畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 北海道宗谷南農業協同組合における新規就農者確保の取り組み 〜若者の夢がかなう酪農郷〜

調査・報告 畜産の情報2018年11月号

北海道宗谷南農業協同組合における新規就農者確保の取り組み 〜若者の夢がかなう酪農郷〜

印刷ページ
調査情報部 北村 徹弥

【要約】

 わが国の酪農家戸数は、高齢化などの離農により年々減少していることから、生産基盤の弱体化に歯止めをかけ、維持・強化を図ることが喫緊の課題となっている。JA宗谷南のさし町では、平成26年度から毎年1回新規就農者を対象に誘致促進セミナーを開催するなど、独自の担い手対策を行っている。また、酪農家戸数の減少に伴い生乳生産量の減少に対応するため、畜産クラスター事業を活用して農協出資型法人・潟Aグリサポート枝幸の搾乳部門でありメガファームのファームAYNI(アイニ)を設立し、30年3月から稼動させている。酪農を基盤とした地域の活性化を図るためには、地域ぐるみの営農支援システムを確立することが重要である。

1 はじめに

 酪農の仕事は、生乳生産の特性上、周年拘束性が高いことから、家族労働力を農業経営に専業的に投入するか、家族外から労働力を確保することが不可欠な状況となっている。高齢化などの離農により酪農家戸数が減少する中、中長期的に生産を維持するためには、新規就農者の確保が不可欠である。酪農家戸数をみると、農林水産省が公表した畜産統計(平成30年2月1日現在)では1万5700戸と前年同期に比べ700戸減少した。生乳生産量が全国の過半を占める北海道の酪農家戸数は、6140戸と前年比2.7%減と前年の減少率2.8%とほぼ同じ減少率となった。また、中央酪農会議が平成29年度に行った酪農全国基礎調査によると、全国の平均経営主年齢は57.3歳、40〜60代の合計が78.0%を占め、70代が10.3%となる中で、後継者不在が31.1%を占めるなど高齢化や後継者不足の深刻さがうかがえる。事実、28年度における酪農の離脱者数は584人に上る一方で、新規就農数は207人にとどまっている(表1)。これらのことから、新規就農者の確保を通じて、維持・強化を図ることが喫緊の課題となっている。
 

070a
 

 ここでは、北海道の中でも酪農が盛んな地域の一つで、町、農協、農業推進連絡協議会が一体となって担い手対策を講じている宗谷南農業協同組合(以下「JA宗谷南」という)における新規就農者の確保に向けた取り組みについて紹介する。
 なお、本稿において「新規就農者」としているのは、表2における「新規参入者」の意味である。
 

071a

2 JA宗谷南などの取り組み

(1)枝幸町の概要

 枝幸町は、北海道の北部にある宗谷振興局管内の最南部に位置し(図1)、東はオホーツク海に面し、西は山々が連なるといった豊かな自然に囲まれた一次産業が盛んな町である。同町は、平成18年3月に旧枝幸町と旧歌登うたのぼり町が合併し、新「枝幸町」となった。面積1115キロ平方メートルのうち81%を山林が占めている。北海道の市町村で9番目に面積が大きく、町としては全国で5番目に大きい。気候については、内陸部はしばしば夏日・真夏日になることもある一方、冬は氷点下30度を下回ることもあるなど夏と冬の寒暖差が大きい(図2)。人口は約8300人で、主な産業としては、酪農を中心とした農業のほか、雄大なオホーツク海が育む毛カニ、ホタテ漁などの漁業や森林資源を生かした林業などが挙げられる。
 

071b

071c
 

(2)JA宗谷南の概要

 枝幸町を含む地域を管内とするJA宗谷南の正組合員数は137名、准組合員数は902名となっている。
 受託販売取扱高は、生乳が49億8688万円、個体が13億1007万円、牧草が730万円となっており、合計で63億425万円となっている(いずれも平成29年度末現在)。酪農家戸数は平成30年8月時点で111戸と漸減傾向で推移している。また、年度別出荷乳量をみると、近年5万5000〜5万6000トン前後で推移しており、乳牛飼養頭数も1万1000頭前後で推移している(表3)。JA宗谷南における離農の原因は、高齢化、後継者不在の他にはけが、病気などによる営農中断があるとみられている(表4)。
 

