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〜デンマークとスペインの動向など〜
EUの養豚産業は、最大の輸出先である中国向けの低迷から豚価が伸び悩む中、日EU・EPAを好機と捉え、対日輸出に期待感を示している。
EU産豚肉は、日本の豚肉輸入量のうち3分の1を占めており、近年では増加傾向にある。その中でも、同量の過半を占めるデンマークおよびスペイン産は、養豚産業を自国の基幹産業かつ成長産業とし、さらなる対日輸出意欲は高い。一方、最大の輸出先である中国需要が先行き不透明であるほか、EU西側諸国まで感染が拡大しているアフリカ豚コレラ(ASF)への対応など課題も多い。
欧州連合(EU)の養豚産業は、現状としても日本を優先すべき最大規模の輸出市場として捉えてはいるものの、2018年7月17日に両首脳が署名した日EU経済連携協定(EPA)発効後に日本の差額関税制度とその分岐点価格は維持されつつも、9年をかけて従量税部分が50円まで引き下がることとなっており、市場アクセスが改善することから、さらなる輸出拡大に期待をしている。
2018年10月16日、欧州議会にて開催された農畜産物を対象としたEPAの会議(ワークショップ)において、食肉業界を代表して講演を行ったスペインの養豚産業関係者は、「自国の同産業の拡大に伴って対日輸出は拡大傾向であり、EPAにはますます期待感を高めている」とした。また、同会議の共催3者(欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(COPA-COGECA)、欧州食品飲料産業連盟(Food Drink Europe)および欧州農産品貿易連絡委員会(CELCAA))は、会議終了後に連名でプレスリリースを行い、日本は成長が見込める重要な輸出先の一つであるとして、EPAの支持を表明した。
ここ数年のEU養豚業界は、ロシアによるEU産豚肉の禁輸措置や中国の需要急増、そして減退など、豚枝肉卸売価格の乱高下に影響を与えたものも含めて、輸出環境の変化が多く見られた。ロシアについては、EU加盟国であるポーランドでのアフリカ豚コレラ(ASF)発生を要因として、2014年2月にEU産豚肉の全面的な禁輸措置を講じた。EU産豚肉の主要輸出先であったロシアによる禁輸措置は、EU豚肉市場に大きな影響を与えた。その後、ASFを要因とする禁輸措置は解かれたものの、政治的な意図による欧米諸国の農畜産物の禁輸措置が2014年8月から継続されており、禁輸の状況は変わっていない。その後、需給の緩和から価格低迷が続く中、2016年4月以降に中国の豚肉需要が強まり、EU産豚肉の中国向け輸出が急増し、EUの豚枝肉卸売価格は一気に持ち直すこととなった。また、同要因によりEUの一部の国では増産意欲が強まるなどした。しかし、再び中国の需要は減退し、EU域内は現在、再び緩和状態に陥っている。
また、今日のEU養豚業界の懸念事項は、一般紙などでもたびたび取り上げられているASFである。EU域内をドイツ、フランス、デンマークなどといった主要な豚肉生産国が多い西側へと進行しており、それら主要国の警戒は最大限まで高まっている。ASFの感染が多発しているルーマニアでは30万頭もの肉豚が殺処分されるなど、ひとたび感染すれば当該国の養豚産業に与えるダメージは計り知れない。
そのようなEU養豚産業は、国際豚肉市場において大きな影響力を持っている。その規模は、豚肉生産量で全世界の約20%を占め、豚肉自給率が110%を超える純輸出地域であり、豚肉輸出量は世界最大量となる全世界の約35%を占めている。
本稿では、EPAを踏まえ、EU養豚産業の直近の動向や今後の対日輸出見通しなどについて、特に対日輸出量の多いデンマークとスペインの現地調査結果を交えて報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1ユーロ=130円(10月末日TTS相場:129.93円)を使用した。
また、欧州委員会が2018年10月に公表した短期見通しによると、豚肉生産量は、2018年は前年比1.5%増となるものの、2019年は再び減少に転じ同1.0%減と見込まれている。
