ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 【 海外情報 】 ロシアの酪農・乳業の現状と課題
近年の乳製品消費の減退について、消費者の需要の変化によるものだとする意見が多いが、乳製品への信頼が落ちていることも影響している。そして、信頼喪失の大きな原因は、乳製品規格の不備にある。
ロシアの乳製品規格は、関税同盟(9)技術規則(以下「技術規則」という)(10)で定められており、そこでは、植物油脂や植物たんぱく質を加えた製品が乳製品に分類されるという、世界的にみてユニークな現象が起きている。
(9) ユーラシア経済連合(EAEU)加盟国(P2参照)の関税同盟。
(10) 関税同盟技術規則「乳及び乳製品の安全について」(ТР ТС 033/2013)2014年5月1日運用開始: http://www.eurasiancommission.org/ru/act/texnreg/deptexreg/tr/Documents/ТР%20ТС%20033-2013.pdf
技術規則と国際的な規格であるコーデックス(11) とを対比して表3に整理した。技術規則では、「乳含有製品」や「乳脂肪代替品入り乳含有製品」において、乳脂肪代替品(パーム油など)や乳たんぱく質代替品(大豆たんぱく質など)を添加することが認められている。もちろん、コーデックスにはこのような区分はない。特に問題なのは、「乳脂肪代替品入り乳含有製品」において、乳脂肪の50%までをパーム油などで代替してもよいことである。
なお、本稿では、便宜的に以下の用語を使う。非乳由来油脂(植物油脂など)を原料の一部とする「チーズ」のうち、技術規則の「乳脂肪代替品入り乳含有製品」に合致するものを「部分代替チーズ」とし、技術規則に合致しない製品、つまり乳製品に分類されないものを「チーズ類似品」とする。さらに、これらとナチュラルチーズ、プロセスチーズを包括する概念を「チーズ類」とする。なお、カッテージチーズはこれらに含めない。
(11) Codex Alimentarius: http:// www.dairynews.ru/imagesnew2/TheBEST/Milk_codex_alimentarius.pdf
この技術規則は、以下のように多くの問題をはらんでいる。
第1に、消費者にわかりにくい。実際、多くの消費者は、本物のチーズと偽物のチーズという2種類しか認識しておらず、技術規則における「乳脂肪代替品入り乳含有製品」のチーズは、偽物のチーズとみなされている。このような状況で「乳脂肪代替品入り乳含有製品」を乳製品とすることに、何の意味があるのだろうか。
第2に、技術規則に従う限り、小売店で乳製品売り場に植物油脂を原料に含む「乳製品」を並べることは、何ら違法性はない。しかし、これによって、技術規則において乳製品として認められない量のパーム油を使った偽物のチーズの販売が助長されているのである。
第3に、偽物のチーズを乳製品として販売する違法行為の摘発にかかる費用を数倍程度に高くしている。販売されている商品を分析し、乳脂肪代替品の含有率が基準内に収まっているかどうかを判定するには、高価な検査機器と熟練した検査員が必要である。非乳由来の油脂が含まれているかどうかだけを調べる検査より負担が大きいことは、容易に想像できるだろう。
第4に、脱脂粉乳に植物油脂を混ぜて生乳代替品を作り出すことが認められているために、チーズ類の生産が過剰となり、生乳価格が押し下げられている。これによって、生乳の不足とチーズ供給の過剰が同時に起きている。