072a
 
 
072b
 

 JA宗谷南は、管内の農家戸数の減少に歯止めをかけるため、担い手対策の一環として、26年度から毎年1回開催している枝幸町新規就農者誘致促進セミナーのほか、通年での、全国各地における就農相談会(新・農業人フェア)などを通じて就農希望者を受け入れ、離農予定地に就農させるなどの取り組みを実施している。それと併せ、オール宗谷の取り組みとして農業系大学への訪問活動も積極的に行っている。また、9〜4月(農繁期を除く)に新規就農研修生や農業後継者を対象とした座学研修会を行っている。その内容は、乳牛飼養管理全般、家畜衛生、草地管理などで、月1〜2回程度専門家による講議が行われている。
 

(3)枝幸町における新規就農の流れ

 一般的に就農を希望する者は、公益財団法人北海道農業公社などに就農の相談を行い、情報の収集を行う(図3)。枝幸町での就農希望者は、研修受入農家において2年間の研修を受け、自らの適性を見極めた上で就農するケースが多い。一方、酪農ヘルパー組合や農業法人などに就職し、飼養管理技術などを習得する方が就農への近道と考える者もいる。こうした準備期間中に、就農希望者は営農開始のための資金の準備・調達を行う必要がある。
 

073a
 

 一定期間研修を受けた後、就農を決めた段階で関係機関などの指導を受けて青年等就農計画を作成する。計画には、所得、生産方式、経営管理などについての目標を定めるとともに目標の達成に必要となる措置(事業内容、事業費)などを記載する。枝幸町の場合は、乳牛の飼育頭数が成牛換算でおおむね30頭以上の営農計画を立案する。完成後、JA宗谷南の組合長に農業経営計画書などの認定申請書を提出し、審査後に認められた場合は新規就農が可能となる。就農前に習得することとして、乳牛の飼養管理技術の以外に大型特殊免許の取得が必要となる。

 現在、酪農ヘルパーを経験してから就農するのが一般的になっている。これは、いろいろな酪農の経営体を見ることができ、自分が就農した際の参考にすることができるからである。就農してから他の農家を見学したいと思っても、搾乳作業の時間帯が重なってしまい見学することができないため、酪農ヘルパー時代の経験は貴重といえる。
 

(4)JA宗谷南などの酪農業施策、枝幸町の担い手対策などについて

ア 酪農業施策

 酪農における新規就農の課題は、資金の調達、飼養管理技術などの習得、農地の取得、住居の取得が挙げられる。これに対し、JA宗谷南の取り組みとして、新規就農者に対し、乳牛(初妊牛など)導入費用として100万円を助成している。また、枝幸町の取り組みとして、就農を開始した年度から総額500万円を5年間均等(年につき100万円を5年間)に交付したり、借入金に対して利子補給を行う支援策がある(枝幸町、JAがそれぞれ2分の1を補助)。

 研修に係る支援策として、手当が月額15〜20万円が支給されるとともに、居住面については、新規就農を目指す者の研修受入施設として担い手宿泊センターが安価(一月当たり世帯者用2万円、単身者用1万5000円)で借りることができるなどの支援策が充実していることも大きな魅力である。なお、研修時間は1日当たりおおむね8時間で、休日は週1日である(農繁期など季節により変動あり)。

 その他に、枝幸4Hクラブという15歳以上の青少年で構成されているグループ活動に対する補助金の交付を行っている。活動内容は公共育成牧場の入退牧・共進会・除角のサポート、各種研修会への参加、視察研修などであり、これらを通じて優れた農業経営の担い手に必要な技術・知識を身につけ、グループ全体のスキルアップを目的としている。