豚肉生産量上位5カ国の構造には、大きな違いがある(図2)。それぞれの国の生産量上位3位までの事業者の生産量が占める割合をみると、ドイツとフランスでは上位3位までで過半程度を占めている一方、スペインとポーランドでは同割合が小さく、デンマークではそれとは対照的にほとんどを上位2事業者が占めている。デンマークをはじめ、ドイツ、フランスでは大企業が一定量を生産しているのに対し、生産や輸出が拡大傾向であるスペインでは上位3事業者が占める割合は28%、ポーランドでは同37%となっており、多数の事業者がせめぎ合っている。また、スペインとポーランドの間にも違いがあり、スペインは、同族経営の事業者が多いが、ポーランドに関しては上位3事業者がいずれも外資系企業となっている。ポーランドの養豚産業は環境面やコスト面の優位性からその潜在能力は高く、前述のデニッシュクラウンの本社機能の一部ポーランド移転の計画同様に、他国からの投資が進んでいるのが同国養豚産業の大きな特徴の一つである。
2017年の豚肉輸出量(製品重量ベース)は、前年比9.4%減の210万トンとなった。過去最高となった前年からは中国の需要減退により減少したものの、その他の日本や韓国向けなどは堅調に推移した(図3)。
特筆すべきはフィリピン(同18.0%増)、台湾(同24.5%増)などアジア向けへの輸出量の増加であり、同地域の人口増加、経済力向上などを背景とした需要増加に対し、供給側として輸出拡大を図ろうとする動きが、EU主要豚肉生産国で盛んになっている。
なお、2017年の豚肉輸出額では、日本が最大(中国の1.1倍)となっている。
欧州委員会は、2018年および2019年の豚肉輸出量は、生産量見込みに伴ってそれぞれ前年比2.5%増、同5.0%減と見込んでいる。また、2017年12月に発表した長期予測では、2030年の同輸出量は、2017年比7.2%の増加と見込んでいる。一方、直近の予測の中で、EU域内でも感染が広がっているASFの影響により、予期せぬ状況に直面する可能性も示唆している。
2017年の平均豚枝肉卸売価格は、前年比10.1%高の100キログラム当たり160.7ユーロ(2万891円)となった(図4)。同価格は、2008年から2009年の世界的な景気低迷による需要減退の影響などによる低迷から徐々に回復基調で推移していたものの、2014年2月からのロシアの禁輸措置の影響により一気に低落した。しかし、2016年4月以降の中国需要の高まりで再び上昇傾向となるなど輸出環境の変化により目まぐるしく変化している。
英国農業園芸開発公社(AHDB)は2017年、2016年のEU平均および主要豚肉生産国(生産量4位のポーランドは除く)の繁殖等成績および肥育豚生産費などの調査結果を発表した(表2、図5)。
繁殖成績では、デンマークの一腹当たり年間離乳頭数がEU平均を大きく上回り、主要国の中で唯一の30頭台となる32.10頭となっている。この頭数は、同国の2015年結果と比較して2.7%増となっている。また、飼料要求率(2.69)や1日平均増体量(950グラム)などをみても、同国における繁殖能力および産肉能力は他国と比較して優れていることが分かる。
また、EU平均肥育豚生産費は枝肉1キログラム当たり188円となっている。主要豚肉生産国のうち最も高いのはドイツ(同186円)で、最も低いのはスペイン(同169円)となっている。スペインは、同生産費の7割近くを占める飼料費が、原料となる大豆かすなどを輸入していることからEU平均を上回るものの、労働費が他の主要国よりも低いため、競争力を有している。また、デンマークは、自給飼料割合が高いため飼料費が低いものの、労働費が他の主要国よりも高くなっている。
(欧州委員会などの動き)
欧州委員会は2017年、ASFにより廃業となったポーランド(ASFの最大被害国の一つ)の養豚農家に対して補償金を拠出するなど対策を講じているものの、ポーランド政府は、EU農業担当大臣の会合などの場で各国に対し、「欧州委員会がASFの再発を繰り返すウクライナやベラルーシといったポーランド周辺のEU非加盟国の再発防止を監視、支援しない限り、EU域内で行われる各種ASF対策は無駄になってしまう可能性がある」と警告していた。欧州委員会は2018年2月、ASF対策も含む動物の疾病および人に感染するおそれがある動物の伝染病の対策、植物の病気に関する調査事業支援のために1億5400万ユーロ(198億6600万円)を割り当てることを決定している。被害を最小限に食い止めるため、欧州委員会も支援を続けているが、感染源を特定できないASFをめぐる今後の動向は、予断を許さない状況にある。
EU各国は、国境沿いにフェンスの建設を計画したり、地元の狩猟者に野生いのししを狩猟してもらうための費用を養豚農家から徴収したりするなどして対策を講じている。また、英国農業園芸開発公社(AHDB)は、養豚農家などに対して、感染源となり得る飼料の管理を徹底するように警告するなどしている。しかし、EU養豚業界でASFに対する緊張が極めて高まる中、EU全体でのさらなる対応策が求められている。