工場の従業員の目視により異物が混入していないかなどの確認が行われている。また、収集先の食品工場からの視察を年1回受け入れている。
また、菅与はこれら食品残さについて、賞味期限切れの食品は原料として使用しないこと、包装された食品残さの開封作業は手作業で行うことなどにより、飼料としての安全性を確保するとともに、質の高いエコフィードを製造している。
その運搬方法は、食品メーカーが食品リサイクル工場に直接持ち込む方法と産業廃棄物運搬業者が仲介者として持ち込む方法、菅与が食品メーカーから回収する方法の3通りがあり、それぞれで異なっている。
b エコフィードの製造方法
菅与で豚に給与しているエコフィードは、すべてリキッドの状態である。そのリキッドは、パン類・麺類を軸とした固形原料を1、シロップかすなどの液体原料を3から4の割合で製造しており、その年間製造量は約9400トンである(写真4)。
製造されたリキッドは、工場内のタンクに貯蔵され、毎日計56トンを自社のタンクローリーにて菅与の各農場に運搬し、各農場で配合飼料などと混合して、豚に給与している(写真5)。
工場で製造されるリキッドのエコフィードは、発酵によってpH4付近(酸性)になるように調整されており、これにより工場内のタンクで1週間保存が可能である一方、冬場は温度が低いことから、発酵の進行度合が遅くなるため、原料の調整などを工夫することでpH調整をしている。
また、発酵に当たっては、自社で培養した乳酸菌を含む液体を添加している。エコフィード取り組み開始時より自社でさまざまな乳酸菌について研究を重ね、豚にとって増体率の良いものを使用している。
c エコフィードの製造費用など
菅与では、エコフィードの利用を開始するに当たり、約5億円の費用をかけ、食品リサイクル工場やリキッドのエコフィードを給与する配管システムを豚舎に整備している。
現在のエコフィード製造費用では、人件費の占める割合が最も大きい。食品メーカーなどからの食品残さは、製造された菓子パンのように包装された状態で集積されるものも多く、開封作業をすべて手作業で行うためである(写真6)。
次に、光熱費の割合が大きくなっている。これは、パン・麺の生地、酒かすは機械を使って熱を加え、細かくすることで液体に溶けやすくしていることや、かき混ぜた後にも機械を使って熱を加えていることが要因である(写真7、8)。
エコフィードの原料費は、全体として1キログラム当たり0.5円から1円であり、製造費用において大きな割合を占めていない。
なお、配合飼料のみで肥育される肉豚と比較するとエコフィード・配合飼料混合飼料により肥育される豚では、経営全体で約25%の飼料コストを削減できるとのことである。
d エコフィード給与豚(銘柄豚の笑子豚(エコブー))の販売
菅与では、エコフィードにより飼育された豚は「笑子豚(エコブー)」として、わかばグループなど地元の畜産物の販売店に販売している。
「笑子豚」とは、「子供を囲んで笑いのある明るい食卓に」という願いを込めて名付けられもので、栄養成分は表2の通り、エネルギーや脂質が配合飼料のみで肥育した一般の豚肉の約3分の2で、その反面、炭水化物が同約23倍となっている(表2)。このため、甘みと旨みがある脂が特徴の軟らかい肉質となっている。
また、「笑子豚」の販売では、プレミアムといった上乗せ価格は設定されてない。これはエコフィードを飼料として利用することで飼料経費の削減になっており、この差額で十分な利益を得ていることから、購入する消費者のために価格は変えていないとのことである。ここにも「笑子豚」に込めた願いがうかがえる。
(ウ)エコフィード活用の取り組みに関する課題
現在のエコフィードの需要に対して、食品リサイクル工場の製造能力が追い付いていない。その上、製造能力以上に、原料となる食品残さを菅与の食品リサイクル工場に持ち込みたいという業者からの依頼もある。この依頼に応えるため、秋田県内において新しい食品リサイクル工場の建設を検討しているとのことである。
さらに、飼料として利用できない食品残さについても有効利用するためにバイオマス発電設備の建設を計画している。