 また、平成28・29年度畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(以下「畜産クラスター事業(注1)」という)により株式会社アグリサポート枝幸に搾乳部門としてメガファーム「ファームAYNI(アイニ)(以下「AYNI」という)」が設立されたことや枝幸町公共育成牧場に哺育・育成牛を預託することが可能なため、搾乳牛に特化した経営を行うことができる。さらに、コントラクター事業の活用も可能で、牧草収穫や土づくりの支援体制も整っている。これらにより、メガファームにおける搾乳部門、哺育・育成部門、コントラクター部門といった酪農に関する一通りの業務を就農希望者は全て枝幸町で学ぶことが可能で、酪農経営を目指すには理想的な環境といえる。

 新規就農への支援施策において、国では、農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)があり、次世代を担う農業者となることを志向する者に対し、就農前の研修を後押しする資金(準備型(注2))および就農直後の経営確立を支援する資金(経営開始型(注3))を交付する事業もある。なお、新規就農に係る主な支援施策は国、道、市町村・農協ごとに充実したメニューが用意されている(表5)。

注1:畜産農家をはじめ地域の関係者が連携し、地域の畜産の収益性向上を図る取り組み。経営体の施設整備や機械の導入を支援している。また、畜種を問わず、さまざまな取り組みが行われている。

2:県農業大学などの農業経営者育成教育機関、先進農家・先進農業法人で就農に向けて必要な技術などを習得するための研修を受ける場合、原則として45歳未満で就農する者に対し、都道府県などを通じて年間150万円を最長2年間交付する。

3:原則として45歳未満で独立・自営就農する認定新規就農者に対し、市町村を通じて年間最大150万円を最長5年間交付する。

 

表5 新規就農への主な支援施策
 

イ 潟Aグリサポート枝幸およびファームAYNIについて

 JA宗谷南では担い手支援対策の一環として、平成22年12月に子会社となる株式会社アグリサポート枝幸を設立した。同社は、肥料散布、牧草収穫、堆肥散布などの農作業の受委託業務を行うとともに、草地管理労働力軽減を行うための飼料生産受託組織として稼動し、離農農地の有効利用がなされている(表6)。
 


 21年3月にJA宗谷南としてスタートしてから、生乳生産出荷目標として6万トンを掲げたものの、酪農家戸数の減少により目標の達成は難しく、酪農の衰退を招きかねないことから、年間4000トン規模の生乳生産を行うため、離農跡地を活用して株式会社アグリサポート枝幸に生乳生産部門を新設し、大規模牧場の設立構想が5年前から検討された。その結果、畜産クラスター事業を活用してAYNIが設立、30年3月から稼動が開始された。AYNIに導入された搾乳ロボットは6台、1日当たり1台につき約50頭の搾乳が可能である。しかし、10頭に1頭程度は搾乳ロボットに合わない乳牛がいるため、その場合にはアブレストパーラーで搾乳する必要がある(治療牛はバケットミルカーで搾乳)。搾乳回数は搾乳ロボットが1日3回、それ以外の搾乳が2回である。搾乳された生乳は、全量よつ葉乳業株式会社宗谷工場へ搬入されている。

 AYNIの設立に当たっては、足寄郡陸別町の株式会社ユニバース(ホクレンと農協から出資を受けたメガファーム)の畜舎をモデルとしており、何度も視察を行い、同社と同規模の畜舎、同数の搾乳ロボットを導入した。AYNIの和田誠場長は、同社農場に昨年11月から約1カ月間住み込みをして研修を受けたという。

 なお、「AYNI」とは、南米ペルーのアンデス地方にアンデス法と呼ばれる伝統的に受け継がれて来た考えの一つであり、「互恵関係」という意味を持つ。アンデスでは現在も農作物の植付けや収穫の時期などのさまざまな作業を協力し合って行っており、「相互扶助」のしくみが社会の根底を成していることから、これにちなんでAYNIを牧場名としたとのことである。

