(1)貿易協定の締結状況
NZは、2018年10月時点で、世界貿易機関(WTO)の協定以外で個別に15カ国と9の貿易協定を締結している(表1)。環太平洋戦略的経済連携協定(以下「P4」という)を除き、すべてがアジア圏の国との協定となっている。なお、中東諸国との貿易協定であるNZ・湾岸協力理事会(Gulf Cooperation Council)自由貿易協定は、2009年に合意はしたものの、いまだ発効していない。
(2)TPP11協定参加国に対する牛乳・乳製品の関税率など
NZは、TPP11協定参加国のうち6カ国とは既に貿易協定を締結しており、うち4カ国(豪州、ブルネイ、チリおよびシンガポール)向けの牛乳・乳製品輸出はすべて無税となっている(図4)。
TPP11協定の発効に伴い、これまで個別に貿易協定を締結していなかった日本、カナダ、メキシコおよびペルーに対して、新たなマーケットアクセスを獲得することになる。また、既に個別に貿易協定を締結している国に対しても、一部の品目で関税枠が増加するなどマーケットアクセスの向上が見込まれる。
TPP11協定発効後の主要な乳製品に関する関税率および関税枠などは次の通り。
ア 日本
日本は、NZにとってチーズの最大の輸出先国である。また、バターおよび粉乳類の輸出量全体に占める日本向けの割合は低いものの、比較的単価の高いホエイ由来のたんぱく質濃縮物であるWPC(Whey Protein Concentrate)80( たんぱく質含有量80%)などのミルクアルブミンの輸出量は、日本向けは米国に次ぎ2位となっている。こうした結果、日本は、乳製品輸出額ベースでは中国、豪州、米国に次ぐ4番目の輸出先国となっている。
日本向けの最大の輸出品目であるチーズの大部分は、プロセスチーズ原料用のチェダーやゴーダなどのハードおよびセミハードチーズであるが、TPP11協定が発効した場合、それらのチーズに係る関税は、16年かけて撤廃される(表2)。また、日本向けの輸出割合が高いミルクアルブミンに係る関税率2.9%は、TPP11協定発効に伴い即時撤廃される。
イ 豪州
豪州は、中国に次ぐ、2番目の乳製品輸出先国となっている。NZと豪州は、NZ・豪州経済関係緊密化協定およびASEAN・豪州・NZ自由貿易協定(以下「AANZFTA」という)を締結しており、NZから豪州向けの乳製品輸出はすべて無税となっている。
ウ ブルネイ
NZとブルネイは、P4およびAANZFTAを締結しており、ブルネイ向けの乳製品輸出はすべて無税となっている。
エ カナダ
NZは、カナダとは個別に貿易協定を結んでおらず、同国向けの輸出量が全体に占める割合は低いものの、ホエイでは10番目の輸出先国となっているなど、一定量の乳製品が輸出されている。
カナダは、酪農乳業に関して供給管理制度に代表される保護政策を実施していることから、乳製品の輸入にも高い関税を設けている。しかし、TPP11協定では、主要な乳製品に関して、量は少ないものの枠内無税の関税枠が設けられる(表3)。また、WPC80などのホエイ由来のたんぱく質含有量の高いミルクアルブミン(HSコード:3502)や乳たんぱく濃縮物(MPC)、乳たんぱく分離物(MPI)などの乳たんぱく物質(HSコード:3504)に係る関税が無税になることに加え、育児用調製粉乳に関する関税も削減されることから、同国向けの乳製品輸出の拡大が期待されている。
オ チリ
チリは、2017年においては、NZにとって数量ベースでチーズの10番目の輸出先国である。NZはチリとP4を締結しており、NZからチリ向けに輸出される乳製品はすべて無税となっている。2009年まで同国向けにチーズは輸出されていなかったが、2010年以降、大幅に増加しており、2017年は約7000トンのチーズが同国向けに輸出された。
カ マレーシア
マレーシアは、2017年においては、脱脂粉乳が2番目、全粉乳が6番目、液状乳が5番目の輸出先国であり、NZにとって重要な乳製品輸出先国となっている。NZとマレーシアは、AANZFTAに加え、2カ国間で自由貿易協定(NZ・マレーシアFTA)を2010年に締結しており、同国向けの乳製品輸出に係る関税は、液状乳に係るものを除いて撤廃されている。TPP11協定が発効した場合、液状乳に関して新たな枠内無税の関税枠が設定されることに加え、16年目に関税率および関税枠ともに撤廃されることから、同国向けの液状乳輸出の拡大が期待される(表4)。
キ メキシコ
メキシコは、2017年においては、NZにとって金額ベースで17番目の輸出先国となっており、中でもバターは5番目の輸出先国となっている。NZは、メキシコとの間で貿易協定は締結しておらず、TPP11協定が発効した場合、主要な輸出品目に関しては、枠内無税の関税枠が設定され、同国向けの輸出量の中で最も多いバターオイルに関しては、15年目に撤廃される(表5)。また、育児用調製粉乳およびヨーグルトの同国向け輸出に係る関税率も、段階的に削減され、10年目に撤廃される。
ク ペルー
ペルーは、NZにとって2017年は金額ベースで25番目の輸出先国となっている。NZは、ペルーとの間に個別に貿易協定は締結しておらず、TPP11協定の発効により、主要な乳製品の多くで関税が撤廃される。しかし、ペルー政府は、輸入価格が、政府の設定する参考価格を下回った際に追加課税を行うプライス・バンド・システムと呼ばれる制度を、TPP11協定に基づく乳製品輸入の多くの品目に適用するとしており、実質的に関税が完全に撤廃されるかは不透明な内容となっている。なお、ヨーグルト、デイリースプレッド、チーズのうちフレッシュチーズ並びにおろしまたは粉チーズなどは、プライス・バンド・システムの対象とならず、関税が段階的に削減・撤廃される品目となっている。
ケ シンガポール
シンガポールは、2017年においては、金額ベースで15番目の輸出先国となっている。NZとシンガポールは、NZ・シンガポール経済緊密化協定、P4、AANZFTAの三つの貿易協定を締結しており、同国向けの乳製品輸出はすべてが無税となっている。
コ ベトナム
ベトナムは、2017年においては、金額ベースで14番目の輸出先国となっている。NZとベトナムは、AANZFTAを締結しており、同国向け乳製品輸出に係る関税は一部無税となっている。液状乳、全粉乳、バターオイル、チーズなどの一部の品目は、AANZFTAに基づく関税削減の過程にあり、現時点では3〜5%程度の関税がかかっているが、2020年までには完全に撤廃される。一方、TPP11協定では、関税が即時撤廃される品目もあるが、完全に撤廃されるのは2021年になる。