 今後、北見、根釧、豊富の家畜市場などで乳牛を購入し、現在の210頭から10月までに最大で300頭にまで増頭する予定である。この他に、待機牛が100頭程おり、合計で410頭となる(表7)。
 



 








ウ 枝幸町における就農のメリット

 枝幸町は、全道で最も土地価格の安いエリアである。道内の地域別農地価格によると、枝幸町のある宗谷地域の価格が最も安いことがわかる(表8)。このことから、枝幸町において酪農業への就農に対する農地の取得に係る経費が安く済むことで、就農者の負担が少なくなるという利点がある。また、枝幸町は草地型酪農地帯であることから、自給飼料を生産し、飼料コストをいかに抑えられるかが重要となってくる。平成29産年の総合乳価(注)(北海道)は1キログラム当たり99円83銭と限りなく100円の大台に近づき、10年前の73円45銭から右肩上がりで推移している。さらに個体販売価格も高く、酪農をめぐる環境は悪いとはいえないことから、今の時期に草地づくりを適切に行えば、今後安定した経営を行っていくことができると考えられる。
 

 
 また、就農者にとっては手厚いサポートを受けることが可能となっている。具体的には、町、農業委員会、JA宗谷南、農業改良普及センターをはじめとした関係団体が連携し、新規就農者を全面的にバックアップする体制を整えている(図4)。
 


 

 さらに、JA宗谷南は、乳牛の資質の向上と乳牛改良のための宗谷南乳牛検定組合へ補助金の交付や、宗谷南酪農ヘルパー利用組合へ補助金の交付に係る業務を行っている。
 

注:指定団体が生乳取引価格から集送乳経費や手数料を控除し、加工原料乳生産者補給金を加算してもの。

3 平成30年度枝幸町新規就農者誘致促進セミナーの概要 〜移転就農および新規就農者などからの報告〜

 8月22日に枝幸町で開催された新規就農者誘致促進セミナーにおいて、移転就農を目指す酪農家や新規就農を果たした酪農家からの発表、酪農ヘルパー利用組合の体制についての紹介などが行われたので、その概要を報告する。

 


ア 開会あいさつ(向井地信之代表理事組合長)

 この地域は、冬には気温が低く、雪も多いという気象条件は厳しいところであり、酪農に興味を持ち、夢を持って当町に来てくれる若者がいる一方、農業から離れていく若者もいる。これからは情報通信技術(ICT)などの導入により、スマホでの遠隔操作で採草などの作業を行うことができる時代が来ると考えている。現在、3組の家族と若い独身者4名が就農に向けて研修中で、この方々には非常に感銘を受けるとともに感謝している。就農者への支援は、就農前よりも就農後の方が大切であり、いかに自立した経営者にするかが重要だと考えている。新規就農者が慣れない土地にやってきて、頼りにするのは農協であり、また、農協も頼りにされる存在にならなければならない。第7回目の開催となる来年のセミナーからは「新規」という文言をはずし、「枝幸町就農者セミナー」として開催する。これは、組合員が農協を選ぶ時代がくると信じており、就農している場所を問わず、枝幸町へやってきて就農する者も、新規就農者も同じように受け入れ、成功してもらいたいと考えているためである。
 

イ 新天地を枝幸町に求めて移転を決意(廣山智尋氏)

 廣山辰徳、智尋夫妻は現在、帯広市川西農業協同組合管内にある帯広市清川町の廣山牧場で酪農を営んでいる(表9)。夫の辰徳氏は帯広市の農業高校を卒業後、本別町の牧場において2年間実習を経て、米国ウィスコンシン州の牧場で1年間実習を経験して、父親の営む廣山牧場に就農した。妻の智尋氏は静岡県で普通科の高校を卒業後、帯広畜産大学へ進学、卒業後、帯広市の酪農ヘルパー組合で3年間勤務、その後標津町の牧場において1年間の実習を経て就農した。
 


 


 帯広市のある十勝地域は農地価格が高いことから現行の30ヘクタールから規模拡大が困難で、また牛舎などの施設の老朽化もあり、新天地での酪農経営の再スタートを検討することとなった。このとき、川西農協の組合長から枝幸町への誘いがあったことや、ちょうど結婚するタイミングでもあったため、移転を決断した。これまでに移転先となる有限会社ヤマウスファームの視察を4回行い、来年1月からの営農開始に向けて準備を行っている。酪農の魅力は、働いたら働いた分、成果として現れることである。子牛の哺育・育成、乳牛改良にも手をかければ、その分必ず成果として返ってくる。目指す酪農経営のポイントは、牛を長く飼うこと、後継牛を確保すること、死産や乳房炎などによるロスを減らすことの3点であり、これを適切に行うことにより経営の安定を図りたいと考えている。なお、土地や飼養頭数などの生産規模を現在の約4倍にまで拡大し、現在のつなぎ飼い方式からフリーストール方式に飼養形態を変更するなど、新たなチャレンジをしていく予定である。
 

ウ 酪農ヘルパーを経て、新規就農(米田徹氏)
 


 

 生まれ育った大阪の高校を卒業後、酪農学園短期大学へ進学・卒業後に16年4月に旧北見枝幸ヘルパー組合に勤務した。12年間酪農ヘルパーを経験した後、28年4月に枝幸町公共育成牧場で1年間の研修を経て29年10月に枝幸町風烈布ふうれっぷ地区で新規就農を果たした。酪農を目指すきっかけは、小さい頃から動物が好きだったこと、大学在学時の就職活動の際、農業公社(担い手育成センター)から枝幸町の酪農ヘルパーを紹介されたことである。ヘルパー勤務時には牧草の収穫経験がなかったため、収穫機のメンテナンスなどに苦労したが、前経営者からの協力もあり、対応することができた。就農後はヘルパー時代と比較して労働時間が長いため、肉体的な負担を強く感じることがある。就農を目指している人へのアドバイスとしては、地域の人たちとコミュニケーションを図り、良好な人間関係を構築していくことである。これにより、仕事で困ったときには大いに役に立つ。地域での良好な人間関係は、一朝一夕に築くことはできず、少なくとも3〜4年はかかるとみておいた方がいい。
 

エ 宗谷南酪農ヘルパー利用組合の体制について(宗谷南酪農ヘルパー組合長 石田 幸也氏)

 酪農ヘルパーは、酪農家の余暇・休日の確保のため、または酪農家の急な病気・けが、冠婚葬祭などの緊急事態の際に、酪農家の代わりに仕事を行う。主な業務内容は、牛への給餌、搾乳および生乳の冷却・保存管理、牛舎などの清掃作業などである。当組合は、北見枝幸酪農ヘルパー利用組合(旧枝幸町で平成3年に設立)と歌登酪農ヘルパー利用組合(旧歌登町で平成3年に設立)の合併により、22年4月に設立された。現在、管内の酪農家105戸を対象に専任ヘルパー12名、臨時ヘルパー8名の体制で業務を実施している。(酪農ヘルパーの給与、待遇などについては、表10の通り)なお、酪農未経験者には、おおむね3カ月程度の研修を用意している(表11)。
 





 

オ パネルディスカッション(主な意見)
 

▶北海道農政部 宮田大局長

 今年2月にニュージーランドの酪農場を見学した際に感じたことは、関係者はいかに利益を上げるか、そしていかに土地を活用して農場パフォーマンスをフルに発揮することができるかを重視している点である。宗谷地域は酪農専業地帯で土地資源が豊富であることから、この2点を着実に実行することにより生産力を向上させ、就農者の夢を実現することができると考えている。
 

▶枝幸町農業委員会 高橋壮治会長

 新規就農は大歓迎であるが、これから目指す人には、自分だけが酪農をやるわけではなく100年続く酪農を目指してほしい。100年ということは自分の代だけでは終わらせないということである。このことを頭の片隅におきながら酪農に携わっていただきたい。

▶公益財団法人北海道農業公社 担い手支援部就農相談課 岡一義就農コーディネーター

 新・農業人フェアなどでは、相談者を新規就農まで導いてくれる市町村を紹介している。枝幸町は毎年セミナーを開催するとともに、町と農協が一体となって活動をしており、相談者にはお勧めしている。今後も公社は枝幸町をバックアップしていきたい。
 

この他、先に発表を行った廣山氏、米田氏、若者の酪農ヘルパー、就農研修生、ベトナムの技能実習生から枝幸町で働くことになった経緯や、枝幸町で生活にするに当たり良い点、不便な点などが発表された。

4 枝幸町におけるこれまでの新規実績と今後の展開

 北海道における酪農の新規就農者のうち新規参入者は、直近10年で合計194人となっている。近年はばらつきがあるものの、おおむね毎年20名前後で推移している(表12)。一方、枝幸町において平成10〜29年の間に新規に就農したのは、17人と全道市町村の中で4番目に多く、そのうち14人が公社営農場リース事業を活用しており新規参入率も14.8%と上位に位置している(表13)。同事業は、新規就農者の初期投資の負担軽減と離農跡地の有効利用を目的に昭和57年5月から制度化されたもので、公益財団法人北海道農業公社(注)が農地保有合理化事業で取得した離農農家から農地や施設を一括取得し施設の補改修を行った上で、新規者に対し一定期間(5年以内)貸付を行った後、譲渡する。中古施設の取得であるため、新規者は施設投資が最小限に抑えられるメリットがある。リース期間中の貸付料は、農用地、農業用施設によってそれぞれ異なる。なお、同事業は昭和57年から平成30年までの間に全道では394人、枝幸町では22人の利用実績がある。

 


 


 酪農を基盤とした地域の活性化を図るためには、地域ぐるみの営農支援システムを確立することが重要である。枝幸町には、酪農ヘルパー、コントラクター、哺育・育成センターおよび公共牧場が整備されている。さらに、来年度から枝幸町の公共牧場を5年間の事業の中で整備する計画があり、営農支援システムのさらなる充実が期待されている。
 

注:北海道農業の経営規模拡大や生産性向上に資する各種事業を総合的に実施する公益法人として北海道、北海道生産農業協同組合連合会、社団法人北海道酪農開発事業団の三者により財団法人北海道開発公社として昭和45年6月に設立。平成21年4月に社団法人北海道農業担い手育成センターと合併し、平成24年4月に新公益法人に移行し、現在の組織名称へ変更された。

5 おわりに

 平成29年度における全国の生乳生産量は730万トンとなっており、そのうち北海道の生産量は53.7%と過半を占めている。22年以降全国の過半を占める状況が続いていることから、北海道の生産動向がわが国の需給全体に大きな影響を与えているといえる。

 酪農生産基盤の維持・強化のためには、別海町や浜中町などで研修牧場が設置されている他、近年では研修機能を担う農協出資型大型法人が複数設立されるなど既存の取り組みだけではなく、経営継承のための多様な取り組みがみられるようになってきている。

 その一例として、町と農協などが一体となった活動を行っているJA宗谷南は、その広大な土地資源を活用しながら、就農者の確保に向けたさまざまな活動を積極的に行っている。今後もさらなる取り組みに期待したい。

 新規就農誘致セミナーへの参加を通じ、新規就農者に求められているのは、(1)明確な将来のビジョン(経営計画)を有していること(2)地域との協調性を重視し、実践できること(3)経営を行っていくに当たり強い意欲を有しているとともに、仕事に対し責任を持つことだと感じられた。

 最後に、今回の調査および新規就農者セミナーの取材を承諾して下さったJA宗谷南 向井地信之代表理事組合長、ご多忙中にもかかわらず快くご対応いただいた営農部営農課浜田和幸課長をはじめ関係者の皆さまにこの場を借りて御礼を申し上げます。